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異世界の契約者  作者: 木剣
第一章 異世界へ
18/35

全ての始まりの音

急に寒くなりましたね。皆さんも風邪は引かないように気を付けてくださいね

オーガ達が王都に向かって進行しているという知らせを受けて団長や大臣、軍師といったお偉いさんが集まって会議を始めていた。その場に宗司はいた。

「では、正確な数はわからんのか?」

「申し訳ありません。砦はほぼ壊滅し、命からがら何とか戻ってまいりましたので」

「ううむ、種類はわかっていても数がわからぬのではな。かといって全戦力を回せば防御が手薄になる。一度、偵察部隊を出すしかなかろうな」


「ですが、偵察部隊は」

「わかっておる。勇者殿の力を借りるしかあるまい」

「お待ちください。まだ勇者様では荷が重すぎるでしょう」

そこに司祭が待ったをかけてきた。正直ついていけないんだが。

「ならどうするというのだ?相手を知らねば作戦も立てれぬぞ」

「いえ、使わないとは言っていないでしょう。ちょうど死んでも問題ない2人がいるでしょう」

「…なるほど」


反論しない軍師に俺は必死になって抗議した。

「ちょっと待ってください! まさか蓮達を使い捨てる気ですか!」

「使い捨てるとは言っておらん。だが、他にいい手が思いつかんのだ。宗司殿はあるのか?」

「それは…」

騎士団は使えない。他の勇者では力量不足。他に使える策が確かにない。だからと言って蓮を見殺しにするようなことは。

「勇者様、時には犠牲というの必要な物なのですよ。心配いりません神の加護があります。必ず帰ってこれるでしょう」

そう司祭は言ったが俺は見逃さなかった口元がニヤついているのを。周りを見渡すとこれで決まりだと言わんばかりにしきりに頷いていた。団長やバルバさん他にも数名は納得していない感じだったが。


ここで俺はやっと気づいた。最初から蓮を使いつぶすつもりだったのだと。

「くそ、最初からそのつもりだったのかよ」

「説明は私からしよう」

「いえ、私からもしておきます」

団長とバルバさんはそういって部屋を出ていった。俺もそれに続いて部屋を出ていった。



「若いのはいいことだが、あれは若すぎるな」

「その通りでございますね。ですがこれで我々の計画通りに」

「そうであったな。はっはっは」

これであの異端者が死んでくれればいいがな。私の恨みを忘れたとは言わせませんよ。そう不気味に笑っていた貴族は前に研究所で失禁していた男だった。



「蓮! ここにいたか」

「そんなに慌ててどうしたんだ? って団長とバルバ師匠も一緒にどうしたんですか?」

「実はだな」

話を聞くと宗司が怒っている理由がよく分かった。なるほどな。俺は捨て駒か。宗司が怒るのも無理ないな。妖精達がプリプリと怒っている理由はこれだったか。

「正直に言えばこんな任務を受けてほしくない」

「今回は不明な点が多すぎますからね。相手にも伏兵がいる可能性が高いです。それも熟練の騎士を軽々と殺すことができる伏兵が。正直ガロ谷の時よりも死ぬ確率が高すぎます。確実に交戦状態になるでしょうから」

「なあ、蓮。頼むよ。こんなふざけた依頼受けないでくれ。それに今回は野原さんも一緒に行くことになる。あいつらなら確実にどんな手を使ってでも行かせるようにしてくる」


俺は少し考えこんでから意を決して話した。

「この依頼受けます」

「なんでだよ!! お前今回のは本当にまずいんだぞ! もし死んだらどうするんだ! 残された俺達はどうすれば」

「落ち着けよ宗司。そんなんじゃいい作戦を思いつけないぞ? 理由はいくつかあるよ。でもさ、やらなかったら危ないのは王都の住民達だろ? 俺は皆を守りたいんだ。だから俺は行くよ。それに野原さん一人だけを行かせるのなんて俺が許さない」

