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044作品目  作者: Nora_
9/9

09話

 なぜ私は響を連れ込んでしまったのか

 いや、逃げたかったのは分かる、それにあれだ、だって小学生から逃げる高校二年生なんてださいでしょうという話。

 これはミアのためだ、嫌な人間といたら誰だっていい気分ではいられない、大方、姉に誘われて断れなかったとかそういうところだろう。


「なんか久しぶりだ、椛の部屋に入るの」

「あ、うん、そうだね」


 両方とも意固地になっていたから遊ぶなんて機会は全くなかった、彼女にとって私は嫌いな対象なわけだし、そんな人と遊ぶ物好きは多分いない。


「椛、入っていい?」


 ちくしょうっ、そりゃあんな逃げ方したら気になるよね!

 ……しょうがないから響に開けてもらうことに。すると、今回は意外にも彼女は従ってくれた。


「この前はごめ――」

「ミア、喉乾いてない?」


 ミアとさなって似てる、でも悪いけど絶対に謝らせない。

 

「え? あ、ちょっと……乾いている、けど」

「じゃあこれあげる、さっき家に帰る前に買ったジュース。飲みかけだけどごめんね、口をつけないで飲めばいいでしょ?」


 私のこれはそういう意味じゃないからノーカウント

 だって謝ったって嫌だと言った過去は変わらないんだから意味がない、自分のための謝罪は駄目だ、それが癖になってしまうから年上としてさせないのが一番だろう。


「それで? ミアはなにをしに来たの?」

「アイス、一緒に食べに行ってくれてありがと」

「いいよ、私も美味しいの食べられたしね」


 嫌だと言われてすぐ帰ったけど、それまでは甘えてくれる妹と楽しい時間が過ごせた。

 な、泣いたことは言わないでおこう、ただ、小学生からの真っ直ぐな否定は堪えるんだなって学べたことでもあるからあんまりいい思い出とは言えないかもしれない。


「それだけ?」


 ミアは一度だけ響の方を見てから抱きついてきた。

 この子は相変わらず体温が高いし柔らかい、あといい匂いがする、どうせ甘えてくれているならということで髪を撫でていたら小さく「ふにゅ」と甘い声を漏らしていた。


「おいミア、なんでいまあたしを見たんだ?」

「……椛は私のだから」


 おぅ、いつの間にかミアのものになっていたらしい。

 でもいいのかいミアよ、私は雰囲気を悪くするから嫌なんじゃないのか? それともまた全部口先だけなのか? もうなんか他人の発言があんまり信じられなくなっていた。


「私のって、どういう意味でだ?」

「特別な意味で」

「ませてるな、お前はまだ小学生だろ?」

「だめなの? 小学生が高校生を好きになったら駄目なの?」

「いや、駄目とは言ってないだろ」


 この子は私よりしっかりしてるからちょっと忘れたくなるけど、小学生なんだよね。

 内側ではどうか分からないけどなぜか気に入ってくれていて、こうして甘えてくれたりもする。

 でもなあ、さすがに高校生が小学生を恋人にしたら不味いよねという話、せめて中学生だったらまだ大丈夫かもしれないけれども。


「ミア、中学生二年生になってもまだ私のことが好きだったら付き合おうか」

「やだ……さなとか響とか仁美に取られちゃうから」

「取らないよ、みんな私のこと嫌がっているんだし」

「あたしも好きだぞ」

「あーはいはい、ありがとねー」


 ミアがもう中学生だったらもらっているのにな、そこは残念、そして時間が経てばそんな想いどこかへ吹き飛ぶ、他の子を気に入ってとっとと付き合ってしまうことは容易に想像できる。

