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整理

下位の宮々の、今の状況の調査が始まった。

百位までは龍、そこから二百位までは鳥、それ以下三百位までは白虎の管轄で進めて行くことになっている。

維心は、表向き困ったことはないか問うためとして、義心と鵬を各宮に送った。

宮に到着すると、義心は軍、鵬は宮の中と手分けして内情を聞いて見て回る。

龍の宮からの使者、しかも筆頭軍神と筆頭重臣二人を相手にしなければならず、どこの宮もかなり緊張した様子だった。

義心と鵬の二人は、まずは下からと百位から順に回ったのだが、なるほど一応序列はついているとはいえ、どこも似たり寄ったりだ。

百位と五十位の違いはと言われると、僅かに蓄財が多いとか、僅かに気が大きいとか、そんな事で決まっているようだった。

しかし、上に行くほど事情は違っていた。

段々に己で回せる宮も増えて来て、思ったより自立している宮が多い。

そしてその中には、炎嘉の前世の妹が嫁いでその子孫である塔矢の宮もあった。

塔矢の宮はかなり小さく、臣下の屋敷かというほどの規模だ。

しかしだからこそ、仕える人数がかなり少なく、臣下ですら全員が自立していた。

つまり、王自身も妃と協力して庭の手入れなり、裁縫なり、子育てなりとやっているわけで、完全な自給自足の生活を成し遂げていた。

ならばどうやって臣下を仕えさせているかと言うと、王は領地を守り、皆を守る責を負う。

面倒な対外的な会合などもこなし、神世の付き合いは王族が一手に担っている。

なので、己で自立している臣下達は、何も物質的な物を下賜されなくても、云わばボランティアで王族の世話などに手を貸す。

たまに織った布なども献上する。

そんな感じで外からの支援が無くても回っていて、特に困ってはいなかった。

つまり、身に過ぎた規模の宮を持っていないので、自分達が着る着物の布ぐらい自分で織るし、染めるし仕立てる。

米も育てているので酒だって自分達で作る。

王にはその方法が受け継がれているので、皆に教えて皆でやる。

思えば、他の宮の王よりも、余程器用なのがこの宮の王なのだった。

そんなわけで、規模はかなり他より小さいのだが、塔矢の宮は自立している点、王の能力が高い点で上位に入っているわけだ。

鵬と義心は、残り十宮のところでその日の調査を終えて、龍の宮へと引き揚げて来た。


「…確かにあの宮は何でも己でやりおるよの。」維心は、居間で二人から報告を受けて言った。「昔からよ。炎嘉の腹違いの妹が陥れられて嫁いだ先ではあるが、あの宮の王は皆、大変に気立てが良い。世話好きであるしな。そういう場で育っておるから、臣下のことも仕えて当然という気持ちもないのだ。臣下は王をただ慕って仕えておる。ある意味あれが、本来あるべき形なのではと思うほどよ。」

維月が、隣りで黙って聞いている。

鵬が、頷いた。

「は。誠に塔矢様とは気さくなかたで。いきなりに押し掛けた形でありますのに、嫌なお顔一つなさらず。我らが宮に到着した時には、塔矢様は宮の裏手で新しい井戸を掘っていらっしゃる最中で。臣下達と笑い合いながら、泥だらけになっておられました。いきなりに水が出て驚いたのだと言っておられましたが、まるで侍従や軍神のような事をなさっておるのに驚きました。お持ちしたお品にも、品の豪華さよりも、ここの糸はどう通してこうなるのだと、技術的な事ばかりを逐一お聞きになって。次は職人を連れて来てくれたら助かるとか、そんなことを。」

なるほど塔矢は何でも己でやるから。

維心は、思って聞いていた。

とても上から三番目には上げられないが、それでも気の大きさはさておき、能力だけを見ると塔矢の右に並ぶ王は居ないだろう。

とはいえ、鳥の王族の血が混ざっているので、塔矢の気は他の下位の王より大きかった。

それもあって、あれほど小さいのに宮の地位は11位なのだ。

「…宮の大きさではないの。」維心は、考え込むような顔をした。「塔矢は、もっと大きな宮でも恐らく難なく回すだろう。職人は居ないが、臣下は皆自立しておるのだから、宮が大きければ全員それぞれに振り分けて職人として使うことも可能なはず。それをせずにああして小さな宮に甘んじておるのが、もったいない気がする。あやつは皇子の頃、ここの皇子の立ち合いで、下位の中で唯一上位に食い込んだ実力の持ち主なのだ。あれはもっと評価されて然るべきぞ。」

義心は、頷いた。

「は。王のせいか、臣下も皆器用であって、普段は家事などに勤しんでおるもの達も、有事には軍神として戦うことまでできる者までおるのです。軍を持っていないと塔矢様はおっしゃっておられましたが、皆戦えるので全てが軍神だと言われたら、そうだと思いました次第。あそこまで自立しておるのも珍しいかと。」

