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死にたくない姫と千年竜  作者: イチ
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第4話



王都から北へ向かって馬を走らせる。

王都を出発してもう1週間。

途中小さな村や集落を見つけて馬小屋で寝かせて貰いながら、夜露を凌いでいたが、そろそろ食料やポーションが心もとなくなっていた。

次の大きめの宿場町で補充しなければ、厳しい。

日暮れまではもう少しで、日があるうちに町に入れれば、と馬を走らせて、ガーネットはは、と息を吐いた。

地図によれば宿場町があって、その近くに大きな森があるはずだった。

その森の名前を『ドライアド・フォレスト』、樹妖や妖精の住む森だと言われている。

なぜそんな森に密接して街があるのかと言うと、そこはどうやらギブアンドテイクだと言う。

森を荒らされるのを厭う樹妖たちが、森の恵みを街に与える代わりに森を荒らされないように守ってもらっているらしい。

これも騎士団の中にいた元傭兵に聞いた話で、なんでもその街の特産は森の聖なる気が固まって出来た守りの魔石である。

これは、持っていれば大きさと魔力の内包量により効果は違うなれど攻撃魔法の威力を軽減してくれるらしい。

冒険者にとっては必須アイテムらしく、王都を起点とする冒険者たちはよくこの街『フォレスト・ガーデン』に訪れる。

ガーネットは息を荒らげている馬の首を緩く撫でてから、遠目に見えてきた大きな森と、白い外壁の街へと馬を駆った。


『フォレスト・ガーデン』は旧時代からの遺跡の跡に住み着きた人々が作った街だった。

外壁は旧時代の遺跡の名残で、あの白が特徴の美しい都だったらしい。

移籍の半分ほどは森に飲み込まれていて、元の形を想像するのは容易ではない。

ガーネットは馬から降りて関所らしい門の前に立つ。

ドライアド・フォレストへの立ち入りは厳重に取り締まりがされているらしいが、森ではなく街に入るだけならば比較的簡単らしい。

門兵のチェックも商隊だと割と緩かった。積荷と入場する人数、滞在日時を聞くだけで許可証を発行して渡していた。

どうやらあれがないと入る事も出ることも、街中の施設を使うことも出来ないらしい。

自分の番が来た、とガーネットは馬を引いて門へと近づく。


「止まれ」


門兵の声に立ち止まり、ガーネットは腰に提げた道具袋の中から一通の書状を取り出す。

それは出立の間際に唯一父王から渡されたもの。

ヘリオライト国内ならば何処に行ってもその身分を証明し通行を許可されるものであり、王の玉璽もきちんと入っているものだった。

しかし、そこに記された名前はガーネットではなかった。


「名前を」

「……アガット。アガット=シーデーン。国王陛下より北海の調査の勅命を受けて王都より北上しております」

「それはそれは…お疲れ様です!……はい、入場許可証です。シーデーン様のタイプは出場時に返還頂く必要はなく、それがあればこの街には好きに出入りできる様になっております、が」


人好きのする笑顔で告げる門兵が不意に表情を引き締めたので、ガーネットも気を引き締める。


「間違っても森へは入らないでください。この森は、余所者には厳しいのです。生きて北海の調査へ行きたいのであれば、森には立ち入らないでくださいね」


手の上にかしゃん、と落とされたその許可証は白い木で出来ていて、そこに精緻な彫り文様が描かれ翡翠の染色液が流し込まれており、それひとつで既に芸術作品のように美しかった。


「この許可証の木は、ドライアド・フォレストの中心にある大木、ユグドラシルからドライアドたちが削り出して作ったものなので、この森の結界の中を通れるようになります。なくしたら再発行料かかるから気をつけてくださいよ?」


お人好しの門番に手を振って分かれ、大きなアーチを描く門の中へと入っていく。

薄く緑色に張られている幕がきっとドライアド・フォレストの結界なのだろう。

ほんの少しの抵抗感の後、手に握る許可証が翡翠色に発光したかと思った瞬間、抵抗感がなくなりするりと門の中へと入ることが出来た。

これも魔法の力なのだろう。ガーネットには扱えない力である。


「……すごいな」


門の前、大通りは旅人や行商人のための露店が所狭しと並んでおり、大バザールと化していた。

お祭りのような騒ぎ様に感情に乏しいガーネットも思わず口元が緩んでしまう。

先に今日の宿を、と大通りを抜けて、厩がある宿を探す。

冒険者御用達の店だけあって、宿は多く、呼び込みの数も多い。

元冒険者の騎士団の人が言うには、呼び込みを素直に信じて泊まるのは愚か者。酒場にて情報収集するのが吉。と言っていたのを思い出してそちらへ向かう。

冒険者ギルドに併設されている酒場が一番良い、と馬をギルドに預けて中に足を踏み入れる。

ざわざわと騒がしい中、小さな黒衣の騎士が踏み入った事で気にならないらしい。

ギルドカウンターに座る女性の元に向かい、フルフェイスの目の部分をかしゃり、と持ち上げる。


「すまない、馬を連れているんだが、おすすめの宿はどこだ?」

「馬、ですか?それならば『木漏れ日の緑亭』がオススメですよ」

「木漏れ日の緑……」

「馬も安価で預かって……あら?でも、その、馬は?」

「外でここの厩に連れて行く、というものに」


その言葉に、受付嬢の表情が曇る。


「…………大変申し訳ありませんが、そのもの恐らくこのギルドの職員ではございません」

「……は?」

「やられちまったなぁ坊主!」


途端、笑い声が上がったテーブルを見れば冒険者らしき男達がこちらを見て笑っていた。


「そいつぁ馬泥棒だよ、坊主。まぁ、もう馬は諦めてこの街で買いなぁ」

「……そうか。勉強になった」


丁寧に頭を下げれば冒険者らしき男の一人は驚いたように目を丸くしてからゲラゲラと笑い声を上げて立ち上がり、ガーネット、もといアガットの肩をばしばしと叩いてきた。


「坊主!おまえいい所の出だろ?馬泥棒されたってのに勉強になったなんてぇのは、俺ら平民じゃあ言えねぇからな」

「む、……そうか」

「おもしれぇなアンタ。馬が欲しいならいい店紹介してやるよ!」


馴れ馴れしく方を組んできた男の首にはドッグタグが掛けられていて、鈍い銀色と赤銅色のタグが二つついていた。


「……エドガー?」

「ん?おう、それが俺の名前だ」


短く刈り上げた金色の髪に、茶色の瞳。よく日に焼けた肌に、目の下に三本の爪の傷跡が特徴的な男はエドガーと名乗り快活そうなその表情が良く似合う精悍な顔立ちの男だった。

背も高く、アガットよりも頭一つ分ほどでかい。

フルフェイスメットの目の部分だけをかしゃりと持ち上げて見上げれば、赤い瞳のアガットにひゅう、と口笛を吹いた。


「綺麗な紅玉眼の坊主だな」

「紅玉眼…?それより、坊主ではなく」

「アガットだったな。すまねぇな。それじゃあ行くとするか」

「行くって、どこへ?」


アガットの問い掛けに、エドガーはにかりと笑った。


「決まってんだろ?馬を買いにさ!」





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