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異世界の契約者  作者: 木剣
第一章 異世界へ
10/35

初めての戦い

すみません、いろいろと忙しかったので更新できませんでした。その代わり今回は長めです

寮の部屋に戻ると宗司がベッドで寝ころんでいた。帰ってくるの早いな。

「ただいま」

「よお、お帰り~鑑定結果はどうだったんだ…ってどうしたんだその目?」

「目ってどういうことだよ?」

「いやさ、お前目の色が緑色…いや翡翠色になってるぞ」

「まじか、もしかしたら妖精と契約したからかな?」

「すげえじゃねえか! どうだ?強くなったのか!?」

「あんまり変わらないね」

「なんだよつまらねえな。肩にいるのが妖精の子か?」


「あれ? 見えてるの?」

「なんか薄っすらと光が見えるぞ」

『こんにちわ~』

見られているのを察したのかフィーリアが手を振るが反応はしなかった。

「今、挨拶してるけど聞こえてるか?」

「いんや、なんも聞こえてねえよ」

『残念です』


「仕方ないか、えっと今日はこんなことがあったんだよ」

それからは要点をかいつまんで説明した。

「なにそれ見たい」

「研究所でお世話になるみたいだから気になるなら会いに行ったら?」

「あー、いや、やめとくわ」

「どしたよ?」

「なーんか会わないほうがいい気がするんだ」

「お、おう? まあいいけど。っと俺は明日からいろんなところに行ってくるよ。もしかしたらかなり遅くに帰ってくると思うから先に寝ててよ」

「りょーかい。頑張って来いよ」

「あいよ。ありがとう」

「んじゃ、もう夜遅いし寝るか」

「おやすみ」

明日からは大変な日々が続きそうだ。でも生き残るには必要だから頑張らないとな。そんなことを思いつつ自分のステータスカードを見てため息をつく。そこに書かれている加護を見てこれからのハードスケジュールを思うと嫌になってくる。そう思いつつも疲れのせいか眠気が襲ってきたので俺はそのまま眠りについた。



野原さんが暴走した日から6日がたった。あれから訓練の合間に料理屋のおじさんやアクセサリー店のお姉さん、他にもいろんな人に弟子入りして技能と技を教えてもらっていた。なんで技能を教えてもらっているのかというと『真理の探究者』というものが発現したおかげだ。後で詳細を説明しよう。後は全種類の妖精と契約して全属性が使えるようになっていた。ステータスはこんな感じだ。



西城 蓮  年齢:17歳 性別:男

Lv.5

職業:契約者

種族:人間

称号:召喚者、精霊の寵愛、妖精の寵愛、妖精マイマスター

加護:魂の盟約、火大精霊の加護、真理の探究者

固有技能:<共感>、<具現化>、<真理の瞳>

技能:契約、隷属術、全属性耐性(微)、全属性適正(微)、火属性耐性、精霊魔法、顕現、演算、索敵、隠密、料理、栽培、裁縫、調合、書記、復元、設計、鑑定、付与、我流格闘術、言語理解