「…ははっ、こんな時でもお前って変わらないな。いや、それでこそお前だよ…俺も作戦を立ててくる。団長、進行予定ルートの地理に詳しい人のところに案内してください」

「ああ、わかった。レンも気をつけろ」

覚悟を決めた顔をした宗司は団長と一緒に部屋を出ていった。後に残ったのは俺とバルバ師匠だ。


「まったく、あなたという人は本当に面白いですね。いいでしょう私も同行します。野原さんには私から話を通しておきましょう。装備の手配はこちらでします。蓮も装備を整えておきなさい」

「ありがとうございます。バルバ師匠! …その面白い人にバルバ師匠も入ってますね」

「言ってなさい。それでは失礼します」


バルバ師匠も早足で部屋を出ていった。俺も準備を整えないとな。机に置いてある剣を鞘にしまって試作したリボルバー銃をホルスターに入れる。弾薬を新しく作成したスピードローラーという速くリロードできるものにセットして新しく作ったポーチに入れていく。

手榴弾や自作したポーションはおっちゃんにもらったバックに詰めていく。後はいくつか予備の武器としてナイフを服にセットして俺は準備を整えていった。



「こんにちは、いきなりの訪問ですみません。野原さんはいますか?」

「私の部屋にいますけど、どうかなさったのですか?」

「どうやらオーガ達が進行してきているようなのです。ですが、相手の情報が少なすぎるため偵察に行ってもらいたいのですよ」

「そうだったんですか。確かに桜のスピードはかなり速いですからね。適任でしょう」

「ですが、1つだけ不確定要素がありましてね。相手にどうやら騎士を殺すことができる実力を持った伏兵がいる可能性があるのですよ。ですので、今回は死亡する可能性がかなり高いですね」


「なんですかそれ。桜は戦闘を一切経験していないんですよ! そんなの死にに行けと言ってるのと同じじゃないですか!」

「わかっています。ですから私自らが説明に来ているのですよ」

「待ってください! そんな理由なら合わせるわけにはいきません」

「メルちゃん大丈夫だよ。全部聞こえてたから」

桜が私の部屋から出てきていた。そうか白狼だから音はよく聞こえるんだった。ハッとバルバさんを見ると目を見開いてものすごく驚いていた。バルバさんが目を見開いているところなんて初めて見た気がする。


「どうかしたんですか? えっとバルバさんでしたっけ?」

「ああ、失礼。白狼なんて初めて見たものですから」

「それもそうですね。では、私もその依頼を受けます」

「なんで!! 桜、今すぐにでも遅くないわ。この依頼は危険よ。もしかしたら死んじゃうかもしれないのよ! それに能力を満足に使いこなせてもいないのに戦いになったらどうするのよ!」

