07-2. お茶会
「――!!」
矛先が自分に向くとは思っていなかったのか、少しばかり驚いた顔になった。
でもわずかに表情を変えたくらいで、すぐに落ち着きを取り戻したのは流石だと思う。
「そんなことありませんわ。不出来だからシャーロットが指摘しただけでしょう」
あくまで出されたお菓子が悪いと言い放つ。言い掛かりにしても酷い。出されたどれもが吝嗇をつけるような、完成度の低さではない。百合の美しい時期に百合をイメージしたお菓子を出すのは別段変ではないし、冷菓子にミントを添えるのは普通のこと。見た目も味も申し分ない。料理人が一流だから、令嬢たちが少々変なこと要求しても、良いお菓子に昇華させられるというのもあるとは言え。
それにほかのお菓子やお茶とのバランスも申し分ない。デュヴィヴィエ公爵家でいただくお菓子や、前世の王宮で出されたお菓子と比較しても、難癖をつけられる謂れはない。
「なるほど。エイトリンさまであれば、中途半端なものは絶対に出さないのですね。是非、王族を唸らせるような、素晴らしいものを期待しています。ほかの方が足を引っ張らないよう、お一人で考案されるのがよろしいと思いますわ」
友人ではないので名ではなく家名で呼ぶ。今の状況では、親しくないというだけでなく、もっと冷ややかで緊張感ある関係を示したことになるかもしれない。
「期待していますね?」
再びの念押し。
本来、テーブルから一人ずつ集まって、授業で使うお菓子とお茶を決める。
だけどほかの方の意見があれば「足を引っ張られた」とクリスティアナさまが主張することも可能。
そうはさせないという意志表示であり、よほどのものができるだろう、という安い挑発。
「まあ、まるで王宮のお茶会に招かれたことがあるようなおっしゃり方ね」
「ありますけれど? といっても国王陛下との非公式なものでしたけれど」
喧嘩を買ったクリスティアナさま。
でも残念。前世では王宮に住んでいたのだ。冷遇されていたとはいえ、使用人は自分たちの仕事をきちんとこなすだけの矜持を持ち合わせていた。おかげで王子の婚約者として、最低限のまともな待遇はされていたのだ。王子殿下や王妃陛下からの対応は冷ややかで、キツいものだったとしても。だから未だに料理やお菓子の味を覚えている。
そして今世では魔障の特効薬の件や、当主就任の件で陛下とお会いしている。お茶とお菓子を出された和やかなものだった。
「随分と大きく出ましたのね。すぐにバレる嘘は恥ずかしいからお止めになったらよろしいと思いますけれど?」
「陛下からアングラート公爵家の次期当主は私以外にないと、お墨付きをもらったのですわ」
本当のことだ。もっとも「次期」という単語はつかなかったし、既に当主として認められているのは秘密だけれど。
「大嵐の復旧からの立ち直りがそれなりに早かったものですから」
「単に一人娘ってだけなのを、もったいつけないでくださる?」
きちんとした挨拶はまだでも、きちんと敵対派閥の家族構成は調べているらしい。性格は難ありでも、愚か者ではないのね。
もっともそうでなければ、王族に嫁ぐ野心なんか分不相応すぎて無理でしょうけれど。
「直系は私一人でも、傍系は何人もいます。その中には成人した方もいらっしゃいます。そんな中で次期当主としてのお墨付きですわ。それと私の思うように領地経営をすれば良いとおっしゃられました。年齢的に後見人を置いていますが、領地経営に関して意見をもらったことはありません。ほかの貴族との折衝だけをお任せしています」
言い切った後、にっこりと余裕の笑みを浮かべる。
「お父さまは預けていた領地に何の対策もせず、復旧対応もできない無能でしたから、家から出て行っていただきました。でも私の手に戻ってきてからは順調ですし、領地の問題を自力で片付けた、ご褒美みたいなものですね」
私の前世を合わせた年齢は、とうに二十歳を過ぎている。随分と大人げない態度だけれど、貴族として闘うのなら、出し惜しみしている場合ではないのだ。
何より無能な父を放逐する非情さもあるぞというのは、舐めたら相応の対応をする警告にもなる。
「そういう訳で……楽しみにしていますね。エイトリンさま、オランさま」
笑顔で二度目の念押しをしたら、クリスティアナさまは微妙な顔になり、シャーロットさまは真っ白になった。
当然だろう、親の身分が高く権力者だったとして、未成年の娘が王宮を自由に出入りなんかできないのだから。リディは王子の婚約者であるけれど、呼ばれなければ足を踏み入れられない。親友であるユージェニーはもっと難しい。クリスティアナさまも同じくらい無理だし、シャーロットさまに至っては、個人的に呼ばれる可能性は皆無だった。
言い淀んだ二人を横目に、淹れられたお茶を一口。
それほど長いやり取りではなかったから、あまり冷めていなくて美味しいままだった。
ほぅと溜め息を一つ。
言い負かした達成感はあるけれど後味は悪い。他人を否応なしに巻き込んだのは、よくない行動だった。
「ごめんなさい、個人的な関係に皆さまを巻き込んでしまって」
お菓子を用意されたメリルさまを始めとする、ほかの参加者に謝罪する。喧嘩を売ってきたのは向こうとはいえ、買った私にも非がある。真摯に謝るべき状況だった。
「せっかく美味しいお菓子とお茶なのに……」
初めてのお茶会がこれでは、次の主催者役は尻込みしてしまうかもしれない。何よりせっかく頑張ったメリルさまの努力を無下にしてしまったのが、本当に申し訳なくて……。
「オランさまは、ご自分の領地の美味しい素材を使われなかったのが、ご不満だったのではないでしょうか?」
フォローを入れたのはフローラさまだった。
「濃厚でコクのある乳製品が特産でしょう? でも今回使われたのは違う産地のもの。だからつい意地悪を言ってしまった気がするのだけれど?」
「……そう、かもしれないわ。食べ慣れた味ではなかったから」
シャーロットさまはすごく苦しそう。思ってもいなかったことだもの、当然よね。
――そういうことにしておきましょうか。
違うとわかっていて話に飛びついたのは、藁にもすがりたい気持ちだったからね。
「ちょっとした悋気でも、勢いのある家門の方から言われてしまったら、どうしたら良いかわからなくなってしまうわ」
「わ、悪気はなかったの。ちょっと困らせたかっただけなのよ……。わかるでしょう?」
何が? とツッコミたいところを我慢した。
悪意満載で、悪気しかなかったのに何を謂わんやという気持ち。
謝罪とも呼べないような苦しい言い訳ではあるけれど、非を認めた言葉を受け入れるのが良さそうな雰囲気になる。
「私のほうこそ素材にまで気が回らなくて申し訳なかったです」
少し困った顔をしつつも謝罪を受け入れ、水に流そうとしている。
――私はまだまだだわ。
難癖をつけられたメリルさまを庇おうとして、結局場の空気を悪くしただけ。更にフローラさまに助けてもらって、自分の尻拭いもできなかった。
二度目の人生でクラスの誰よりも長く生きているとは言ってもそれだけで、会話術はすごくお粗末なのを自覚させられただけだった。
――自己嫌悪で地面に埋まりそう。
今世は頑張って、自分から友人を作ろうと思ったけれど無理かもしれない。跡取りだって必要だから、結婚相手も見つけなくてはいけない。
だけれどそれも難しそうだと思うと、さらに自己嫌悪で落ち込む。
でもお茶会はまだ続くから挽回……は無理でも、せめて場を悪くしないように頑張らないと。
そんな気持ちで聞き役に回り、周囲に目を向けた。




