第〇話 ② 「夢じゃない」
コンコン
ノック…?誰だろう
「はい」
返事をすると扉が徐々に徐々に開き始めた。先程の大男だろうか。
と、身構えるが扉が開いても中々姿が見えて来ない。
「体調、いかがですか?」
可愛らしい声が聞こえた。
そこに居たのは昼間に声を掛け逃げられてしまった金髪の耳長少年?だった
……こんな雰囲気だっけ。
「え、えぇ。この度は助かりました」
ベッドから降り、目線を合わせ眼前の小人に頭を下げる。
「私は何もしてないですよ。見ての通り貴方を運ぶなんてできません。父が肩に担いできたのです」
舌足らずな、けれど丁寧な口調を紡ぎながら少年は笑う。
それにしても、父………担いで………?
「そうでしたか、よければご案内頂けますか?」
…
「あ〜…」
自分がいた部屋は二階で一階は酒場になっていた。天井が高く、その広々とした空間には魑魅魍魎が跳梁跋扈していた。
「妖と人の共存」
「?」
「い…いえ! 独り言です気にしないで」
「そうですか。あ、お水ですがどうぞ」
「どうも」
ついおかしな事を言ってしまった。変人じゃないか。何言ってんだバカ
しかし実際、目の前で一緒にテーブルを囲っている耳の長い少年を始め
二足歩行の獣、翼を生やした者、鱗で覆われた頭を持つ者など様々だ。そして此の場所には人間も少なからず含まれている。
彼らは人種(?)を問わず飲み交わし楽しそうにしていた。
「よう!変わった見た目の人間さん」
「ははは〜…こんばんは」
服装に興味を持たれたのか 現地の人から声を掛けられた。どう反応すればいいのか分からない。
相手は蛇の頭を持ったヒトガタの何かだ。ハードロックな服装の彼はシュルシュルと舌を出し入れしている。
俺の知る蛇と同じならそれは 匂いを嗅ぐ動作だろうか。
「座っていいかい?」
問う蛇男の方へと頭を向けると、彼は既に空いていた二席の内の片方に着席していた。
「あぁハイ!!勿論…」
まあ、そもそも恐ろしいので断れる筈が無い……。悪い人では無いと願いたい。
ここで、一つ気がかりが生まれる。 生憎ここの常識は知らない。下手な会話は出来ない。でも、気まずいのもそれはそれで… 困った彼は耳長少年の方に目を向ける。
「では父を呼びますので席を外しますね」
「おう嬢ちゃん。ん?父?」
ちがーーーーーーう!!!いや違わないしその為に来たんだけど…
喉を潤す為、用意された水を口にしながら冷や汗を垂らしていると…
「あんた、ここのオーナーに用があるのか?」
「オーナー?」
蛇男は あぁ。と相槌を打ち、軽く周りを見渡すと 今度は内緒話をする様に手を口の横に立てた。
仕草は本当に人間みたいだ。
「…知らねーか?」
トオルは蛇男の問いに対して頷く
「人間の癖してな…」
「はい…」
「とんでもない巨体の、筋肉ハゲダルマゴリラシェフの事さ」
「ハゲて無いっての」
「ぅげ」
蛇男の背後に現れたのは…筋肉ハゲダルマゴリラシェフと呼ばれた 意識を失う直前に話し掛けてきた大男だった。 片手には料理、首から提げられたエプロンにはウサギの可愛らしいワッペンが縫い付けられている。
「お、さっきは急に噴水に倒れ込んだから驚いたよ。黒いの」
「お仕事中すみません。先程はご迷惑をお掛けして…ありがとうございました。これも」
体格差から来る圧力にたじろぎながらも耐え、トオルが手を当て表したのは応急処置と思わしき頭に巻かれた包帯。
「あぁ、それはこの子達がやってくれたんだよ。 挨拶できるか。ララ、ルル」
ララ、ルルと呼ばれて現れたのは金髪の少年と金髪の少年、いや 少女だった。
少年は第一コンタクトを取ろうと不慣れな英語で話し掛けた方。少女は部屋から此処まで案内してくれた方だろう。
「ララです」
「ルルです〜。体調、いかがですか?」
「双子の弟のララが最初、広場の噴水に様子のおかしい人がいると教えてくれてな」
「そうでしたか…」
ひょこっと頭を出し丁寧に挨拶をしてくれたのでそれに応えるべく椅子を降り、これまで通りに目線を合わせお礼を済ませた。
上手く笑顔は作れただろうか。
「挨拶遅れました、自分は天羽 透です。………ファーストネームがトオルでラストネームがアモウです」
今度はヘビ男と大男にも聞こえる様立ち上がり自己紹介をする。
「そーか。俺は半蛇のスナッグ」
「俺は料理人のファブニロ。 大したもんじゃないが、食べていきなさい」
ファブニロは持っていた料理を目の前に出した。スープだ。野菜と謎の肉が盛り込まれている。
「お金…」
ハッと気付き、トオルは手探りでポケットを確認するが財布は無い。学生鞄もこの謎の世界に来た時には既に持っていなかった。
「気にするな。スナッグの奢りだ」
「ええー?」
「儲かってるだろ。ハンター」
「まあな!遠慮せず食いな」
「本当にありがとうございます」
泣く場面でもない筈なのに、目頭が熱くなりながらスープを食す。
情けないが、美味しかった。
夢ならどれほど良かったか。人間の温かみを目の当たりにすると一層現実味を帯びてきた。いやもう 寧ろ現実としか。夢なんて言う方が無理がある。 ……だとしたら?