 だから気持ちだけ受け取っておく、こう言っておけば無理なんだって冷静になったら分かるから。


「いや、真剣に言ってるんだ」

「はい嘘ー」

「マジだって」

「そういえば好きな人聞がいるか聞いてきたよね? 私、いま誰のことも特別な意味で好きじゃないよ」


 見方によっては二人から求められているように見えるけど、本音を聞いてしまった以上踏み込めない。

 だって付き合ったら余計に酷くなりそうじゃん、で、すぐに別れたりとかしそう。

 どうせ付き合うならそんな不安を一切抱えずにいられるようなものでありたい。


「好きなんだよ」

「じゃあ答えるけど、私は無理、全部お断りだで終わらせてしまう響は嫌だもん」

「そうか、ならしょうがないな。帰るわ、椛に振られて傷ついた」


 なーにが傷ついただよ……よっぽど私の方が傷づいてるよ、少しでも動いてくれていたのなら受け入れたって良かったのに。


「だめなの?」

「ミアが中学二年生になるまでは駄目だね」

「中学一年生じゃだめなの?」

「時間が経てば分かるよ。好きとかあれだよ、勘違いだよ」


 そもそも、告白って誰かの前でするものじゃないでしょ、それに誰かにマウントを取るためにすることではない、あんな見せつけるようにするのは駄目だ。

 

