エルバド城の貴公子
帰ってきたアーレスの姿を見て、セレンティアはほっと胸を撫で下ろした。パルティアーノの領内とはいえ、ここは王都から遠くアーレスの身に災いが起きないとも限らない。
…アーレス様がお戻りにならなかったらどうしよう…
不安で堪らなかった。もしそんなことになれば、生きていけないと思った。
「…ただいま、セレン。」
出迎えたセレンティアに歩み寄りながら、アーレスは笑顔を浮かべた。セレンティアも嬉しそうに駆け寄りつつ、遠慮がちに間を置いて立ち止まる。
「留守番をさせて悪かったね…寂しくなかったかい?」
羽織っていた外套を脱いで従者に手渡し、セレンティアの頬に手を添える…柔らかな頬は温かく、薔薇色の唇には微笑みが浮かんでいた。
…お帰りなさい。
セレンティアは言った。
…お城の皆さんが相手をして下さったので、寂しくはありませんでした。
本当は寂しくて仕方がなかったのに、セレンティアは嘘をついた。正直に吐露してしまえば、アーレスの仕事の邪魔になると思ったからだ。
「それは良かった。」
アーレスは目を細めて頷いた。
「今後の予定にもう離れる仕事は無いから、安心していいよ。」
…はい。
二人が向き合っていると、ソランが後から歩いて来る。セレンティアが視線を向けると、いつもの優しい笑顔を浮かべた。
…お帰りなさい。ソラン様
セレンテイアは軽く膝を折った。
「嬉しい出迎えだ…」
ソランが横に立つと、アーレスはセレンティアから手を離し、彼からほんの僅か距離を取った。長身の二人を交互に見やり、何も知らないセレンテイアが瑠璃色の瞳を輝かせる。
「父が帰って来たんだ...一緒に出迎えてくれるかい?」
ソランが言った。
…お父様?
「うん、君に会いたいそうだ。」
…私に...ですか?
セレンティアは驚きとともに、著しく緊張した。なぜ自分の様な者に会いたいと言うのだろう...
不安そうなセレンティアに、アーレスがそっと手を添えた。背を軽く叩いて「大丈夫だよ。」と頷いて見せる。
「怖がらないで。ちょっと強面だけど、中身は気さくな老騎士だから。」
ソランも明るく笑って気遣った。片目を閉じて合図を送り、セレンティアの緊張を解きほぐした。
「...では、姫君をお借り致します、パルティアーノ卿。」
礼儀正しく腰を折ると、ソランはセレンティアの手を取った。
「私は着替えを済ませて来る。」
穏やかに応え、アーレスが踵を返して奥へと歩いて行く...その後ろ姿を、セレンティアは振り返りつつ見送った。
その晩は、セレンティアはリランとともに夕食をかこみ、歓談の時を過ごした。
リランは一見、ソランよりも厳しい表情の老騎士だったが、会話をすれば気さくな紳士で、セレンティアに対しても気兼ね無く接する人物だった。意思疎通もアーレスとソランが助けてくれるために問題はなく、リランの趣味の話や、シュベール城での出来事、ソランの子供時代のエピソードなど様々な話題で盛り上がり、いつしかセレンティアも笑顔になって溶け込んでいた。
「…それにしても、近ごろは肩が痛とうて敵いません…」
リランは吐露し、肩に手を置いて揉む仕草をした。
「長剣はもとより、得意だった槍すら持つのが困難…いやはや、全くもって情けない限りです。老いとは止められないものですな…」
「いや、父上の槍は重すぎるだけですよ。あの様な大物を振り回すのは、若い騎士にも困難です。」
「怪力のリラン…ルポワドの騎士の間でも、とても有名なんだよ。」
アーレスはセレンティアに向かって耳打ちした。
…だとすれば、ソラン様も怪力?
「僕は怪力ってほどじゃ無いよ、セレン…」
ソランは手のひらを見せながら否定した。
「力は、ほどほどに使っているからね。」
…ほどほど?
