表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/72

3:神代崩壊 直前のできごと

◍【 〝龍王の乱心〟を危惧きぐする神々 】

 後に神代末期と言われるこの頃、雲上の盤臺峰ばんだいほうに暮らしてきた天民らは、ある変調を捉えていた。中でも、現世界を成した創造神らの縁者は、自分たちが担ってきた務めが揺らぎかけていることを察しており……。※)『夜覇王樹セレイアスと盤独の会話』より抜粋。

…………………………………………………………………………………………………



   *



「やはり、お前の山は美しいな――……。盤臺峰で一番美しい」


「それは〝心〟というものが見せている景色だろう。俺には何処も同じに見える」


「……心?」


「人間に近い者は、特にそれが豊なのだと聞く。しかも、不思議なことに一様ではない」


「俺は――……、人間に近いか……?」


 盤独(ばんどく)は少しうつむいた。この巨体、とてもそうとは思えない。


「俺には同じように見えるが」


「お前はなんでも同じように見るんだな」


 半眼で呆れられても、夜覇王樹セレイアスはくすくすと笑っている。


「豊かにあるということは、その分、自由が広がっているということでもある。そこにきて、物の〝見え方〟と〝見方〟というのは違うのさ」


「どう違う」


「そうだなぁ。後者は〝見なし方〟――本当は違っていたり、別物であっても、心が豊かであれば関係ない」


 そいつが同じと思えば同じ。違うと思えば違う。あるいはどちらでもない。


「不思議だな――……、同じ景色や物なのに」


「心の〝眼〟というのは、もともと不確かなのさ。己が捉えたいように捉え、実際のあり様を歪めて見ることさえある」


「どうして」


「さて、〝都合良く〟できているのだろう」


 夜覇王樹神は苦笑気味にまとめた。


「それでいいのだろうか。心がある者の眼には、物事の本当の姿というのは捉えられないということか――? 夜覇王樹(セレイアス)、我らの父母、創造神が天地を引き離し、開闢(かいびゃく)をもたらしたこの世界は、間違っていたのだろうか」


 あまりに、お互いを遠く感じるようになってしまった。声もなかなか届かぬほど。


羅羽摩(ラウマ)のもとには――……、それでも辛うじて届いているようだが……」


 今、この世界は業の浮力によって自ずと雲上雲下、天民と穢民に振り分けられている。

 雲中にあろと泥中にあろうと、ようは、混沌の中にあっても善悪を明確にする力がある神は、いないのだろうか。


「生み出すしかあるまい」


「お前なら、どんな姿をとらせる。このままでは、羅羽摩がかわいそうだ。どうも嫌な予感がしてならぬ……」


 あいつはまさに、裏と表――天地の狭間にいて、下界の存在と近くもなければ遠くもない、〝龍王〟という立場を嘆いている。


「もしも――」


 やつが大事をなす時が近いのならば、


「この世界を作り出した流れを汲む一柱として、我は崩壊するその時にも、立ちあうべきであろう――……」



 お前はどうする、夜覇王樹(セレイアス)―――。



「この山を失うかと思うと、なんとも口惜しい限りだが……」


 呟く盤独を、夜覇王樹は鼻で笑った。


「我が身は破滅と再生の神威そのもの。死をもたらせと言われれば息を吸い、戦禍を」


 生をもたらせと言われれば息を吐き、豊穣をもたらし、目をつむればこの世界に夜を来す。



 開けば〝夜明け〟を――――そういう存在だ。




「そうだ。よい姿を思いついたぞ」


「?」


「〝裁きを司る形〟のことだ。そもそも、白黒に善悪がつけられるか分からぬが……、牛…、あるいは山羊(やぎ)か、羊がよいのではないか?」


 夜覇王樹(セレイアス)は目を開いた。


 今、その眼下には、ちょうどそれらがいて、朝日を浴びながらも、まだ眠っている――――。







――【 ちなみに 】――


●盤臺峰は資源に恵まれていたが、下界(蘆寨処(ろさいと)黄塵獄(こうじんごく))は痩せ地で曇天下にあり、ほぼ不毛の地だった。



獬豸(かいち)という瑞獣は、善悪を見抜き、悪い方を懲らしめるため、後に裁判を司る官人や法治精神の象徴となった。大きいものは牛、小さいものは羊に似て、狛犬(獅子)・麒麟(きりん)とも類似する点があるが、公正・公平な視点を持つ優れた裁判官・王が生まれる時代に現れるという。



●中国では昔、羊を裁判に利用する羊神判(ようしんぱん)があった。「善」は「羊」と両者の言い分・言い争うという意味の「(きょう)」から出来た漢字。寺では獬豸(かいち)の化身として羊を飼っていた? らしい。



●花人が自分たちの象徴として掲げる聖樹(夜覇王樹(セレイアス))は、夜咲きの睡蓮・合歓(ねむ)の花・覇王樹(サボテン)の特徴をあわせ持った「月下美人」に似ている。



●夜覇王樹神は主人公の祖先。容姿が似ている。重大なネタバレとなるが、主人公の正体は〝法の番人(萼国(きょうごく)の監察機関トップ)〟である。



●重大なネタバレとなるが、主人公の皐月(本名:龍牙(りゅうが))と、飛叉弥(ひさや)は双子の兄弟であり、花人の国・(うてな)の王族――蓮暁寺家と蓮宍家の宿命・特徴をそれぞれ受け継いでいる(片や黒髪、片や白髪)。


 蓮暁寺家が建国の王、蓮宍家がその親衛だった。後に、軍権のみ譲渡された蓮宍家が表向きの王となり、代理戦争を請け負う国家作りを任され、以来、蓮暁寺家は法の番人・奥王として、地下の司法・監察組織を束ねている。


 ただし、龍牙はある事情から〝災いの子〟と忌み嫌われており、「萼の閻魔大王」と仰がれながら、人々に死をもたらす「死神」とも言われ、善悪どちらに性質が傾くか、誰にも予想がつかない。




〔参考資料〕

  

・カイチ - Wikipedia

・瑞獣 - Wikipedia


・羊:シンボル (karakusamon.com)

・◆羊神の前で訴訟をおこなった古代中国…白川静、墨子・明鬼下・附: 『墨子』電子書籍一覧◆: IKAEBITAKOSUIKA (cocolog-nifty.com) 

・すべての神意にかなう...「善」 - 産経国際書会 (sankei-shokai.jp)

・英語圏での「羊」のイメージは?「羊」の英語表現からイメージの違いを学ぼう! (eigo.plus)


・不語仙とは - コトバンク (kotobank.jp)

(ハス)の花の季節!神話、香り、食べ方、特徴、睡蓮との見分け方 | 3ページ目 LOVEGREEN(ラブグリーン)


・世界樹 - Wikipedia

・盤古 - Wikipedia


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