表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/78

場面2:八年前の真実 【完】


※)いくらも内容を示せないままですが、ラスト要略へ突入します。


 いじめっ子たちの標的は、あくまで異質な皐月だった。皐月はいじめに巻き込まれないよう、タケルを遠ざけようとしていたが、タケルは気にせずに付き合い続けた。

 だが、いじめっ子たちは亮に目をつけ、タケルのことも手招くように言った。


………………………………………………………………………………………………




「た……タケル君……」


 亮はタケルに手を伸ばし、皐月はタケルの背を押すように言った。


「タケル――……、いいよ。お前もあっちに行け」




 だが、タケルは皐月の側についた。亮が誰を友達と呼ぶかは、亮が決めることだ。



「僕の友達は、僕が決める。だからごめん、そっちへは行けないよ――」



 亮は皐月を引っ張って立ち去るタケルに、ショックを受けた。本当はこっちへ来て欲しいという意味ではなく、 “助けてほしい” という意味で手を伸ばしていたからだ。




 ×     ×     ×




 タケル少年は、また転校するという亮と確執が生じたままであることを気にして、紫苑(しおん)の花の種を、廃車置き場の空き地に()こうと皐月に提案した。


 そして別れの日、ここに来てもらうことにしようと。

 また必ず会う約束をするのだと――――。




「知ってる? 漢字はこう書くんだ」




  “紫” ―― “苑” ――。




「 “苑” っていうのは庭園のことだよ?」


「どうでもいい。それより、こんなところに花畑なんか作ってどうするんだよ」


 お前の土地じゃないだろ。ここ。


「うっ……。~~……やっぱり大人に見つかったらマズいかなぁ」


「警察に捕まるかも」


「ぇええ…っ!?」


「まぁ、事情説明による――かも」


「~~……、口で伝えるより、伝わりやすいことってあると思わない――?」


 タケルは相変わらず感情が欠けている皐月の横顔を、半眼で見据えた。



 だが、皐月の “無表情” は、ただ気づいていないふりをしているだけ――。知らないふりが得意なだけだ。


 本当に冷たい人間なら、こんな近くに寄り添ったりしない――……。

 タケルは傍らに突っ立ったままの彼の様子から、耕した土に視線を戻し、苦笑気味に呟いた。



 紫苑の花言葉は “遠い人を想う” ―― “君を忘れない” ――――。



「離れても、ずっと想ってるよってこと、亮君に分かってほしくてさ――……」


 この花には、見る人の心にあるものを、忘れさせない力があるんだって。


「――……」




 縁起でもない。




「え――?」 


「花言葉の本が愛読書だとかいうくせに、知らないのか――?」


 植物の “(こと)()” には、ちゃんとした “根底” がある。根も葉もないことなど、ありはしないのだ。



 お前の愛読書には、そこまで書かれていないのだとしたら、これを機に、もっと勉強したくなるよう教えてやろう。



 紫苑の別名は “思い草” ――であると同時に、 “鬼醜草おにのしこぐさ” と言う。



「鬼の……しこぐさ?」


「――昔、親を亡くした兄弟が、毎年かかさず墓参りをしていた……」


 だが、大人になって仕事が忙しくなった兄は、その墓に、萱草わすれぐさを植え、忘れさせてほしいと墓前にお願いした。

 それに対し、弟は、ずっと忘れないという真逆の意味を込めて紫苑の花を植えた。


「影で見ていた墓の屍を守る鬼は、この弟に関心して予知夢の力を与え、弟はその力のお陰で成功し、幸せに暮らしましたとさ――――」




「だから…… “鬼のしこ草” ?」


「――」


「 “しこ草” ってなに?」


 皐月は沈黙を置いてから、少し早口に答えた。


「 “(みにく)い” って意味だよ」


「えっ!? なんでっ? こんなにきれいなのに……」


「墓に供えられた花だぞ。菊っぽいし…」


「全然違うっ! …やっ、確かに似てるかもしれないけど、菊だって蓮だ

ってきれいだよぉ! それに、本当は縁起がいい花だって母さんが言ってたもん!」


 清らかだから、お供えされるようになった花だって。


「――――…………」




 茜色に染まっていく雲を棚引かせた、黄昏時の空。冷たい風が、前髪を吹きあげるようになってきた。


 二羽のカラスが頭上で一つ羽ばたき、葦原(あしはら)の向こうにある寝床に帰っていく。


 その鳴き声と風のうなりが遠くなるのを待って、皐月は仕方ないというようにため息をつき、しゃがみこんだ。




「――――本当は “険悪” ……」



「……。ん?」


「 “醜草(しこぐさ)” の意味。 “悪い草” とか “嫌な草” ――ようは雑草ってことだよ」


「そうなのぉお…っ!?」



 役立たずのくせに、無駄に強くて(いと)わしい――……そういう意味だ。



「知らないほうがまだマシだった?」


「……。」


竜胆(りんどう)のことだって説もあるけど――……、どうせなら他の花にすれば?」


 もっときれいで、ふさわしい花が、いくらでもあるだろ。



「――――……」


 タケルは少しうつむいて一考したが、引き結んでいた口を笑みの形にして、スコップを手にした。



「ううん――……。これでいい。僕らが言いたい本当の意味がちゃんと伝われば、受け取ってもらえるはずだから」



 亮君のために、花が咲くまで二人で世話をしよ――?