[契約]妖精フィーリア+全属妖精



『妖精マイスター』

全種類の妖精と契約した者に送られる称号。契約の有無に関わらず力を借りることができる。


真理しんり探究者たんきゅうしゃ

あらゆる技能を理解すれば習得できるようになる。ただし、魔法玉などの使うだけで習得できるようになる道具は使用不可能になる。


『全属性耐性(微)』

微妙に耐性が上がる。


『全属性適正(微)』

全属性の魔法を少し使える。


『索敵』

50m以内に存在する生物を感知できる。


『演算』

情報処理能力が上がり魔法を展開する速度も上昇する。判断能力も上がる。


『書記』

文字や魔方陣を正確に書けるようになる。


『隠密』

気配を消すことができる。敵に見つかっていない状態で使用すると効果倍増。


『料理』

レシピが頭に浮かんできて料理に関する動きは効率化できる。


『栽培』

種の育て方がわかる。


『裁縫』

服の作り方がわかり、針の扱い方が上手になる。


『調合』

薬の調合を上手になる。薬の効能も見ただけで分かるようになる。


『復元』

損傷した物を修復できる。


『設計』


『鑑定』

物の性質を見極めることができる。鉱石鑑定と統合済み


『付与』

魔法や技能などから物に特性を与えることができる。



真理の探究者が発現した時は楽になるかなとか思っていたけどその逆だった。なんとなくの理解だと一切習得できなくなるというデメリット付きでさらに使用するだけで覚えられる魔道具を使えないというから本気で泣いたわ。みんなは次々と魔法を習得して練習に励んでいるのを見ると羨ましいです。

ただ、本来は習得できない職業でも覚えられるという強みがあるから役に立たないとは言い切れないのがなんともなぁ。だから今は生産系の技能を中心に習得していっているできれば錬成と錬金を習得したいが弟子入りを断られてしまっている。何とかならないかな。


他の技能は習得して困るようなものじゃないので積極的に習得していたら、とうとう町の人やお城の兵士たちに戦えない器用貧乏って言われる始末だ。どうしてこうなった。今日も町の人達のお手伝いを終えてお城に帰っている最中だ。いつもならお城でお昼御飯を食べるはずだったのだが今日はいつもと違った。なぜなら門の前で兵士の人に泣きながら縋り付いている人がいたからだ。近づくと話し声が聞こえてきた。


「お願いします! 娘たちを助けてください!」

「ええい! 無理だと言っている!さっさと帰らんか!」

「せ、せめて依頼の話だけでも!」

「できんと言っている! そんな依頼、勇者様を危険に陥らせるだけだ! これ以上ここにいるなら貴様を処罰するぞ!」


俺は見ていられなくなって声をかけた。

「武器屋のおっちゃん何があったんですか?」

「き、君は…西城君か! 君からも頼んでくれ!」

「えーと、とりあえず何があったのかを話してくれませんか?」

「実はだな…」


「なにが起きている。あなたは確かエリト武具店の?」

「あ、団長」

団長が慌てた様子でこちらに近づいてきた。

「はい、私はエリト武具店の鍛冶師です」

「これはこれは、うちの兵士が申し訳ないことをした。お話はこちらで伺おう」

「ありがとうございます」

「団長、俺も同席していいですか?」

「ああ、いいぞ」



城の応接間に着くとおっちゃんが何があったのかを語ってくれた。

要約すると娘たちが火竜に連れ去られてしまったとのことらしい。急いで冒険者ギルドや凄腕の冒険者たちに救助依頼を出したが誰一人として受けてくれなかったらしい。それで最後の望みにお城に来たということらしい。


「勇者様たちならやってくれると信じてこうしてやってきたのですが内容を話すとさっきのように門前払いをされました。お願いします! もう…最後の頼みは勇者様たちしかいないのです。お願いします…お願いします」

「そういうことだったんですか……申し訳ありませんがこの依頼を受けるわけにはいきません」


「「なっ!?」」

武器屋のおっちゃんの顔が絶望に染まる。最後の望みも失ってどうすることもできずに娘を失うしかない。そんな最悪の未来しかないと言われたのだ。

「どうしてですか!できるなら助けに行くべきです!」

俺はつい感情的に叫んでしまった。だが、帰ってきた答えは最悪だった。


「順に説明するぞ。火竜に攫われたということはいる場所は十中八九【ガロ谷】だろう。ガロ谷は今の勇者たちでは歯が立たない魔物が大量にいる。だから勇者たちは行かせることができない。兵士ならば行けるだろうが相手は火竜だ。重歩兵達がいないと戦闘は不可能だ。だがガロ谷だと重歩兵は使えない。重すぎて登れないからな。それに火竜に喰われるとしたら制限時間は明日の昼までだ。どう考えても間に合わない」


「なら少人数で助け出して逃げるというのは」

「あそこは谷だ。逃げるなら飛び降りるしかない。それに飛び降りて生きていたとしても谷の底には凶暴な魔物たちがいる。どのみち子供を抱えたまま逃げることはできない」

俺はどうしようもないと悟って黙ってしまった。どうすればいい?どうすれば助けることができる?くそっ!また何もできないのか…色々と考えていると徐に団長が呟いた。


「……空を飛べれば助けられるんだろうがな」

空を飛ぶ?……あるじゃないか!! 俺たちの世界に人が空を飛ぶための道具が!

