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異世界ネコ歩き  作者: 吉田エン
シーズン1
9/24

第九回 機械惑星のロボットネコ

 ふおお、見てくださいこの精巧な作り! 外見は機械機械した銀色のメタルロボットですが、その細部にまでネコ魂が籠もっています。フォルムは一般的なイエネコ風で、大きな目もシュッとしたお髭もキラキラと輝いています。外殻の隙間が多いのは可動域を広く取るためでしょう、話しによるとこのロボットネコには、本物のネコと同じ数の関節があるということですから、理屈的には完璧に普通のネコと同じ動きが出来るはず、ってことです。これって凄いんですよ? なにしろネコって、あんな小さいのに、ヒトよりも関節が多いんです! それがあのフニャフニャグニャグニャした動きを可能にしているわけですが、それをこの小さな機械の中に納めるのは大変だった事でしょう。


 惜しむべきは、このロボットネコ、動力が切れていて動かないんです。残念だなぁ。これは調査隊の人が<機械の惑星>と呼ばれる先進異世界から手に入れてきた物なんですが、動く物はとても高価で、私たちの世界が提供できる装置類じゃ交換に応じてくれなかったそうなんです。なので仕方がなく、この壊れた物で我慢したと。


 ……見てみたい。このロボットネコがちゃんと動いて、にゃーと鳴く所を見てみたい! ということで今回の異世界ネコ歩きでは、<機械の惑星>に突撃してみることにしました! 待っててロボットネコちゃん!


◇ ◇ ◇


 うわぁ、これはホントに機械の惑星ですねぇ……あれです、完全なSFの世界です。私たちは超々高層建築物が建ち並ぶ都市の地表に出てきましたが、本当に谷間という感じで、峡谷の底にいるような感じです。こんな日の差し込まない暗い地表には誰もいやしません。中空の至る所にビル間を繋ぐ半透明パイプの通路が設けられていて、沢山の人影が見えます。車も全部空を飛んでいて、エレベータだか車だかよくわからない人を乗せた箱がビルの壁面をスイスイ移動していて、空には巨大な立体ホログラムのCMらしきものが映し出されています。これはまさに未来都市……


 しかし未来都市には暗部が付きものです。ひょっとしてそれなりのお金がないと、この地表から空中にあるエリアに向かうことは出来ないのでは……ていうか上にはどうやって行くんだろう……地表には普通に道路や歩道がありますが、誰も使わないのでメンテされていないらしく、あちこちひび割れて雑草が生え、ゴミが転がっています。ビルの入り口もあるにはあるんですが、全部封鎖されてしまっていますね……どこかにあの、壁面を走るエレベータの乗り口があるのかなぁ……


 って見てください! ネコです! ネコロボットです! 誰もいない地表、道ばたに転がっているドラム缶の上で、あのネコロボットが体を丸めて眠っています!


 ……おおお、近くで見てみると凄い不思議だなぁ。機械なのに呼吸をしていて、わずかに身体が上下しています。凄いなぁ、触っても怒られないかな? わっ、触れた途端にメカネコさん、ぱちりと目を開いて大きく欠伸をしました。何から何までリアルだなぁ。ただメーカーロゴでしょうか、額には渦巻きみたいなマークが彫られています。


 そういえばあまり深く考えてなかったんですけど、これって昔あった犬ロボット、アイボみたいな物なんですよね? 飼い主、というか持ち主がいて、ペット代わりにしているっていう。そういうのがなんで、こんな誰もいない地表にいるんだろ。この世界では野良ロボットペットも存在するんでしょうか。


 渦巻きメカネコさんはしばらく不思議そうに私たちを見ていましたが、何やら思いついた様子でドラム缶から飛び降り、テクテクと歩き始めます。何処に行くのかな。飼い主のところかな。ひょっとすると後について行けば上に行けるかもしれません。追跡してみることにしましょう。


◇ ◇ ◇


 やはり壁エレベータは公共移動機関のようで、渦巻きさんの行く手にそれらしい乗り場が現れました。誰もいないんですが、勝手に乗っていいのかな……まぁ渦巻きさんが慣れた調子で乗り込みましたから、きっと平気なんでしょう。


