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044作品目  作者: Nora_
6/9

06話

「なんで響ちゃんと同じ班なの」

「それはこっちのセリフだ、なんで椛と一緒なんだ」


 あんな後だからかなり気まずい。

 ほぼ全て自分が悪いのだから自業自得とも言えるけど。

 四人がいるわけだけど、なぜか当たり前のように私と彼女が一緒にされたということになる。

 さなちゃんはクラスメイトの親しい子と組んでいた。

 ……まあいい、無難にやっておけばいい。

 提出さえしてしまえば今回のこれは終わる。

 しかもたった一時間、しかも題材がみな同じ。

 だから特に気負わず、無心で集中してやった。


「出してきてやるよ」

「いいよ、なんか捨てそうだもん」

「はあっ? そんなことするわけねえだろっ」


 風邪でもないのだからこれぐらい自分でできる。

 提出したらこの意味のない班活動も終わりを迎えた。


「また響と喧嘩しちゃったの?」

「大丈夫だよ」


 さなちゃんが心配して来てくれたけど逆効果。

 だって睨まれてるからね私、別に会話をしたぐらいで睨まなくていいよねという話だ。

 大体私達は家族だよ? そりゃ一時期は喧嘩していた時もあったけど仲良くて当然なんだ。

 なのにそんな敵意むき出しにされたら困っちゃう。

 ただまあ、さなちゃんは可愛いから牽制していないと落ち着かないんだろうな。


「ごはん食べよ」

「あ、ごめん……他の子に誘われてて」

「はぁ……やっぱり嘘つきはさなちゃんだね」


 慌てる彼女に冗談だよと言って落ち着かせる。

 人気者は大変だ、そもそもなれないけど私はいまのままがいいと思う。

 今回は逃げではなく自分の意思で外で食べることにした。

 前回した時はなんとも曖昧な気持ちになったものの、今回は違う。


「おぉ、いい天気」


 少し上を見れば綺麗な青色が広がっている。

 前を見ても誰もいない、木とか花が見えるだけ。

 なんていい日なんだろう、なんて静かでいい場所なんだろう。


「いただきます」


 自分で作っているから新鮮さはないけど、それでも慣れている味だから落ち着く。

 ちなみに、父のお弁当は楪さんに作ってもらっていた。

 そこは娘の味付けより、これだと決めた人の味付けの方がいいと思ったから。

 決して面倒くさいとかそういうのじゃない、文句を言われたことはないから満足しているんだろう。


「よ」

「それ、美味しいの?」

「おう、購買で買うのも悪くないぞ」


 いつも彼女は焼きそばパンを買っている。

 結構油が濃そうだけど……でも、彼女が食べていると凄く美味しそうに見えた。


「椛はいつも弁当だよな」

「うん、結構大変だけどね、朝寝坊とかしたら終わるし」

「朝は得意だっけか?」

「うーん、お姉ちゃんよりはね」


 姉の質の悪いところはそれでも夜ふかしをやめないこと。

 無理やり起こそうとすると不機嫌になるし、起こさないと不機嫌になるから大変だ。

 まだお弁当を作っている方が楽なまである。


「というかさ、なんで私達は自然に会話しているの?」


 こんな仲のいい友達同士みたいにさ。


「駄目なのか?」

「駄目じゃないけど……」


 私のは勢いみたいなものだけど、嫌いだと言った時の彼女は凄く暗い顔をしていた。

 なのにあれからも心配してくれたりしているから、勘違いしそうになってしまう。

 そういう勘違いは恥ずかしいからしたくない、態度とは裏腹にすぐに揺れるからね私は。

 嫌いなら近づかなければいい、離れてくれれば自分から近づいたりはしないから。


「なあ椛、あたし達はこれまで何度も喧嘩をしてきたよな」

「うん」

「で、嫌いって言われたのは別に初めてじゃない、喧嘩をした時は必ず言われてたからな」


 それってやっぱり期待しているからこそだよね。

 この子は私のためになにかしてくれるってその都度信じて、でも動いてくれなくて勝手に失望する。

 だけど単純だから仲直りする度にまた信じて、の繰り返しだ。


「なんで急にその話?」

「あー、つまりさ、別にあたし達にとっては普通だろって言いたかったんだ」


 その普通はだいぶおかしい。

 片方に我慢を強いているということだ、それは対等な関係とは言えない。

 優しくもないけど屑というわけでもないから、そろそろ解放してあげるべきなのでは?


