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異世界の契約者  作者: 木剣
第一章 異世界へ
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オーガ討伐

翌朝、クラスメイト達は騎士学校の運動場に全員集まっていた。ここでオーガ討伐の作戦を団長が拡声器みたいなものをもって伝えていた。

「我々はこれからオーガ討伐に赴く! 前回の竜討伐と違い騎士団が主体となることができない。だからこれが勇者たちにとって初陣となる! 初めて魔物と戦うものもいるだろう。だが、決して怯えずに勇気をもって戦ってほしい。いいか? 戦いの場では何が起こるかわからない。皆、決して気を抜かぬように! では、作戦を説明する。まず、4チームに分かれてもらう。つまり、オーガは1チーム一体で対処してする。天野達のチームには速攻でオーガを倒してもらい、その後は各チームの援護に回ってもらいたい。残りの3チームはオーガを無理に討伐しなくてもいい。あくまで抑えるのがメインだ」



大体作戦の内容を把握し終わった後、俺は周りを見渡してクラスメイト達の様子を確認するとため息をついた。皆、これをゲームのイベントと思っているのかすごく気楽な様子が漂っていた。ひどい奴はおしゃべりをして作戦を全く聞いていなかった。本当に大丈夫なのか?そんな不安を抱えながらも俺は自分の責務を果たすために地図を取り出した。この地図には俺の技能で敵の位置が常に表示されているので今どこにいるのかがわかる。敵の位置を確認するともう近くの村を通過した後みたいだった。住民の避難はすんでいるから被害はほとんどないだろうけど。


そういえば、蓮がいねえな。いつもだったら作戦だけでも聞きに来るはずなのにな。しょうがねえあれ使うか。地図から蓮を指定して頭の中で呟く。

『おーい、蓮今どこだよ。作戦会議もう終わんぞ』

これは俺の技能で地図内にさえいれば念話を飛ばすことができるやつだ。ただ、どの技能も戦闘に入らないと効果を発揮しないから何とも言えないけどさ。今は蓮が作ったでかい地図にオーガがいるので戦闘中という判定になっているためこうやって念話を使うことができる。

『ああ、試作してたら眠くてなー。ちゃんと念話で作戦は聞いてたから内容は大丈夫だよ』


『またなんか作ってたのか。ほどほどにしとけよ』

『へーい、つか俺の出番ないじゃないか』

『もう十分働いただろ。後は俺たちに任せとけ』

『無理はするなよ』

それを最後に念話を切った。さて、ここからは俺の舞台だ! 頑張るぞ。



騎士団の人達と共に戦闘予定地へと移動を開始する。俺は前回の竜討伐と同じで後方に陣取った。戦闘能力がないから前線に行っても瞬殺されるからな! さて、今回の俺は前回とは違う。その技能をさっそく使った。

「<統率>の範囲設定。<命令オーダー>『防衛』。陣形『鶴翼かくよく』(形はV字)」

クラスメイト達には先に命令を出してあるからこれは兵士や騎士団達を対象にしたものだ。団長はサポートはできないといったが全く戦闘をしないというわけじゃないので誰一人として死なせないためにこうして能力を少しでも底上げしておく。


この作戦は先に弓や魔法で一斉攻撃を行った後、クラスメイトが突撃するというものだ。オーガとの戦闘が始まれば4チームに1人ずつ配置した防御能力が高い人に回復魔法を掛けつつ、抑え込むという感じだ。そしてメインアタッカーである天野のチームが弱らせたオーガを速攻で倒していけば俺達の勝ちだ。だけど問題はオーガの周りにいるオークやゴブリンだ。なんせ数が多いので対処できないことが起こってくるだろう。そこで俺の出番だ。リアルタイムで騎士団の人達に命令してフォローしてもらうことにした。


どのチームに不測の事態が起きたとしてもすぐに対応できるようにするためにこの陣形にした。

ここまですれば大丈夫だろう。後は天野たちの活躍に期待するしかない。つかぶっちゃけ天野のチームが失敗したら終わりだ。まあ、あいつなら大丈夫だろ。一番調子にのるくらいチートだし。


大きく息を吸って吐く。そして前を見つめる。ここからは人の命が掛かっている。俺は何としても誰一人として死なせるつもりはない。あの竜討伐の時に決めたんだ。だからやってやるよ見ててくれアトリア。

