正しいファンタジー、間違ったファンタジー
まぶしい光で目が覚める。今日はドアをたたく音はしない。
こちらに来て3日目、今日中に帰れないと有給が終わってしまう。
帰れる可能性は皆無だ。
重要な仕事はひと段落しているし、自分がいなくても他の人が変わりをできる体制にしている。
自分がこのままこちらにいても、迷惑をかけることはないか?
アパートのほうは、見られて困るものは置いていない。
ハンモックでそんなことを考えていると、ドズが呼ぶ声が聞こえた。
昨日と同じような朝食。そろそろ自分持ちの食糧が心もとない。
ドズと村へ向かう準備をする。
昨日狩ったウサギとシカ、ドズが集めた薬草などを村で売りに行く。
ウサギの皮などの代金は自分がもらうことになった。
世話になったからとドズが取ってほしいと言ったが、肉を食ったからいいそうだ。
荷物をまとめながら、自分の格好、おもに服装について聞いてみたが、似たような恰好をしている者がいるので気にしなくていいらしい。
ただ、刀は初めて会った時のようにケースに入れておくように言われた。
二人で荷物を担いで家を出る。
家を出て10分ほどで森を出る。
視界が開けると、一面の草原、その向こうに何かの畑。
おかしい、農耕用トラクターが畑を耕している。
道には大きな鳥?が荷車を引いているのが見える。
空には小さな物体?UFO?いや、地球で流行りのドローンが飛び回っている。
村はあまり大きくない。家は藁ぶき屋根だったり、見た感じがトタンだったり、で平屋が多い。
真ん中に大きな建物があり、一番高い所にパラボラアンテナが立っているのが見える。決して教会の十字架や大きな釣り鐘ではない。
なんだ、この世界は?
小道を歩き続けると、少し大きな道に出る。片側1車線くらいの幅で土を固めた感じだ。
後ろから何かが走ってくる音がしたので振り返ると、アメリカで走り回るトレーラーのようなものが土埃を巻き上げつつこちらに走ってくる。
ドズは気にせず歩いていくのでついていく。
トレーラーが追い越して行くので土埃を吸わないように手で口と鼻を覆う・・・あれほど舞っていた土埃は自分とドズの周りに襲ってこない。
ドズいわく、この街道自体に魔導術式が施されているため、土埃や水たまりの水を跳ね上げても人に害がないそうだ。よくわからんがそういうことらしい。
ついでにドローンもどきなどについても聞いてみたが、過去の遺物で肥料の散布や危険な獣などを監視しているそうだ。
ただ、先ほどのトレーラーも含めて機械は数を減らしているらしい。壊れても直す技術が失われているせいだ。
この星で一番大きな中央大陸にはそういった科学的知識が残っているはずだが、いろいろ危なくて上陸すらできないらしい。
そんな風に世間話?をしながら歩いていると、村の入り口にたどり着いた。
高さ1mほどのコンクリ?の壁が村を囲んでいる。
一部が門のようになっており、一人門番が立っている。
「よう、ドズ。珍しいな、村に降りてくるなんて。」
年のころは30のヒゲ面が声をかけてくる。
「ちょっど、やぼようだ。」
と言ってこっちを指さす。
「何だそいつは?」
興味深そうにこちらを見るヒゲ面。
警戒心がないな。よそ者なんだからもう少し慎重になろうよ。
他人事ながら少し心配になる。
「そどのひどだ。おっつい、ひろっだ。」
拾ったはないだろ、と抗議したいところだがここは我慢か。
このあと、ドズとヒゲ面が世間話をして何事もなく村には入れた。