「……なんで信じてくれないの? 好きなのに!」

「仮にそうでも無理だよ、小学生となんか付き合ったら社会的に死ぬのは私だし」


 堂々とできない恋愛なんか嫌だった、この子達がどうかは知らないけど私にとっては初めてだからだ。


「椛のばか! もうだいきらいっ」


 好きと言ったり嫌いって言ったり忙しい子だな、なんでもかんでも受け入れればいいというわけではないだろうに。

 しっかり考えて、それでも尚受け入れてくれるからこそ嬉しいものではないだろうか。


「良かったの? 抱きしめる程度に留めておけば高校生と小学生でも良かったじゃない」

「そりゃ私だって受け入れられるならミアが良かったよ、あの子は優しいからね」


 あと目の保養になる、でも私が好きとかそんなのは嘘だ、冷静になればすぐに分かるさ。


「あの子が中学二年生になったらあなたは社会人じゃない、余計に相手をしてあげられなくなるわよ」

「あははっ、本当にその時まで残っているとでも思ってるの? ないって、どうせ帰ったら分かるよ」


 寧ろいま気づいているのかもしれない、あんな人間を好きになったのは失敗だったってね。

 てか、速攻で上書きして帰ってしまったわけだし、やはり好きのレベルは低かったと思う。


「響からの告白はなんで断ったの?」

「聞いていたんでしょ? 全然こっちの頼みは聞いてくれないもん、一方的に奉仕するとか嫌だし」

「さなからの望みは?」

「あの子のも無理。だって教室では必ず特定の子と仲良くしているんだもん、その子のことが好きなんだよさなは」

「そう……ならしょうがないわね」

「うん、しょうがない」


 あんなことを言っていたのに姉からはなしと、それとも言っても無駄だと思ったのかな? まあ、実際そうなんだけど。


「ま、とにかく学生生活を楽しみなさい」

「うん、そうするよ」


 恋をすることだけが全てじゃない、さなも響もミアも少し落ち着けば普通に人生を楽しめる。

 それは私も同じだ、だからいまはとにかく楽しく生きることだけに集中しようと決めたのだった。




「お疲れ様ー」

「あ、お疲れ様です」

「ねねね、今日この後って暇?」

「はい、どうしました?」

「また飲みに行こうよ! 先輩が奢ってあげるから」

「お酒は飲めませんけどね、ジュースでいいならお付き合いさせていただきます」

「やったっ、じゃあすぐ行こう!」


 働き始めてもう三年目の冬、昨今は大学卒じゃないと駄目みたいな風潮があるけど行かなくてもこんなにいい職場に就職することができた。

 なにがいいって先輩が優しいことだろう、だから大して悩まずにこれまで集中できた形になる。

 で、やはりというかミアは来なかった、一切連絡だって取っていなかったからまだ地元にいるのかどうかも分からない。

 ちなみに、あの後さなはあの子と付き合い始め、その子と一緒に暮らしていた。

 姉も家から出ていき、他県で一人で頑張っている。

 家には私と父と母だけ、母はいつも寂しいと呟きながら過ごしているのが現状だろうか。

 寂しいことなんてない、みんないい意味で出ていったんだから、少なくとも私の本当の母親みたいな感じではないのだから応援してあげるべきだ。


「あれ? あの子誰かを待っているのかな?」

「え? え……」

「ん? どしたの?」

「あ、い、いえ……それよりお店に行きましょうか、寒いですから」

「そうだね……って、あの子こっちに来てるけど」


 いや、待っておくれ……そんなのっておかしいでしょうよ。

 あの時とは全く違う、恐らく並んだら彼女の方が大きい、でも、あの銀髪を見間違えるはずがない、だけどなんでって考えている内に来てしまった。


「どうしたの? うちの会社に用があった?」


 先輩が代わりに聞いてくれたけど彼女はこちらを指差すだけ。


「椛ちゃんに用があるの? 今日は勘弁してくれないかな、これから飲みに行く約束をしているんだよ」


 そ、そうだそうだ、旧友に構っている時間は私にはない。

 大体、いま頃来たってもう遅いし、無駄だということを知った方がいい。


「私は椛先輩に用があるので」


 昔と違って声が少し低かった、背が高いからイメージ通りではあるけどね。


「それならここで終わらせてよ」

「それなら……椛先輩っ。私、あなたのことが好きです、諦められませんでした!」


 じゃあなんで更に二年も使ったのか、一回捨てたら逆に落ち着いて考えることができたということだろうか。


「えっ!? す、すすす、好きってまさか!?」

「そうですけど」

「おぉ! 生で見たの初めて! じゃあ君も行っちゃおう! まだ時間も早いし大丈夫!」


 メンバーが三人になりました、お店に着いたら炭酸ジュースを頼んで内側の複雑さを飲み物で流す。


「ね、いつから好きなの?」

「小学六年生の頃からです」

「で、いまは?」

「高校一年生です」

「なんでそんなに時間が必要だったの? さっさと告れば良かったのに」

「中学二年生になるまでは駄目だと断られました。なので大嫌いとぶつけて今日まで会っていなかったんです」

「ありゃりゃ」


 敬語を使えるようになったのは素晴らしいことだ、それでなぜ敢えてこの年を選んだのか、しかもこんな寒い季節に。


「なんで大嫌いなんて言っちゃったんだい?」

「それは……受け入れてくれなかったからだけど。だって、好きならいいじゃん……なのに小学生だからって理由だけで断られたら嫌だもん」


 あ、敬語モード終了、それにそれはしょうがない、だって社会的に死ぬのは私だったんだし。


「でもさ、もうできるよね」

「だから今日来たの」

「うんうん、それをお姉さんが邪魔しちゃったわけか」


 いや、今度は成人と未成年ということで手出しできないんだけど……。


「それちょうだい」

「え、お酒を? それはちょっと……」

「ちょうだい!」

「あー……ちょっとだけだよ?」

「貸してっ、ごくごくごくごく……っぷはぁ!」


 それはちょっとじゃないよミア、分かりやすく顔が赤くなっちゃっているけど大丈夫だろうか。


「もみじぃ……しよ?」

「ぶふぅ!? な、なにを言っているの!」

「だってぇ……ずっとがまんしてきたんだもんぅ……」


 あーあ……慣れないことをするからこんなことになるんだ、我慢してきたって、勝手に年数を増やしたのはミアの方なのに。

 

