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044作品目  作者: Nora_
5/9

05話

 当然のように翌日は休んだ。

 もう色々と大変で、こんなことなら風邪なんか引きたくないって思ったほど。

 幸いだったのはそのまま連休に入れたこと、問題だったのはミアがまた家に来たことだ。

 恐らく私と彼女の相性は悪い、と言うよりも本性を引き出されてしまうというのが正しいだろうか。


「公園に行ってくる……」

「え、ま、まだ、治ってないでしょ?」

「治ったよ、元気元気」


 あの子といたくない、向こうもまたそうだろうから気にする必要もない、私にできることはなるべく一緒にいないで相手を不快にさせないことだけ。


「おぉ、ベンチが乾いているじゃん」


 あの時はすまなかったと謝罪をし、それからゆっくりと座らせてもらった。

 日曜日の真昼間だというのに利用している人間が全くいない、そう考えたら逃げでここに来ているのだとしてもベンチ君からすれば助かるんじゃないだろうか。


「椛、お前家にいたくないのか?」

「え、なんでお父さんがいるの?」

「楪に聞いて出てきた、連れ戻してきてくれって」


 そんな犯罪者じゃないんだから……それか珍獣扱い? 一応人間なんだけどな。


「日曜日のお昼に公園に行くのは悪いことなの?」

「そうじゃねえよ。たださ、体調が悪いなら――」

「元気だよ私は」


 あれ以降、ずっと父の様子はこんな感じだ、気遣ってあくまで遠回しに言うのを心がけている。

 怒鳴るとまた意固地になって体調を悪くしてしまうからだと考えているのだろうか。


「日曜日なんだしさ、楪さんとさなちゃんを連れてどこかに行ってあげたら?」

「体調が悪くないなら行こうぜ」

「ごめん、いまさなちゃんと喧嘩中なんだ」

「……上手くいってないのか?」

「あ、変なことを考えないでよ? 私が子どもなだけだよ。いいから帰って、たまには一人でいたいの」


 いいじゃんか、元母が相手のときみたいな対応をしておけば、どんだけ冷たくされようと生活できるだけの自由をくれれば我慢できる。

 寧ろ気遣われ、言いたいことも言えなくてもどかしい思いをしてまで来てほしくない。


「椛……」


 父が去り、今度はなんだと見てみたら小さい銀髪娘さんがそこに立っていた。

 手招きしてこちらに来るよう促すと、若干躊躇っていたようだったけど来てくれた。


「ごめんね、私が子どものせいで怖い思いをさせて」


 でもいいよね、逆にさなちゃんや姉と仲良くできたんだから。

 小学生にとって高校生とはいえ、大きいお友達というのは貴重だろう。

 そして見ているだけでも分かっていたことだけど、彼女の髪はサラサラとしていて手触りがとても良かった。


「ミアの方がよっぽど大人だよ」

「……家に帰ってきて、ほしいんだけど」

「あ、ごめんそれは無理、いまは一人でいたいんだ」

「……無理って、椛の家なんだけど」


 それっ、なのになにを遠慮しているんだって自分でもツッコミたくなるくらい。


「ミア、外でなら仲良くできるよ、まあ……信じられないかもしれないけど」

「……椛がいればいい、けど」


 そのスタイルは健在なんだ、なんか可愛い、でも頻繁に来るのは問題があるのだろうか。


「ミア、なんか困ったこととかない? 家が嫌だとか」

「それは椛の方でしょ?」

「そう……なんだよねえ、さなちゃんと喧嘩しちゃってさ」


 悪口なんかよりも嫌いって言われるのが一番ダメージがでかい。


「仲直りした方がいいと思うけど」

「うん、それは分かっているんだけどね」


 一方的な謝罪をしたところで許してはくれないだろう、それにもう見限られたかもしれない、私はあの子のためを考えて行動していたんだけど相手の考えることまでコントロールできるわけではないからその可能性は普通にある。


「私が協力をしてあげてもいいけど?」

「小学生の女の子に仲介役を頼むの? まあ、私なんて威厳もなにもないからね」

「……別にそんなことを思っていないけど」

「いいっていいって。そうだねえ、頼もうかな、天使みたいなミアに」


 この子はなにも悪いことをしていない、それどころかどうすれば効率的かを教えてくれたような子だ、あ、あとスカートの件もそうか。

 なのに怒鳴って正直自己嫌悪、病み上がりだからこそあんまり考えないようにするけどさ。


「私は人間だけど」

「だって綺麗じゃん、銀髪とか青色の瞳とか」

「……そんなことを言われても困るんだけど」

「口説いてるわけじゃないからね? 純粋に思ったことを口にしているだけだけど」


 ちょっとミアの真似。

 この子の方が大人だからいいところ、可愛いところは真似しなければならない。


「真似しないでほしいんけど」

「ごめんなんだけど」

「むぅ……」

「ごめんってば、冗談だよ冗談」


 ……これも結局ミアが小学生だからできるからかいみたいなものだ、相手が響ちゃんやさなちゃんだったら絶対に無理、なんだかんだで彼女のことを下に扱っているってことだよね。


