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15. 公爵令嬢の病 1

 学園は普段通り、楽しく登校している。


 私の研究室は時々同級生のたまり場になっていて、何故か茶器が揃っている。今日の放課後も、同級生が集まる予定だ。


「お嬢様こちらを」


 登校前に料理人から渡されたのは、バスケットいっぱいの焼き菓子だった。とても良い匂いがする。


「皆さまでお楽しみください」


 既に私の研究室でお茶会が開かれるのは日常だった。


「ユエィン、ちょっと内密な相談があるの」


 お茶を飲みに来たのかと思えば、深刻そうな顔をしたヴィネ・ルールが部屋に入ってきた。重要な話だと思ったので、私は『調合中、入室禁止』の札を扉に掛けた上で鍵を締める。


 お茶を淹れ菓子を差し出したところで、ヴィネは重い口を開いた。


「顧客のお嬢様が病気なの。ユエィンならなんとかなるかもと思って」


「王宮医術師や薬師が対応して駄目なら、私がどうこうできるとは思えないけれど、話は聞くわ」


 茶器の横に筆記具を用意する。


「まずは何時からなのかと、症状をできるだけ詳しく。それと治療内容が判ればそれも」


「最初は何だか疲れが取れないような倦怠感だったの。次に少しずつ指先や足先が冷えて感覚が鈍くなったの。回復薬や回復魔法を使ったら、一時的に調子は良くなるのだけど、数日後にはその分悪化していって、気付いたら足先から硬くなっていって、まるで石みたいな感じなの」


 ――まるで石みたい……。


 その一言に思い当たる病が一つある。第二王子の婚約者が倒れた病だ。


 回復魔法やポーションが効かないのも同じ。


 もしかしてヴィネは王子の婚約者である、デュヴィヴィエ公爵家のリディアーヌ様のことを言っているのだろうか。亡くなったのは私が十歳になった後だったけれど、病に倒れたのが何時だったかは判らない。逆に言えば、今頃に倒れたのだとしてもおかしくない。


 シークデルム病と呼ばれるそれは、魔力の体内循環が滞るのが原因で起こるものだ。一箇所若しくは複数箇所で魔力が滞ることになると、魔力は身体の中心から患部までしか循環しなくなる。魔力循環の無い身体を維持しようと負荷がかかるため、常に過負荷状態になるから倦怠感が慢性化する。これが第一の症状。


 魔力が循環しなくなった箇所は徐々に機能不全に陥り、冷えていく。これが第二の症状。


 完全に機能不全になると、その部分が石化する。これが第三の症状で末期だ。この頃になると、全身が高負荷状態になるため疲労から寝たきりになる。また石化は徐々に全身に広がっていく。最後は心臓が石化により停止し死亡。


 原因は不明だが魔力が多く、まだ魔力を上手く扱えない子供が多い。次に多いのが老人や病人など体力が無い人達だ。魔力量の多い人が多かった古王国時代にはよくある病気だったが、現代では稀だ。しかも長い戦乱の時を経て文献の多くが散逸したこととで、未知の病と成り果てた。


 私が知ったのも偶然の産物だ。王宮図書館でたまたま手に取った書物に記述があっただけだ。歴史的価値から王族や王族からの許可が出た人物だけが閲覧を許された書架にあった。王子の婚約者だった私は閲覧許可があり、何れ婚約は解消されると思っていたからこそ、許可のある間にとばかりに読み漁った中の一冊だった。ちなみに魔術科入学後に、街の古書店にて同じ本を見つけて即買いしたのは誰にも内緒だ。貴重な書籍と言いつつ、王宮図書館の王族向け書架の本が、意外に貴族向けの本屋には結構みつかったりする。

.


 リディアーヌ嬢の病は奇病として貴族の間で噂が広がっていたために知っていた。今もよく覚えている。何故なら病を治すための治療薬を作るという目的の為に魔法科に進学したからだ。第二王子の婚約者が亡くならなければ、私が婚約者になる可能性は著しく下がる。破滅する未来を辿る原因の一つを潰すのが目的だった。


「もう少し詳しく知りたいのだけど、患者は子供で魔力量が多いのでは? それとまるで石みたいというけど、硬いだけでなく、本物の石の様に冷たく重くなってはいない?」


「凄い、その通りよ」


「本当に偶然なんだけど、たまたま王宮の図書館で読んだばかりなの、その症例が載った本を。王族向け書架でも魔法に関する棚は閲覧可能だから……」


「治し方は載っていたの? 薬は作れるの?」


「同じ病気だとしたらという仮定の上でだけど、薬は既にあるわ。まずは身体の中の魔力の流れを診られる医術師に診断してもらって、同じ病気かどうかはっきりさせましょう」

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