「団長、俺に行かせてください」

「死ぬ気かお前は!」

「俺に考えがあります。だから行かせてください!」

「西城君……」


「…行けるんだな?」

「はい」

「ならお前にすべて任せる。必要な物があるなら言え、すぐに用意する」

「ありがとうございます。必要なものを書くのでお願いします」

「もう…いいんだ西城君。君まで危険な目に合う必要はないんだ」

「おっちゃんは自分の大切な子供を助けたい一心でここまで来たんでしょう?なら諦めちゃだめです。俺に任せてください」


「西城君……ありがとうっ…」

さっそく準備に取り掛かろう。必要なものはたくさんある。いくつかは試作品で作ったものがあるからそれを使うとして新しく作らないといけないものがあるから急がないと。

「君に渡したいものがあるんだ。これから店に来てくれないか?」

「わかりました」

必要なものを書き終わった後はおっちゃんの店に行くことになった。



お店に着くとここで待っていてくれと言ってお店の奥に入っていった。暇なので使えそうな武器がないか物色していた。おっ? この剣かっこいいな。

しばらく物色しているとおっちゃんが戻ってきた。

「待たせたな。これを使ってくれ」

「これってアイテムバック?」

アイテムバックというのは鞄に空間魔法を付与することで見た目以上に収納できるようになった鞄のことだ。かなり便利なのでこの世界では結構普及している。だが、加工難易度が高いので高品質のもののお値段は目が飛び出る額だ。お金持ちの人じゃないと買えない高級品だな。


「勇者に配布されたやつならあるよ」

「配布された物とは比べ物にならないくらいの最高傑作のものだ」

「え? そ、そんな高級品いらないですよ!」

「ここだけの話だが西城君に渡された物は失敗作のものだ。城の大臣に言われてな。仕方なくとはいえ、あんなゴミみたいなものを使わせてしまって本当にすまない」

「そうだったんですか。頭を上げてください。そんな些細なこと俺は気にしてませんよ」


「それでも私のプライドが許さないんだ。死にに行くような依頼を受けてくれるそんな勇気ある者に恩を仇で返すようなもんだ。それに君に最高傑作を使ってほしいんだ」

「おっちゃん…わかった。必ず生きて返しに来るよ」

「ハハハ、別に返さなくてもいいぞ」

おっちゃんと握手する。新たに絆が紡がれた瞬間だった。必ず生きて帰ってこないとな。さて、今すぐに準備を始めるか。俺は今回の依頼に必要な物を作り始めた。



翌朝、まだ太陽が昇っていない時間に門の前で集合した。必要な物は何とか間に合った。今はガロ谷の地図を見て逃走ルートと不測の事態が起こった時のために別のルートを模索している。そこに団長と宗司、そしてバルバ師匠と鍛冶屋のおっちゃん達がやってきた。


「おう、早いな蓮」

「宗司? どうしたんだ?」

「どうしたんだじゃないだろ聞いたぞ。お前危険な依頼を受けたんだってな? まったくいつものお人好しでも今回のはかなりまずいだろ」

「まあな。でも、助けられる確率があるならやるだけだよ。それにちゃんと考えてあるから大丈夫だ」

「はぁ、お前はそういうやつだったな。はぁ…俺からの餞別だ<命令オーダー>『救助』」

宗司がそう言うとARウィンドウみたいなものが出てきて命令内容が出てきた。


「これって? すごい、ステータスに補正が掛かっているのか」

筋力と敏捷にかなりの補正が掛かっているな。解除条件もあるのか。

「これが俺の固有技能<命令オーダー>の能力だ救助に関する行動をする限りはその補正がかかるから有効活用してくれ。ただし、今回の内容だと攻撃をすると解けるから気を付けてくれ」