セレンティアは目を丸くしたが、それ以上の憶測はしなかった。
それよりも辛そうに首を回しているリランが気になって、思わず席を立ってしまったのだ。
…肩をお揉みしましょうか?
セレンティアは問いかけた。
「セレン…」
ソランも立ち上がり、セレンに歩み寄る。
「嬉しい申し出…構いませぬか、アーレス殿?」
リランの問いに、アーレスが微笑む…セレンティアに目配せをし、小さく頷いてみせた。
「おお、なんと、これは…」
言葉にならないほど心地良いのか、リランは呻きながら瞼を閉じた。リランの肩をセレンの細い指が優しく揉みほぐす…何とも優しい感触だった。
「こんなに楽をするのは初めて…セレン殿は救世主だ...」
セレンティアは頬を染め、首を横に振った。日頃は男性になど触れることはなく、時々シャリナの肩をほぐす程度だった。
「妻には先立たれ、娘は嫁いでしまった…ソランは力が入り過ぎて痛いのだよ…」
「…酷いな、力の加減はしているつもりですよ…」
ソランは口角を下げて訴えたが、リランは撤回しなかった。セレンティアは笑いながらも指を動かし続ける...喜んでくれるリランを父のように想い、喜んで貰えることが嬉しかった。
…フォルト様はお父さまのようにお優しいけれど、触れることも許されないほど高貴なお方…そしてそれは、アーレス様も同じ...
…そう、どんなに好きになったとしても、アーレス様が私のような者に手を差し延べることはない…
「ありがとう…セレン。」
ソランが、そっとセレンティアの手を止めた。
「疲れただろう…もう十分だよ。」
セレンティアがソランを見上げる…優しい瞳がじっと見つめ返した。
「明日は出発は早い…もう休んだほうが良い。」
アーレスが告げると、セレンティアは視線を移して頷いた。
「部屋まで送ろう…」
歩み寄ったアーレスに、ソランは一歩下がって道を譲った。その手が小さな背に置かれると、セレンティアが幸せそうに微笑む…
ソランの胸に、微かな妬みが頭をもたげた。
「ソランよ…」
二人が去るとリランが言った。
「ファルコ城はまだ生まれたばかりだが、私は大分歳を重ねた…砦を守って三十年、そろそろ、お前に全てを委ねる頃合いだ。」
「は…何を弱気な…」
ソランは目を丸くした。
「まだまだご健勝ではありませんか。」
「いいやソラン、このまま平穏が続けばそれで良い…だが先行きはどうなるか分からぬぞ。我らファルコンは長くオゴール砦の守り役を仰せつかって来た。有事に至れば、最前線で戦わなければならぬのが一族の宿命…長官の任務は、屈強な者でなければ務まらぬ。」
「父上…」
「機は熟したのだ。妻を娶り、子を残せ。あの子はとても良い娘だ…声はなくとも、ファルコンを繁栄へと導いてくれるだろう….」
「ええ、是非に…」
ソランは口角を上げて頷いた。
「セレンティアを妻として貰い受けたい。」
その意思表明に「考えさせて欲しい...」とアーレスは答えた…
彼がセレンティアを大切に思っているのは明らかであり、その思いは痛いほど理解できる…
…それでも僕はセレンを奪う...君からね。
セレンティアとの未来…
準備を始めなくてはならない。
「アーレスはもう折り返しているはずね…フォルト?」
テラスに出て夕涼みをしているシャリナが、ブルームを抱いてあやしているフォルトに向かって尋ねた。
「そのはずぞ…」
答える父の顔を見てブルームが笑う…その笑い声が愛しくて、フォルトは何度もそれを繰り返していた。
「オゴール砦の視察が終われば、あとはイシュアのいるエルバド城に立ち寄るのみ…そう時間はかからぬだろう…」
「イシュア様は、とても穏やかでお優しい方…きっと二人を温かく迎えてくれるわね。」
