朝日に染まる町
俺はいつもの習慣のせいか早起きをしてしまった。そういえば朝御飯を作らなくてもいいんだったな。どうしようかな。取り敢えず、庭に出るか。
庭に出ると意外と広くて自由に動き回れそうだった。周りを見渡すとベンチに座っている先客がいた。
「あら、おはようございます」
ドレス姿じゃなくてネグリジェみたいな服を着ている姫様だった。ちょっと目のやり場に困るんだけど。
「おはようございます。姫様」
「謁見の時にも言ったけどアリスでいいわよ」
「あ、はいわかりました。えっと、俺は」
「西城蓮でしょ? 知っているわ。蓮って呼ぶわね」
…思わず呆けてしまった。もしかしてカードの情報から知ったのか?
「わかりました。アリス様」
「様もいらないし、敬語も使わなくていいわよ」
「…わかった。で、アリスはカードの情報をすべて覚えているのか?」
「正解。気になる人はすべて覚えているわ」
「すごいな」
「それくらい当り前よ! えへん!」
なんだろう。おしとやかなお姫様のイメージがガラガラと崩れていく音がするぞ。
「フフ、先に本題に入るわね。朝食を食べ終わったら精霊契約をするから先に精霊神殿に案内するわ。そこで契約すればあなたも多少は…戦えるようになると思う…うん」
そこは確信を持って言ってほしかったな。
「ありがとうアリス。というかアリスはなんでこんなところにいるんだ?」
「うん? ああ、もうすぐでその理由がわかるわ。ほらあっち」
指をさして方向を見るとちょうど日が昇ってくるところだった。すごく奇麗な景色だ。太陽も空の輝きも下に広がる自然もみんな生き生きとしている。都会ではあんまり見ることができない景色だ。朝日に照らされる建物も幻想的で奇麗だ。
「奇麗だな」
「そうでしょう? ここは私のお気に入りの場所なの」
「そっか…この景色を守るために頑張らないとな」
「フフッ、ありがとう」
ふんわりとした年相応な笑顔でこちらを見つめて微笑んでいる。こっちのほうが素っぽいな。
「そうやって微笑んでいるほうが可愛いな」
「ふへっ? フフフ、アハハっ!」
え? なんだ? どうして笑っているんだ?
「ごめんごめん、ナチュラルに口説かれたからびっくりしただけよ」
「あ…」
よく考えたらアリスの言う通りだ。なんてきざったらしい臭いセリフを言ってしまったんだ。
「次からは発言に気を付けてね。私はもういくわ」
「お、おう。ごめんな」
「謝らないの~じゃあね!」
そう言ってアリスは立ち去ろうとしたが一瞬だけ耳元に近づいてきて小声でこう言ってきた。
「気を付けてね」
そう言ってきたということは何かあるのかもしれないな。警戒はしておこう。
「ふふっ、楽しくなりそう。"リア"はどんな反応するかな?」
その言葉は色々と考え始めた俺に聞こえることはなかった。