「ありがとう」



<命令オーダー>

口頭で命令をすることでステータスに補正をかけることができる。マップ内であれば念話で会話することができる。ただし、命令内容に背く行動をすると補正が解ける。1人最大1つまでしか命令できない。



「蓮、これが装備一式だ。隠密特化だから防御力はないぞ。耐性系は付与されているができる限り戦闘は避けてくれ」

黒色のフード付きのマントと俺が指定したベルト付きのスーツも用意してくれていた。

「ありがとうございます。団長」

「必ず生きて帰って来いよ」

「はい」


「おっちゃん…必ず助けてくるから待っててくれ」

「頼む…」

「うちの息子たちをよろしくお願いします…」

どうやら一緒に連れ去られた子供の親御さんらしい。昨日は別の人に直接依頼をしに行っていたため会えなかったからこんな朝早くにきたらしい。まったく子供想いの親御さんたちだな。

「お任せください」


「まったく蓮さんにはいろいろと驚かされますね」

「あはは…すみませんバルバ師匠。迷惑をかけます」

「大丈夫ですよ。作戦の内容は聞いていますからお任せを」

「よろしくお願いします」

「では出発だ!急ぎますよ」

「蓮君…生きて帰って来てね」

こっそりと狼の少女は見守っていた。

俺はバルバ師匠と共にペッコというダチョウみたいな鳥が引く馬車に乗ってガロ谷へ向かった。




「それにしても無謀なことをしますね」

「自分でもそう思います」

中で最終調整をしながらバルバ師匠と話をする。バルバ師匠は俺の索敵や隠密、射撃、闇魔法の師匠だ。武器の開発にも助言をもらっているので本当にすごい人だ。俺が勝手に一番尊敬している人ともいうな。確か本業は狩人だったかな?緑色の服と羽が付いた緑色の帽子がそれっぽい。


「でも、嫌いじゃないですよ」

「はは、ありがとうございます」

「到着まで時間がありますから少し寝なさい。じゃないと実力が出せませんよ」

「わかりました。お言葉に甘えて少し仮眠を取りますね」

少し眠気があったので師匠の言う通り少し仮眠を取ることにした。

「まるで昔の私みたいですねぇ」



「蓮、そろそろ起きなさい。ガロ谷が見えてきましたよ」

「ん……はい」

あれがガロ谷か結構深そうだな。

『蓮~こっちも準備は大丈夫だよ』

「うん、ありがとう」

俺はアイテムバックと太ももにホルスターみたいなものを留めてベルトを締めた。肩にもクロスするようにベルトをかけて固定する。真正面から見るとX字になるなこれ。さてとフックは腰にぶら下げておく予備のベルトもアイテムバックに入れてある。

よし、準備は万端だ。


アイテムバックに入れてあるポーションのチェックを終えてから自分の手が震えていることに気づく。

『大丈夫?』

「大丈夫……」

これから死ぬかもしれないと思うと怖い。ものすごく怖い、できることなら行きたくない。でもそれだと子供たちが死んでしまう。だから今は今だけはこの震えを抑え込む。いつかはこの感覚にも慣れてしまうのかもしれない。でも、この感覚を忘れてしまったら必ずどこかで足元をすくわれるそんな気がした。