「そうだね。でも、私は行くよ。蓮君も行くんですよね?」

「ええ」


「だったら行きます。それに私も一度見ておきたいの本当の殺し合いというのを」

桜のその目からは強い決意を感じられる。この目をした桜は梃子てこでも動かなくなるから諦めるしかない。

「はぁ、どうせ何を言っても行くんでしょう? 気を付けてね」

「うん、夕飯前には帰ってくるよ」

尻尾を揺らしながら軽い感じで答えてくる。まったくこっちは心配してるっていうのに。

「出発は明日の朝ですので今はゆっくりと休んで英気を養ってください。装備はこちらのほうで用意しておきましょう。要望はありますか?」

「できれば、短剣がいいです。装備も軽装のものだと嬉しいです。付与効果は風系統か速度アップでお願いします」

「わかりました。明日は私も作戦に参加するのでよろしくお願いします。では、これで失礼します」

バルバさんはそのまま踵を返すと早足で去っていった。姿が見えなくなると私は振り返って桜に飛びかかった。

「こっちは心配してんだぞー! 尻尾モフらせろー!」

「ちょっとぉ!? くっくすぐったい! や、やめてー!」

この後は桜がクタクタになるまで尻尾をモフりつづけていた。



翌朝、装備の受け渡しは研究所でするというので俺は研究所に来ていた。野原さんは黒色のTシャツに短パンという服装で準備運動をしながら庭で待っていた。

「おはよう野原さん」

「あ、西城君おはよう。今日はよろしくね」

「よく眠れた? 移動にはそこそこ時間がかかるから眠いなら仮眠をとってきてもいいよ」

「あはは、ありがとう。よく眠れなかったけど大丈夫だよ」

「そっか、これ野原さんの装備だよ。アイテムバックとベルト。後の装備はバルバ師匠が用意するみたいだからね。先にベルトの調整をしたいからつけてもらえるかな?」

「はーい」


腰にベルトを着けてもらって調整する。後は太ももにもホルスターをつけてもらう。

「ちょ、ちょっとくすぐったいね」

「ごめん、もう終わるよ。はいっと」

「ありがと」

何だか名残惜しそうな目をしてるけど気のせいか?

「おはようございます2人とも早いですね。これが今回の装備です。防御力はそこそこあって隠密性能に優れている物です。武器はこの短剣を使ってください。後、蓮からリボルバーも貰っておいてください。まだ予備があったでしょう?」

「わかりました。アイテムはもう渡してあるので大丈夫です」

「ええ、武器を装備したらさっそく出発しましょう」

「野原さんこれをホルスターに入れておいて」

「これって銃? なんでこんなものが?」

「作ったんだよ。クラスメイト達には誰にも教えてないから内緒な」

「うん、ありがとう」


「使い方は魔力を込めながら引き金を引いてね。じゃないと発砲できないから。これは弾薬のポーチね。中にスピードローラーを入れてあるから行く途中の休憩で練習しようか」

「はーい」

野原さんはホルスターに銃をしまってフード付きのコートを纏った。後はポーチと短剣、風の魔道具をベルトにつけて準備を整えた。するとちょうど建物からメルが出てきた。

「おはようございます」

「「「おはよう(ございます)」」」

「…行くんですね」

「うん、メルちゃん行ってくるよ」

「蓮さんもお気を付けて」

「必ず帰ってくるよ」

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

その言葉を最後に俺達は門へと向かった。



メルと別れた後、門に来ると門の前には人だかりができていた。集まっているのは町の住民達だった。

「レンちゃんなら大丈夫だよ! 必ず帰ってきな! お肉を奢ってあげるよ!」

「頑張ってください。勇者様」

「あんたなら大丈夫さ」

「先輩もドMですねー。先輩らしいですけど」

一体どこから聞きつけたのか知らないけど今までお世話になった人達が全員見送りに来ていた。

「人気ですねぇ」

「西城君ってかなり人気者だねぇ」

2人ともそんな優しい目で見ないでくれ。恥ずかしい。

「ただの偵察ですから大丈夫ですよ。行ってきます!」

「「「「行ってらっしゃい!」」」」


そういって3人は門から出発したが、まだお客さんはいた。

「フフッ、まだ私達がいますよ」

「俺を忘れてもらっては困るな」

「宗司とアリス? なんでこんなとこに」

「あそこだと落ち着いて技能を使えないだろ。<命令>『偵察』」

「ありがとう」

「私からはこれをバルバさんに用意できなかったのは申し訳ありません」

「構いませんよ」


「えっと、私にもですか?」

「ええ、これからは何かと縁がありそうですから」

俺と野原さんは指輪を貰った。俺のは魔力増幅で野原さんは速度上昇だな。

「ありがとう」

「俺からもありがとうございます」

「どういたしまして」

「では、出発しますよ!」

「「はい!」」

最後にアリスから速度アップとスタミナ回復といった補助魔法を貰ってから俺達は偵察に出発した。


走りながらバルバ師匠とこれからの作戦の内容を打合せしていた。

「このままいけば明日には敵の偵察とぶつかるでしょう。あくまで偵察ですが確実に戦闘になるでしょうから覚悟しておいてください。とりあえず、目標地点で仮眠をとってコンディションは最高にしておいてください。私がてこずる相手の可能性が高いですからねぇ」