『「オーガ達が来るぞ! 後一分後にこちらと接敵する! 皆、生きて帰って来いよ!」』

俺は念話を使いながら大声で喝を飛ばした。それを見た団長はフッと笑っていたが俺はそれに気づくことなく地図を覗き込んだ。



「一斉攻撃開始! 魔法第一射放て! 続けて第二射も放て。全軍突撃!」

「『おーーーーー!!!!』」

ゴブリンに魔法が命中して数が減っていくゴブリンは6体、オークは2体削れたか。この調子で敵全体を消耗させればこちらが有利になるがもうすぐ前衛部隊がゴブリンと衝突する。これ以上は範囲攻撃はできないから味方の位置に気を付けてピンポイントで矢か魔法を叩き込むしかない。


地図を確認していると天野たちがさっそく突っ込んでいった。

「お前らごときに俺達を止められるかよ! 『地天撃』」

地面のヒビから光の波を放出しながら突き進む斬撃を使っていた。うわあ、今のでオーガを1体倒せたな。本気でチートじゃねえか。他にも狙撃や幻術で相手を撹乱していて敵の1チームが一瞬で機能しなくなった。攻撃しようにも鈴木のシールドで全部防がれているし、これなら後一分もしないうちに4分の1を倒せるだろう。


「<命令>『攻撃』。陣形『複縦陣ふくじゅうじん』(形は二字)」

複縦陣で遊撃できる部隊を用意しておく。遊撃部隊になったものは魔法で狙撃してもらうことで敵を減らしさらに数の有利を確保する。

『報告! 左翼方面でゴブリンに4体ほど前線を抜けられました!』

しまった! どうやら敵に偏りができたみたいだった。一時的に敵の数が増えたことで均衡が崩れたのか。でも、大丈夫だ。それくらい想定してある。


「遊撃部隊、陣形『鶴翼かくよく』」

『打合せ通りに』

襲われる後ろの魔術師部隊に防御陣形を指定して一体に集中砲火するように動いてもらう。すかさず前衛には単横陣たんおうじんを指定しておく。これで攻撃力を落とさずに防御力を高めることができる。

『ありがとうございます。こちらの被害は一人負傷で抑えられました』

『わかりました。治癒後、すぐに陣形を元に戻します。<命令>『治癒』』

近くにいる治癒師に命令を出して効果を高めた回復魔法を使ってもらう。手間がかかるけどこれならすぐに傷が癒えるから積極的に使っていく。


そうこう言っているうちに天野たちが3体目のオーガを倒していた。水谷の魅了の効果もあり、もはや相手の指揮系統は完全に混乱していて全く統率が取れていない。相手が散り散りになって各個撃破が容易になったので騎士団の負担が軽くなったのか少し気が抜けた雰囲気があったが、俺はまだ気を抜かずに集中する。ひとまず、山は越えたと安心はしているけど。息を大きく吐き出したのがきっかけだったのか最後に残ったオーガが突然背中を向けて猛ダッシュで逃げ出していった。

「おいおいなんだよあれ逃げていったぞ」

「うわ~しらけるな。というか楽勝だったな」

「逃がすわけないだろ」


そのオーガを逃がすまいと天野が追いかけるが俺はものすごい違和感に囚われていた。なぜこのタイミングで逃げ出したのか? 逃げ出すタイミングならいくらでもあったはずなのだ。なのにこの時を待っていたかのように走り出した。なんなんだ? 何が気になるんだ。それが気になり地図で逃げた先を確認するがそこはただ岩がむき出しになっているだけの場所だ。罠も何もない…どういうことだ? 千里眼でその場を確認すると俺はオーガの狙いに気がついた。

『天野! オーガの腕を切り落とせ!』

『は? 腕がどうかしたのかよ』

『いいから早く!』

そう命令を飛ばすがあと一歩遅かった。オーガは岩場にあった重力石が混ざった大きな岩を持ち上げて投擲体勢に入っていた。

「そういうことか! 『破断』」


天野が技を放つがそれでも一歩間に合わず、岩が城下町に向かって投擲されてしまった。無事に飛んでいく岩を見てオーガはしてやったりと俺達のほうを見て笑っていた。

『魔術師部隊! 迎撃準備! 絶対にあれを止めるんだ!』

魔術師部隊が岩を落とすために魔法を放つが勢いは落ちずに4分の1くらいしか削ることができなかった。その破片の一部が俺の近くに落ちてきた。落ちた場所を見ると1㎝くらいの破片で地面にめり込んでいる。こんなものが城下町に落ちたらただじゃすまない!