「うむ。嫡男のマティウスもアーレスとは歳が近い。お互いに会うのは久しぶりのことだ。」
「姫様達はもうお嫁に?」
「とうの昔ぞ…皆、17の歳には嫁いでいしまった。早すぎるとキリアスが嘆いておった。」
「そうね…リオーネも17歳でシセルと結婚したんだったわ。」
「狼は…その時どのような反応をした?」
フォルトの問いに、シャリナは目を見開いた。フォルトがユーリの話題を振ってきたのは初めてだ。
「ユーリは、二人の気持ちを薄々察していたらしいの…だからすぐに結婚を承諾してしまったし、それは嬉しそうだった。相手がシセルじゃなかったら、きっと首を縦に振ることはなかったでしょうね。「早過ぎる!」って相手を追い返していたと想うわ。」
「…頷ける話ぞ。バージニアスほどの男はそうはおらぬゆえ…」
ブルームが大人しくなり、膝の上に収まったので、フォルトは蜂蜜色の綿毛にキスをした。娘を持ったことはないが、ブルームを手離す未来など、考えるだけで虚しくなる…
「ブルーはどこにもやらぬ…この子は虚弱ゆえ、騎士修行には耐えられぬだろう。」
「フォルト…」
「私と一緒にいれば良い…父はそなたの城を築こうと想うている。いずれアーレスに爵位を譲り、そこで余生を送るつもりぞ…」
フォルトは目を細めて静かに告げた。
「むろん、そなたも一緒にな…シャリナ。」
フォルトの笑顔に、シャリナも微笑みを浮かべる…気難しかった公爵も、今や二人の息子の優しい父だ。
「引退だなんて…まだまだ先のお話よ。」
シャリナは言った。
「ブルーは一歳を迎えたばかり…アーレスだってまだ独り身ですもの。」
「…うむ、結婚を強いることはしたくないが、行く行く考えなくてはならぬな…」
いつのまにか瞼を閉じてしまった幼子に気付き、フォルトは抱き直して微笑んだ。
「よく寝る子ぞ…」
夫の所作に喜びを感じる…親子で過ごす幸せな時間は、本当に尊いとシャリナは思った。
…子供達は成長して行く…時は瞬く間に過ぎ去ってしまうわ。
シャリナは旅をするアーレスとセレンティアに想いを馳せた。
…アーレスはともかく、セレンはアーレスに恋心を抱いている…
互いの心が触れ合う前に、距離を置くべきなのかも知れない...悲しいけれど、それが二人のためなのだ。
…お城が見えます、アーレス様。
セレンティアが手振りで告げた。
アーレスが視線を向けると、馬車の窓からエルバド城が見えた。まだ少し遠方で、シルエットが浮かぶ程度だ。
「もうすぐだ...馬車に揺られるのも飽きたね。」
アーレスが苦笑すると、セレンティアも正直に頷いた。ソランと別れてファルコ城を出発してから二日...途中で各地を巡り、視察を終えて、いよいよ最後の立ち寄り場所に辿り着いたのだ。
「予定より長旅になってしまった...シュベールには遣いを出しておいたから問題ないが...」
…もう...六日目?
セレンティアは指を折った。
初めは五日間と聞いて驚いたのに、これからエルバド城に行くのだから帰りはもっと遅くなる…
…ブルーム様が私を忘れちゃうかも…
セレンティアは心配になった。ブルームは人見知りをしないほうだが、顔を見て泣かれたら悲しい。
「せっかくの伯母上の招待...少しのんびりさせて頂こう。」
アーレスは言い、セレンティアの手をそっと握った。緊張を察してか、その瞳に慈愛の色が浮かんでいる…
…お優しいアーレス様。
セレンティアは切ない気持ちになった。二人きりでいることが嬉しくてたまらない…でもそれは“楽しい”というより、“苦しい”と表現するほうが正しかった。
…私はいつまで、あなたのお側に居られるのですか?