「わかりました」「は、はい」

野原さんは初めての依頼だからかちょっとぎこちない。俺も最初はそうだったからな。

「大丈夫だよ。野原さん、いざとなったら俺が守るからさ。肩の力を抜いてよ」

「う、うん、ありがとう」

「青春ですねぇ」

そういってバルバ師匠は笑っていた。


まだ動きは固いけど少しだけましになったかな。それから俺達は順調に歩みを進めて途中で休憩をはさみつつとうとう敵の進行する音が聞こえるほどの位置にまで接近した。

「聞こえますね。だいぶ近づいている…予想ではこの付近から偵察がいてもおかしくはないのですが」

「そうですね。先に敵の数を数えますか?」

バルバ師匠と俺は隠密を使って気配を消している。野原さんはバルバ師匠が用意した隠密の付与が付いたフード付きのコートをかぶってついてきていた。

「先に確認しましょう。野原さん、周りに変な音はありませんか?」

「…大丈夫です。魔物の足音以外は聞こえません」

「では、散開して確認しましょう」

「了解です」


そういって散らばって敵の数を確認していく。そして確認が終わったあたりで打合せした集合場所に戻ってきた。

「では、数えましょうか」

紙に敵の位置を書き込んでいくそして正確な数を数えるとオーガ4匹、オーク16匹、ゴブリン48匹だった。ゴブリンには魔法の杖を持っている奴や鎧を着てるのがいて厄介そうだった。

「合計で68匹ですか。なかなか厄介ですね。とりあえず、目的は達成したのでこのまま脱出しましょう」

道具を片付けて脱出しようとしたその時上から気配を感じた。

「っ! 回避!」

バルバ師匠にそう言われ俺と野原さんは後ろに飛んだ。さっきまでいた場所に謎の2人組が武器を振り下ろした状態で立っていた。


「チッ、鋭いな。楽に終わるかと思ったがそうでもなかったか」

「仕方ありませんね。戦闘と行きましょう。主様のご命令は絶対ですから」

フードを深くかぶっていて顔が全く分からないけど気配から伝わってくるプレッシャーが俺の本能が警笛を鳴らす。こいつらは俺よりも格上だ。気を抜けば殺される。

「ああー、なんか予定よりも多くね? まあいいや、俺はあっちの狩人にすらあ」

「では私はこっちの男にしますか」

出し惜しみしてる場合じゃない。使えるタイミングがあるなら使っていこう。俺は銃と剣を取り出して構えた。

「簡単には壊れないでくださいね?」

その言葉を最後に戦いの火蓋は切られた。



バルバ師匠は相手を連れて森の奥に入ってしまっていた。野原さんは後ろに下がって身を隠してもらっている。こうなった以上はバルバ師匠からの援護は期待できない。やるしかないか。

「私に意識を向けないと死にます」

「うぐっ」

相手は踏み込んだかと思うと一瞬で俺の目の前にまで移動してきていた。その勢いを利用して両手に持っている剣を最小限の動きで振るってくる。俺は何とか受け止めて蹴りを入れようとしたが当たる前に相手に下がられてしまった。

