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夢の中

作者: 金季節

 気が付けばそこにいた。

 修学旅行の夜、旅館で大いに迷った私は、気が付けばある廊下にいた。目の前の扉からは明かりが漏れ、とても賑やかだった。その雰囲気がこちらまで伝わってくる。どうやら中では宴会が開かれているらしい。

 なんでも、宴会の主役となっている誰かが復讐を遂げ、その祝いなのだという。座敷の外にいる私にまでその概要が届くとは、参加者はそれはそれは噂好きのようだ。

中に入ってみようかとも思うが、勇気が出ずにもだもだしているうち、奥から、着物で美しく着飾った女たちが目の前の扉から続々と中に入っていくではないか。それを見た私は、その最後尾に続いてそっと中に入っていった。

 中の様子はよくわからなかったが、どうやらこちらは上座だったらしい。そしていわゆる舞台側だったらしい。中が見渡せる位置まで来ると人の視線が何十、何百と突き刺さってきて、思わず首をひっこめた。

 見えるか見えないかのところまで首を伸ばすと、座敷の三分の一あたりから奥にかけて人がたくさんこちらを見ているのがわかる。そしてこちらの上座側にはおそらくこの宴会で最も偉いであろう誰かが、主役であろう復讐者と共に、客たちの前で舞う女たちを後ろから見ていた。彼女らは先程の女たちで、恐らく彼らを楽しませるための者たちなのだろう。偉そうな男たちの前でずらっと並んで座る中、何人かがその何歩か前辺りで舞っている。

 そう、舞っているのだ。踊っているのではなく。

 軽やかに。優雅に。或いは艶めかしく、或いはあどけなく。

 その姿に私は目を奪われた。客たちにばれるか否かのぎりぎりの位置で、ずっと瞬きもせずに、斜め前の女たちに魅入られていた。


 どれくらい経ったか、ふと視線を感じると、私の隣に女のうちの一人がいた。座って仲間の舞を見守っているうちの一人で、少しだけこちらに寄ってきて話しかけてきた。

 ——あとで部屋に来なよ。

 訳が分からずただ頷くと、その娘はまた前を向いた。何もなかったかのように。

 私は、今度は彼女に夢中になった。私と同じくらいのくせに、ひどくうつくしいあの娘。心を奪われるとはこういう気持ちなのかと思った。

 斜め前では、ほぼ隣に座っている女たち——よく見れば彼女と同様、少女と呼べる年齢の娘も多くいた——が相変わらず踊り続けていた。

 女たちがかわるがわる踊る中、彼女も順番になると立ち上がり、数歩前に出て舞っていた。

 とてもうつくしかった。


 気付けば宴会は終わり、解散となっていた。私はぼうっとした状態から復活すると、その場を後にした。


 ふらふらと歩いていると、友人を見つけた。

 手を振りこちらへと歩み寄ってくる友人に手を振り返す。

「どこ行ってたの?」

「んー、宴会。

 何か復讐を遂げたことの祝いなんだって。

 誰だよそれ、ってなったけど、なんか知り合いだった。中学の同級生で、クラスメイトだったの」

「えー、なにそれ」

 そんな雑談をしていると、ふいに彼女のことを思い出し、胸が苦しくなった。

 あの舞台の女たちは全員、あの同級生と宴会の主催者——すなわち彼女たちより前の、最も上手にいた人たちのために集められたのだ。多分。

 今回はそうならなくとも、いずれ彼女たちはどこの馬の骨とも知れない誰かのものになる。それはあの娘も同じ……。

 そう思うと、ひたすらに胸が苦しくなって、息が詰まって、そして——ああ。ああ、ああ!


 あのこがわたしのものになればいいのに。


 本当にままならない。私はいつものようにため息をつきそうになって、きゅっと唇をかんだ。


 気付けばまた一人で、私は、たばこの自販機を見つけた。

 あの娘に頼まれ、ポケットからティッシュを取り出して自販機に入れようとする。が、柔らかくて入らない。次に小銭入れをポケットから出す。私の財布ってこんなんだったっけ。それを開けて千円札を取り出すと、自販機に入れる。今度はすうっと入ってくれた。

 適当にボタンを押すと控えめな「がこっ」という音とともにたばこがひと箱落ちてくる。それを取り出し、次におつりに手を伸ばす。すると、見知った小銭とは別に、明らかに本来の金額より多い古い貨幣があった。


 持っていたはずのたばこは————

 手の中か、

 消えてしまったか、

 よく、憶えていない。


ありがとうございました。

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