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死にたくない姫と千年竜  作者: イチ
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第7話



アメトの店にはなんでもあった。

それこそ日常使いの薬から秘薬なんてものまであるし、魔法書の一つ上、魔導書まであった。

武器防具の品揃えも、前世の記憶が確かならば始まりの街からラスボス前の村で売ってそうなものまであってとにかく幅広く置いてあった。


「アガットは剣術スキルはあるのよね。体格も小さめだし…レイピアかショートソード。ダガーもいいわね」

「金属の鎧でしかもフルプレートじゃスピードタイプのアガットの動きを阻害しちまうからスケイルメイルのがいいか?」

「そうね。それならエルダードラゴンの鱗を使った軽鎧があったからそれで。あんたはミスリルでいいわよね」

「おい待てエルダードラゴンの鱗があるなら俺もそれがいいぞアメト」


二人で店の中でわいわいと騒ぎながらあれこれと装備品を揃えているのを椅子に座らされたままのアガットは眺めていた。

これでいい、と言ったものの二人とも装備に命を預けるんだからいいものの方がいい、と引かなかった。

騎士団長から貰った鎧はどうやらノースレイクに着く前に防御力不足になる、とエドガーが判断して、この『リンデンバウム』に置いていくらしい。

中に着込んでいた鎖帷子については、アメトがこれは一級品、と褒めていた。


「エドガー、そこの『紅蓮の大剣』持ってっていいわよ。あんたなら使いこなせるでしょ」

「まじか!」

「まじよ。どうせそんなバカでかい大剣使えるのあんたくらいだし」

「あの、アメトさん」

「なぁに、アガット」

「……僕はその、持ち合わせがそんなに」


王宮を出る時に渡されたのはほんの僅か、雀の涙ほどの軍資金のみ。

金がない、と伝えるのは非常に心苦しくて恥ずかしい事で、アガットの顔がどんどん赤くなっていく。


「そうねぇ。出世払いにでもしましょうか」

「出世払い…?」

「そう。アガットはこれから、いろんな街や村やダンジョンに行くわ。そこで手に入れたものと交換、という形でどうかしらね」

「……アメトさん」

「アメトでいいわよ」


アメトは黒檀の杖を手に持ちながらにっこりと笑う。

捻れながらもまっすぐ伸びるその杖の先には拳大にもなる無色透明の宝珠が嵌っていた。


「まるで勇者譚に出てくる召喚士の杖のようだ」


母が活躍した、と伝えられる勇者譚に出てくるのは、勇者、重戦士、魔女、召喚士の四人だった。

その召喚士は亜人で、強力な魔法の杖を使って幻獣を使役していた、と伝えられており、アメトの姿は正しくその召喚士にそっくりだった。


「そうねぇ。亜人種の希望の星だったみたいね、召喚士は。私のジョブも召喚士よ」

「召喚士」

「エドガーは見てわかる通り重戦士。アガットはなにかジョブについてるのかしら?」

「……すまない、その、ジョブとはなんだろうか」


アガットの言葉に二人ともぽかん、と口を開けた。


「あー、貴族のおぼっちゃんは知らねぇのか」

「そうねぇ。じゃあまずは、冒険者ギルドの登録からね。エドガー行くわよ」

「おう」


エドガーが前を歩き。アガットの手を取りアメトが店から出る。

誰かに手を取られたことなど数える程しかないアガットは驚いたように目を丸くしながらアメトを見上げる。


「なあに?」

「……いや、手を、繋ぐのは久々だと思って」

「あらそうなの?それは勿体ないことをしてるわね、あなたの父親は」


篭手を外したアガットの手を握るアメトの掌は固くて、まめが出来ては潰れたのか少し凸凹していたけれど暖かかった。


「子供の手を引いて歩く。そんなこと、子供が小さいうちにしか出来ないのにねぇ」

「……父上は、お忙しい方だから」


兄が城の庭で、父王と第二妃と仲良さげに手を繋いで歩いているのを見た事がある。

それも、何度も。

ガーネットは押し込められた北の塔の部屋の窓からそれをただ眺めていることしか出来なかった。


「そう。ほんと、もったいないわねぇ」


アメトは何処か悲しそうに笑いながら繋いだ手にきゅ、と力を込めて、アガットの手を握りしめた。



「冒険者ギルドへようこそ!……あら、アメト様珍しいですね、こちらにいらっしゃるなんて」


さっきアガットにもにこやかに対応してくれた受付けの女性が、アメトの姿を見た途端きらきらと目を輝かせたのを見て、アガットは先程の『元S級冒険者』の言葉を思い出した。