「これ以上は近づけません。ここからは徒歩で近づいてください。私は所定の位置に移動するので合図があったら手筈通りに動きます……岩系の魔物には気を付けなさい」

「はい」

もう太陽は昇ってきている。身体強化の魔法を足だけにかけて急いで走る。

谷に着くと索敵と隠密を使って下りて行った。


『フィーリア、風の妖精に頼んで敵がいないか探ってくれ』

共感を使って頭の中だけで会話する。こっちのほうが一瞬でやり取りできるから便利だ。

『もう頼んでるよ。どうやら結構いるみたい。もうすぐ1匹こっちにくるよ』

『了解、ありがとう』

すぐに岩陰に隠れてこそこそと移動する。すると前から芋虫みたいな魔物が近づいてきた。



ロックゴロゴン

lv.45

能力:擬態、硬化


体力:220

筋力:167

魔力:40

敏捷:10

防御:487

魔防:50



防御特化の魔物だな。敏捷が0に近いから気づかれても大丈夫そうだな。

「オオオオオン」

吠えると急に丸くなった。なにする気だ?とりあえず移動しようとしたが次の瞬間結構な速さでゴロゴロと転がっていった。

…うん、絶対に見つからないようにしよう。


急いで探索しているとフィーリアから連絡があった。

『見つけたみたいだよ。あの崖の上にある穴から侵入できそうだよ』 

『わかった』

見上げると結構高い場所に穴があった。こうなるだろうとは思っていたので岩を足場にして急いで登り始めた。

ある程度登ったところで俺はミスをした。それは擬態した魔物を掴んでしまったことだ。


気づいたころにはもう遅い俺は空中に投げ出されて8mはある高さから地面に叩きつけられてしまった。

「かはっ…」

痛い。ろくに受け身もとることができなかった。くっそ、擬態は索敵に掛からないのか。

『レン避けて!』

「くっ!」

フィーリアの警告を受けてすぐに転がってその場所から逃げだす。するとさっきまで俺がいた場所に岩が降ってきた。



ロックゴリオン

lv.51

能力:真・擬態、身体強化


体力:410

筋力:267

魔力:80

敏捷:110

防御:639

魔防:0



くそっ!このままじゃまずい。周りから集まってきてるしかも見つかってるから隠密を使っても隠れきれない。無視して登ることはできないし、どうする? 魔法は効くみたいだし倒すか? いや、急がないといけないんだ。ここであれを使おう。

ロックゴリオンのパンチを躱しながら腰のベルトにつけてある草と縄でグルグルにしたボールを取り出して詠唱した。

「火よ"火種"」

「ウオオオオオオオオオオオ!!」

火をつけて周りにばらまくと煙が発生してあっという間にあたりに充満した。よし、これで隠密でやり過ごすことができる。すぐにバックステップで距離を取って岩陰に隠れるとすぐにアイテムバックから治癒ポーションを取り出して飲み干した。その瓶を遠くに投げてわざと音を出して誘導する。

「オオオオオオオオオ!!!」


ロックゴリオンは音のした方向に腕を無茶苦茶に振りながら移動していった。

「騙せたな」

『うん、戻ってくる様子はないね。それより急いで! このままじゃ囲まれるかも』

『了解』

治癒しきっていないが痛みをこらえて急いで登っていった。


「ここか? どこにいるんだ?」

『こっち!』

フィーリアの案内で奥に進むと男の子2人が震えて縮こまっていた。1人足りない!?

「助けに来た大丈夫か2人とも!」

「は、はい。大丈夫です。でも、メイちゃんだけさっき竜に連れていかれました」

畜生、遅かったか。どうする? 急げばまだ間に合うか? いやでもすぐにでも脱出しないとまずい。煙幕は使ってしまったんだ。見つかったらおしまいだ。どうする? どうする!? 見捨てるか…?


「兄ちゃん…お願いだ! メイちゃんを助けてくれ! 僕が連れてこなかったらこんなことにはならなかったんだ! だから僕のことはいいからメイちゃんを助けて!」

「僕からもお願いします!お願いします!」

そんな俺の葛藤を知らずに必死になってしがみついて頼んでくる。なんだ罪悪感を感じてたんだな……怖かったろうに。自分の心配より友達の心配か…仕方ないな。ここでやらなきゃ男じゃない! 一瞬だけ考えてしまった見捨てるという選択肢を切り捨てて覚悟を決める。