だとしたら…?
だと したら。
元の世界の家族や友人は?もう会う事も叶わない?
それに何も分からない何も持たないのにどうやって食い繋いで生きていけばいい?
…
「じゃ、俺は仕事に戻るから」
「……あの! 行く宛が無くて、ここで、働かせてもらえませんか」
厨房に戻ろうとするファブニロを引き留める
「ぁ〜…悪いが…今新入りの教育をする余裕は……。料理は出来るか?ホールは足りているんだ」
料理スキル
無い。温室育ちで苦労を知らず生きてきた事が仇になってしまった。
「困ってるなら俺が仕事の仲介してやれるぞ」
無理言って働かせてもらうべきか、けど図々しい?…いやそんなこと言ってる場合じゃないか……と悩んでいると、半蛇男が手を差し伸べてくれた。
「本当ですか?」
「あぁ儲かるぞ。見知らぬ人間に飯の一つや二つ、十つ奢るくらいじゃ 財布のヒモは固くならねえお仕事だ」
「お、おい」
「心配すんなシェフ。 今日はもう遅い、詳しい話はまた明日。迎えに来るぜ」
流されるままに頷いた。
*
「この件は近い内に必ずお礼に来ます」
「気にするな」
シェフの厚意で一泊だけさせてもらった翌日 トオルはスナッグに連れられ、街並みに相応しく、いや一際絢爛さが目立つ大きな建物へと連れられた。
「ギルドさ。どうだ。儲かるってのは嘘じゃなさそうだろ。」
それは確かにそうなのだが、生活さえ出来れば良いのに…。大男ファブニロがスナッグを"ハンター" と呼んでいた。動物を狩って生活しているのだろう。俺に出来る物だろうか。しかし話を聞くだけでも… ここでも悩む。
「じゃあこうだ。昨夜奢られた礼としてお前はここに入る。 ほら」
躊躇い、グズグズと思考回路を張り巡らせるがそれは意味を為す事は無く、容易に言いくるめられてしまう。
「おじゃまします。」
スナッグの後ろを付いて建物の中へ中へと進んで行く。やがて、到着したのは市役所の様な…受付があり、待合の様な椅子があり、人が大勢といるが酒場とは違い静かで 皆、武装していて近寄りがたい雰囲気を放っている人ばかりだ。
「ここで適当にして待っててくれ」
そう残してスナッグはカウンター受付の女性の元へと何かを話し始めた。
*
「よしオーケーだ。俺が代わりに全て手続きしておいたぜ。トール君」
「!?」
現れたスナッグが言い出したのはとても信じられない事だった。
当初の話と違うし、まずそんな大事そうな事を代理で勝手に受付してしまって良いの!?
「あの、まずは話を聞くだけのはずじゃ…」
「あり?そうだっけ?でもタイミング良いぜ。近々街の近郊に現れた異戸の攻略に踏み切るんだと、人手が欲しいのか簡単に受託されたぜ」
満足そうに親指を立てるスナッグだが、当の本人は不安しかなく、気が気でなかった。
蛇のくせに鳥頭かよ……




