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死にたくない姫と千年竜  作者: イチ
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プロローグ

初めまして。イチと申します。

初めてオリジナルの小説を書きます。誤字脱字の指摘などありましたらよろしくお願いします。

私には産まれた時からもうひとつの記憶があった。

厨二病とかじゃない。そんなちゃちなもんじゃない。

前世、ともいうべきそれは、この世界ではない、別の世界の話。

魔法も魔物も龍もいない、鉄の塊が空を飛んでいた世界の記憶。

そこで私は、一匹の猫を助けて、車に轢かれて死んでしまった。

白い毛皮の、みすぼらしい野良猫だったけれど私はどうしてかその猫を死なせたくなかった。

だから、轢かれると分かっているのに誰も動かない人垣を掻き分けて飛び込んだのだ。

そうして、その猫を抱き上げて放り投げ、私は。





目が覚めると私の顔を覗き込む女性がいた。

最初はその人が母かと思ったけれど、よくよくその人の話す言葉を聞いているとそうではないことが分かった。

それは母ではなく、母の世話をする為に遣わされた侍女。今ではもっぱら私の面倒を見る係になっている。

貴族の、それも王族の女性ともなると自分で子育てはしないらしい。

侍女と言うよりも乳母と言った方が正しい栗色の髪の綺麗な女性は、可哀想に、と私を抱きながら呟いた。


「ガーネット姫様は正統なる後継者なのに、お可哀想に」


乳母の髪色と同じ瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちて、私の頬に落ちた。

手を伸ばして、もみじのような手で触れようとすれば、彼女は自分から私の手へと頬を押し当ててくれた。

あたたかく、柔らかい頬。

抱き締めてくれるふくよかな胸。優しくあたたかな腕。

乳母の瞳からハラハラと零れ落ちる涙は美しくて、悲しくて、私は赤ん坊のせいで感情の制御が出来なくて、私の為に泣いてくれる彼女に引き摺られるように泣き出してしまった。

喃語しか喋れなくて、この気持ちを言い表せなくて、背中をとんとんと優しく叩かれあやされてしまえば眠気が襲ってくるこの身体が忌まわしくて、むずがるように手足をばたつかせる。


「うつくしいガーネット姫様、どうか神様、この子に祝福を」


乳母のカテリーナの言葉に、神なんていない、そんな事を思っていた時期が、私にもありました。



自分が転生してると気づいたその日の夜。

夢の中。そう分かっているから手足は自由に動いた。

関節ぐにゃぐにゃの赤ん坊の体なのに立ち上がれたのは夢の中だから。そう結論づけて、真っ白で何も無い世界をきょろきょろと見回していた。


『夢の中だって気付いてるんじゃな』


目の前に現れたのは、美しい女神様だった。

金色の髪にサファイアみたいに真っ青な瞳。頬は薔薇色で唇は美しい桃色。肌は白く透き通るようで、豊満な肢体。けれど括れるところはちゃんと括れてるボンキュッボンのナイスバディの女神様が小さな私を見下ろしていた。


「神様はいないと思っていました」

『そのようじゃなぁ。わらわはここに存在しておる。ぬしの国では女神教が国教になっておるぞ』

「へえー」

『気の抜けるリアクションじゃのう』

「前世を知ってるならそうなるのも当然だろうね」

『…………手違いだったのじゃ』


女神は眉をしかめて私を見下ろしていた。

今なんつった?この女神。


『ぬしではないものをこの世界に連れてきたかったのじゃが、手違いでぬしがあの猫を助けたせいであそこで死ぬ人間があべこべになり、間違えてぬしを連れてきてしまったのじゃ』

「……はぁ?」

『すまぬ。故にわらわはぬしに大した加護も付けられぬ。付けとうないのじゃ。わらわは美しい男子を求めておったのに』

「不祥事揉み消しついでに本音暴露してんじゃないよコラ」

『剣術Lv.MAXとステータス補正も付けてなんと王族の娘という家柄もつけよう』

「いらんわ!普通に生きる!」

『ちなみにこれは事後承諾じゃな』

「ふざけんな!おい、やめろ!やめろ!王族の娘とか絶対に嫌なフラグ!立つから!不幸レベルMAXなんだろ!?」


何故か目を逸らした女神にそれが間違いではないと知り、私は全身の血の気が引く思いがした。


「やめ、やめろ!今すぐ私を正しい輪廻転生の輪の中に戻して!!」

『すまぬ、それは叶わぬ願いなのじゃ。すまぬ……』

「あっ、ちょっと!すまぬとか言いながら消えていくのやめろよ!ちょっと、ねぇ、ちょっと!!」


白かった世界が端から崩れていき、そうして暗闇へと飲み込まれていって、私は目が覚めた。

火がついたように泣き出した私を抱き上げてくれたのはカテリーナで、泣き止むまで優しくあやしてくれたカテリーナの豊満な胸へと顔を埋めて、私は誓った。

何が何でもこの世界で生き延びてやる。

齢0歳の私はそう心に決めて、ふかふかの柔らかい胸の中でまた眠りに落ちるのだった。


しかし世界はそう私に優しくはなかった。


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