ー使い魔を見つけますー
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外に出てみたはいいものの、行く宛が全くないことに気が付いた。
この町から隣町までは、山一つ分ある。
とりあえずそこまで行ったら、動物の一匹や二匹は出会えるだろう。
そう思い、山へ歩き出した。
***
山に入ると、最初に見えたのは大量のわたの木。
そうだ、ここって綿の名産地なんだった。
従来、わたの木の近くに生き物が寄りやすい。
この山は人の手入れがされていないようだし、道も獣道だった。
だからこの辺りには生き物が沢山いるはずだ。
そう思いつつ歩き続ける。
しかし一向に道が開けない。
ずーっと、左右にわたの木があるだけだ。
もしかして……
「ま、迷った?」
そうだとしたら大変だ。
日没までに隣町か自宅に行けなかったら、野宿しなくちゃいけなくなる。
とりあえず、ここが山のどの辺りかわかる場所に行きたい。
段々と日が傾いてきた。
焦りと暑さで額に汗がにじむ。
次の瞬間、足元にある何かに躓いて転んだ。
「痛っ…こういうときに限ってなぁ……」
幸い血は出ていないものの、膝を強打したらしく立ち上がりにくい。
これは、よっぽど山の麓じゃない限り野宿になりそうだ。
ふと、何に躓いたのか気になった。
後ろを振り向くと、足元に黄色い塊が。
その塊に突然目が出てくる。
驚く間もなく、その生き物は走り去っていった。
「おい、ちょっと待てって!」
軋む足を横目に、塊を追いかける。
すると美しい花畑が。
同時に、沢山の生物がいた。
でもそんなことを気にする余裕もなく。
その場に崩れ落ちる私を見て、あの塊も私の存在に気が付いたらしい。
警戒しているのかモソモソと近づきつつも、「にゃん」と控えめに鳴いた。
「あっ、猫なんだ…」
[カイセキ中…
糸仔猫とカイセキしましタ
スキルは操糸
魔法は巻き取り・チャーミングでス]
なんか久しぶりに会ったな、キミ。
その間にも、糸仔猫は私の心配をしてくれる。
そして、毛糸玉をコロコロと転がしてきたと思うと、光と共に毛布を作ってくれた。
これが操糸…?この子を使い魔にしたら、仕事の幅が広がるかも!
…でも、その前に寝とこうかな。
毛布にくるまりながらそう思った。
***
朝日によって目が覚める。
隣には糸子猫がいるため、起こさないようにそっと抜け出す。
結局野宿だし、お腹めっちゃ空いたな。
寝ていたところは干し草の上だったため、寝心地は案外いい。
ただ、足腰はやっぱりちょっとキツいかなぁ。
「とにかく、食べ物…。」
彷徨うと、カサカサという足音が。
近くにいた、人に襲いかかるモンスターがこちらに気付き襲いかかってくる。
マジかよ、武器持ってないって!
「にゃん!」
飛び出してきたのは糸仔猫。
そんな戦闘力があるようには見えないけど…
案の定、戦えないのか最初の奇襲しか攻撃が当たっていない。
ええい、もうどうにでもなれ!
いざとなれば死ぬ覚悟でモンスターに触れる。
すると、瞬く間にモンスターが糸になった。
唖然とした空気が広がっていく。
しかし糸仔猫の足元は痙攣を疑うほど震えていた。
きっと怖かったのだろう。
「怖がらせたね、ごめんね。」
そうすると、優しくすり寄ってくる。
決めた。この子を使い魔にしよう。
「私と一緒に、お店開かない?
世界一のお店を開いて、女でもできるって見せつけるんだ!」
「にゃんっ!」
元気に言う糸仔猫は、どうやらYESと言っているようだ。
じゃあ、この子を家に連れて帰ればいいってことかな?
[その前に名前をつけるのが先でしょウ
そうでないと不便ですからネ]
それもそうか。
じゃあ…
「キミの名前は“ぽむ“だ。」
彼女…ぽむの周りが若干光った気がする。
ただ、あまり変化はないようだ。
「よろしくね」
「…よろしくお願いします…!!」
「んえ??」
今、喋った?
[彼女に名前を与えたから、会話内容が分かるようになったのでしょうネ
使い魔とはそういうものでス]
なるほど…?
そんなに気にしなくていいってことか。
「じゃあ、帰ろうか。」
「了解!」
一人と一匹が山を下っていく。
日は真上から見守っていた。