第〇話 ④ 「生物的異常」
数週間後。
非戦闘員のサポーターは二つ上のランクまで。という制限を無視できる。 味を占めたトオルは上級ハンターに寄生し、B級難度の任務に参加していた。
「おい ぼうっとしてねえで行くぞ!」
「は、はいリーダー!」
今回は野営をしつつ、最大三日以内に山のどこかに潜む謎の魔物を討伐する任務。分かっていない事が多く難度は高めに設定されている。チームは即席で自分を含め六人。リーダーである槍使いのタルコフ、大盾使い、弓使い、魔法使いが二人。 リーダーとは過去に一度チームを組んだ事があるので…
「運べ」
身長は俺より低い筈なのに、目の前に来ると自分より一回り二回り大きく感じるので不思議だ。階級差だろうか。
余りに目立つ立派なカイゼル髭を揺らしながらタルコフが既に大荷物のトオルに渡したのは、彼自身の得物である大槍。
急に戦いになるの考えてないの?と突っ込みを入れたくなるけどしない。何様だって感じだし、前もこうだったから
左手には槍、右手にも槍。面倒な事にタルコフは双剣ならぬ双槍使いだ。そして背中には巨大なバックパック。最低限、身を守れるようにと短剣を腰に差していたが、使えそうにない。
しまった…槍を持ち運ぶ為のベルトみたいなの用意しとけば………
という後悔は、もう遅い
ただ、山に入るまでは馬車での移動の為、字面で見るほど苦では無かった。
「大変ですね、降りたら槍くらい持ちましょうか」
馬車に揺られ、延々続く緑の景色を眺めていると弓使いの男から声を掛けられた。
「いえ、良いですよ。仕事なので」
「その心意気、尊敬します…実は私。戦うのが怖くて元々サポーターだったんですよ。嫌になって辞めて、結局今はこの通りですが」
柔らかな愛想笑いを浮かべ、弓使いは際に立て掛けられた自分の武器を見つめる。
「そうでしたか」
選択肢があるって良いね。皮肉ってるのか?
悪気はない事は分かるが、こう毒付かないとやっていられない。
「おいサポーター! 腹減った」
「はいリーダー」
すみません。と弓使いに一瞥し、バックパックから取り出したのは果物だ。
「雑だな。切れ」
「はいリーダー」
ヒソヒソと他のハンターからおかしく言われているのが聞こえてきた。しかし、あくまでもお金の為だ。顔に出さないように振る舞う。
「しかし、稼げそうだったから受けたが三日も山篭りなんて絶対嫌だな」
「そうならない様に、索敵魔法を使える魔法使いを集めたのでしょう。任せてください」
「うむ」
*
「見つかりました。しかし…」
「おお! しかし?」
片方の魔法使いの報告に喜色を示すタルコフだったが、不穏な物言いが気にかかり詳細を聞く
「相手は巨大な狼型の魔物なのですが、今は外にいるので、邂逅して不利ですし仮に追い詰めても逃げられてしまうかも。夜、巣に戻った所を仕留める方が」
「ふん…囮役を立てれば良いだろ」
鼻を鳴らしてタルコフが指した先に居たのはトオルだった。
「囮を立て、意識が向いている所を攻撃だ」
「それならば彼ではなく自分の仕事では?」
「大盾使い…お前は防御力はあるだろうが、誘導は出来るのか?」
「サポーターが術式を組んだ魔法使いや俺らの所に誘導し、サポーターは大盾使いと交代だ。そして一斉に火力をぶち込んでやれば良い」
横柄な態度ではあるがタルコフはハンターとしては優秀で、チームの構成を考えてもやや合理的な戦法であった。
「死んでも連れてこい」
「頑張ってみます」
やるしか無い。汗を滲ませ彼は了承する。
サポーターに拒否権は無い。こういった囮もサポーターの仕事の内だ。自分のランクに合わない魔物が相手であっても それが承知の上で来ているのだから。
*
上空に放たれた合図を頼りに、餌役として入り組んだ山の中を走りまわる。 坂を滑り、木々を掻き分け、ボロボロになりながらも 巨大な狼を魔法使い達のいる崖へと誘い込んだ。
この辺りは緑が無く、岩肌が露出しており足場は少々悪く荒れているが、それを顧みても 今回の場合はメリットの方が大きいらしい。具体的には山火事の防止、後衛職が多い事、ひらけている事が挙げられる。タルコフ談。
と、もう既に攻撃準備が完了している様子だ。
巻き込まれないように力を振り絞って逃げる………
………………………間に合わない!
魔法と弓矢による一斉攻撃が放たれる。大きな爆音と共に地響きが一体を支配した。その勢いに舞い上げられた爆風と土埃が突風の様に襲いかかり、トオルの身体を拐おうと……!
「う……あぁああああああっ!!!!!!!!」
体幹の奮闘は全く意味を成さない。一秒どころかコンマも耐えられず、火と砂の猛風に吹き飛ばされる。
「はぁ…………はぁ…………… グゥ」
「ご苦労。 よーし!盾使い 狼を引きつけろ!!」
吹き飛ばされ 両手を出して飛び込んだ先にいたのは やけにご機嫌なタルコフ。倒れたトオルの背中を叩くと共に労いの一言が掛けられた。タルコフはそのまま両手に抱えた槍を構え、灰煙を物ともせず狼の元へと特攻していく。
「ぅ……………」
トオルは今にも意識を失いそうだった。全身火傷と外傷だらけで見るに耐えない状態だ。
「しぬ"ぅ………っ……」
呼吸すら辛い。
もう少し離れるの…待ってって……
…
なんとか死の淵から生還した。片方の魔法使いが高尚な方で、かなりレベルの高い回復魔法とやらを使ってもらえたのが幸いした。何度頭を下げても感謝しきれない。
「ふん、ギキブリ並みのしぶとさだな」
「なんか嫌われてそうですねその生物」
「知らんのか一般常識の無い奴め。薄暗くジメジメとした場所を好むすばしっこい奴だ」
いえ、多分知ってます。 アレやないか。その特徴は完全にゴキやがな。
「えーと、元々の報酬金が☓☓だから、○○と合わせて……」
本気で死にかけたにも関わらず、この碁に及んで彼は報酬の分け前を想像する。
美味しすぎる。一日でこんだけ稼げたら月に数回の任務だとしても贅沢に暮らせる!さすがB級!!!!!!
彼の危険や痛み、魔物に対する恐怖といった感覚は目先の利益に眩み、麻痺どころか機能すらをも停止していった。




