迷宮攻略
蓮君が眠りについてから桜は悶えていた。それはもう尻尾をブンブン揺らしながら顔を真っ赤にして頬を抑えていた。よくよく考えたら私お風呂に入ってないよね!? あ、汗だくの状態で寝ちゃった~!? どうしようお風呂に入ろうと思っても私水を出せないし、それにこんなところにお湯なんてないだろうしどうしよう! 私変な匂いしてないよね。クンクン、蓮君の匂いだぁ…。えへへ~、ハッ! 何考えてたんだっけ? えへへ~やっぱり蓮君の匂いはいいね~。
蓮が関わると少しおバカになってしまっていた桜であった。
「うん? …おはよう、野原さん」
目が覚めて声をかけるとケモミミをビックーンと逆立ててこっちを向いてきた。
「お、おはよう。西城君」
「ごめん、いつの間にか寝ちゃってた。ちょっと顔を洗わせて」
俺は錬成で洗面器を作って水を張った。そして顔を洗って意識をはっきりさせた。やっぱり冷水は寝起きには効くなぁ。
「これタオルだよ。野原さんも顔を洗ったら?」
「ありがとう」
野原さんも俺と同じように張りなおした水で顔を洗った後、顔を左右に振って水を払おうとしていた。ってまさか獣化の影響か。途中で気づいたみたいでちゃんとタオルで拭いていたけどもう無意識レベルになってるんだな。まるで水浴びをした獣…あ、よく考えたら野原さんお風呂に入りたいんじゃなかろうか? 女の子だしそこはかなり気にしてそうだな。お風呂を用意しようと思っても魔力が持たないな…ごめんよ野原さん。
「ごめんね。お風呂に入りたいだろうけど流石に魔力が持たないから今は我慢してもらうしかないんだ」
「うっ、ううん大丈夫だよ。それよりも早くここから脱出しよ?」
気を遣わせちゃったな。後で何とかお風呂を用意できないか考えてみるか。さてと、後片付けを終えてから出発する。鉱石や道具はブルモオンから得た皮を使って袋を作った後、アイテムバック化して収納しておいた。ちなみに作り方は魔石に空間魔法を付与してから錬金で袋に練りこむだけだ。魔石のサイズによって収納できるスペースが変わる。魔石はそこら中にあったので材料には困らなかった。通路のほうに耳を澄ませるとブルモオンの声は聞こえてこないし索敵にも引っ掛からなかったので通路側に穴をあけて探索を始めた。しばらく進むと入ってきたところとは違う扉にたどり着いた。
「いくよ」
「うん」
意を決して扉を開けるとそこには何やら看板が立ててあった。部屋は一直線になっていて奥に次の扉が見えていた。看板はちょうど中央にあったので周りを警戒しつつ看板に近づいていくと何か書かれていたので読んで見るとこんな内容だった。
『マッスルトレーニング! どんな初心者でも筋肉ムキムキマッチョマンになれる最高のトレーニング! これであなたもマッチョ間違いなし! ただし、失敗すると死にます』
「「何これ?」」
そういうのと同時に4mしかない天井が急に落ちてきた。俺達はとっさに手を上に掲げて天井を受け止めた。
「「重い!!! というかこれトレーニングじゃない!」」
天井が迫ってきているのでとっさに受け止めたけどこれじゃあ一歩も動けない。さっきから錬成を試しているけど全く受け付けてくれない。腕や体から嫌な音がしてきたがどうやら最初の時と同じように回復されているようで何とか耐えれている。ふと看板を見ると内容が更新されていた。
『マッスル! どうですか? うちのトレーニングはよく効くでしょう? 効きすぎて昇天する人ばかりなんですよー』
「「それ死んでるじゃ(ない!)ねえか!」」
『残り5時間』
「「無駄に長い!」」
『残り6時間』
「「増えたぁ!?」」