全員が自立している宮。

維心は、それこそが理想なのでは、と思った。

とはいえ、数が少ないからこそ可能なことだとも言える。

維心は、息をついた。

「では、明日は問題の上位であるな。全く炎嘉め、面倒なところを皆我に丸投げしおって。これまでここまで詳しく下位の宮を見たことがないゆえ、あやつらも構えておろう。」と、維月を見た。「那海はどうか?何か言うて参ったか。」

維月は、頷いた。

「はい。本日突然に義心と鵬が下位の宮に参っていると聞いているが、何事かと。これまで放置しておったので、詳しい困り事などの陳情を受けやすいように考えての事だと返しましてございます。」

維心は、頷く。

「それで良い。吉賀は問題ないはずなのだ。問題は二位でありながら自立できておらぬ涼弥の宮と、長年一位であったのに陥落している陸の宮。あれらの内情が気に掛かる。」と、義心を見た。「鵬が話しておる間に、主が探るのだぞ。ま、主ならあの規模の宮ぐらい小一時間で済もうがの。」

義心は、頭を下げた。

「は!仰せの通りに。」

そうして、その日は終わったのだった。


次の日、また義心と鵬は昨日見られなかった10位の宮から順に回った。

ここまで来ると、なんとか自立していたり、自立に近い様子の宮が多いのだが、それでもギリギリといったところだ。

つまりは、やはり上位の宮に時々支援を受けながら、やっとやっている感じだった。

つまりは誰かを嫁がせたりしているわけではないが、今年はヤバいかもとなって、一時支援を頼んだりでしのいでいる宮だということだ。

龍の宮にも、そういうもの達がよくやって来るので、鵬も顔見知りの臣下が多く居た。

そんな宮々は、自分達が調べられているとは思っていないのか、鵬に泣きついて幾らかの支援をお願いできないかと頼んで来る始末。

持って行った手土産だけでも結構な支援になると思うのだが、蓄えが常にほしいと願っている宮々なので、気持ちは分からなくもなかった。

なので、鵬はとりあえず王に申し上げてからと言って、その場は離れていた。


サクサクと午前中には結構な数をこなし、まだ昼にもならない時間に第三位、陸の宮へと到着した。

軍神達に見張らせていたのか、鵬と義心が到着口に着いた時には、もう王の陸、皇子の迅が出迎えに出て来ていた。

鵬は、今回は龍王の名代として来ているので、陸に頭を下げずに、会釈して言った。

「我が王、維心様からの命により、この宮の困りごとをお聞きしに参りました。ついては重臣とお話をさせて頂きたいと思うのですが。」

陸は、頷く。

「そちらに控えておるのが、重臣筆頭の(とき)。なんなりと聞くが良い。」

鵬は頷いて、鴇を見た。

鴇はガチガチに緊張していて、こちらの宮は普段から難なく自立して回っているので、面識がない鵬にも顔が上げられない様子だ。

義心が、言った。

「我は軍の事で何かあればお聞きしようと思うておる。こちらの、筆頭軍神は木佐殿であったな。」

陸の隣りに膝をつく、軍神がびくりと肩を震わせた。

陸が、頷いた。

「その通りぞ。木佐、では何かあれば訊ねるが良い。」

木佐は、鴇と同じようにかなり緊張していたが、陸に応えた。

「は!」

そうして、立ち上がると己の王より遥かに大きな気の、義心と向き合った。

義心は、神世では維心の懐刀と言われていて、そこらの王よりもずっと王らしく、そして優秀な様だ。

どの宮の軍神も、そう最上位の宮の軍神達でさえ、義心を目指して日々精進するのだ。

そんな義心が目の前にいる事実が、木佐には半端なく重いようだった。

義心は、苦笑して言った。

「そのように構えることはないのだ。公式に来たのではなく、王に於かれても何か些細な事でも困っておるのなら聞いてやるが良いと申されておったので。立ち合いなどで、行き詰っておることでも良い。なんなり聞くが良い。」

木佐は、そう聞いて驚いたような顔をした。

「え、我のような者に、指南を?」

義心は、頷いた。

「それでも良い。とにかく、何か困っておるなら聞いて来るよう命じられておるのだ。訓練場へでも参るか?」と、脇で黙って立っている、皇子の迅を見た。「迅様に於かれましても、立ち合いの腕が殊の外よろしいとお聞きしておるので、もしよろしければご一緒しても。」

迅は、まさか自分までと驚いた顔をしたが、陸が言った。

「おおそれは良い。長月の立ち合いの良い指南になろうぞ。義心に見てもらえば、主がなかなかに勝てないと申しておった皇子達にも勝てるやもしれぬぞ。行って参れ。」

迅は、頷いて頭を下げた。

「は、父上。では、行って参ります。」

そうして、義心は迅と木佐と共に、この宮の訓練場へと向かった。

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