「美月先輩すみません、現時点までのお金は払うので今日はもう帰ってもいいですか? さすがに高校生をこのまま放置しておくことはできないので」

「そうだね、あとお金はいいよ、今度また付き合ってくれれば」

「そういうわけにはいきません――……っと、ここに置いておきますね。ほらミア行くよ」

「したいぃ……」


 仮にするとしてもここではできるわけがない、……昔みたいにお持ち帰りするみたいで嫌だけどしょうがないと片付けて店をあとにした。

 半ば引きずるようにして彼女を家に連れ帰る。


「ただいま……」

「おかえり」


 私を迎えてくれたのは響だった、すぐに姉も出てきて、「おかえりなさい」と笑いかけてくれる。

 なんだろう、この昔に戻ったみたいな感じは。


「あ、椛やっと帰ってきた」

「え、さなまで……」

「なんだかんだいっても、ここが私の家だからね」


 というかみんな後ろの銀髪娘さんには気づいてないのかな。


「よう、ミア」

「うぅ……」

「ん? 顔が赤いわね、大丈夫なの?」

「ひっぐっ……おさけぇ……」

「もしかしてお酒を飲んだの? まだ未成年なのに悪い子なんだから」


 あ、分かったぞ、これは私にだけ会っていなかったパターンだ。

 なんだいなんだい、私のところには一切連絡すら寄こさなかったのに。

 彼女が中学二年生になった時、もし来たとしたら困らせないようにって一人でいたのに。


「とりあえず椛の部屋に寝かせておきましょうか」

「だな」

「そうだね」


 なんか勝手に私のところで寝かされることになった。

 姉が彼女をお姫様抱っこをして運び、さなはそれに付き添いとして一緒に行動。


「……久しぶりだな」

「うん……あ、お姉ちゃんと暮らすのはどう?」


 そう、響は姉と一緒に住んでいる。

 だからと言って付き合っているとかそういうことは恐らくないと思うけど、どうだろうか。


「なかなか慣れないな、仁美とじゃなくて向こうで暮らすのがな」

「あー、慣れない場所だもんね」

「でももう三年経っているしいい加減慣れないとな」


 ここで重要なのは高校を卒業してから三年間ということだ。

 そのため、ミアはあんなに立派に育ってしまった、出るところが私より出ているし、へこまなきゃいけないところはきちんとへっこんでいる。

 そのうえ銀髪で美人、ずるいね、お酒を飲んでベロンベロンになったことは笑っちゃったけど。


「……高校の時は悪かったな」

「いや、……私こそごめん」


 時間が経つと随分すんなりと謝罪の言葉が出るもんだ、当時は自己満足の謝罪はしないとか決めてずっと行動していたのに。


「また会えて、喋れて良かった」

「もう帰るの?」

「ああ、明日も仕事だからな」


 明日も学校だから、ではなく仕事に変わっているのってなんか寂しい。

 すぐに姉も下りてきて、響と同じようなことを口にしてから二人で出ていった。


「さてと、私もそろそろ戻るよ」

「この裏切り者ー」

「……でも、大切だから」

「分かってるよ、楽しんで!」

「椛姉さんもね、それじゃあ」


 そうだよね、もう居場所が昔とは違うんだ、ここが帰る場所じゃなくて、向こうが帰る場所になってしまっている。


「って、今日に限ってお父さんとお母さんいないんだ」


 ということは酔ったミアと二人きり、部屋に行ってみるとすぅすぅ寝息を立てて寝ている彼女がいた。

 まるでお姫様のように見えて、ゴクリと唾を飲んでしまう。


「ミア」

「……うっ……はぁ……おはよ」

「うん、おはよ、先にお風呂に入ろうよ」

「一緒に?」

「まあ……初めてじゃないし」


 ただ、私はすぐに後悔することとなった。


「え」

「……あ、あんまりジロジロ見ないでほしいんだけど」


 同性なのに目のやり場に困る! なんだこの成長度は! 私なんかほとんど変わらなかったのに!


