01. 淑女科入学
新章開始です。
ストックがない状態からの投稿なので、更新に時間がかかります。
(この章の紙原稿がみつかりましたが、修正が多くほぼ書き直し状態です)
真新しい制服に身を包み、新たな気持ちで学園の門を潜った。
といっても四年振り二度目の入学であるし、前世を含めれば三度目なのだけれど。
四年前は魔法科入学で、制服は体型と顔を隠せるフード付きローブが制服だった。怪しさ満点でドキドキしたものだけど、今度はかつて着ていた制服だけあって新鮮さは乏しい。
――馴染みがあるけれど、可愛いくてやっぱり好きだわ。
全学科共通の服地ではあるが、意匠はまったく違う。魔法科の怪しさ満点な顔も体型も隠すためのローブと違って、淑女科の制服はとてもかわいい。
膝と踝の中間くらいの丈のスカートはパニエで少しボリュームが出ている。その場でくるりと回れば、ふわりと広がる。
でもダンスレッスンのときに大きく脚が出ない程度には控えめ。
学年が上がるにつれて丈は長くなり、最上級生になると踝が出るギリギリの長さに。淑女への階段を上がるように、スカート丈が変わっていく。
編み上げのブーツが脚を隠すから、少々のスカート丈の短さは平気だ。
胸元は学年ごとに違う色のリボン。一年生は明るい赤色。二年生になると若草色に変わる。大き目だけど邪魔にならない絶妙なところが気に入っている。白いブラウスの襟をワンピースから出すのも、すごく可愛い。
ただ袖口が広がって下からフリルが見えるのは、優雅だけど少し邪魔。
そんな風に思いながら、入学式を終えて自分のクラスに向かう。
「同じクラスで良かったわ」
私の横で友人が笑う。
一年ほど前に知り合ったリディことリディアーヌと、その横には彼女の幼馴染ユージェニー。
「私も。一緒で良かった、知り合いが少ないもの、心強いわ」
同い年の友人は彼女たち二人しかいない。
叔母さまに連れられてお茶会に参加するようになったとはいえ、次期当主としての顔見せが目的だから、同じ年ごろの令嬢がいない貴族家ばかりで、淑女科入学まで友人ができなかった。
年上なら魔法科の同級生がいるとはいえ……。
今年の入学生は新入生が多い。貴族のみの淑女科と騎士科は、例年に比べて倍近いから特に。
講堂での着席位置は前面の中央を境に、淑女科と騎士科が。その後ろに高等科、さらに後ろが魔法科になる。
座席指定が後ろの方の学科では学長の顔なんてちゃんと見えなかったかも。私が魔法科に入学したときですら、かなり遠くだったもの。
遠くて小さくて、人の頭に隠れて見えづらかったのは、誰よりも早く――幼いと言っても良い年頃だったから、というのもあるかもしれないけれど。
でも話を聞くには十分だった。学長の挨拶は長いけれど、面白い上に緩急付けて引き込まれるから、つい時間を忘れて聞いてしまう。
……といけない、つい昔のことに思いを馳せてしまった。
まだそんな年じゃないのに!