「ごめん」

「はは、先に謝るのっていつも椛だよな」

「これまで我慢させてごめん。でも、もういいよ、なんだかんだでさなちゃんが話しかけてきてくれるからさ、このまま終わりでいいよ」


 ま、結局のところほとんど一緒にはいてくれないけれども。

 ただ〇ではないから、そこを馬鹿で愚かな私は信じてしまうわけだ。

 やっぱり無理だよなあ、信じない、期待しないなんてさ。


「は、はぁ? な、なに言ってるんだよ」

「え、だから私なりに響ちゃんに無理させたくないわけ、自分の快適な生活のために他人に我慢してほしくないわけ。響ちゃんは私のことが嫌いなんでしょ? だったら問題なんてないわけでしょ?」


 今度は勢いなんかじゃない、間違いなく彼女のためを考えて発言をしている。

 そして恐らく彼女の望みでもあったはずだ、いまこそ解放される時。


「私は響ちゃんのことを思って言っているんだよ」

「それはなにもあたしのためになってないぞ」

「なんで?」

「なんでって、結局それは全部お前が勝手に考えていることだろ。憶測ってやつだ、なのにまるであたしが考えていることみたいに言われても困るんだよ」


 だってこの先も私は変わらない。

 期待したくないとか言って期待してしまうけど、心の底では期待したくないって考えは変わらない。

 私から離れないということは、その嫌いな私をずっと間近から直視する羽目になるということだ。

 そんな無駄なことをする必要はないだろう、こっちと違って上手く対応ができるんだから。

 私との関係がなくなったってなにも残念なことはない、寧ろストレスから解放されるというのに。


「ごちそうさまでした。ま、考えてみてよ、響ちゃんの選択を受け入れるからさ」

「待て、考える必要なんかない、あたしはお前から離れないぞ」

「物好きだね、響ちゃんがそうと決めたなら私は尊重するけど」


 みんなあれだな、物好きすぎる。

 それに向き合おうとしないのは失礼にあたるかもしれない。


「てかさ、よく分かったねってここって」

「そりゃ分かるよ」


 なんで分かるのか。

 仮に彼女がここで一人で食べていても絶対に気づけないぞ私は。


「お前がいるところはすぐ分かる、だから基本的にいつもいるだろ?」


 そういえば公園とかでもすぐ来たっけ。

 GPSで管理されてるとか? もしそうだったら努力する方向を間違えているけど。

 ま、嫌われて悪口を言ってくるよりはよっぽどいいと片付けたのだった。




「帰ろ」

「あれ、お友達とはいいの?」


 彼女を後ろを見てみると、いつもこちらを見ている女の子がいる。

 無表情でなにを考えているのか分からない、今朝と違って敵意むき出しではないのがまだ救いか。

 こくりと頷いたのを見て大人しく一緒に帰ることにした。

 自分は他の子を優先しているくせに私の付き合いが悪いと嫉妬するからというのもあった。


「今日はお買い物いいの?」

「うん、明日安くなるから明日行ってくるよ」

「私も手伝う」

「いいよ、他の子を優先してあげて」


 彼女にとっては周りの子の方が優先順位が高いということ。

 なのに邪魔をするわけにはいかない、それに手伝ってもらうとお礼をしなければならないから大変だ。

 だから基本的に一人でやるのを好む、その方が気楽というのも大きい。


「……さなちゃん」

「あ、しの」


 やって来たのは教室で睨んできたり無表情だったり忙しい女の子。


「朝倉さんはどこかに行ってください」

「私も朝倉だけど」

「さなちゃんは別だから」


 しょうがない、本人がこう言っているんだから従わないと。

 私だってね、積極的に悪く言われたいわけじゃないんだ。

 トラブルに巻き込まれるのはごめんだ、まあトラブルってわけじゃないんだろうけど。


「ごめん……」

「気にしないで、先に帰っているね」

「うん」


 それで家に向かって歩いていると後ろから衝撃が。

 なんとか踏みとどまり転ぶのは耐えたけど……いや、よく耐えられたな。


「もう、危ないでしょ」

「大声を出したら驚いちゃうから」

「考えてくれてありがと。でもね、これは正直危ないよ」


 体幹が強いわけではないし、寧ろ後ろからの物理攻撃の方が恐ろしい。

 見えないところからの衝撃というのは心臓がキュッとなるものだから。


「いま終わったの?」

「ううん、ここで椛を待っていたの」


 そんな可愛らしい笑みを浮かべやがって……ミアって年上キラーだ。

 しかも今日の服はなんかドレスみたい、フリフリしていて可愛らしい彼女によく似合っている。

