精霊と契約
宗司は指揮官としての能力を伸ばすために騎士学校に通うことになっているので俺とは別行動だ。というか起きる気配がないので俺は心を鬼にしてたたき起こした。
「はっ!?まさか夢か」
「うん、夢じゃね?朝御飯食べに行くぞ」
朝食は西洋風でパンとベーコンみたいなものだった。まずくないけど美味しくもないって感じだったがあまり文句を言うのも悪いだろう。
食事関連も調べておこう。そしてみんなは割り振られた訓練場に向かっていった。大体の生徒は魔法学校か騎士学校に行っているが2人だけ別の場所になっている。俺は精霊神殿、野原さんは能力を調べるために研究所に行っている。俺も後で研究所にいかないといけない。
俺は案内された精霊神殿は大理石っていうのかな?真っ白の建物でいかにも神殿ですって感じだった。そして到着した途端に肩くらいの長さに切り揃えられた赤髪の女の子が飛んできてマシンガントークを始めた。
「ようこそ先輩! あたしはアトリアって言います。さて、ここで先輩に召喚をしていただきます。先に精霊のことを教えますね! ではでは~精霊とは様々な種類が存在します。属性は魔法とは違って、火、風、土、水、氷、雷、木、光、闇、特殊となってます。中にはまだ私達も知らない属性の子もいるかもしれませんからこれよりも多いかもしれないです。魔法属性以外の子がきたらラッキーですよ! おっと話がそれましたね。階級はこの表の通りになってます。妖精は一番下ですね。精霊が来てくれたら精霊使いとしては一人前ですよ。なかなか来てくれないですけどね…うううっ」
ふむ、なかなか元気で。
「うるさい人だな」
「声に出てます出てます!」
「ああ、ごめんよ」
「まあいいのです! とっとと召喚の儀式をしましょうぜ。旦那~」
「誰が旦那だ! って引っ張るな!」
「どうぞどうぞ~」
話についていけなかったがさっき説明された内容を要約するとこういうことらしい。
【属性】
火、風、土、水、氷、雷、木、光、闇、特殊
【階級】
・精霊帝
・精霊王
・大精霊
・上位精霊
・下位精霊
・大妖精
・妖精
となっている。魔法は『火、風、土、水、光、闇』らしい。属性が魔法より多いうえに強力な魔法が使えるらしいので精霊使いを目指す人は結構多いがなかなか契約に応じてくれないので実際になれる人は少ないみたいだ。
精霊帝は全属性が使える精霊の頂点で精霊王が属性の頂点となっているらしい。ここら辺は誰も見たことがないので存在しているか怪しいらしいけどな。今現在で確認されているのは大精霊までみたいだ。
まあ、下位精霊が来てくれたらラッキーだな程度に思っておこう。
「では召喚してみましょう。そこにある召喚陣に入った状態で召喚の呪文を唱えてください。そうすると呼び出せます~。後は先輩次第です! あ、何が出るかわからないので念のために騎士団の人達も一緒に同席します。影響は出ないはずなのでそのままリラックスして召喚してください」
「お、おう」
精霊以外も出てくるのか?というか何を呼び出したんだ。
「『ニンゲンコロスコロス』と叫び続ける化物が出てきました」
「お前が呼び出したんかい!!」
「まあまあ、そんなことどうでもいいじゃないですか~どうぞどうぞ」
…まあいい俺は呼び出すために陣の真ん中に立った。俺のことを見ている人はアトリアと3人ほど大臣が見に来ていて騎士団の人達は8人待機している。
「では、これを読み上げてください」
「我は求める自然の力を操る者よ。ここにその姿を現し、我に力を授けよ。『顕現』」
前の空間が歪み始めた。それも2つだ。1つ目は熱を感じる。2つ目は…なんかいろいろ感じるぞ?
「おお、先輩すごいです! 一度に2体も応じてくれるなんて! 私なんて一度も呼び出せてないのに!」
ちょっと待てや! お前、精霊使いじゃないのかよ!
そんな心のツッコミをしていると、とうとう2人が姿を現した。
「ふむ、俺を呼んだのは貴様か?俺はサラマンダー。火の大精霊だ」
最初に出てきたのはトカゲの尻尾みたいなものがお尻から生えている女の子だ。大体俺よりも少し背が低いくらいか?
