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死にたくない姫と千年竜  作者: イチ
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第6話



「今、大きく一つのグループとして、人族、獣人族、亜人族の三つがあるのは分かるわね?」

「はい。人族が一番数が多く、亜人族が一番少ないと」

「そうね。アガットとエドガーは人族、私は亜人族に分類されるわ」

「亜人族」

「そう。エルフやドワーフ、有翼人に有角人。まとめて亜人族と呼ばれている種族」


アメトの声は流れる水のように穏やかで朗々としていて、耳に心地が良い。

アガットは詰め込まれた教育の中からその知識を引っ張り出して頷く。


「人族が多く信仰しているのが女神。美と豊穣の女神と呼ばれる、ローザ。あのいけ好かない女ね」

「ローザ……金の髪に青い瞳の女神」

「そうね。で、獣人族が信仰しているのが命と繁栄の女神、ダリア」

「ダリア…橙の髪に同じ色の瞳の女神」

「亜人族はそれこそ多岐に渡るからそうね、エルフは静謐と理知の女神ルピナス、ドワーフは火と鍛治の神レオノティス、有翼人、ハーピーと呼ばれる種族は愛と悪戯の女神、アネモネ。ここまではいいかしら?」

「……あぁ、大丈夫だ」

「そして私たち、有角人は皆同じ神を信仰しているの」


そこで一旦口を閉じてから、アメトは目を細めて笑う。


「時と輪廻の神、セントレア」

「セントレア…」

「聞き覚えがないって顔ね。そうね、人族にはあまり馴染みのない神様だもの」

「はい。神話時代の本をいくつか読みましたが、その神の名は…」

「そうね、セントレアは女神ローザの処女性を真っ向から否定しているようなものだもの」

「否定?」

「女神ローザの息子なのよ、セントレアは」

「……息子」

「そう。彼女の息子であるセントレアは、存在するだけでローザが何者かと交わった事を示しているのよ。だから歴史の表舞台から消されてしまった」

「…そんなことが」

「因みに俺は勇と勝利の神、ラウルスを信仰してんだけどな。ローザからなんでか祝福を受けてる」

「面食いだからよ。話を戻しましょう。そして、その神を信仰せずに、龍を神と定める神竜教、というのもあるの」


神竜教。龍を神として崇め奉り、毎年生け贄を捧げていると聞いたことがあるその宗教を、王国は邪教としていた。


「神竜教は北の地に多く浸透しているのよ。その神竜教の総本山であるノースレイクに北海の主、エンシェントクリスタルドラゴンがいるわね」

「それを、国王陛下が倒してこいと」

「信仰の元がいなくなればそれは宗教としては揺らぐし、その隙を突いて攻め込みでもするのかしらね」

「……かも、知れませんが、国王陛下のお考えは僕にはわかりません」


ヘリオライトは豊かな国だった。

戦争をしてまで他国の領土を奪うほど貧しくもなく、また民も飢えていないはずだった。

それなのに、とアガットは俯いて手をぎゅっと握りしめた。


「そーね、私も分からないわ、あのボンクラの考えることなんて」

「おいアメト、国王批判はやめとけって。どこで誰が聞いてっかわかんないんだぞ」

「ぼ、ボンクラ」

「ねぇアガット。こんな任務放り投げて死んだことにして、ここで新しく生き直してみない?」


アメトの2色の瞳がアガットを見つめて優しく細められる。


「……それは、出来ない」

「どうして?」

「……母、に、亡くなった母に、合わせる顔がない」


絞り出すように吐き出したその言葉に、アメトが悲しそうな顔をした。

エドガーもなんて言っていいのか、と言葉を探すように視線をさ迷わせている。

転生して生まれたその日に死んだ母親の顔は、肖像画でしか見た事がないけれど、自分とよく似た顔立ちの、黒髪に赤い瞳の美しい人だった。


「……そう。どうしても行くと言うのね」

「あぁ。これが僕の使命だから」


本当は行きたくなんてない。死にに行くようなものだと誰からも言われた。

けれど、行かなければ自分にはもう道なんて残されていなかった。


「なら私もついて行くわ」

「えっ」

「エドガー、どうせあんたもついてくんでしょ?この店閉めるから好きな武器防具持ってっていいわよ」

「お!まじかよ。ラッキー」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。二人とも、これは死にに行くようなものだぞ?ついてくるなんて」


慌てたアガットに二人は顔を見合わせた後、苦笑を漏らして代わる代わるアガットの黒髪を軽く撫で回した。


「な、なんだ」

「こんな小さい子供一人が竜退治に行くなんてなぁ、ついて行かなきゃ男が廃るだろ」

「そうね。それに私、こう見えても元S級冒険者だし。役に立つと思うわよ?」


ね?と笑うアメトに、アガットは二の句が告げずにいた。

こんな死出の旅路に道連れにしてしまっていいのか、とおろおろとするアガットの肩をばしばしと叩いたエドガーは店の奥から出ていって店先にある装備を品定めし始めた。


「……アガット。あなたのお母様のお名前は?」


ぽつり、と取り残されたアガットに掛けられる声はあまりに優しくて、王宮ではそんな優しく声を掛けてくれるのは誰も居なかったアガットにはなんだか居心地が悪くて俯いてしまう。


「……アレキサンドライト」

「……そう」


前王妃と同じ名前だったが、今このヘリオライトには同じ名前は溢れている。

『魔女』と畏れられた母の名前はいつしか民衆に広く広まって女の子の名前として人気になっていたのだ。


「アメト、ついでにアガットの装備も見てやれよ。そんなフルプレートアーマーで雪山なんかに行ったら金属が肌に張り付いて剥がれなくなるぞって」

「うぇっ!?」


店先にいたエドガーの言葉にアガットが素っ頓狂な声を上げるのを聞いて、アメトが笑った。




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