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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

獣性のありか

ファンタジー 狩り、というお題で書きました。



 獣人に助けられた。

 男の性根が変わるきっかけはそれで十分だったのだ。

 

 魔法と、弩。それがハンターである男が持つ、最も信頼できる命綱でありタリスマンであった。

 獣人一匹、10万ゴールド。あとは獣人の肉を少々。

 狂暴な野蛮人を狩人が相手取るには十分に足りる報酬であり、半端な実力者が受け取るには分不相応な金額。


 半端者は夢を見る。二匹目、三匹目と狩りにとりつかれ、そうして呆気なく死神に首をとられる。金貨を握りながら。


 男は実力だけは突出したハンターであった。

 同時に自信過剰のたちもある。


 ゆえに、夜の酒場で酔いつぶれ、腕ならしにとばかり獣人の住まう里を襲撃した彼は、普段なら追いかけぬ最後の獲物に深追いをしてしまったのだ。

 真ん丸の月明かりの下、まるで獣のように、止まれという理性すら無視をして、人の形をした野蛮人を追いかける。


 酒気で揺れる視界、弩の切っ先はおぼつかない。


 そうして足を滑らせた。酒に酔い、最後の獣人を凝視するばかりで、足元に敷かれていた他のハンターの罠に気づかなかったのだ。


 男は足を引っかけて地面に強く頭を打ち付けた。


 致命傷だった。男は視界も不明瞭なまま、何が起こったのかすらわからず──────されど獣人の哀れむような視線には敏感なままで、その同情に強い憎しみと暗い情念を募らせて。


 ああ、いつもならこんなミスをしないのに。


 オレはこんな穢らわしい獣に食われるのか。


 チクショウ……チクショウ……。


 男は凌辱を覚悟した。激しい拷問を覚悟した。

 獣人の、人に向ける恨みは相当なものだ。

 自分に、その怒りが向けられるのだと、男は恐怖し、強く強く怯え……気絶した。頭の傷から、血が流れすぎたのだ。



 男が目覚めたのは、安っぽい掘っ立て小屋の床の上だ。

 鍋が煮られた暖炉の火の前で、男は毛布をかけられ眠っていたのだ。頭の怪我には適切な処置がされ、眩みはするものの立ち上がれるほどにまで快復していた。


 オレはなんで生きている。


 その疑問は、ベッドに子供を眠らせている獣人の母親と、先ほどまで死の追いかけっこをしていた里の最後の獣人である青年が答えてくれた。

 男は青年の意思により助けられたのだという。

 男の運ばれたこの掘っ立て小屋は、離れた場所にある別の獣人の里だというのだ。


 母親は子供を撫でながら言った。


 ──私たちは恨んでいません。これまでの人間サマが犯した過ちも、同胞を屠った業も。

 私たちは自然に生きる民。弱肉強食を受け入れ、手負いのものを助ける誇り高き民。

 だからあなたは早くお逃げなさい──


 男は母親の気高き覚悟に強い衝撃を受けた。

 その衝撃たるや、激流のように男の心に流れ込み、邪念や酔いの悪心を全て解かしてしまうほどだった。

 そして自分を助けてくれた獣人の青年に、男は頭を下げた。


 あんたたちは恩人だ。

 ここまで心ができた御仁は、ヒトでもそうはいねえ。


 だからオレが匿おう。あんたたちを、オレが守ろう。

 なあに、オレは強いんだ。今のうちに逃げ出そう。


 獣人の里にいたって、いいことはない。

 焼き払われるだけだ。


 男の提案に対し、母親も獣人の青年もけして首を縦に振らなかった。

 獣人にとって弱肉強食の掟は絶対であり、淘汰されるのであればそれまでのこと。そして手負いの獣は傷つけない。

 それが獣人が持つ鋼の意思だった。


 男も強情な態度で説得を続けるが、途中で別の獣人が訪ねてきたことにより、ついには諦めることになった。


 母親の示した裏口から男は逃げ出し、数刻を経て無事に街へとたどり着いた頃には、男は這う這うの体。


 泥のように眠り、翌日に男はひどく後悔したが、腹の音は無情にも鳴り響く。

 そしていつもの酒場で、いつもの調子で、肉の注文を行う。運ばれてきたのが肉の塊とあれば、男は涎を垂らして飛びつかずにはいられなかった。


 ──ほれ、獣人の肉、お待ち──


「うむ、ウマイ!」



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