腕を前で組んでいて変に胸が強調されている。大事なところは鱗で隠されているな…妙にエロいです。顔は目元が勝気な感じで自信満々なのが伝わってくる。瞳はルビーの宝石みたいでさらに体に炎を纏っていてすごく幻想的だ。こんなに近いのに暑さを感じないところは異世界だなと本当に思う。
「え、えっと…名前はないです…物の妖精で…す」
2人目は長い銀髪で瞳は翡翠色といえばいいのかな? 大体、手乗りサイズで4枚の羽が生えた女の子だ。すごく自信がなくて暗い感じだけどよく見ると目元はたれ目で優し気な雰囲気を出している。なんでこんなに縮こまっているんだろう?
「おおおおお! すごいです先輩! いきなり大精霊を引き当てるなんて羨ましい!」
俺よりもすごく興奮した様子でアトリアがしゃべっている。周りの人達もおおすごい。なんて幸運な方なんだという言葉が聞こえてくるが、その中に悪意がこもった言葉が聞こえてきた。
「フッ、役立たずの名も無き妖精が混じっておるぞ」
「なぜ勇者様の召喚に応じたのだ。消してやったほうがいいのではないか?」
「チッ、またあいつかいい加減消えちまえよ」
「ひうっ!?」
悪意ある言葉を受けてさらに妖精の子が縮こまっている。なんだか無性にイラッとしたが今は無視しよう。
「えっと、先輩…申し訳ないのですが同時に2体以上と契約すると力が反発する可能性があるのでどちらか選んでいただけませんか?直感で選んでいただいても大丈夫でしゅよ?」
「ああ、わかった」
興奮しすぎたのか噛んだな。さて、俺が一番気になるのは妖精の子だけどとりあえず2人から話を聞いていこう。
「えーと、サラマンダーでいいかな?」
「おうよ」
「どうして俺の召喚に応じてくれたんだ?」
これがどうしても気になるんだ。いきなり大精霊なんて都合が良すぎる。
「ああ? あーそれはなー、珍しい力を感じたからだ」
「珍しい力? 俺が異世界人だからか?」
「そういうことだ。この世界にないものを感じたら見に行きたくなるだろ?」
「なるほどな。確かに俺も見たくなるな」
「だろ?」
「じゃあ、君は?」
「ほへ?」
自分が聞かれるなんて思っていなかったのか腑抜けた返事をしてきた。手のひらサイズだから見ていると微笑ましくて可愛い。
「ふえっと、そ、そのにょお~、近くにいたのでその強制的に呼ばれたといいましゅかそのええっと」
俯きながら人差し指を合わせてもじもじしながらもちゃんと答えてくれた。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。そっか巻き込まれちゃったか。ごめんな」
「いっ、いえ!大丈夫です!」
悪いことしちゃったな。うーん、質問の内容を変えるか。
「じゃあ、次の質問だよ。俺と契約したらしてみたいことはあるかな?」
「俺ぁ特にねえな」
「私は…」
「遠慮なく言っていいよ。僕は怒ったり怒鳴ったりなんてしないから言ってごらん」
できる限り威圧を感じない言葉を選んでゆっくりしゃべる。
「は、はい。その、私は力が弱いので憑代から離れられないんです。ですから、その…外の世界を見てみたいです」
勇気を出して自分の気持ちを言ってくれたか…なら俺の答えは決まったな。
「よし、じゃあ君にするよ」
「え?なんでですか?」
かなり意外だったんだろう。素直にそう聞いてきた。
「一番は俺の直感だよ。でも、決め手になったのは君が頑張ろうと勇気を出したのが僕の心に響いたからだよ」
「そ、そんなことですか?普通は誰も私と契約したがりませんよ?い、今からでも遅くないです!サラマンダー様と契約してください!」
「今ので確信したよ。君がいい。いえ、あなたさえよければ僕と契約していただけませんか?」
「!!」
顔を真っ赤にして周りにまっている光の粒子の量が増えてきた。あ、恥ずかしいのか両手で顔を隠しちゃった。なにこれ可愛い。
「何もーーーですね……」
「うん?」
なんだ?声が小さすぎて聞き取れなかったぞ。
「あ!いえ、そ、その私で良ければぜひ契約してくださいっ!」
「わかった」
「ちょっと待ってくれ」
契約しようとしたらサラマンダーに止められた。
「俺とは契約しないんだろ?なら、これだけは言わせろ。その方と契約するなら今後は俺達とは契約できなくなるぞ。つまり、"俺より下の精霊達とは契約できなくなる"ということだ。それでもいいのか?」
「どういうことだ?」