『いい手は何かいい手はないのか!?』

迎撃はできなかった。マジックシールドは距離的に届かない。あれを防御できる固有技能をもったクラスメイトはどうやっても間に合わない。もうダメだ…何も思いつかない。誰一人として死なせずに戦いを終わらせることができると思ったのに。最後の最後にこれかよ! 畜生おおお! 机に拳を打ち付けて飛んでいく岩を見つめる。だが、そんな俺を見かねたかのように念話が入ってきた。


『まだ諦めるには早いんじゃないか?』

「はっ?」

その声は蓮だった。まさかと思って城下町の城壁のほうを見ると野原さんと二人で城壁の上に立っていた。ははっ、そうかまだ蓮がいたな。

『後は任せたぞ。親友!』

『任された』



『野原さん、さっき言った通りにお願い』

『了解だよ』

俺はさっき作った試作品をもってきていた。野原さんにも試作品を渡してある。ついさっきまでは野原さんのために作った試作品の実験をするために外に行こうとしたのだが、オーガが急に逃げ出したのを見て相手の狙いに気が付いたため天駆で急いでここまで昇ってきていた。それに逃げ出した先にあるものが何なのかを知っていたっていうのもあった。何も起こらなければよかったけどさ。起こってしまったものは仕方ない。


さて、勢いよく飛んでくる重力石が混ざったあの岩に対処するにはマジックシールドだと受け止めきれずに破壊されてしまう。かといって手榴弾で砕いたとしても破片が飛び散ってしまう。ならどうするか? 答えは一つだ。押し返す。それしかできない。

『野原さんいくよ。3、2、1』

「復元」

「『疾風』フルパワー!」

俺は手榴弾型の試作品を投げつけて風の魔道具を作動させる。野原さんは手に持ったブロック型の試作品を起動して疾風を使ってもらった。ちょうど岩とぶつかるタイミングで投げつけた試作品が発動した。


突如、周りにとんでもない暴風が巻き起こる。もしも、この暴風を普通に受けたなら車でも簡単に吹き飛ぶくらいの威力があるだろうな。この暴風を俺は風の精霊と一緒に野原さんは魔道具と疾風で制御しているが、なんせあっちこっちに吹き荒れようと暴れるのだ。少しでも気を抜けば制御を持っていかれそうだ。だけどそれだけの威力のおかげで岩は勢いを完全になくして宙に浮いていた。

「さ、さい、じょう君、もうこれ以上は、制御でき、ない」

『ふぬぬぬぬ!!』

「こっち、も、限界だ」

岩を押し返すには魔力が全然足りないこのままだと落下してくるな。どうしよ。


『そのまま落としてもいいぞ!』

『宗司! 本当に大丈夫なのか?』

『ああ、信じてくれ』

『分かった』

野原さんと目配せして頷く。

「「いっせーのーせっ!」」

暴風を上空に霧散させるのと同時に岩が落下してきた。魔力がもうないのでこれ以上は何もできないからただ見守るしかない。信じてるぞ。親友!



『指示した通りに集団魔法を展開!』

「集団魔法『断絶』」

詠唱時間があまりとれなかったので本来の防御力を持った断絶ではなかったのだが、今はたった一回だけほんの数秒、あの岩を受け止められるだけでよかったのだ。断絶を『ノ』字に展開して城壁の外に誘導する。断絶はヒビが入ってしまったが岩は無事に誘導することができた。そしてものすごい地響きと共に地面に落下した。そして何とか俺達は城下町を守り切ることができたのだった。魔術師の部隊からは歓声があがる。ちょうど後ろにいたオーガ達も完全に討伐が完了して俺達の戦いは完全勝利で幕を閉じることになった。