「任せておけ。どっちに連れていかれた?」

「あっちです!」

「わかった。後、これを巻いておけ。メイちゃんを連れてきたらすぐに逃げるぞ。準備しておけよ」

頭をワシワシと撫でた後、ベルトを渡した。

「「はい!」」

「フィーリア、光妖精に頼んで2人の姿を隠してくれ」

『了解!』


俺は走って洞窟の奥に入っていった。

しばらく走っていると進行方向に竜の鳴き声が聞こえてきた。もしかして近いのか?物陰に隠れて索敵を使うと反応があった。その姿を確認すると俺は息を止めた…相手は子供の竜だった。ここはやり過ごすか?色々と考えているとフィーリアから報告が入った。

『この奥にいるみたいだよ。ちょっと急がないとまずいよ』

まずいな。とりあえず、相手のステータスを見てからでもいいか。いや、ここは走り抜けよう。なにか囮になる物は…飴玉って竜は食べるのかな?まあいいや。

俺は物陰から飛び出すと子供の竜に飴玉を投げつけて走り抜けていった。その時、子供の竜のステータスがちらっとだけ見えた。



飛竜

lv.1

技能:???

???

???



な、なんだ? 一瞬だったけど???になってたぞ。ステータスを見れない原因があるのか? んなこと気にしてる場合じゃねえな。急ごう。

「キュウウゥゥ」

子供の竜は飴玉をボリボリと食べていた。って食べるんかい!しかも幸せそうな顔をするなよ。甘党か?

複雑な心境になりつつも奥に走り抜けていった。幸いにも子供の竜は俺に気づいたみたいだけど追ってはこなかった。奥に行くと女の子の声が聞こえてきた。

「いやあああああ!食べないでええええぇぇ!死にたくないぃぃぃ!」

火竜は尻もちをついて後ずさってる黄色い髪の女の子を食べる寸前だった。考えてる場合じゃない!


俺はアイテムバックから丸い鉄の球とサングラスのような物を取り出して叫びながら飛竜の目の前に投げた。

「目をつぶれぇ!復元」

『キーン』

そんな音を出して俺が投げた球はとんでもない光をだして飛竜の目をくらませた。



火竜

lv.67

体力:910

筋力:867

魔力:880

敏捷:818

防御:839

魔防:841



俺が作ったものの1つである閃光手榴弾だ。最悪の事態に備えて作っておいてよかった。女の子は目をつぶっていて大丈夫そうだ。俺はサングラスもどきをかけて普通に見えている。火竜が怯んでいるうちにすぐに女の子を抱きかかえて来た道を全力で戻る。

「んっ…あれ?お兄ちゃんは誰?」

「助けに来たよ。他の2人もすぐに回収して脱出しよう」

「あ…ありがとうございます」

よっぽど怖かったのだろう。涙目になりながらもお礼を言ってくれた。


「まだ逃げ切ったわけじゃないから気を抜かないで」

「はい!」

『まずいよ!もう火竜が追ってきてる!』

復活するの早いな。閃光手榴弾はあれ1つしかないから今は走るしかない。くっ、宗司の命令が消えてやがる。あれも戦闘判定になるのか。さっき見えたステータスだと俺に勝ち目はない追いつかれたら終わりだ。

ズンッズンッギャアァァウゥゥという声が迫ってくる。

「スゥゥゥゥ」


ん?なんだこの音?

『ブレスがくるよ!』

「嘘おおぉ!?」

火竜はすぐに火を吐いてきた。やばいこれは想定外だ。

「水よ我を包む膜となれ"水泡"」

背中を焼かれながらも詠唱を完成させた。これでメイちゃんは保護できる。後は、俺が耐えるだけだ。永遠と思うような時間が経ちブレスが止まった。背中は火傷が酷いことになっているだろうがすぐに回復魔法の詠唱に入る。


「癒しの水よ我を覆いて傷を癒せ"水天"」

傷だけを癒す魔法のため痛みはすぐには取れないから歯を食いしばって我慢する。急いでアイテムバックから魔力回復のポーションを取り出して飲む。どうやら装備は火属性耐性付与のおかげか燃えなかった。でも、熱は遮断してくれないのか。それだけ威力が高いってことなんだろうけど。