「一緒になれないかもって思っていたのだけれど……」
顔見知りすら二人しかいない私にとって、二度目の淑女科が楽しいものになるのかの瀬戸際というのは言い過ぎだけれど、結構重要だと思っている。
今年に限って新入生が多いのは、王妃陛下の懐妊が理由。王子もしくは王女の側近や婚約者候補になるかもと考えた貴族が多かった。
そのせいで例年は一学年に一クラスか二クラスしかないのに、私たちの学年は四クラスもある。入学前の試験は全員参加で、クラス分けの参考にするような話もあったくらい。
本来、淑女科の入学前試験は授業免除のために希望者のみで、実際に習熟度を確認するためのものなのに。
「忖度されたのかしら?」
離れ離れになったら嫌だと思っていたのに、蓋を開けてみたら三人一緒で嬉しい限り。
「いいえ、事前調査で割と仲が良い友人や親戚とは、同じクラスに振り分けるらしいわ。取り巻きみたいな授業の進行上問題になりそうな場合は逆に分けるみたいだけれど」
私の疑問をリディが否定する。
なるほど幼い子供が不安に思わない対策がされているってことね。
納得していると「マリスの場合、私専属の護衛みたいなものだけれどね」と私たち三人だけに聞こえるような小声で呟かれた。確かに難易度の低いものだけとはいえ魔法薬を作れて治癒もでき、護衛の代わりにもなる。未来の王子妃の側付きとして必要かもしれない。
それでもって公爵家当主と、それなりの立場まである。
逆にお父さまの別宅で暮らす異母妹が同じクラスではないのにホッとする。
正直、付き合いたいどころか顔もみたくない。
向こうからの接触は禁止すると縁切りのときに書類を交わしたけれど、同じクラスともなれば挨拶くらいはしないと不自然だし。
正直言って学園に入学してほしくなかったくらい嫌。平民の母親と、爵位がなく独立後は実質平民のお父さまの子なのだから、わざわざ学園に入学しなくても良かったのにとも思っている。書類上だけとはいえ、わざわざ嫡男である自分のお兄さまの養女にまでして。
――貴族に嫁がせたかったのかしら?
男爵以上の永世貴族に嫁がせたいなら、王立学園淑女科は必須条件だもの。
淑女科は貴族令嬢のみとはいえ、跡取りではない次男や三男の娘を長男の養女として通わせるくらいは可能。親が貴族の生まれであるのが前提。
でも貴族の子息と令嬢はほぼ同数。その中に貴族籍を失った次男の娘や三男の娘を入れるのだから軋轢が生じる。無理をしてまで王立学園の淑女科に通わせなくても、というのが多数を占める。
不愉快な事実に思考を奪われている間に、クラスの全員が着席し終えていた。
「あなた方の担任を務めるジュアンノです」
着席とほぼ同時に入室した女性教師は定規が背中に入っているのかというほど、ピンとした背筋のままキビキビと教壇に立つ。美しい所作と無駄のない動きは、前世で見慣れたもの。
誰にでも公平で、清く正しくあろうと努力する姿は、とても美しかった。
ふいに懐かしく感じる。
「学園は生徒に対して平等ではありますが、身分が無い訳ではありません。この学年には騎士科に第二王子殿下、淑女科に殿下の婚約者がおります、よく弁えるように。それは家に帰ってから、ご家族にもしっかりと伝えるようにしてください。またこのクラスには複数の科目での授業を免除されている生徒がおります。入学前の試験にて、素晴らしい成績を収めた方たちへの特別措置です。授業免除者が出た年は、必ず「特別扱いは狡い」と言い出す生徒がおりますが、授業が必要ないほど優秀だからです。そして狡いという生徒に限って勉強が疎かになっている上に、学ぶ姿勢が見られないということを、よく覚えておきなさい」
前世、私が第二王子の婚約者として入学したときは時間割の配布などだけで、こんな説明はなかった。
授業免除者がいたかどうかは覚えていない。周囲を見る余裕が全然なかったから。
王子妃教育と、自分の置かれた状況に悲観するのでいっぱいで。
ともあれ入学に際して必要なすべてが終わり、一日目が終わった。
昼にはまだ余裕がある時間だった。魔法科入学のときも同じだったし、初日はこれが普通なのかもしれない。
「思ったより早く終わったわね」
「意外なくらい」
リディとユージェニーが意外そうに言う。もしかしたら学科によって終わる時間が違うのかも。たまたま淑女科と魔法科が早く終わるだけで。
「でも、おかげでデュヴィヴィエ家に早くお伺いできるもの」
「そうね。早く帰ってのんびりしたいわ」
私たち三人が集まるのは、大抵の場合デュヴィヴィエ家になる。今日は三人でのリディの家の昼食会に招かれているのだ。王宮料理人でも負けるほど、美味しい食事が出てくるからとても楽しみ。おじさまの方針で、他者に舐められないよう最高の食事でもてなすようにしているらしい。
この章から少しずつ恋愛小説らしいエピソードが増えていきます。
(といってもまだまだ恋愛色は薄めですが)