「へぇ? 私の初撃をいなすとはやるね」

「速すぎるんだよ。お前!」

もう躊躇していられない俺は銃を発砲したが、相手はまるで銃のことを知っているかのように冷静に剣を構えた。するとカカカンと音がしたと思ったら全弾防がれてしまった。


「嘘だろ?」

「ふむ、当たればまずそうですがこれならギリギリいけますね」

ふざけんな!威力は弱めてあると言っても木くらいなら簡単に破壊する威力はあるんだぞ!?驚きつつも俺はスピードローラーを使って素早くリロードしていた。

「なるほど連続で使用はできないと。6回防げばそんなに脅威ではない」

踏み込まれる前に手榴弾を投げるが相手は全力で横に移動して回避した。後に残ったのは虚しく響く爆発音だけだった。

「…危ない」

一瞬だけ焦ったのが分かったがすぐに俺に近づいて接近戦に持ち込まれた。


「さっそく弱点に気づきやがったか」

「近ければ使えない」

その通りだ。近ければ俺が巻き込まれる可能性があるため手榴弾を使うことができなくなる。仕方なく俺は銃と剣を使って応戦するしかなかった。相手は二刀流で巧みに剣を操って俺を翻弄してくる。しかも体勢を崩すように蹴りやフェイントを所々で入れてくるからたちが悪い。最初のうちは拮抗していたが徐々に俺が押されてきた。やはりこれは経験の差というやつなのだろう。必要最小限の動きで最高の威力をたたき出してくる相手には今の俺には荷が重かった。

「どうした? 動きが鈍くなってるぞ」

「まだいけるわ!」

射線に入るタイミングで発砲するがことごとく腕ごと払われて強制的に狙いをずらされる。そしてとうとう拮抗状態になっていたかなめの銃弾が尽きてしまった。リロードしないといけないがそれを相手はさせてくれない。隙を作らせないとばかりに猛攻撃をしかけてきた。


「ほらほらほら! それがなければ怖くない」

銃はリーチがほとんどないためリーチの差で俺は追い込まれつつあった。相手の攻撃を銃と剣で受け止めるという防戦一方になってしまった。このままじゃあ無理だ。そう思い諦めかけそうになったが不意に後ろから声が掛かった。

「西城君!」

ははっ、そうだった後ろには野原さんがいるじゃないか。俺が倒れるわけにはいかない。やってやるよ。最後まであがいてやるそう決意し野原さんに一瞬だけ目を合わせて合図する。するとわかったと目で合図してきたので俺は再び目の前の敵に集中する。

「何ができるというのです? 弾もないのに?」

「できることなんていくらでもあるさ!」

俺は剣で思いっきりはじくと剣を相手に投げつけた。相手の意表を付けたのだろう投げられた剣を避けたため一瞬だけ隙ができた。その隙を使って俺はバックに手を突っ込んだ。そして取り出したものを見て相手は呆れたような目を向けてきた。


「自棄になったか」

俺が取り出したのは手榴弾だった。相手は対抗する手段があると言わんばかりにそのまま迫ってきた。左手の銃で左側から迫ってきた剣は防ぐことができた。だが、右側は剣を持っていないから防ぐことができない。相手は攻撃速度を優先したのか突きに切り替えてきていた。しかし、俺は右手で自分の目元を隠すようにして完全に防御を捨てた。目を隠す直前に驚愕した表情が一瞬だけ見えた。これから起こるであろうことを予想して笑ってやった。


そのまま俺の腹に剣が突き刺さっていく。体の中を金属の異物が通っているのがわかる。ちょうど背中を貫通したのがわかるのを認識するのと同時に強烈な激痛が俺を襲った。たまらず俺は息を吐き出しながら声をあげた。

「あがっああぁあああああ」

俺は腹が焼けるような激痛を感じながらも復元を発動した。すると前からマジックシールドを展開した魔力の動きを感じた。やっぱり使えたか。だけど関係ないんだよなぁ、俺が持っているのは手榴弾じゃなくて閃光手榴弾なんだから!