「ごめんなさい」

「え……そ、そんなに改まって謝らなくてもいいけど」

「いや……ミアに悪いことしかしてないから」

「き、気にしなくていいよ」


 そう言われても最低なことしかしてないし……一緒にいられる時に謝っておかないとできなくなるかもしれない。

 私が母親だったらまず間違いなくこんな女とはいさせないからね。


「でもさ、今度からは知らない人の家に着いて行ったら駄目だよ? 危ない人かもしれないんだからさ」

「椛のことは知っていたから逆に安心できた」


 私のことを知っていたって……響ちゃんのお友達かなにか? そうじゃなければ私の情報を吐く人なんかいない――あ、仁美派、さな派の人達なら吐くかも。

 それか外で悪口を言っているところに出くわして私の名前を覚えたとか?


「私は椛のことを気に入っている」

「初対面の時もそう言ってくれたよね、嬉しいけどなんで?」

「ん? 気に入っているから気に入っているだけだけど」


 だからなんで気に入っているのかを聞いているんだけど……まあ嫌いとか言われても嫌だからいいか。


「ミアの方が大人だから聞いてほしいんだけどさ」

「うん、私は小学生だけどね」

「うん。でね? 私は他人を信用して期待するのが嫌なの、でも、どうしたって子どもで弱いからしちゃうんだよ、こうして来てくれたりすると凄くね」

「期待してくれているの? 私は椛になにをしてあげられるの?」

「いてくれるだけでありがたいよ、いまこうして普通にお話しできるのが嬉しいもん」


 小学生に依存するやべーやつが私です。

 さなちゃんや姉が見たら呆れるだろうな、さなちゃんは特にそうかも。

 一緒にいてくれなくなったのも期待通りではなかったからだろう。

 最初は誰だって良く見えるものだ、ただ初対面で見極めろというのも難しい話ではある。


「椛は……私のことが嫌なんじゃないの?」

「なんで? ああ、家から逃げてたからか。そうじゃないよ、小学生の女の子にマジギレして謝らせて自分はなにもせずに出てくるしかできなかったから恥ずかしかっただけ」

「えっと、いま言ったのは私じゃないけど」

「え? あ、え?」


 いつの間にかさなちゃんが彼女の横に立っていた。

 父と出かけているわけではなかったようだ、なにをやっているんだかという話。


「椛、もう治ったんでしょ?」

「う、うん、土曜日はまるまる寝たからね」


 なんかあの時、響ちゃんもやけに心配してくれた。

 嫌いな相手の心配をするとか、お人好しすぎるけど。


「私、隠してほしくない。義理の妹だから言ってくれないの?」

「え、お姉ちゃんにも言っていなかったけど」

「それでも言ってほしい……信用できないって言うなら信用してもらえるように頑張るから」

「信用はしているよ? だけど期待するのが嫌なの。まあ、それでもしちゃうんだけどさ」


 だって勝手に期待して叶わなかったら文句を言ってしまったりするから。

 実際にそれを響ちゃんにしちゃったわけだ、だからなるべくはなくしたいと考えている。


「期待していいよ」

「駄目だよ……だって私はワガママだからさ、勝手に期待をして勝手に失望したりするのはもうしたくないんだよ」


 そんな失礼なことってない。

 これは相手のためでもあるんだ、大切な人であれば尚更のこと。


「期待したっていいでしょ」

「そりゃ上手く自分の感情をコントロールできる子だったらね」

「私だって期待してるよ、椛に一緒にいてほしいって」

「ありがたいけど、そんなのはただの勘違いだよ」


 そうやって言ってくれていたのに一緒にいてくれなくなったのがさなちゃんだ、ミアのこの考えだって一時のものに違いない。


「も、もも、椛のばかあ!」


 うっ、このパターンは嫌な予感が、小学生からも再び嫌いだと言われたら本当に引きこもるよ……。


「そんなの放っておきなさい」

「仁美……」

「あのね、意固地になっている時になにかを言ったところで無駄よ。椛は頑固だもの、決して考えを変えようとはしないと思うわ」


 ところが残念、あっという間に意見を変えたりするんだよなあ……意思が弱いからさあ。

 というかさ、どうしてこうもここに人が集まるんだろう、それもピンポイントでさ、こんなことありえる?