 そしたら、仲直りしよう。



 あくまで前向きなタケルに、皐月はやれやれと内心呆れていたが、早くしないと日が暮れる。手伝うしかない。


 いっそ、自分の力で、明日にでも咲かせて見せようか――――……。




「皐月くん、もう一つ聞いていい――?」


「……。なんだよ」



「墓にいた鬼は――――鬼なのに、なんで良くしてくれたのかなぁ」


 人間のことを襲うものでしょ――? 普通。





「――……、知らないよ。鬼の目にも涙って言うくらいだし、その通りなんじゃないの?」



 でなければ “変わり種” だったのさ――、そいつは――――……。




「変わりダネってなに?」


「……。辞書引け」



……………………………………………………………………………………………

 ※)皐月が「燃える」と叫んでいたのは、タケルが撒いた種から芽吹いた紫苑のこと。

 タケルが火災跡地に一人で行ったのは、残った紫苑の苗に水を与えに行くためだった。


 ※)つまり、火災跡地に行ったのは、亮に見せようと計画していた花畑のため。

 真実を明かせば、 “お前のために行った――だからあいつは事故にあった” という亮の主張を、そっくり亮自身に返すことになる。それで皐月は口をつぐんだ。

……………………………………………………………………………………………



  


 花には手がない。

 足もなければ、口もない――。


 逃げ出すこともできなければ、伝えることもままならない。

 欲しいと思うものが――抱き寄せたいものが目の前にあっても、涙をぬぐうことすら、叶わないのだから。



 涙も慈雨に――、ただの雫も玉と(あざむ)き――



 笑わせて見せよう――。それしかできない。だが、歪んだ視界にあるからこそ、世界は数倍、輝いて見える。




 真実は見えないのではなく、見えてはならぬもの――


 だが、隠れはしても、決して失せぬもの――――。




 知らないほうがマシだったと思うことが、世の中にはあるけれど、


 泥沼の底まで掘り返されては、さすがに知られてしまうこともある。





     だが、時にはそれも――……悪くないのだろうか――――……。




……………………………………………………………………………………………


 ※)動物の凶暴化による被害を収め、巻き込まれた市民として、皐月と亮は病院で手当てを受ける。

 そこで、彼ら二人の間に起きていたことを知った(かなえ)は、すべての根源は自分だと、皐月にタケルのことを聞かれた時、ちゃんと向き合わなかったことを泣いて詫びる。


 叶はただ、 “タケルと思しき少年” が亡くなった話を、別病院に勤める後輩看護師から聞いただけで、それ以上のことは何も知らなかった。


 はっきり、タケルだと確認したわけではない。確認し、確定してしまった時、大人の自分でも受け入れ難いことを皐月に抱えさせて、それがどういう結果を招くか想像し、恐れ、逃げてきた。



 だが、結果的には、皐月にタケル少年が亡くなったものと思い込ませてしまい、亮にまでその誤解が飛び火――。


 皐月が毎年、紫苑の花を廃車置き場の空き地に置き残してきたのは、亮が思い出に(ふけ)り、いつかここを訪れ、目にすることがあるかもしれないと、タケルが伝えたかった気持ちを引き継いできたから。 “見る者の心にあることを、忘れさせない力がある花” と、彼が信じていた通り、三人で交わすはずだった約束を忘れないため。


 だが、何も知らない亮は、タケルが亡くなった――その切っ掛けを作った罪の意識を、払拭するために供えている花だと勘違いした。


……………………………………………………………………………………………



「ごめんね、さっちゃん…っ。亮くん――……」




「紛らわしいんだよ…っ、人間なら――――言葉で伝えろよ」




「――……人間じゃないって分かっただろ――――……」


 


                         ◇   ◆   ◇






◍【 ラスト 】

……………………………………………………………………………………………



「須藤――……俺、タケルのこと探してみるよ」


「――……」


 辻村のお母さんが言っていたことが本当なら、タケルは生きてるかもしれないだろ――?



「もし見つけられたら――……、その時は」



 今度こそ、三人で――――……。 




 亮は口にしかけた言葉の代わりに、自嘲をもらした。


「いや――……、もうそんなこと言える立場じゃないか」


「いや! 今度は四人で会おうっ!」


 飛びついてきた健二に、亮は目を瞠った。そして、





「そうだな――……」


 苦笑気味に笑った皐月に、息をのむほど驚いた――――。




「いつか皆で――……、会えたらいいな」





                 *



          遠い人を想う。忘れてなどいない。

       

         忘れられない約束と、花の姿があるから。




      紫苑の(こと)()よ、君に――――……

  


                    届け――――――――






   *





 ――――清潔感が漂う真っ白なカーテンに、音を(ともな)わない木陰が揺れている。



 いつも通り、静かな朝を迎えたある病室で――




 その日――、八年ぶりに動き出した時間(とき)を示すように……





 少年の指先が、反応した――――……。







                           【END】





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