【*】『未定』……大椿と帆船
世界畵【 読む画集 】から移動。一場面投稿。
※)後日、物語のどこかに挿入する際、修正する可能性があります。
大変珍しい出来事・めったにないことを「ちんじ」と言う場合、書き表す際の選択肢には二通りある。
「珍事」
そして、もう一つは「椿事」である。
こちらは珍妙というだけではなく、一大事や、 “異変” という意味も含む。
なぜ植物の “椿” と書くか―――。
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白く煙る瀑布の手前に、濃緑の樹冠が雲のように巨大な木がある。
横に迫り出している枝が多く、足元の常盤に打ち込まれたいくつもの杭に樹冠をもたげている。
花は口紅のように真っ赤で艶やか。もしく、真珠のような光沢を放つ白で、果実かと思うほど丸く、大きく、鈴なりに咲き誇っていた。
このように化け物じみた椿の巨樹の存在から、「椿事」や「椿寿」という言葉が生まれたという。
《 “上古大椿なるもの有り、八千歳を以て春と為し、八千歳を以て秋と為す” 》
太古の珍重な霊木――大椿は、八千年を春とし、八千年を秋とした、とてつもなく長寿な木。
実は椿とは別物の木であるようだが、大椿同様、椿も生命力の象徴であるほか、 “越境を司る霊木” と崇められている。
藪椿をよく見かけるのが海辺だからだ。その種は、海流に乗って別の土地に流れ着き、繁殖範囲を広げていく。蒲公英の綿毛が風を利用するように、藪椿は潮流を活かすのである。
ここの藪椿はいつ、どのようにして芽吹いたか―――。
よく分からないが、やはり珍しいには違いない。
宝船のような、白木の帆船が浮かぶ滝壺の淵にある。
甲板や、波寄る苔むした岩場の陰に、紅白の花を落としては溜めていくのだった。
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浮石の上を軽快に跳ねて渡り、藍色の衣をまとったこけし人形のような髪型の少女が、竹箒を手に帆船へ向かっていた。定期的に椿の花がらを掃除することを、務めとして言いつけられているのだ。
轟々と音を立てる瀑布の手前には、朱塗りの巨大水車や、階段が刻まれた太鼓橋もある――。
〔 読み解き案内人の呟き 〕
「椿事」の由来とされる『荘子』記載の長寿の椿(大椿)は、実際には、椿とは異なる木だそうです。
滅多に花を咲かせないのだとか。
ここは、萼国夜叉――華冑王家・真椿家の領内。もしく、鶴領峯。
藪椿の森であって、海のような、湖のような場所……?
どうして滝壺に帆船があるのかは謎。
※)ちなみに。
海流に乗って生息域を広めるのは、藪椿の性質で、
『荘子』の大椿に、そのような特徴はないと思います。
上記の通り、別種の木なので。
(2022/02/20 08:37 投稿)
(2025/11/11:現位置に移動)