「なに俺達にも…プライドってやつがあるんだよ。それにここまで馬鹿にされちゃー黙ってられないからな」
つまり、俺は精霊帝か精霊王としか契約できなくなるということか? いや、妖精達としか契約できなくなるってことか。それはつまり…
「勇者殿!それはまずいことですぞ!妖精なんて役立たずと契約せずに今すぐにサラマンダー様と契約するべきですぞ!」
様子を見守っていた大臣がそう大声で言ってきた。そんな大臣をサラマンダーはものすごく不快そうな顔で睨んでいた。
「黙れよ人間。そんなんだから貴様には誰も契約にこたえてくれねえんだよ」
「ぐっ……」
……精霊と契約できない理由が分かった気がするわ。
「で、お前はどうするんだ? ここで俺と契約して複数の大精霊と契約できる可能性を残すか、その子と契約して他の精霊と契約できないことになるか。どうすんだ?」
普通なら大精霊を選ぶだろうでも俺はこの子がいいんだ。だから俺も覚悟を決めるか。
「非常に残念だけど俺はこの子と契約するよ。サラマンダーには申し訳ないけどな」
「そうか…本気なんだな?」
「ああ、本気だ」
「わかった。その子をよろしく頼む」
「約束するよ」
とサラマンダーから頭を下げられた。
「じゃあ、契約するか」
「はい! お願いします!」
周りからすごく憎いという視線にさらされながらも契約に移る。
「我…いや、いらないかこんな呪文。ゴホン! 僕と契約していただけませんか?」
そういって手を差し出した。
「喜んで!」
そして周りに多重に魔方陣が浮かび上がる。契約を結んだことがわかるパスというか線みたいなものが繋がったのがわかった。
『<条件???が達成されました>』
…なんだ今の?気のせいか?
「くっそー。できれば俺が契約したかったぜ。俺からは代わりにこっちを贈ろう」
「いいのか?」
「いーよ。これくらいなら大丈夫だろ」
「おおう…」
俺はサラマンダーから何か温かいものをもらった。
「俺の加護だ。まあ、ないよりはましだから有効に使ってくれ」
「ありがとうな。サラマンダー」
「気にすんな。それよりその子に名前をつけてやれよ」
「ああ、もう決めてあるんだ。君の名前は"フィーリア"だ。この名前が一番しっくりくる」
そういうと2人ともかなり驚いた顔をしてこっちを見ていた。
「ハハハ!運命ってのはすごいな!ますますお前と契約したくなったぞ!」
「……大好きです」
フィーリアの声は小さすぎて聞こえなかった。ど、どうしたんだ?
「えっと、嫌だった?それとも使っちゃダメな名前だったのかな?」
「そんなことないです!ものすごく素敵な名前です。これからはフィーリアと名乗りますね!これからよろしくお願いします!」
「ああ、よろしく!」
召喚を終えて陣から出るとサラマンダーは消えてフィーリアだけが残った。そしてそこにアトリアが呆れた顔をして話しかけてきた。
「…先輩。とんでもないおバカですね…でも、先輩らしくていいですね。私も負けていられないです。必ず精霊と契約してみせます!」
やっぱりしてなかったのかよ。もしかして見習いかな?
「そうそう、後でカードを確認してみてください。契約したことで内容が更新されているはずです。この後は研究所に行かれるんですよね? 精霊使い用の装備を用意しておきますので後で研究所に持っていきますね」
「ありがとう。助かるよ」
「いえいえ、これくらいはお安い御用ですよ。それではまた後で!」
そういって走り去っていった。元気だなぁ…
大臣たちから恨めしいという視線で見られながらも俺は神殿を後にした。
フィーリアは余程嬉しいのかさっきからニコニコしながら俺の周りを飛んでいる。
「~♪~~♪」
本当に可愛いな。っと、聞いておかないといけないことがあったんだった。
「そういえば、どんな能力があるの?」
「えーと"私が知っている物"ならどんなものでも具現化することができる力を持っています。今は具現化する時だけ魔力が必要になりますけど具現化した後なら魔力は必要ないです。ただ、マスターが気を失ったりすると消えてしまうので注意してください。具現化できるのは…武器だと剣や盾、弓矢もできます。後は武器以外だと服や調理器具とかもできます」
「結構便利だな」
「そ、そうですか?それならよかったです」
"フィーリアが知っている物"だけか…銃とかも具現化できたらよかったのにな。そこは仕方ないか。そんな話をしながら研究所に向かった。