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やり直し令嬢の生き残り計画  作者: 紫月 由良
淑女科1年編

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07-1. お茶会

 作法の一環として、お茶会の授業がある。

 いくつかのグループに分かれ、テーブルごとに主催者とお客様という役割が与えられる。三人一緒だったらと思ったのに、残念ながら違うグループになってしまった。


 でも少し前の昼休みに親しくなったフローラと一緒なのは心強い。前世の教育もあってテーブルマナーは問題ないけれど、友人がいなかったし社交も最低限だったから、会話に自信がないのだ。

 懸念すべきはクリスティアナさまと、その取り巻きの一人が一緒だということ。リディの敵対派閥だけあって、一緒にいるユージェニーや私のことも毛嫌い、というか目の敵にしている。


 将来、王子妃になると言われて育ったのに、同い年の第二王子の婚約者に選ばれたのがリディだったのが許せないらしい。前世の私だったら華やかなクリスティアナさまの方が、私なんかより相応しいと思って落ち込んでいた気がする。常に前婚約者と比較されては駄目出しされてばかりだった。


 だけれど、その前婚約者であり、今世では死ななかったリディと、第二王子であるエリク殿下の関係を聞かされると、本当に私が駄目だったから嫌われていたのか疑問が浮かぶ。

 華やかで社交的なリディでさえ、嫌って邪険にしているのだから。


 もちろん片方だけの話しか聞いていないから、実際には相性が悪いだけかもしれない。だとしても挨拶をしないだとか、話しかけても返してこないなど、基本的に人として駄目な行動を取っているのは殿下の方。

 リディは婚約を解消したがっている。お父さまであるデュヴィヴィエ公爵としても、もっと相性の良い令嬢と婚約を結び直せば良いと思っているくらい。


 とはいえ王族の婚姻関係は常に注目されているだけあって、決定的な事がないのに解消できなくて今に至るとか。学園在学中に親しい令嬢ができれば、婚約者の変更ができるかもしれないと、父娘揃って期待している。

 だからクリスティアナさまが新たな婚約者になるに、実は問題はまったくない。それどころか諸手を上げて喜ぶだろう。


 幸いと言って良いのか、クリスティアナさまのお父さまエイトリン侯爵は権力欲が強い。閣僚であり中央政治の中心人物の一人でもある。エリク殿下にとって後ろ盾として十分であり、婚約者交代は誰にとっても幸せになれそうな気がする。


「少し憂鬱かも……」

「ええ……。でも頑張りましょう」


 フローラさまに正直な気持ちを伝えると、同意が返ってきた。派閥争いが面倒なのは同じらしい。唯一の救いは主催者役が派閥に入っていない令嬢なこと。

「主催者のメリル・ローガンです。みなさま入学したばかりで、顔と名前はご存じでもお人柄などはわからないと思います。ですから自己紹介から始めませんか?」

 メリルさまが人好きのする笑みを浮かべて提案する。


 ――私も知らない人ばかりだから、助かるかも。


 同じテーブルについたのは、淑女科に入学してから知った方たちばかり。フローラさまだけは前世での顔見知りではあるけれど、親しいとまではいえなかった。今世では友人になってまだ日が浅い。ほかはクリスティアナさまと非友好的な会話をしただけで、残りの人たちに至っては言葉を交わすのも初めてだった。


「ではまず私から――」

 参加者の表情から同意を確認して、言い出した自分から自己紹介を始めた。


「父はローガン伯爵です。領地は田舎ですけれどぶどう栽培に適しているので、ワインの生産を行っています。そういった事情があるため、高等科での領地経営と農地改革を選択しました」


 当主になるために高等科の授業を取る生徒だけでなく、妻として領地を支えるために受講する令嬢もいる。メリルさまは婚家ではなく実家のためだけれど、ユージェニーと選択が被るから、もしかしたら二人が仲良くなるかもしれない。

 続いてほかの方たちも順に自己紹介を始める。刺繍が趣味だとか、領地でのんびり過ごすのが好きだとか。中にはお兄さまがとても素敵なので、変な虫がついたら嫌だなんて方もいた。


「マリス・アングラートです。当主だった母が亡くなったので、今は私が当主代理として領地を守っています。学業よりも領地優先なので、何かあれば学園を休みますが、よろしくお願いします」


 実は既に当主の座に着いているけれど、私の魔法科と高等科卒業を公にしていないため、当主なのも内緒にせざるを得ない。


「まあ、学業と領地経営を両立できないなんて、領主として適性がないのでは?」

 クリスティアナさまの嘲るような言葉が、驚くほど心に刺さらない。


 既に当主として実績があるからなのか、前世を含めて勉強だけはきっちり身についているからなのか――それとも実際に生きた年齢が前世を合わせれば二十四になるからなのか。


「嵐の被害を受ける国ですもの。当主としては当然のことです。三年前の大嵐の被害に、いまだ立ち直れない領地も多いです。エイトリン侯爵領は違うようですが……」

 知らない素振りで言うけれど、実際のところクリスティアナさまの実家も影響は大きかった。王都に近い領地で影響を受けていない土地はないと言っても良いほど、あの大嵐の被害は甚大だった。


