第3話
旅路は順調だった。
馬の乗り方も戦い方も野営の仕方も全て騎士団に所属する元傭兵たちが教えてくれた。
まるで自分の娘のように、あるいは妹のように可愛がってくれたお陰で、実の家族からは無いものとして扱われてきたガーネットが腐らずにいられたのは、彼らの影響が大きい。
ガーネットを鍛えてくれたノリノリのおっさんは、どうやら相当の実力者だったらしく非力な私の剣でも襲ってくる魔物は楽に倒せた。
ゴブリンのような、人の形に似たものを切る時は少し抵抗があった。
それも数をこなせば慣れたが、それと同時に人としての心がすり減って行くのを感じた。
角の生えたホーンラビットを屠った時、親を殺されたと飛び込んできた子うさぎをなんのためらいもなく斬り殺した時、ガーネットは自分が前世の時とはもう違うということを確信した。
命あるものを簡単に殺してしまって、なんの嫌悪感も無い。
血にまみれた細身の剣を振るって血と脂を払い、鞘に収めてから毛皮と、角と、肉を丁寧に分けてから袋の中へとしまっていく。
それから馬に跨って逃げるようにひたすら北へと走った。
前世ではこんなふうに生き物を殺した事なんてない、平和な日本という国でぬくぬくと生きていた。
今は違う。
少しでも油断したら、死ぬ。
初めて実感としてその恐怖を心が感じ取って、身体が震える。
このうさぎのように誰かにいとも容易く殺されてしまうのだろう。
竜にたどり着くまでに死んでしまうかもしれない。
城を出るまでは死んでもいいだなんて投げやりに思っていたけれど、今、はっきりと知覚した。
「死にたくない」
ぼろぼろと涙が零れてくるのを止められない。フルフェイスの兜の下で泣きながら、自分が殺し、解体して肉となったホーンラビットの前に跪いて両手を合わせて、祈る。
命をつなぐ糧となってくれてありがとう、ともの言わぬそれに祈る。
女神になんかじゃない。
神に祈っているんじゃない。
自分が殺めた命に赦されたいから、生きたいから、祈るのだ。
ひとしきり泣いてから野営の準備をして、自分が葬ったホーンラビットの肉を更に捌いて料理の支度を始める。
野営の仕方は騎士団の人達に聞いていたし、食べられる魔物と食べられない魔物の区別も教えてくれた。
ホーンラビットは厳密には魔獣という扱いらしく、魔獣の肉は大抵食べられるらしい。
味も食感も普通のウサギと変わらないと、酒を飲みながら言っていた。
シチューにして食うといい、と言っていたけど、野営する時はそんなことは出来ない。
食材にも調味料にも限りがある。
生き物こうして、他の命を刈り取りながら生きていく。
その意味を真に理解したような気がした。
国の北側。氷海に聳える山。
お伽噺の竜の眠る山へと馬を走らせた。
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