「「「「いよっしゃー!」」」」」

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」

軽傷6名のみで誰1人として欠けることなく終わらせることができたのが俺はかなり嬉しかった。

「見てくれたかアトリアー! 俺はやったぞー!」

「くすっ、ちゃんと見てますよ。"宗司さん"」

実はアトリアが魔術師部隊にいたことに宗司は全然気づいていなかった。



「あれ絶対に気が付いてないな」

「だね~。宗司君もおっちょこちょいだな~」

城壁の上で2人はくすくすと笑っていた。これから宗司とアトリアの関係がどうなっていくのかなと思いつつ付き合いだしたらからかってやろうと決めたのだった。


さて、さっき使ったのは試作品の手榴弾だ。名前は一応、風爆って呼ぶか。あれは風の威力と魔力吸収だけを書いたものだ。手榴弾の仕組みは爆発の式を書いた紙をインクを内側に塗装した球体のカプセルに入れたものに変えてある。水に濡れてインクが剥がれると使えなくなったからね。おっと、話がそれたか。この場合は中に入れてある紙が爆発物の役目をしているがこれを風の威力式のに変えてもちょっと突風が強いな程度しか効果がなかったためお蔵入りしていたけど、今回の物は鉄球の内側にも風の威力式を大きく書き込んであるためさっきの実験で分かったけどとんでもない威力になっていた。


鉄板に書き込んだものにも復元が有効なのを発見できたからこそできた芸当だ。これで手榴弾の威力強化もできるようになったのでいいことずくめだ。そして野原さんに渡したあるものは風をコントロールするための魔道具だ。風の操作式だけを彫り込んだものをブロックの中に10層ほど重ねてあるだけだ。


疾風は威力はそこそこいいので後は精密に操作できるようになればダッシュ中に加減速や急な移動方向の変更もできるようになれば機動力が上がって生存率が上がるだろう。例えば逃げないといけない状況になったら逃げきれるようにもなると思う。

作った理由は今回の戦闘で近すぎると手榴弾が使えない弱点を克服するために作成した。これで近づかれすぎたとしても一時的に距離を取ることができるようになった。場合によっては移動にも使えるかもしれないな。使いどころが結構多そうだから色々と試していかないとな。


今のところ作成したのはこの二つだけだけどまだいろいろと作るつもりだ。

「西城君、どうやら終わったみたいだね。みんな帰ってくるよ。私達も帰ろ」

「そうだね。帰ろっか」

「うん」

野原さんはそのままポニーテールにした髪を揺らしながら城壁から飛び降りていった。俺もそれに続いて飛び降りていった。

こうしてオーガ討伐はやや危なげなところはあったが無事に終わったのだった。



お城で祝勝会が開かれている真っただ中とある貴族の屋敷で会議が行われていた。今回の勝利に関する会議かと思われたが、雰囲気は物々しくとても勝利を喜んでいるような雰囲気ではなかった。そして椅子に座っている貴族の1人が徐に語り始めた。

「どうやら暗殺部隊は失敗したようだ」

「またなのか? なぜこうも失敗するのだ。あの2人に戦闘能力はないはずだ」

「だが、実際は失敗している。どうやら我々はあの無能どもを過小評価しすぎていたようだな」

「ならどうやって処分する? 大々的にすれば他の勇者にばれてしまう。もしばれてしまったら我々の信用を失ってしまうことになるぞ。ただでさえ国王と姫に目をつけられているのだぞ。どうするのだ?」

その言葉を最後に全員が沈黙してしまった。何も思いつかないのだ。そこに突如意外な人物が現れた。

「邪魔する」

「お前は! なぜここがわかった!」

「わめくな、うるさい。さっさと本題を言わせてもらう。始末だが私に任せてもらえるか?」


「なんのつもりだ? 目的はなんだ?」

「あっはっは、何も? ただお前たちは2人を殺したい。私も手を貸すそれだけで十分だろ? それとも余計なことを詮索して死にたいか?」

「…いいだろう貴様に任せる」

「ハハハハハ、よろしい。では失礼した」

男は笑った後、その場で姿を消した。

「…悪魔め!」

「まあいいではないか。あいつなら確実にやってくれるだろう」

「それもそうだが…まあいい」

この日はこれを最後にお開きとなった。そして蓮と桜に魔の手がもうすぐそこまで迫ってきていた。

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