突如、全ての視界を奪う光がその場にいる者に襲い掛かった。俺は目を隠していたから無事だったが、相手は違った。なぜなら閃光手榴弾の光はマジックシールドじゃ防げないからだ。

「くうっ!?こ、これは!」

俺の想定通りに相手は視界を失っているみたいだ。相手は俺の腹に剣を刺したまま動こうとせず目を押さえていた。そこに今まで後ろで隠れていた野原さんが飛び出してきた。

「やあああ! 蓮君から離れろ!」

「くそっ!」


剣を抜いて距離を取ろうとしたが俺は剣の柄を握って離れないようにした。相手はまずいと思ったのか剣から手を放して距離を取ろうとしたが野原さんのほうが速かった。短剣に風爪を纏って思いっきり振り下ろすが、相手も意地を見せたのだろう。音だけでギリギリで回避してカウンターを仕掛けていた。でも、カウンターを決めることはかなわなかった。なぜなら俺がリロードを終わらせて銃を向けていたからだ。

「畜生!」

音でリロードしたのが分かったのだろう。マジックシールドを展開しながら全力で後退していく。やはり視界がない中、銃弾を防ぐことはできないみたいだな。それにもう一振りの剣は俺の腹にあるしな。そして俺は歯を食いしばって痛みを我慢しつつ連続で発砲する。全弾がシールドを貫通して怪我を負わせたが戦闘不能にはなっていないみたいだ。またすぐにリロードして俺は構えなおす。すると相手は突然笑い始めた。


「フハハハハ、流石だ。主様の言った通りだった! 君ならもっと楽しませてくれるよね?」

「戦闘狂かよ…」

ただでさえこっちは満身創痍だってのに。野原さんも戦闘経験がないからあいつ相手だと分が悪すぎる。

「さあ! やりましょう! アハハハハ」

「くっ」

相手が踏み込んでくる直前に突然横から二人の影が飛び出してきた。

「蓮、大丈夫ですか!?」

「おめえ、なんだよその傷は!」


お互いに激しい戦闘をしてきたのだろう傷だらけで服がボロボロになったバルバ師匠が戻ってきた。

「はぁはぁ、すみまっせん。師匠…相手が強すぎて今の俺だとこれが限界です」

「いえ、大丈夫です。あの相手によくここまで持ちました。ここからは私も相手をしましょう」

バルバ師匠がナイフを構えて戦闘態勢に入ったが、相手はそうではなかった。

「ちっ、あの狩人はかなりつええ。俺も満身創痍だ。ここは引くぞ」

「まだ戦える!」

「うるせえ! お前も傷だらけだろうが! それに目的はもう達成した。引くぞ!」

「…わかりました。主様の命ですからね。おい、お前ら名前はなんていうんだ」

「…西城蓮だ」

「わ、私は野原桜」

「蓮と桜か覚えたぞ。またどこかで会おう」


「ま、まて!」

急いで発砲したが相手はまるで最初からそこにいなかったかのようにすうっと消えてしまった。

「私を楽しませてくれたお礼にその剣はお前にくれてやる。感謝するんだな」

最後にそう言い残して完全に気配が消えた。それと同時に俺も緊張の糸が切れたようで膝から倒れこみかけたが直前で野原さんに抱き留められた。腹に刺さった剣を見てバルバ師匠が薬を手に持って駆け寄ってくる。

「しっかりしなさい。剣を抜きますよ」

「あがああああ」

ものすごい激痛が襲ってきたがすぐに回復薬を飲まされてさらに追加で回復魔法を唱えてもらうとまるで最初から傷なんかなかったかのように一瞬で怪我が治った。

「あれ、こんなに効果があったっけ」

「今はそんなことよりも脱出しますよ。まだ相手の仲間が潜んでいる可能性がありますからね。走れますか?」

「大丈夫です」

「野原さんは?」

「私も大丈夫です」

「では、いきますよ」

俺達は速度アップのポーションを飲んで急いで来た道を引き返していった。



バルバは走っている間ずっと笑っていた。無理もない。あの強者相手に生きて帰れたのだから。それに自分の体を犠牲にしてでも隙を作りに行くその勇気と行動力は目を見張るものがある。なによりあの適応力はすごい。ことごとく私の予想を上回っていくのを見ていると気分がいい。こんなに嬉しいと思ったのはいつぶりだろうかこれなら私の後継者に選んでも大丈夫だろう。そんなことを考えならバルバは走っていた。

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