そんな気持ちを他所に、馬車は徐々にエルバド城が間近に迫った。
「アーレス閣下、ご到着!」
パルティアーノの馬車が到着したことを次々と伝令役が伝える。
鉄製の城門が開かれ、石組みのアーチを潜り抜けると、広い前庭が広がった。
「伯母上…」
窓の外を見ながらアーレスが呟いた。
エントランスの前にイシュアの姿が見える…王妃エミリアと同じ髪色の貴婦人が、こちらに向かって手を振っていた。
「いらっしゃい、アーレス。久しぶりねぇ…」
アーレスが馬車を降りると、父によく似た顔が明るい表情で出迎えた。
「すっかり立派になってしまって…兄上の言うとおり、本当に良い顔付きになったわ。」
珍しいものを見るように、イシュアはアーレスの姿を裏表にして観察した。甥に会うのは三年ぶりで、フォルトとシャリナが再婚して以来のことだ。
「とても幸せのようね…お兄様もだけど、シャリナがパルティアーノ夫人になってくれて本当に良かった。二人とも見違えるように明るい表情になったもの…」
「はい、全て母上のおかげです。」
アーレスが満面の笑みを浮かべる。その表情は嬉々としており、自信に満ち溢れていた。かつてのアーレスを知っている者なら誰しも思うことだろう…過去の陰りなど微塵も感じさせない、劇的な変化だと。
「ブルームにも会いたいわ…シャリナともしばらく会っていないし…」
イシュアは言いながら、アーレスの後ろに控えている少女に視線を送った。印象的な瑠璃色の瞳が、伏目がちに地面を見つめている。
「この子がセレンティアね?」
イシュアの問いかけに、アーレスは「はい。」とだけ答えた。セレンティアが自分の養い子であることを、あえて伯母に説明する必要はないからだった。
「初めましてセレン…私はイシュア。ジュルジュ夫人よ。」
イシュアが微笑みながら向かい合う。
セレンティアは深く膝を折って挨拶をした。唇が動き、セレンティアと申します。と名乗った。
「シャリナにお手紙をもらっっているわ。声が出ないそうね、可哀想に…」
愛しむように、イシュアの指先が頬に触れた。シャリナのように優しく、感触が心地良い…
…夫人の手は温かい。
セレンティアは安心した。旅の最後の訪問地…きっと良い思い出になるに違いない。
…マティウス。
アーレスは回廊の先にいる従兄弟の姿を見て口角を上げた。
三人の若い貴婦人に囲まれ、何かを説明しているように見える。
陽の光のような明るい巻き毛と端正な顔立ちの貴公子…自分の容姿より、彼のほうが父フォルトによく似ていると言われているほどだ。
「...先に行っているわね。」
隣を歩いていたイシュアが言った。
「あの子に合わせる前に、セレンをお風呂に入れてあげたいの。」
横道をそれて、イシュアはセレンティアを連れて行ってしまった。男子ばかりが残って寂しい伯母は、セレンティアの世話をしたくてうずうずしているらしい。
「おお、アーレス殿!」
気づいたマティウスが声を上げて笑顔を浮かべた。大股で歩み寄り、右手をアーレスに差し出して告げる。
「出迎えられず申し訳ありません。弟を探しているうちに時が過ぎてしまいました。」
「気にしなくていいよ、元気そうで何よりだ。」
アーレスはマティウスの手を握って頷いた。彼と会うのは久しぶりで、お互いに少し歳を重ねてしまった様だ。
「キリアス殿は王都に赴いているそうだね?」
「はい。アーレス殿の来訪を楽しみにしておられたのですが...」
「であれば、私が帰還したらお会いできるだろう。問題はないさ。」
アーレスは口角を上げた。相変わらずの爽やかさにマティウスも笑顔になる。
互いに挨拶を済ませると、二人は並んで歩き出した。行き交う使用人や要人達が次々に道を開け、膝を折り首を垂れる...ジョルジュ家の人々にとってパルティアーノは崇拝すべき存在であって、決して礼儀を欠いてはならない相手なのだ。
「...それで、結局ベリアムは見つからなかったのかい?」