「だよな、椛って頑固だよな」


 揃っちゃったよ……これはもう誰かに呼ばれていなければおかしいレベル。


「椛ちゃんはなんでも自分でやろうとしすぎてそういうところは駄目だと思う」

「頼るって結構難しいことだよな」


 うん、これはもう偶然レベルじゃない。

 こんな寂れた公園にこの人数で集まってなにをするのという話だ。

 みんなも実は危惧していたとか? 利用しておかないと潰されてしまうとかそういうの。


「椛……」

「うん?」


 楪さん以外椛って呼ぶから紛らわしいけど、いま呼んできたのはミア。


「二人でお散歩がしたい」

「いいよー」


 みんなに説明して二人でお散歩に。

 手を握ってきたから握り返してただただ適当にゆっくりと移動をする。


「実はあの日、あとをつけていたの」

「え、そうだったんだ」

「あと、パンツが見えているって言ったのは嘘」


 い、いや、それは嘘じゃなかった気が……、だって手で触れたら実際にそうなっていたわけだし。


「私の家は母子家庭なの」

「私の家は最近まで父子家庭だったよ」

「うん、それで優しそうな椛を頼ったというわけだけど……」


 小学生だから仕方がないのかもしれないけど、残念ながら優しくなんかなかったわけだ、怒鳴るし、逃げるし、風邪を引いたし、逃げるしでこれでもまだ優しいと言ってくれるのなら、それでも嬉しさなんかは出てこないから考え方を改めた方がいいと言わせてもらう。


「あとこれね、地毛なんだよ」

「うん」

「瞳の色もそう」

「綺麗だね」

「…………」


 ありゃ……別に口説いているわけじゃないんだけど……。

 あ、でも小学生としてはこれぐらいの対応の方が安心するか。

 知らない人にも着いて行ってしまうくらいだもんなあ、オムライスまで食べちゃうし。

 結局あの時オムライスを食べられなかったんだよな、チンケなプライドのせいで変なことになった。

 ……今日帰ったら自分で作ろう、外食にだって行けなかったから不公平感が否めないから。

 まあ、その全てを引き起こしたのは自分だから責めることはしないけど。


「……誰にでもそう言っているんでしょ?」

「そ、そんな……なんかたらしみたいに言われても」

「だって椛に興味がある人が多いから」

「いや、表面上だけだよ」


 こちとらまだ恋愛経験皆無ですよ、下手をすればこのままずっと未体験のまま終わることもあるかもしれない。


「私のお姉ちゃんになってほしいんだけど」

「お姉ちゃんに? いいよ」


 これで妹が二人に、しかも二人とも一応求めてくれている、ということならちょっと嬉しい。


「抱きしめて」

「ぎゅー」


 妹系少女を見ると抱きしめたくなる癖、直した方がいいかもしれなかった。

 仮に彼女が求めてくれているのだとしても、年の差をしっかり考えておかないと刑務所行きだ。


「でも、さなに言い訳をして」

「え? あれ、またいるんだ」


 電柱の後ろに隠れているつもりなんだろうけど、残念ながら右端からお尻が見えちゃっている。


「さなちゃんこっちに来て」

「むぅ……小さければ誰でもいいんだ」


 その言い方だと自分まで小さくなっちゃうけどいいのだろうか、分かりやすく頬を膨らませていて正直に言って可愛いんだけどさ。


「新しく妹ができたよ」

「妹は私だけで十分なのに」


 いやまあ本気にしているわけじゃないからね、もちろん言わないけどさ。

 期待をしてしまうことはあまりしたくないけど求められるのは嫌いじゃない、だってなにも興味を持たれないよりは遥かにマシだからだ。


「もうこのまま帰るね、家は近くだから大丈夫」

「家まで送るよ?」

「大丈夫、椛はさなの相手をしてあげて。じゃあね」


 できた小学生だなミアって、でも、高校生組はすぐに妬いたりして大人げない。


「椛……のばか」

「ご、ごめん、でも断る意味もないでしょ?」

「わ、私がいればいいでしょ」

「学校では相手をしてくれないじゃん……私がいればいいって言ってくれていたのに」


 全部自分で蒔いたタネなんですけどね。

 だからこそ猛烈に後悔しているんだ、でもやっぱりチクっと言いたくなってしまう。


「これからは絶対にいる、どこかに行ってって言っても離れない」

「嘘つき、最近はみんなといるのも好きなんでしょ?」

「椛といることに比べれば大したことない」

「無理しないの。はい、よしよし」


 それでも隣の席で気にかけてくれるから助かっているよ、響ちゃんとはあんな感じだから彼女と仲直りっぽいことができて良かった。


「抱きしめて」

「え……う、うん」

「む、なんで私にはそんな反応なの?」


 いやだって小学生の子を抱きしめるのとは意味が違ってきてしまう。

 これじゃあまるで身内に手を出す駄目な人間だ。


「わ、分かった、文句を言わないでよ?」

「うん」


 あ、この子ってミアみたいに体温が高いんだなというのが感想だ、あと柔らかい、いい匂いがする、このままずっと――って考えてしまった。


「お母さんに抱きしめられるのと同じくらい好き」

「そ、そっか」

「ん? 顔が赤いよ?」


 そりゃそうだ、やっぱりまだまだ同級生の女の子という印象の方が強い。

 距離感から家族ではなく、そういう意味で仲良くしている子に見えてくる。

 でも違うぞ、恋心じゃないぞ! と自分に言い聞かせてなんとか片付けたのだった。

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