 おまけにランドセルを背負ったままだから悪いことをしているみたいでドキドキソワソワ。


「私を待っていたって言ったけど、なにか用事でもあったの?」

「椛の家で宿題する」

「いいよ、おいで」

「うん」


 わ、私は変態というわけではないからまだ私の家に来てもらった方が安心できる。

 変な人に頼んで怖い目に遭ってほしくないからね、これはしょうがないことだろう。


「はい、どうぞ」

「ありがと」


 うーむ、私はその間どうしようかという問題が浮上。

 真面目にやっているところに喋りかけて邪魔をするわけにもいかないから……。


「あ、椛は横に座ってほしいんだけど」

「いいよー」


 ~だけどという喋り方は健在。

 でも、真横にいたりするといい匂いがしてくるからヤバい。

 ついついそのサラサラ銀色ヘアーを撫でたくなる。


「って、本当に小学六年生なんだね」

「うそは言う必要ないでしょ?」

「うん、だけどしっかりしてるからさ」


 その大人力は見習いたい。


「宿題が終わったらごほうびをちょうだい」

「なにがいい? またオムライス?」

「私をだきしめてほしい」

「いいよ……とは言えないかな、そういうことを気軽に言っちゃ駄目だよ」


 あの時の私はどうかしていたんだ、小学六年生を抱きしめるとか同性でも不味い。

 しかも思い切り外でやっていた上にさなちゃんにだって見つかっていた。

 あれがもしおまわりさんだったら? 間違いなく社会的に死んじゃうね。


「私、椛が好き」

「怒鳴ったのに?」

「あれは私が余計なことを言った……からだと思うけど」

「違うよ、ミアが言っていたのは全部正しかった」


 効率的というか普通の指摘、それなのに素直に受け入れられなかったのはこれまでやってきたものを否定されたくなかったからだ。

 柔軟性がまるでなかった、それでミアを泣かせそうになってしまったのだ。

 年上に怒られたら普通は怖がって近づかなくなる――少なくとも私ならそう。

 小学生時代の自分からすれば高校生なんて凄く大人で、尊敬と同時に怖いと感じる時もあったからミアはすごい。


「とりあえず宿題頑張る、椛はその間に考えておいて」

「か、考えるってなにを?」

「ごほうびをあげるか、あげないか」


 おい十六歳、十二歳の少女の唇を見てドキドキしているんじゃない。

 それにキスを求められているわけではないじゃないか!

 その後は恐らく変な顔で悩む羽目になった。

 もし断ったばっかりに他の子に求めるようになったらと考えると……それはそれで複雑な気がする。

 でも、どうせするのなら同級生とかせめて小学生とするのが正しいかもしれない。

 私が中学生ならともかくとして、一応高校生だから離れすぎているようなそんな気もするわけで。


「終わったけど」

「お、お疲れ様」


 というか、なに勝手に恋愛的な意味だと勘違いしているの自分は。

 ここは自然に抱きしめてお姉ちゃんとして妹を褒めておけばいいんだ。


「よしよし、よく頑張ったね」

「……うん」


 その絶妙な間がある意味ドキドキしてしまう。

 十三歳未満に手を出したら終わってしまうけどこれは姉妹のスキンシップ、だから大丈夫!


「私の名前を呼んでからほめてほしい、けど」

「ミア、よく頑張ったね、お姉ちゃんはこんなにいい妹がいて嬉しいよ!」


 そう、私は彼女のお姉ちゃん。

 もう一人の妹は他の子といるから寂しい、故にもう一人の妹に甘えてしまうのはおかしくない。


「も、椛ちゃん……?」

「あ゛」


 まあでも程々にしておけよと神様から教えられているような気がした。

 もちろん既に遅い、こちらを見ている楪さんの顔は引きつっていた。

 その間も私は銀髪娘さんを抱きしめたままで、どんどんとヤバさが上がっていく。


「ただいま……え?」


 そこにさなちゃんも合流。

 私は大人しく両手を上げて降参のポーズ。


「……これは私の意思でしたの」


 さすがに小学生のせいにはできない。

 結局のところ頼まれたのは本当だけどすると選択したのは自分だから。

 最後にまだ年上として屑ではなくなるよう対策――って、別に付き合っているわけではないのになにを言い訳しているんだか。


「椛、私帰る」

「送ろうか?」

「いい、大丈夫」


 あぅ……逃げ切ることに失敗したということだ。

 まあ終わりみたいなものだしと諦め、静かに床に座ったのだった。

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