鬼ヶ島に鬼退治に来たが、返り討ちにあいそうです。
不味った。
この状況から説明させてもらおう。
鬼に囲まれています。逃げ出す隙もなく。はい。
刀は折られました。
当然ですよね。金棒ですから。
「お、俺を食ってもお、おいしくないぞ!」
それでも鬼たちはじわじわと包囲を狭めてくる。
ここで俺の人生は終わりか……。
奥さんも居ないし、孤独な人生の終焉にこれだけいれば悪くは無いか。
だって、幕府の鬼退治の派遣で金だけが良かったから。
「なにビビってんの?」
「は?」
「ほら、こっちだよ! さっさと仕事してもらわないといけないんだから!」
いきなり少女が顔を出して、俺の手を掴んで奥へと連れていく。
鬼たちも一仕事終えたような様子で会話が弾んでいた。
少女の行く道は鬼たちがどいてくれた。
いや、少女に対して笑顔で見送っている?
少女の頭に角は無いし……。どういうことだ?
「ほら着いたぞ! さっさと着替えて窯を見てくれ! こっちは忙しいんだぞ!」
「あ、ああ。でもなんで炊事場?」
「ごちゃごちゃしてないで着替えた!」
少女の言う通りに甲冑を脱いで袖を締め上げて窯の火加減を見る。
「用意出来たら今度はこっち!」
「はい!」
用意されたのは大量の大根とまな板と包丁だった。
「さっさとしないとダメだからね!」
「えっ? 俺どうするの?」
「何って……私が洗った大根を皮剝いて煮つけ用に切り分けていくんだ。それぐらいできるだろう?」
「あ、ああ」
少女の仕事は早かった。
俺は皮を剝いて切っていくので精一杯だった。
「やるじゃん。次はイカを捌いて!」
「はい!」
イカ、菜っ葉、豆腐といろいろな具材を切り分けたと思ったら、次は火の番をして煮つけの味付け、味見して塩を少し入れてとしていたら、鬼たちが椀を持って炊事場に並び始め、中には順番を待ちきれず割込みしてケンカになっているのも見えた。
すぐに少女が割って入って仲裁するが……。
仲裁の入り方が両方とも投げ飛ばすなんて……。
「よし! さぁ! ごはん配るよ~!」
その号令の元、鬼たちが椀を出してくる。
出された椀に菜っ葉と豆腐の味噌汁、イカと大根の煮つけ、ご飯をよそっていく。
何でこうなった?
鬼たちは礼儀正しく、キッチリと座って少女の方を見ている。
「全員にまわったね! では! いただきます!」
あいさつすると鬼たちも一緒にして食事が始まる。
鬼退治に来たはずなんだが、どうしてこうなった?
「ところであんただれ?」
「いや、ひっぱって連れてきてそれ言う?」
「ああ、いや、一番忙しい時間だったからな。すまん」
「いいけど。なんでここの鬼たちは大人しいんだ? 俺は幕府の派遣で鬼退治に来たのに……」
「ああ、あれは別な鬼ヶ島だったんじゃないか? 私はてっきり鬼ヶ島炊事派遣の一人と思ったんだが」
「鬼ヶ島炊事派遣? って何?」
「知らんのか? 鬼も少なくなってきたからな。保護のために炊事派遣をしているんだ」
「で、君は?」
「私は“桜桃太郎”という。女なのにおかしな名前だろ?」
ちょっと待て。
桃太郎って鬼退治の第一人者じゃないか!?
しかも女の子だし……。
「桃太郎って、あの桃太郎?」
「ん? そうだが?」
「鬼退治の?」
「そう……」
本物でした――!
世にも奇妙な“鬼ヶ島炊事派遣”のお話です。