【10】あらすじ『水底の元胤凶』
※)第【10】巻は、物語全体に関わるエピソードが濃厚です。ネタバレが大丈夫な方でしたら、このままお読みください。
◍ 水底の元胤凶…… 災いの子、伏せられた血筋
◍ 本当の俺・私が、理想・現実・周囲の期待と違いすぎる編……
( 親は命がけで生んでくれたけど、国中大半が敵、の二人 )
◍ テーマ…… “周囲、自分が望む理想とのギャップ”
葛藤・血筋という鎖(束縛)
姉弟、兄弟愛・よく似た境遇の他人・決戦
◍ 時間軸…… 《 十二月下旬~翌一月 》
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【 あらすじ 】
【五十鈴、拉致される。飛叉弥、消息を絶つ】
【花人に人生を狂わされたッ! 青火の衆の訴え、ついに沸点を超える】
【お互いに、別れが言えない……。皐月と茉都莉】
【玉百合姫の秘密―――萼の闇、皇子・鬼宿君の覚醒】
【神判――― “萼の黒い龍” ・皐月の正体明らかに。嘉壱・満帆・啓……蒼白】
*
神代の風魔・巨聊を捕らえることは出来たものの、美影の逃走を許した花連にいつものにぎやかさはなく、油断ならない日々が続いていた。
「……白神狼・燦寿大仙老。いや、 “黒の丞相” と言った方がよろしいか」
「なんのことだ――?」
突然消息を絶った燦寿が、黒同舟・鵺と接触していた事実が匕仙房の内偵で判明する一方、次第に明らかとなる、海の向こうからの巨聊襲来の謎。海難事故から奇跡的に生還した濘陽の漁師が、偶然にもその封印が解かれる瞬間を目撃していたことが分かり、美影が大火を巻き起こそうとしていた背景が見えてくる。
美影と因縁の深い薫子は、毅然と対峙する姿勢を示したが、その複雑な心中を見抜いている皐月に、前回、独特の言葉をかけられていた。
「美影を――……殺すの?」
「なんで俺に聞くの?」
「だって…」
「自分で考えな。何が正しいのか、一番よく分からなくなるのは、お前だろうけど……」
周りは、無難で妥当なことしか言わない。それが正しい答えだとは限らない可能性にこだわれるのは
「お前だけなんじゃないのか……?」
*
“周りは、無難で妥当なことしか言わない”
“それが正しい答えだとは限らない”
“その可能性にこだわれるのは―――……”
こんな台詞を口にしたのには、それなりの理由がある。
皐月は自身の “正体・担っていた勤め・出生と生い立ち” 、そして、華瓊楽の砂漠化を引き起こした呪物・いざす貝が敵の手に渡った “元凶” について、あらためて考え込む。
自分たちを裏切ったやづさ―――彼女は本当に、完全な “悪” なのか。
いい加減、その真実を打ち明けるように迫った矢先、飛叉弥が昏倒。この時を待っていたかのように萌神荘に現れたやづさによって、五十鈴が攫われてしまう。
さらに、意識不明の状態が続いていたはずの飛叉弥まで、行方をくらまし……?
× × ×
「敵は以前から、飛叉弥を強制的に戦線離脱させる手段として、 “皇子” の隠し場所を探っていたんだろ……」
参殿した台閣で、玉百合の弟・鬼宿の存在をほのめかせた皐月は、すでに死蛇九の術中にあること―――飛叉弥の奇行が示す現状を説明する。
そして、自分が鬼宿と同様、萼の災いとして秘められてきた飛叉弥の双子の弟であり、国事犯の粛正を指揮する監察組織の鎮樹王将であること―――。
同時に、一応まだ現役の “奥王” だと明かす。
「奥王…………? てぇ…」
「闇黒壺衙門鎮樹……。一番偉い人だ」
*
鬼宿の半身に宿る獲猿の血は、世界三大鬼国・赤黒天に通ずる “災い” でしかない種族のもの。だが、幼い玉百合は訴えた。血を分けた存在には違いない。「殺さないで…っ」
訴えられた十年前、飛叉弥は葛藤した。
*――黒い龍を殺せ……。さもなくば
“真の災い” がふりかかる―――。
萼の国巫が発した宣託。彼女がこれによって様々な立場にある者たちを扇動し、その思惑が複雑に絡み合って、今に至った。
災いの元凶は、どうしても断ち切れない “血筋” に宿っていることが、徐々に泥沼の底から浮上し始め……。
それぞれの因縁が交じり合う舞台は、色葉病の一件で怪しい雰囲気を放っていた跼天山。再び茶万村を訪れた花連はそこで、思わぬ展開に遭遇する。
「なに、平太が……?」
平太少年の行方が、分からなくなっていた―――。
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