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目次5:七年前、花の雨を浴びながら、何を誓ったか

追いつめられているのは――飛叉弥?


※)華瓊楽に来てから体調が優れなかった皐月。だが、一刻も早く花人として戦闘可能になる必要性は否定できないと分かっていた。半面、同族であることを認め、部隊に加わるよう急かしてきた飛叉弥に躊躇いが見え始める。実は巻き込みたくないのが本音で……。

……………………………………………………………



 皐月は半ば信じられないのか、ふらつきながらも一度つばを飲み込むと、独り言のように呟いた。


「もう一度やってみる。それでも、まともな技にならなかったら…」


 ふっと膝から力が抜けた。遠い意識の隅で、ドサッと何かが地面に落ちる音を聞いた。

 気が付くと、嘉壱の右腕が胸の前に渡されていた。

 呼吸の乱れも治まらない。身体が言うことを利かない――。


 嘉壱は震えている皐月の背中から、肩越しに飛叉弥へと視線を送った。


「ほら……。やっぱり無茶なんだよ。もういいだろ、今日は」


 こんな状態で術を使いこなそうとしても、大した成果は期待できない。いい加減にしようぜ。こっちが切羽詰っているのは事実だ。でも、一息には行かない。


「飛叉弥……、お前が俺たちに言ったんだろ? 台閣にもそう伝えてさ、少し休ませたほうがいいって絶対。昨日より、ひどくなってる」


「早急に克服しなければ、困るのはこいつだ」


「そうだろうけど!」


 嘉壱は思わず声を荒げた。そしてすぐに舌打ちした。……もうここまで乗り出しちまったんだ。最後まで言ったとして、結果に大差はないだろう。

 飛叉弥の考えてることが読めない。聞き出したところで、納得がいくものかどうかも今は疑問だ。こんなの、ただ無理させてるだけで、本当に身に付くやり方とは思えねぇ。

 低めた声で言いながら、なおも立ち上がろうとしている皐月に気づいて、嘉壱はすかさず怒鳴りつけた。


「止めろッ! お前も、なにムキになってんだよッ!」


 

…………………………………………………………………………………………………

※)自分に無理強いすることに一番抵抗を抱いているのは飛叉弥だと分かっている皐月は、あえて彼を挑発。心の葛藤の末、かっとなった飛叉弥はついに、 “なぎの珠玉の宿し主” である事実を皐月に突きつける。

…………………………………………………………………………………………………



「いいか皐月…ッ‼」


 腕一本払っただけで衝撃波が放たれ、その先にあった山肌が、軽く崩落を起こした。

 嘉壱は青ざめた。おいおい…っ、裏庭を消滅させる気か。飛叉弥が本気で激昂する様など、見慣れない者からすれば恐ろし過ぎて足がすくむはずだが、息巻く彼とは対照的に、皐月がまとう雰囲気は、あくまでも涼しげ。


「お前は花人だッ! どんなに認めたくなくとも、その定めからは逃れられないッ!」


  どんなに逃してやりたくとも……、

  

  風が唸る。


「……いいか。一度しか言わないから、よく聞け」


 お前は元来、特殊な紫眼を持つ花人。その異能が抑制されたり、眠っている状態が、夜隠月石セレンディバイドという奇石に例えられる今の黒眼なんだ。


「お前の体内には、ある呪物が封印されている」


 なぎの珠玉――。それを隠し持っている限り、お前はこの世界と運命共同体。

 お前がある日突然、虚弱体質となったわけ。夜隠月石セレンディバイドの瞳に変質したわけ。すべては死蛇九の陰謀によって倒された前世界樹に代わり、弱化してしまった南壽星みなみじゅせいざんの地力を復活させるため


「現世界樹――椥の木と同調する珠玉を体内に宿し、養い手になったせいだ。……その」

 

 飛叉弥は、おもむろに腕をあげて示す。


「胸元に生じる波紋――、今は目に見えないが……」


 悪意ある者の手が伸びれば、封印として発動する。そう。


「珠玉を……、お前の命を狙っているあの黒尽くめの輩。じきにまた、何らかの仕掛けと、それに似合った演出を用意してくるはず」


 最高の舞台と展開に仕立てるために、最高の演者を選び抜いて。だから


「だから………」





                          ◇   ◆   ◇






◍【 路盧(ロノン)襲撃 】


 ※)激しい言い争いの末、倒れた皐月を休ませた飛叉弥は、燦寿が守っている李彌殷リヴィアン近郊の町・路盧ロノンで異常繁殖している蛞茄蝓カナムの駆除に向かう。そこに出現する、あり得ない巨大妖魔――。


……………………………………………………………………………………………



 皐月は回廊の屋根上に飛び乗り、さらに高い木の枝に飛び移った。

 熱のせいでまだ少しふらつく。体を安定させるために手近な枝をつかんで、東の方角に目をこらした。

 空の下半分が、半球状の紫紺色に見える。


 嘉壱は何事かと戸惑っていたが、沈黙を長引かせる皐月を見上げているうちに、言い知れぬ不安を感じ始めた。

 案の定、不穏な響きを蔵した低い声が降ってきた。


「行け、嘉壱。町がやられるぞ……」


「町? なに言ってんだよ、あっちは李彌殷リヴィアンじゃなくて……」

 


 指をさした嘉壱は、ふつりと口元の笑みを絶った。

 飛叉弥が向かった路盧ロノンだ。彼には、啓しか同行していない――。



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