「そうね。この子の冒険者登録と、私もまた冒険者として登録して欲しいのだけれど」

「アメト様がまた冒険者に!?よ、喜んで!」


ざわり、とギルドに併設している酒場が俄に騒がしくなった。

エドガーは興味が無いのか早速飲食カウンターで何やら注文をしているらしく、こちらに背を向けている。


「そうよ、あとパーティー申請もしたいの。私と、エドガーと、このアガットの三人で」

「アメトわざと俺の名前でかく呼ぶのはわざとか?」


軽食なのだろう、芋と魚を揚げた物をこんもりと盛られた木製の皿を持ったエドガーが露骨に嫌そうな顔をした。


「わざとじゃないわよ」

「エドガー、それは?」

「あ?あぁ、冒険者登録とジョブ登録に時間かかるだろうからな、その間待っとこうと」

「あんたも来るのよ」


アメトの言葉に手に持った皿をそのままに食べながらこっちへと来るエドガーに、受付けの女性がくすくすと笑う。


「そうですね、アガットさんは初めての登録ですので、説明からさせていただきます」

「よろしくお願いします」

「ふふ、礼儀正しい方ですね。ではまず、冒険者ランクから説明させていただきます」


「冒険者は一番下がGランク。こちらは街の方の日常的な依頼を受けることが出来ます。こちらに登録するのは街の子供ばかりですね。

魔物討伐、薬草採取などはFランクから。普通の方はこちらFランクから登録されますので、アガットさんはこちらになりますね。

昇格に関しては、依頼を一定数こなすか、貢献度が規定数溜まれば自動的に昇格になりますね」

「あら、飛び級の説明はしないのかしら?」

「えぇ、冒険者登録の際にステータスがFランクを大幅に超えている場合、まずFランクとして登録してから依頼を受けて頂き、それで飛び級昇格出来るかを見させていただきます」

「飛び級」

「そうですね。まずはこちらに記入をお願いします」


差し出されたのは1枚の紙。

そこには名前、年齢、魔法系統、技能、などが書くところがあった。

アガットには魔法は使えない。技能の欄に剣術と、格闘術と書き加えていく。


「あら、格闘術も使えるの?」


ひょい、と覗き込んだアメトに振り向きながら頷いて、シデン流格闘術と書き終えればアメトが納得、と言わんばかりに頷いた。


「体が小さくても相手の力を利用して敵を倒すシデン流なら納得だわ」

「……これから大きくなる」

「ふふ、そうね。まだまだ13歳だもの。大きくなれるわよ」


アメトも記入が終わったのか受付嬢へと書類を出す。


「それではアガットさんはこちらの、"ジョブクリスタル"に触れてください」


差し出されたのは無色透明の水晶玉で、そっと手を伸ばして触れるとそれは白い光を放ちだした。

浮かび上がる文字は『戦士』『シーフ』『モンク』の3つ。

迷わずに戦士に指を添えると、その文字が光り出して、他のふたつは緩やかに消えていった。


「はい。これで冒険者登録とジョブの登録ができました。こちらがアガットさんの登録証になります」


渡されたのは金属で出来たドッグタグのようなもの。エドガーが首から提げているものと類似していた。


「これを無くしたら再発行に銀貨1枚かかりますのでお気をつけ下さい」


しゃら、と音を立てるそれを見つめて、アガットは首に掛けた。


「階級が上がる事に金属が変わりますので、必ずギルドカウンターまでお越しくださいね。それでは、早速クエストを受けられますか?」

「いいえ、これから旅に出るのよ。だからこの街にはしばらく戻らないわ」

「えっ」


受付嬢が驚いたような顔をしてアメトを見ていた。

そんなに驚くほどのことなのか、とエドガーを見れば、エドガーも仕方ない、とばかりに肩を竦めている。


「アメトはああ見えて元S級冒険者だったからな。いる事で犯罪抑止になってたんだけど、居なくなるなら治安方面で不安があるんだろ」

「そうか」

「まぁでも、ギルドも引退した奴の名前を使って警備費とかを安く抑えてたんだからこれはアメトが物申せば今まで無料で使ってた分請求されてもおかしくねぇし」

「……アメトは、すごい人物だったんだな」

「おう」

「そんな人を、竜退治に連れて行っていいものか」

「いいのよ」


後ろからぬっと現れたアメトに驚いて肩を跳ねさせた。

気配を全く感じないその身のこなしにアガットの心臓がバクバクと脈打つ。


「今日はもう遅いし、あたしの家で一晩休んでから出発しましょうか」


優しい笑顔でアガットを見るアメトに、アガットは口噤んで頷いた。




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