「大丈夫ですか!」

「大丈夫だメイちゃんは?」

「私は大丈夫です」

「よかった。このまま急ぐからしっかりつかまって」


逃げる最中に2回ブレスを何とか防いで本気で走っていた。回復魔法もかけているが痛みは消えないから激痛を感じつつも絶対に足を止めないように歯を食いしばって死に物狂いでこっちに飛ばしてくる岩を回避する。さっき通った道がやけに長く感じるほどアドレナリンがドバドバ出ているのがわかる。


これが、これが命を懸けた殺し合いなんだと俺は痛感していた。こんなに死の恐怖を感じたのは初めてだった。油断すれば死ぬのは俺自身だ。それに俺が死ねばメイちゃんもあの男の子も死ぬことになる絶対に倒れるわけにはいかない。そう自分を励ましながら急いで走っていった。そして光魔法で姿を消していた2人が見えてきた。無事でよかった。

「「兄ちゃん!」」

「すぐに逃げるぞ!」


走ったまま2人のベルトにフックをかける。そして3人抱えて出し惜しみせずに全力で身体強化を使って走り出した。

「「「わああああ」」」

「肩のベルトをしっかりつかんで離すなよ!」

「「「は、はいぃぃ!」」」

メイちゃんは俺の首に手を回してしっかりと抱きついている。残りの2人は肩のベルトを掴んだ。そしてすぐに出口が見えてきたがこのままいくと崖から落ちるしかないが3人いる状態での飛び降りなんて無謀だ。かと言ってゆっくりと崖を降りている時間なんてない。それを3人ともわかっているんだろう。

「ど、どうするの!? 兄ちゃん!」

「飛び降りる」

「「「ええええええ!!」」」

3人の驚いた声を聞きながら具現化でこの状況を打破するための装備を呼び出した。

「具現化"パラシュート"」


宣言通り俺は飛び降りた。

「「「わあああぁぁ落ちるううう」」」

高さは約50mはあるが関係ない。すぐにリックサックの下にある紐を引っ張ってパラシュートを開いた。

「「すげー飛んでる!」」

「でもこのままだと地面にいる魔物に食べられちゃうよ!」

「心配するな」

すぐにホルスターに入れてある魔道具を起動する。すると上昇気流が発生して空高く舞い上がった。

「「「すごーい!!」」」

「だろ?」

パラシュートを操作して待ち合わせ場所に向かう。ちょうどバルバ師匠がペッコを走らせながら着地位置を調整しようとしてくれていた。


「兄ちゃん火竜がこっちに来たよ!」

「え"!?」

本当にこっちに向かって飛んできていた。

これは…うん、着地する前に捕まるな。しょうがないできれば使いたくなかったけど使うか。

「最後の切り札を使うから絶対に手を離すなよ!復元!」

キャンディみたいな物を全力で投げつける。7秒たったあたりで投げたキャンディが爆発した。

「ギャアアアア!」

火竜は落ちていったが何とか持ち直して巣に戻っていった。

「「「やったぁ!」」」

俺も心の中でガッツポーズをしてバルバ師匠のもとに降りて行った。



「追撃が来るかもしれないのですぐに逃げますよ!」

「はい!」

すぐにペッコを走らせて城下町に向かう。

「ペッコペコーー」

にしても変な鳥だな。

「そろそろ離れてくれると嬉しいんだけど」

「あの勇者様……ありがとう」

「ん? フフ、どういたしまして」

メイちゃんは顔を赤らめてお礼を言ってきたので頭を撫でながら


「その大きくなったら…いえ何でもないです。今はこれだけで」

俺は頬にキスされた。それを見ていた2人は騒ぎ出した。

「あーー!兄ちゃんずるい!」

「2人はなにもしてないでしょ」

「「えーー!?」」

「お前らも離れろ……」

そのままメイちゃんは城下町に着くまでずっと俺に引っ付いていた。




さて、今回作った道具はパラシュート、手榴弾、閃光手榴弾、煙幕、気流発生魔道具だ。ちなみにどれも手作りだ。

まず、手榴弾は爆発の魔法陣を紙に書き込んでインクで塗装した鉄球に巻いてある。見た目はキャンディだな。中身は全然違うけど。この世界だとスクロールと呼ばれる紙に書いた魔法がある。これは魔力を込めるだけで発動できるという利点がある。