アーレスに問われたマティウスは渋面になった。
「一体どこへ行ったのやら...城のどこにも居らぬのです。」
「幼い頃に会ったきりだけど、少し変わった子供だった気がするな…」
「変わっている所ではありません!掴みどころがなく、とにかく手を焼いているのです。」
マティウスは語尾を強めて言った。十歳離れた末弟…かなりの不満がある様だ。
「あやつは騎士の修行を拒み、音楽にばかり興じている放蕩者。今だに剣の一つも握らず、馬に乗ることしか学ばなかった…まこと困った弟です。」
「乗馬は上手いのかい?」
「…まあ、下手ではありませんね…」
「なるほど...」
アーレスは納得して頷いた。ベリアムの噂は聞き及んでいる…なかなかの「筋金入り」である様だ。
...そういえば、ベリアムとセレンは歳が近いな。
アーレスは不意にセレンティアを思った。
心に何かが引っ掛かる...ソランの言葉が蘇り、複雑な心境に陥った。
「セレティアを僕に預けてはくれないか?」
ソランは真剣な眼差しで告げた。
「それは…どういう意味だい?」
アーレスが問い返す。
「彼女を妻として迎えたいと思っている...その許可が欲しい。」
…セレンを妻に?
予想はしていたものの、唐突に告げられるとは思いもよらなかった。ソランは誠実であり、とても律儀な性格だ…きちんと筋を通しているし、思いつきとは思えない。
…セレンも彼を嫌いではなさそうだが...
「少し考えさせてくれ。」
アーレスは告げた。
「私の一存では決められない...母上にも相談する必要がある。」
かろうじて出した返答だった。
「夫人には、追って正式に申し入れをするつもりだ。」
ソランはそう告げた。彼の性格も地位も、その素性を知っているだけに、シャリナはおそらく反対しないに違いない…
「アーレス殿?」
マティウスは怪訝そうにアーレスを見遣った。
「...ああ、すまない。」
アーレスは我に返って苦笑を浮かべた。
「今夜、ベリアムに会うのが楽しみだ…」
「今はポピーが満開よ。」
美しい庭園を自慢しながらイシュアが言った。
「シャリナがペリエ城にいた頃に分けてもらった種を、毎年蒔いて育てているの...素敵でしょう?」
..はい、とても。
セレンティアは頷いた。
赤、黄、橙、そして薄紅色の花々が目に眩しい庭園...ペリエ城の庭園に似ていて、初夏らしい光景だ。
「良い木陰があるわ...テーブルと椅子があるから、少し座りましょう。」
誘われるがままに、セレンティアは置かれている椅子に座った。周囲で蝶々がたくさん飛び回り、セレンティアの頭に留まる...イシュアが微笑んで「あらあら...」と嬉しそうに言った。
「やっぱり、女の子は良いわねぇ…..シャリナの仕立てたドレスはとっても素敵、あなたもお花みたいに可愛いもの…」
セレンティアは頬が熱くなった。ソランにも褒められ、恥ずかしくて仕方がない...
「あ、そうだわ。陽よけ用のヘッドドレスを持ってこさせましょう。肌が焼けてしまったら大変...私の若い頃のものだけれど、そのドレスにきっと合うはず…」
少し待っていて...と言い残し、イシュアは席を立って控えている侍女と共に行ってしまった。残された侍女が果実酒をテーブルに乗せる…セレンティアは、大人しくイシュアが帰るのを待った。涼しい風が優しく凪いで、スカートの裾をふわりと浮き上がる...
「君は...誰?」
不意に背後から声が聞こえた。
…えっ?
セレンティアは驚きのあまり飛び上がり、首を回して背後を見つめる。
「ああ、ごめん...驚かせちゃった?」
木陰から人影が姿を表し、謝罪の言葉を告げる。
頭越しに視線が合い、二人は見つめ合った。
…妖精?
セレンティアは目を疑った。
風になびく金糸の巻き髪...現世の者とは思えない、美しい容姿をした少年が、じっと自分を見つめていた。
つづく