「我が家でもいまだに大変ですわ。ぶどうの木が何本も駄目になって収穫がほとんどありませんでした。出来たワインもあまり良いものではなくて……」

 思い出したようにメリルさまが「ほぅ」と溜息を吐いた。


「我が家も……」

「お父さまがずっと領地に戻って大変そうでした」

 ほかの方たちの実家も大変だったらしい。


 クリスティアナさまは黙っているけれど、エイトリン侯爵家の領地も似たり寄ったりの状況。だからと言って侯爵の領地経営が駄目だったとは言えない。ただ親の苦労を至近で見ていて、私が領地のために学園を休むことをあげつらうことが理解できないだけで。


「学園を休むことと当主として仕事を両立することは別です。課題を提出することで出席扱いになりますもの。それに多少休んだくらいで、授業についていけなくなるなんて考えられませんわ」


 少しおっとりした口調で返す。私の地味な雰囲気は、上手に使えば御しやすそうに見られやすい。攻撃材料があれば何でも良かったクリスティアナさまは、それ以上何も言ってこなかった。

 授業とはいえお茶会の席で口論するのは周囲に迷惑だし、何よりマナーに問題がある。適当にあしらってしまう方が楽。

 とはいえ貴族の面子を保つために、言うべき時は言わなくてはいけないけれど。


「ところでローガンさま、今日のお茶とお菓子は主催の方々で決められたとか?」

 メリルさまとは雑談を交わすほど親しくなっていないから家名で呼ぶ。


「ええ、皆で決めました。今は百合が美しい季節でしょう? ですから百合をイメージしたお菓子にしました。少し甘味が強いので、お茶は清涼感のあるものを選びましたの」

 これ以上クリスティアナさまと言葉を交わして、場の雰囲気を悪くしたくないという私の意図を察してくれたメリルさまが、すかさず乗ってきてくれる。


「確かに甘さは強いですけれど、お茶にすっきりした苦みがあって丁度良いですわ」

「季節感もあって良いですね」

 同級生たちもメリル様に同調した。


 百合のように真っ白なババロアは少し甘さが強め。雄蕊をイメージした樹蜜は癖があって甘いだけでないし、飾ってあるミントはお口直しの意味もある。透明度の高い硝子の器が見た目にも涼やか。お茶は一番摘みらしい若々しく香りの高いもの。ほかに牛酪(バター)をたっぷり使った焼き菓子や、酸味の強い果物を閉じ込めた砂糖菓子が添えられている。 さっくりした焼き菓子の食感と、表面はカリッとして中はねっとりとした酸味の果実の組み合わせも最高で……。特に果実は酸っぱいだけでなく芳醇な香りと蜜が味を複雑にさせていて、食感だけでなく味も最高だった。


 ――美味しい。


 アングラート公爵家の料理人は、食事を作るのは上手だけど、甘味に興味のなかったお母さまやお祖父さまの影響で、腕を振るう機会がなかった。だからあまり得意ではない。


 ――料理人のほかに菓子職人(パティシエ)も雇おうかしら。


 治水工事のために随分節約してきたけれど、一段落ついている。お父さまが管理していたガルリオ領は、いまだ嵐からの復旧が終わってないけれど目途はついている。

 ここで少々、贅沢をしても許されそうな気がする。


「お茶に清涼感があるのに、ミントで清涼感を出す必要はあるのかしら? バランスが悪い気がしてならないのだけれど……」

 クリスティアナさまの取り巻きの一人、シャーロット・オラン伯爵令嬢が水を差す。彼女はエイトリン侯爵家と同じ派閥に属している。確かお母さま同士が親しかったはず。


 飾り要素の強いミントなんて、ただの難癖でしかない。

 でも言われたメリルさまは一瞬で真っ青になった。権力者に目を付けられたかもしれないと思ったのかも。


 ――私が良い評価をしたから、側杖を食ったのね。

 狭量にもほどがある。言った本人はやってやりました、という達成感に満足そうだけれど、ほかの生徒たちは困惑気味。


 こんなことばかりしていては、クリスティアナさま自身の評判が下がるとわかりそうなものだけれど、取り巻きはわかっていない。


「ミントは飾り要素が強いものですし、見た目にも涼やかですわ」

 暗に味だけが問題ではないと含ませる。


 更に味だけにしか拘れない浅くも狭い物の見方はどうなのかと、言外に匂わせた。

 面倒は避けたかったのが本音。少々、嫌味を言われた程度なら聞き流すつもりでいたけれど、ただ私と親しく言葉を交わしただけで口撃してくるようなら、こちらで対処するしかない。ほかの方がメリル様を庇えば、その方まで敵認定されてしまう。私ならデュヴィヴィエ公爵家の後ろ盾がある上に、実家がアングラード公爵家だから、エイトリン侯爵家からの圧力があったとしても問題ない。今後、嫌がらせを受けたとしてどうにかできるのだから。


「ですが――テーブルの雰囲気を冷ややかにする効果もあったみたいですね。クリスティアナさま、どう思われますか?」

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