それからは2人とも黙って耐えていたが少しずつ必要な力が増えていく。どうやら天井の重さが徐々に重くなっているみたいだ。と、トレーニングだとしてもスパルタすぎるだろこれ! 何とか6時間耐えきってこの地獄から解放された。そしてすぐにこの部屋から出ていく。というかこんな危険な場所から早く離れたかった。
「「酷い目にあった…」」
次の扉を開くとそこにいたのはダッシュする気満々のブルモオンがいた。
「「ですよねー」」
その後、再びマラソンをすることになった二人であった。ただ、今回は前回よりも苦労することなく周回することができていた。そして前回と同じく横穴に避難してブルモオンを捕獲した後にお肉を食べながら話をしていた。
「酷い目にあったね。特にあの看板のあれはかなり効いたよ」
「あれはなぁ。そもそもトレーニングじゃないだろ」
「それはそうだけど。でも、私結構、筋肉ついたんじゃないかなって思うんだ」
「そういえば前よりも引き締まってるね」
「そういう西城君も引き締まってるよ」
「…なぁ、その西城君っていうのやめない?」
「うん?」
「昔みたいにさ蓮君でいいよ。それにちょくちょく蓮君って呼んでるしさ」
「で、でも」
「俺も桜って呼ぶからさ。野原さんがいいなら呼んでもいいかな?」
「…西城君がいいなら。うん、桜って呼んでほしいな」
「わかった。これからもよろしく、桜」
「こちらこそよろしくお願いします。蓮君」
2人で見つめあって微笑むと気恥ずかしくなって俺は頭をかきつつ肉を食べていた。桜も恥ずかしかったようで一心不乱に肉を食べていた。
食べ終わった後は採掘してきたミスリル鉱石を使って銃を作成していた。といっても既存のものをただミスリルにしただけで特に手は加えていない。弾薬もミスリルで作成して付与しておく。ちょっとだけ銃が派手になったな。緑色の銃なんて見たことないけど。
「その緑色のってミスリル?」
「そうだよ。とりあえず、試し打ちしてみるね」
即席で作った的にめがけて6発連続で発砲する。的には中心に的確に当たってさらに命中した場所はえぐれていた。命中率はかなり良くなっていて威力も結構上がっている。前の銃は岩を破壊する威力はなくて木を破壊する程度の威力だったけどこれはいい改良になった。というかミスリルがあればすぐにできたってことだよなこれ。
「すごい! 百発百中だね!」
「まあね。これなら弱体化しなくてもよさそうだから初期に作ってあったほうに作り直すか?」
うーむ、強度に問題があったから9ミリ弾しか使えなかったけど45ACP弾に変更しても大丈夫かな。一応、大失敗したマグナム弾のほうも後で試すか。さっそく弾薬を用意してシリンダーも調節してから発砲すると見事にシリンダー部分から壊れてしまった。
「蓮君、大丈夫!? 血が出てるよ!!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと痛いだけだよ」
最近、痛みに慣れてきたのか分からないけどこれくらいなら何とも感じなくなってきていた。というか失敗か…弾薬の威力も上がってるからミスリルだと強度が足りなくなったか。なら硬度上昇を付与するか? でも、それだと反動がなぁ。悩ましい。
「何を悩んでるの?」
俺は強度を取ると反動が酷くて衝撃吸収を取ると強度が足りないことを簡単に説明した。すると意外な発想を桜は教えてくれた。
「それって部品1つ1つに分けて付与できないの?」
正直、目から鱗が落ちるというのはこのことだと思った。なんで俺は今まで銃本体にしか付与できないと思ってたんだろう。さっそくシリンダー(弾薬を装填する場所)とバレル(発射した弾が通る場所)に強度上昇を付与してストック(手に持つ場所)に衝撃吸収を付与した。実験の結果は成功だった。いや、最高って言ってもいいくらいだ! これで武器作成の幅がもっと広がる!