欠点は威力は毎回同じというのと紙に書くと使い捨てになってしまうことだ。爆発魔法なら爆発する距離とかを調整できないし5m先と決めたら5m先でしか爆発しない。それに結構大きくなるためかなり使い勝手が悪くあまり使用されない。


色々と実験してわかったことだけど魔法は属性、威力、射程、魔力吸収といった式が必要になる。他にも誘導や発動までの時間といろいろとある。追加すればするほど使い勝手がよくなるがその分大きくなって魔力吸収陣も大きくなり必要な魔力量も増える。自分で魔法を発動するなら適性の有無で属性の魔方陣を簡略化できる分魔力も少ない量で撃つことができる。

で、この手榴弾に使っている式は属性、威力、魔力吸収だけだ。こうすると実は魔力を注いだ瞬間、自分の手元で爆発する。うん、自爆もいいところだな。でも、ここに距離や発動時間を追加すると威力が下がってしまうのと結構大きくなってしまって魔力の吸収量も増えるため使い物にならなくなる。


そこで魔方陣以外からアプローチすることにした結果が『復元』という技能だ。この技能は損傷した物を素材があれば修復できるというものだ。これを使って発動までの時間を稼ぐことで手榴弾と同じ運用ができるようになった。やり方は簡単だ。爆発の魔方陣を書いた後に式を少しだけ消すだけだ。そして鉄球に塗装したインクを使って復元する。発動のための魔力は復元を発動させる時に込めてあるから修復が終わるのと同時に爆発する。破損の具合で時間を調整できるので結構便利だ。


ただこれを作るのがかなり面倒くさい。『書記』の技能を使って手書きしているため数を用意できないし、陣も複雑で細かい。しかも少しでもミスをすると発動しない。発動するか確認したら自爆するしな。まあ、熟練度が上がっている気がするから頑張って作るけどさ。閃光手榴弾もこの原理を使用して作ってある。一応、研究所のメルに渡したらよくこんなの作れましたね。自爆する魔方陣なんてバカしか作りませんよって言われた。地味に酷いっす……


煙幕はモクモク草という燃やすと煙が大量に出てくる草を乾燥させて巻いたものだ。効果があるかはわからないけど魔物が嫌がる匂いの草も一緒に巻いてある。

最後の気流発生魔道具は野原さんの『纏風』という技能を付与させてもらって風の魔方陣を掘ったものだ。なぜかわからないけど野原さんの技能を付与することができたから作れた道具だ。宗司の能力もできるけど他のクラスメイトの技能はできなかった。本当に謎だな。



城下町に着くとおっちゃんたちがそわそわしながら待っていた。

それをみた子供たちは手を振りながら無事をアピールしていた。門に着くと親に抱き着いて怒られていた。

「「「もうっ、この子達は心配させて!」」」

「「「ごめんなさい」」」

感動の再開だな。よかった本当に間に合ってよかった。


親子で無事を確認し終わった後、俺にお礼を言ってきた。

「勇者様本当にありがとうございます。ほら2人ともお礼を言いなさい」

「「ありがとう!」」

おっちゃんとメイちゃんも同じようにお礼を言ってくれた。

「本当にありがとう西城君。もうどういったらいいのか」

「勇者様ありがとう!」

「皆さんもおっちゃんも気にしなくていいですよ。当然のことをしただけですから」


「西城君さえよければ錬成と錬金を学んでみないか?武器を作るのに役立つだろう?」

「いいんですか?」

「ああ!鍛冶師の全てを叩き込んでやるよ!」

「ありがとうございます」

こうしておっちゃんに弟子入りすることが決まった。錬成と錬金を習得できれば作れるものの幅が広がる。これは絶対に習得しないとな!

これで俺の初めての戦闘劇は幕を閉じた。

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