 半透明のボックスはするすると壁面を上っていき、止まったのは地上百メートルくらいの所にある空中広場です。沢山の人通りがありますが……げっ、何なんですかここ。ネコだけじゃなく、なんと住人もみんなロボットのようです! 渦巻きさんは付近のベンチに座り込んで、人の流れを観察し始めました。さすがに私も、こんな世界では勝手がわかりません。少し渦巻きさんの隣で様子を伺いましょう。


 一番多いのはアンドロイドみたいな銀色に輝く精巧な人型ロボットですが、何か自販機に手足が生えたようなの、玉を数珠つなぎにして人型にしたようなの、戦闘型ロボットみたいなの、色々います。これは怖い……なんか生身の私がひどく目立っているような気がしますが……いや、そんなことはないですね。僅かですが普通の人もいて、普通に洋服を着て歩いています。


「違うぜ。アレも皮膚状の樹脂を蒸着させただけの、アンドロイドだ。懐古趣味な連中が使う、無駄に高価だが使い勝手は悪いブランド物だな」


 えっ、マジですか! やっぱ凄い進んだ星なんだなぁ……って、誰ですか今解説してくれたの。


「オレだよオレ」


 ……わっ! 渦巻きメカネコさんが喋っています! ひょっとしてこれは人工知能ロボット……?


「いや。外見はメカネコだが、オレは人間だ。オマエたち、発展途上の異世界から来たのか? 機械の身体をもらうために?」


 いやいやまさか! 私たちは異世界ネコ歩き取材班、ここにもネコの姿を求めてやってきたのです!


「ネコ? ひょっとしてオマエら、生きてるネコを探してるのか?」


 え? 生きてるネコというか、異世界には結構ネコがいるので、そのリポートを専門に……


「何だって? 異世界にネコが結構いる? じゃあオマエら、本物のネコを見たことがあるのか! 教えてくれ! 一体ネコって、どんな感じなんだ!?」


 なんだかわかりませんが、やたらと渦巻きさんに食いつかれてしまいました。それは数え切れないほどネコは撮影してますけど、どんな感じ、って言われましても……


「わかった、ちょっとウチに招待するから、その記録を見せてくれ。代わりに仲間のメカネコを呼ぶから、オマエらはそれを撮影すればいい。今までに発売された大抵の型は揃ってるぜ。どうだ?」


 なんと、そんな山ほどメカネコさんがいるんですか。これは悪くない条件のように思えます。早速渦巻きさんのお宅に伺いましょう!


◇ ◇ ◇


 メカネコさんのお宅ということで、まさか空き地の段ボールハウスなんじゃあ……と危惧していましたが、案内されたのはなんだか近未来的な家具の整った広々としたお宅でした。未来のペントハウスといった具合で、壁面は全部ディスプレイになっていて、緑豊かな自然が映し出されています。広いリビングにはソファーやらテーブルやらが普通に置かれていて、とてもネコのお家には見えませんね。


「ま、オレもネコ型に移る前は、普通の人型を使ってたからな。この部屋はそのときのままさ」


 えっと、つまりこの世界の人たちは、肉体を持ってない……?


「自然保護区に住んでる原始的な未交流民族くらいだな、肉体を持ってるのは。他は全部デジタルな存在で、外殻は好きなロボットを買って使ってる」


 うーん、凄い世界です。こういう世界で、繁殖ってどうしてるんでしょうか。全く子供は生まれなくなっちゃってるんでしょうか。


 考えている間に、色々なタイプのメカネコさんたちが続々と現れました。子ネコタイプ、ヤマネコタイプ、マヌルネコタイプと、本当に色々です。でも何か変ですね。皆さんベッドや床に寛ぎ始めるんですが、なんか四肢を投げ出していたり、やたら舌をペロペロさせたり、まるでヒトと同じように二足歩行したりしています。


「ようこそ世界古生物学会ネコ科分科会のみんな。ついに我々の念願が叶う時がきた。今日来てくれたのは、なんと生きたネコの取材が専門のビアトレン、ミニッツテイル・イワノヴァ女史だ! 彼女は長年我々が抱いていた疑問に、全て答えてくれるはずだ!」


 うっ、なんか凄い紹介のされかたをしてしまいました。集まったメカネコさんたちからは、うおお、と低い歓声が上がります。参りましたね、取材する側からされる側になってしまいました。でもあの、ちょっと疑問なんですけど、ひょっとして皆さん、生きたネコを見たことがないんですか? ちょっと幾つか異世界を回れば、そこそこネコはいるのに。