「椛、洗ってあげる」

「う、うん、よろしく」


 あの時みたいに後ろから抱きついたりしなくて一安心、凄く優しい手付きでやってくれているため働いてきたことも影響して早速眠くなりはじめてしまった。


「好き」

「……うん」

「ずっと待ってた。本当は中学生の時に行こうと思ったけど、もっと成長してから見せたかったの」


 すぐ忘れるとか言っておきながら私も密かに期待してた、ミアは私のことを振り回さなかったし、指摘してくれたことだって間違っていなかったから。

 でもあの後から一切顔すら見せてくれなくなって、寂しい学校生活を送って、だけど約束の年になっても彼女は来なかった、だからもう捨てていたのに唐突に目の前に現れた。


「……別に良かったのに……中学生の時に来てくれたら私は……」

「ごめん……」

「違くてっ、小学生だからという理由で受け入れようとしなくてごめん!」

「私も大嫌いとか言ってごめんなさい」


 ……好きって本当なのかな、もしそうなら私は……発言した通り責任を持って受け入れたい――というか、告白をしたい。


「先に出るけど、少しだけゆっくりしておいて」

「え……あ、うん……」

「そんな顔をしないで、裸は恥ずかしいだけ」


 ええい、年上としてこのままでは駄目だ! それでも百秒数えてからお風呂から出た。


「って、どこに行った?」


 トイレ、台所、リビング、廊下、両親の寝室、チェックしてみてもどこにもいないとなるとあとは私の部屋だろうか。


「ミア!」

「あれ、もう出たの?」

「うん、って寛ぎ過ぎだよ……」


 期待していた私が馬鹿みたいで恥ずかしいじゃん。


「椛、ちょっと来て」

「はいはい」


 転んでいる彼女の側に座ると(ベッドの上)彼女が後ろから抱きついてきた。

 背中に感じる猛烈な柔らかさ、これは誘われていると判断してもいいのでは?


「さっきも言ったけどずっと待ってた」

「うん」

「じゃなくて、返事がほしいんだけど」

「……私も好き」

「それだけ?」


 え……これはまた難しい要求をしてきたぞ、好き以上の言葉ってなんだろうか……。


「……き、奇麗になった」

「それはずっと椛に恋をしていたからだと思う」

「う、嘘だー……どうせ最近まで忘れていたんでしょ?」

「忘れたことなんてないよ、いままで頑張ってきたことを否定してほしくないんだけど」

「ご、ごめん……」


 この年上は駄目だ、後輩にいいようにされてしまっている。

 彼女が小学生の時からそうだった、彼女よりしっかりしていたことがないから違和感もないけど。


「電気消すね」

「え、なぜに?」

「ちょっと良くないことをしたいから、だって両想いなんでしょ?」


 そんな初日に!? 良くないことって抱きしめる以上のものだよね? 未成年にキスでもしちゃったら駄目なんじゃ? バレたら犯罪者、今度こそ警察署行き。

 だけどこれだけ美人だと貰っておかないといけない気もする、それになにより、下手に拒めばこのまま去ってしまう可能性も否めない。


「転んで」

「はい……」


 上半身を倒すと彼女がお腹の上に乗ってきた、重いと言うべきなのに胸とはまた違う柔らかな感触にドクンと心臓が跳ねる。


「小さくなっちゃったよね」

「……ミアが大きくなっただけだよ」

「こうしてさ」


 私の初めてはあっという間に消えてしまった、彼女は微笑を浮かべて「無理やり奪っておけば良かった」と言う。

 こういう時に限って暗い空間にすぐ慣れてしまう私の目はアホだと思う。


「ずっと椛としたかった、だからもう離さない」

「うん……」

「あの先輩と仲良くしないで」

「それは無理かな……」

「言うことを聞けないなら家ではキスをいっぱいするから」

「それでもいいから仲良くさせて、本当にいい先輩なんだから」


 あの会社の良さはそこでもある、先程も言ったけどみんながいい人だから安心して働けている。

 恋人の望みだからって遠ざけることはできない。

 その好きとこの好きは別物だ、分かってほしかった。


「って、嘘だけどね。さすがにそんなことはできない。でも……行く時はちゃんと言ってからにして」

「うん、それは約束する」

「それならいいけど……椛が取られないか不安で……」

「それはこっちのセリフだよ、ミアが取られたら嫌だよ」

「大丈夫、私と椛の仲を邪魔する人間がいたら、ふふふ」

「怖いよ……でも、安心できるかな」

「うん、任せて! 私はちゃんと言ったことを守るから」


 確かにそうだ、すぐ捨てるだろうと考えていたけど実際は違かった、予定よりは遅くなったけど私のところに来てくれた。

 だったら私も約束を守らなければならない。

 年上として、これからは彼女として、彼女にはいつでも笑っていてほしいから。


「寝よっか」

「うん、寝よ」


 この手の温もりを一番に味わえるように。

 彼女の横にいられるよう頑張ろうと私は決めたのだった。

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