2:〝真実〟の設定――絮花と英陶の企て・善悪
《 注意 》
あくまで初期設定なので、変更する可能性もありますが、下記は様々な〝真実〟の中でも、この物語全体に関わる非常に重大なネタバレとなります。
本編の方でも、世界樹や甘露についてよく触れるようになったため(あと、本編いつ終わるか分からないくらい長いので……。)出しちゃうことにしました。てっとり早く秘密部分を知りたい場合は、読んで頂いて問題ありません。
◍【 真実 】萼の伐桂話。絮花は青年を利用した
(※)〝伐桂話〟は七夕と同じように、近しい異界国のよく似た風習や伝承と混ざり合って混同されている場合がある。――という設定。(この物語において)
なので、萼が伝えてきた伐桂話は『呉剛伐桂』とよく似た、絮花という世界初の花木盗伐と、夜覇王樹という元祖世界樹の伐倒秘話になる。
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疫病が流行っていた地で、母のため、薬草を摘んでいた青年というのは、人間だった頃、砂漠にて人々に平等の命をもたらす方法を探し歩いていた蘇煩(後の月凊隠)だ。
しかし、彼が編み出せたのは魄体を作る技術だけ。枯れ木から取れる樹脂で作った。
蘇煩に月の花木の存在を教え、天梯を下す慈悲深い神が現れるが、この神の名は伝承では伏せられている。「絮花」という。月に生やされた世界初の花木であり、花神の名。蔓は枝垂れ柳、花は泰山木、香りと蕊は金木犀に似ていた。
絮花が蘇煩に下した天梯とは、月の地下水と絮花を守護・管理するために生み出された水源財宝の守護神(=龍)。絮花が龍を蘇煩の下に遣わした。
しかし、絮花から甘露を得ようとした蘇煩は、件の流れで、他の神々から「善人であって悪人だ」と言い渡される。人間の寿命も等しく延ばしたい願いと、甘露を盗もうとした罰を同時に果たすため、地上にもたらす分の甘露を(悪神に搾取されていると知らず)絮花から作り続けることになった蘇煩。彼女と愛も育んだが、彼は絮花に利用されたことを、この時点では知らなかった。
絮花は慈悲で蘇煩を月に招き寄せたのではなく、〝甘露を生み出す道具としてではない存在〟に生まれ変わる転機を欲していた。労働せず、飲み食いばかりの悪神ら(後の罪神)を恨めしく思っていた。
月の水を吸い尽くすことも、
月を砕き、悪神から楽園を奪うことも、
蘇煩に薬として消費されることも、
三毒に侵された人間に燃やされることも――、
清らかな水(月の地下水)のないところに根差し、夜覇王樹という罪神をこらしめる元祖世界樹に生まれ変わることも、――結果として、絮花が思い描いた通りになったが、すべてが計算だったかは疑問。彼女はいつしか、蘇煩のことを本当に愛するようになっていたからだ。甘露という宝を悪神らから取り上げた時点で気持ちは晴れ、彼女がその後、蘇煩のためにしたことは本当の愛ゆえにであり、燃やされた悲劇的最期は、予期せぬことだったかもしれない。
現に、絮花の息子であり、生まれ変わりとも言われた夜覇王樹は、裁きを司る元祖世界樹として立ち続ける運命となったことを、〝蘇煩を利用した罰・因果である〟と解釈していた。
自堕落な神々に罰を与えた絮花の行いは善であり、蘇煩を利用した行いは悪である。
世の中には知らないほうが良いことがある。
しかし、蘇煩は絮花に利用された部分があることを、なんとなく察していた。だが、彼女が自分にしてくれたことすべてに、裏があったとは思っていない。
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◍【 真実 】龍王と人間。英陶も龍王を利用した
英陶が、龍王として昇天する前の羅羽摩を愛したことは事実。
だが、英陶が死んだのは、戦士として戦い、禍等に殺されたからではない。
仲間たちを殺され、自分が大切に思ってきた人々を失い、絶望した末に自害した。
羅羽摩が乱心(神代崩壊に踏み切った)のは、単に英陶の死を知ったからではなく、彼が自害を選んだ目的に思い当たったからだろうと、夜覇王樹は見抜いていた。
羅羽摩がどう解釈したかまでは分からないが、英陶はおそらく、羅羽摩への失望を込めて自害した。あるいは、龍王・羅羽摩を突き動かす一石になれば、御の字と思ったのかもしれない。残された自分の命の価値を考え、最期に、羅羽摩と自分の信頼関係を試したとも言えるし、賭けたとも言える。
羅羽摩はまんまと踊らされたか、そこまで見抜いた上で、英陶の思いに応えたかのどちらかだ。
英陶は神代崩壊を実現させ、地上に光をもたらした英雄、善であり、羅羽摩を利用した悪である。そして、そこまで見抜いていながら、夜覇王樹は羅羽摩を制さなかった。羅羽摩がどこまで見抜いていたかも、あえて問いたださなかった。気づいていないふり・知らないふりをして、すべての善悪を有耶無耶にした。
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◍【 真実 】夜覇王樹の民(花人)の本当の罪とは
夜覇王樹の民は、後の世で花人と名乗り、世界平和のために貢献することを誓っている。羅羽摩龍王が叶えたかった人間との共存・人原の平定を、代わりに実現するためだ。
一方、〝月花の甘露を奪うため、花神の楽園を火の海にした罪深き人間の末裔(=花人)である〟――と来歴を歪めてきたのは、実際にそれ相応の罪の意識があったから。
だがそれは、〝神代崩壊に乗じて、鬼の本性を剥き出し、殺戮に興じたこと〟や、〝龍王をそそのかして神代崩壊を招き、世界樹の務めから足抜きすることを図った贖罪の意識〟ではなく、
実際には、龍王が動くまで〝何もしなかったこと〟に罪の意識があったから――。
三毒と闘いつつ、罪神を封じ続けなければならない四生世界樹の役割に疲れていながら、おくびにも出さず、代わりを求めることもなく、ただ耐えていただけだった。
ゆえに、羅羽摩龍王が呆れて、神代崩壊が起こったと思っている。
そして、生き残った末裔には、耐え忍ぶ自分の生き方を忘れずにいて欲しい反面、別の生き方も探るように願った。
それから四千年、夜明珠の瞳(=破暁の瞳)を覚醒した花人が、己の善悪と向き合い、人間の娘を王妃に迎え、後に〝真の花人〟と謳われるようになる――。