「ありがとう桜! これでかなり強化ができる! さっそく他の道具も作成にかかるよ」
「おおおう!? どういたしまして?」
今までは名前は付けてこなかったけど完成形態に近いから暫定的に名前を付けようかな。『カリバー』にしよう。いつの日か完全に完成させることができればもう一つ名前をつけ足す予定だ。今はまだ口径を意味するこの名前で十分だ。さてと、マグナム弾も試すか。うん、結果は失敗だったと言っておこう。一応、切り札にはなりそうではあるけど。次はアダマンタイトを手に入れてから試すか。あるといいんだけどな。それからは次々と武器を作成していくけどパーツを作っている最中に一番、重要なことに気が付いてしまった。
「よく考えたらこの銃を作ったとしても弾薬の供給が間に合わないんじゃ?」
「…今作ってるのって短機関銃だよね。確かに無理だと思うな」
よく知っているなと思うがその通りなのだ。作成に選んだのはウジーという銃だ。その中でもマイクロウジーというタイプのものを作成している。選んだ理由は比較的に構造が簡単だったというのと携行しやすいからというのが理由だ。性能はフルオートで撃つと毎分1400発というとんでもない瞬間火力を出してくれるが、その分反動がすごいから色々と工夫されているみたいだけど俺には衝撃吸収という付与があるから反動は気にせずに使用できる。
だけど今書いた通り毎分1400発という速度で消費するから毎回100発以上作らないといけないってことだ。マガジン(大量の弾薬を込めておけるパーツ)には空間魔法を付与してさらに大量に装填できるようにする予定だ。できるなら100発は装填できるくらいにするからマガジンは最低でも3つは用意しておきたい。つまり300発必要ということだな。2丁持ちにするなら600発か。それを二人分用意するなら1200発…そこまで計算してから考えるのをやめた。
ここに来た時に石で30発を作成したけどそれは材料がそこら辺にあったからこそできた芸当だ。今の弾薬はミスリル鉱石を使ってあるから採掘もしないといけない。そんな数を用意しようと思ったらどれだけの時間がかかるかわからない。とりあえず、今の手持ちで用意できるのは200発が限界だ。だから短機関銃は通常時での戦闘で使用するのはやめたほうがいいかもしれない。使うとしたら大量の敵が襲ってきたときの制圧射撃くらいだろう。念のために桜に持たせておいて身に危険が迫った時は遠慮なく使ってもらおうかな。
当分はリボルバーを使っていくことを決めた蓮だった。ちなみに45ACP弾をウジーに使ったら壊れました。もうここまでくるとその銃に合った大きさの弾薬を自分で作ったほうがいいかもしれないな。取り敢えず、壊れるギリギリまで試していくか。そこからはひたすら作成しては実験を繰り返していた。ある程度実験が終わったところで迷宮の攻略を始めた。基本的にこの迷宮は三つのタイプしかないことが分かった。強制全力マラソン、天井が落ちてくる罠の部屋、壁から罠がランダムで飛び出る通路、そしてボスがいそうな部屋を見つけていた。明らかにどの部屋の扉よりも巨大だったからボス部屋じゃなくても何か大切な場所の可能性が高い。ということはそこに次の階層へ行くための階段があるんじゃないかと思っている。
ここまで調べるのに何回マラソンや罠にかかったことか…おかげで色々と鍛えられたよ。もう2人ともどっちの罠も余裕でクリアできるレベルになっていた。もしも、ここにステータスカードがあったなら2人は気づいていただろう。自分たちのステータスが天野たちを完全に超えていることに。そして2人は攻略に乗り出す。
「ここだ。扉の向こうに敵の反応が一つだけあるね」
「うん、私も向こう側にブルモオンなんて比べ物にならないくらいの巨大な気配を感じるよ」
意を決して扉を開くと部屋は最初に来た部屋と同じ構造だった。ただ違うのは中央にブルモオンが待っていた。4mはあるんじゃないかというくらいのサイズで立派な角に体には何やら紫色の魔方陣みたいな模様まであった。今まで罠に嵌めてきたブルモオンとは格も違うのがはっきりとわかる。それくらいプレッシャーがすごい。
「「ゴクリ」」
唾を飲み込み、いつでも戦闘態勢に入れるように準備する。回復薬などは材料がなかったため用意できなかったけどそれを補うために武器はかなり充実させたからミスさえしなければ倒せるはずだ。少しずつ近づいていくとボスが目を開き語り掛けてきた。
『ほう? ここまで来れるとはなかなかの実力者だ』
「「…しゃべった?」」
『すまぬな。人などもう何百年も見ておらんのでな。つい懐かしくなり語ってしまった』
あっけに取られてしまったが話が通じるなら情報を引き出せるかもしれない。
「いや、こちらこそ。勝手に侵入して申し訳ありません」
『うむ? ここがどこなのかを知っていてここに来たのではないのか?』
「気が付いたらここにいたんです。できることなら帰りたいのですが」
『…なるほどお主らがそうであったか。ならば我も本気を出さねばなるまい』
「いえ! できることなら戦闘をせずに」
『何を抜かしておる! ここは弱肉強食の世界。欲しいものがあるのなら我を倒してから要求するのだな。我の名は爆走獣ブルド。【試練の迷宮】第一階層を守護する者なり』
言い終わった後はブルドは戦闘態勢に入った。
『ブオオオオオォォォーーーーー!!!』
「話し合いは無理そうだ。こっちも戦闘開始!」
「了解!」
第一の試練、爆走獣ブルドとの戦闘が始まった。




