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払雲花伝〈ある花人たちの物語〉【呼び水版】  作者: 讀翁久乃
【塵】のダイジェスト&一場面先読み:華瓊楽国編
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目次2:悪夢、からの悪夢……?


知らない町の大火災に巻き込まれたそこで、狂喜の笑みを浮かべる少年に遭遇した皐月。「遊んでやるから来い」と言う “彼” に見覚えがあり、愕然とする。この少年がどれだけ危険であるか知らないらしく、彼と対峙たいじしている七人の人影に必死で退避を叫ぶが……。気が付くと、見知らぬ森にいて――?

……………………………………………………………………




 バタバタ――…

 何かが日差しを横切り、頭上を羽ばたいていった。

 これは、四ヶ月前のことだ―――。 




     |

     |

     :

     *




 キラキラと揺れる天上から、鳥の羽が一枚、大きく浮き沈みさせている胸元に舞い降りてくる。


 自分が鳥を驚かせるほどの大声を出したことに気づくまで、大分かかった。


「…っ――…」 



 皐月は深い草藪に面した洞窟の入り口に倒れていた。



     |

     |

     |



「何か探してるみてぇだな……」


 灌木(かんぼく)の影から、その様子をうかがっている二対の双眸は、チロリと互いに視線を合わせた。


「それにしても様子がおかしいっスねぇ、兄貴……」


「相当の勢いで転がり出て来たからな。頭の打ちどころが悪かったのかも…」


「まさか。そんなドジ踏む人じゃないっスよ。相手を誰だと思ってるんスか――?」






◍【 皐月、喋るネズミ二匹に都へ導かれる。人身売買されるとも知らず 】

………………………………………………………………………………………………

茂みの中で喋っていたのは、ブルーとピンクの二匹の木鼠だった。彼らは “花連の旦那” なる人物と皐月があまりにそっくりであるため、混同していた。

………………………………………………………………………………………………



「あれぇぇええ~~~っッッ⁉」


 さっきからやけにうるさいピンクが、これまた必要以上の大声を上げ、片胡坐をかいている皐月の右膝に飛び乘る。

 彼が何も言わないのをいいことに背伸びをし、様々な角度から顔を眺め、さらに腕を伝って肩へと駆けのぼった。


「旦那っ、 “七彩目(しちさいもく)” はどうしちゃったんスかっ⁉」


「しちさいもく――? なにそれ。七歳の誰がどうしたって?」


「や、だから七彩…」


「白菜?」


「白菜じゃなくて七さ…」


「どりゃあああああああッッッ‼」


 少し焦れたように眉間をしかめ、繰り返そうとしたピンクだったが、その小さな体がくの字にひしゃげて吹っ飛んでいった。

 高々と跳躍したブルーが、短足にしては華麗な回し蹴りを食らわせたのだ。


 ツイストしながら地面にめり込んだ相棒を引っこ抜き、ブルーはこれから捨てに行くような勢いで、ぐいぐいと近くの小岩の影に引きずっていった。


「な……、何するんスがぁ、あにぎぃ~」


 ピンクの声が死んでいる。


「いいか、助坊……」


 皐月から適当な距離をとって、 “兄貴” こと毛の色が青いネズミは、ピンクのネズミを草むらの中に据えつけた。


 ピンクは囁かれた方の耳を跳ね上げた。


 円らな瞳を瞬かせる相棒に対し、ブルーはつり上がっている目を細め、小岩越しに背後を少し意識してから、さらに声をひそめた。



「あれは別人だ」



「べ…っ、べべべ別人~~ッッ⁉」


「バカッ、声がでけぇっ!」


 あいつはおそらく、 “摩天(まてん)” の生れだ。口のかけた急須とか、一本しかない菜箸なんかとは比べ物にならねぇ代物よぉ!

 “生物(なまもの)” というだけで、一気に希少価値が跳ねあがる。ましてや、界境を越えて傷一つ付かずに転がり込んでくる人間など、そうそうお目にかかれない。


「文明社会の最先端育ちとなれば、闇市どころか、伏魔殿にすら滅多に出てこねぇ珍品だからな。異国の生き物を食らうと、それまでの自分にはなかった怪力を授かることができるって噂ならぁ、日の浅せぇお前でも聞いたことくらいあんだろ。しかも、似てはいるが―――」




   “あの人” とは、まったく関わりがねぇみてぇだしな……?


 


 皐月は地べたに片胡坐をかいたまま、近くの適当な雑草をむしり取って遊んでいる。時おり風にそよぐ緑の中、誰かを待っているふうでも、つまらなそうにしているわけでもなく、放っておけば永遠とそうしていそうな、ぼおーっとした間抜け面だ。


 ブルーの瞳は、この稀にみる “獲物” を前に、鋭い輝きを増していった。


「まずは、あいつをどうにかダマくらかして都に連れて行く。そこで苞淑(ほうしゅく)の野郎に、査定金額を見積もってもらうのよ」



………………………………………………………………

皐月から空腹を訴えられた二匹は、しめたとばかり、食事をおごってやると言って王都・李彌殷リヴィアンまで案内する。皐月はそこで、二匹が馴染みの質屋店主(鮑叔)と交渉している間に、果物売りの老爺(燦寿さんじゅ)からりんごを貰う。さらに、いじめられていた少女(ひいな)を助けたのを機に、自分とそっくりな〝花人の親分(花連の旦那)〟がいるという、萌神荘へ導かれることになり……。



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