目次4:造世神霊(ツクヨミ)の紫眼 / とある龍の伝説
薫子たちは、弱小妖魔を退治できなかった皐月を役立たずと断定。ただ、嘉壱だけは “ヤバい奴” と気づいた。ぼうっとしていて様子がおかしい皐月を遠目に見つめ、嘉壱は飛叉弥に、彼の正体を明かすよう迫るが……。
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さすがは、天翔ける青眼の風雲児。風霊を寄せ付けやすい花人を輩出してきた名門の “菊家” は、その驥足を絶やしたことがなく、王家がかつて、あからさまな軍閥政治を行っていた時代の名残も色濃い一族である。
だが、嘉壱は良くも悪くも華冑の闇に染まっていない。今、すべてを明らかにしても、信じられないことばかりのはずだ。
暴く側も、暴かれる側も何一つ、 “間に合っていない” のだから――……。
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夜叉はただの鬼ではなく、花人は “ただの夜叉” ではない。夜覇王樹の民が森の木石から生じ、夜を支配する豊穣神であった理由は、厳密にいうと、某花神と “月神の血” を引いているためだ。
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「それが――なぜ、水を崇め、万物を育みながら、天にも劣らぬ美しい楽園に、戦火の災いをもたらした人間の末裔へと、生まれ変わらなければならなくなったのか」
血肉としては明らかな夜叉である花人を、もとは人間だったと来歴を歪めてきたのは、何故だと思う。
「特に、脅威的な力に目覚めたのなら、それは花神に戒められて花人にされた、 “火種の子孫” たる証拠だと――……」
「おい」
嘉壱は、とんでもないことを、さらりと示唆されて呆然となった。
「まさか……、あいつもお前と同じ “火種” の脈持だって言うんじゃねぇだろうな」
花人と名乗り始めて以来、夜覇王樹の民は、自害すらも思いのままに出来なくなった。何処にも逃げられない。死後の世界もない。
自分の定めと向き合い尽くさない限り、必ず萼の地に、その魂は引き戻されると言われている――。
「飛叉弥、お前は実際に見たことがあるのか。あいつの華痣……」
蓮であれ、藤であれ、一目でなんの花か分かる花相であれば、華冑――つまり、天花園を占領しようと花神襲撃を扇動した、もっとも罪深き人間の末裔と見なされることになる。
「あれから――……」
飛叉弥は声にも出し、心の中でも唱えた。
あれからもう、何年になるだろうか。
「口調やかもしだす雰囲気、不敵な態度といい……、お前たちが悪感情を抱いくのも無理はない」
*――坊主……
いつぞや、呼びかけに振り返った漆黒の瞳は、ひとを睨め殺さんとする憎悪を宿していた。
「本当は――……、あんな眼をする奴じゃないんだがな」
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この後、飛叉弥の提案で、観光と称する気分転換に送り出された皐月。物乞いの少年に出会ったのを機に、嘉壱から、華瓊楽の現状と八年前の大旱魃を引き起こした輩――黒同舟について語られる。華瓊楽の不毛化は、正確には〝ある封印用途の呪物〟を使い、世界樹の生気を吸い取ることで引き起こされていた。世界樹を傾け、破滅を来すという黒同舟のやり方は、四千年前、花人の本当の祖先(夜覇王樹神)が神代を終わらせたやり方と同じで……?