「それはターミナスが出現してからは色々な異世界を巡った調査団もいたらしいがな。結局この世界より進んだ異世界はなさそうだということで予算が削減されたらしい。だいたい他の連中はネコの重要性に気づいていない。調査団も異世界でネコを見ていたかもしれんが、気にもしなかったろう」


 ははぁ、なるほど、それはわかる気がします。私たちの世界の探検隊も、ネコの事なんて見向きもしなくて……じゃあ皆さんは、古い記録だけからネコを研究していたと。そういうわけですか。


「あぁ。化石、墳墓に埋葬された骨、それに石碑や紙といった記録が頼りだった。だがそれにも限界がある。去年なんか、ネコが四足歩行か二足歩行かで大激論になり、学会が分裂しかけた」


 渦巻きさんが目を送った先には、両足で立ち上がり、腕を組んで壁にもたれているメカネコさんがいます。


「ふん。ネコは二足歩行していたに決まっている。数多くの絵画では、二足で歩いている姿が描かれていた」


「まだそんなことを言っているのか! 骨格からして四足歩行していたのは間違いない!」


「この身体はネコの骨格を正確に再現しているが、ご覧の通りオレは二足で歩いているぞ?」


「出来ることとそれが普段の状態かは別問題だ! そんなこともわからんのかアニメオタクめ!」


「なんだとこのナショジオの回し者が!」


 これは面白くなってきました。彼らが乏しい情報から空想していたネコの姿に、私がダメ出しを出来るって訳ですね! えーと、まず二足歩行さん、貴方は間違っています。ネコは普段は四足歩行です。


「な、なんだってー! そんなことはあり得ない! オレは絶対に認めんぞ! 証拠だ! 証拠を出せ!」


 そりゃ山ほどありますけど、そんなすぐに出したら面白くないじゃないですか。で? 渦巻きさん、他に論争になっていることは?


「あ、あぁ。ネコの耳の大きさについても……」


 あぁ、そういえばいろんな形のメカネコさんがいますねぇ。あぁ、そこのバニーさん。貴方何を考えてるんですか。ネコの耳がそんな大きいはずがないでしょう。はい、ボッシュートです。んー、近いのは貴方と貴方それに渦巻きさんも悪くない。他はみんな駄目駄目ですね。ネコ愛が足りません!


 さぁ、大会も中盤にさしかかり、脱落者が相次いでいます。鳴き声? そんなのはニャーに決まってるでしょう。誰ですがガオーとか鳴いてるの。はい、貴方はアウトです。尻尾の長さは色々かなー。これは全員クリアですね。毛の長さですか。それも品種次第だなー。でも貴方、そのたてがみはないですよ。ライオンじゃないんですから。次は体長二メートルくらいのロボットを作ってくださいねー。


 ……ん、みなさんどうしたんですか? だんだん元気がなくなってきましたけど……


「あ、あまりにも矢継ぎ早に驚愕の真実が明かされるんでな……皆、気持ちの整理が追いつかなくて……」


 ふむ。そういうもんでしょうか。おや、二足歩行さん、まだ両足で立ち上がって。それは一番にないと言ったでしょう。どうしたんですか。


「で、デタラメだ! そいつの言ってることは、全部デタラメだ! これは持論を通そうと企んだ渦巻きの陰謀だ! みんな、騙されちゃいけない!」


「そうだ! ネコの耳は長いに決まってる!」


「そうだそうだ! ネコは草木に隠れるために、緑色の個体が多かったのは間違いない! それが論理的だ!」


 あわわ、ちょっと私、状況もわきまえずに調子に乗りすぎてしまったようです。ここは早々に<異世界ネコ歩きコンプリート・シーズン1>をお見せして宥めるしかありません。ほら、みなさん、これが本物の生きたネコです! どうです可愛いでしょう!


「……CGだ。こんなのはCGに決まってる!」


 ……はい? いやいや、これは本物で……


「す、素晴らしい! これが生きたネコの姿……我々の想像していた以上の素晴らしさ……!」


「何を寝ぼけたことを言ってる! この獣には何の知性の欠片も」


「ネコに知性はないと、オレは前から言ってただろう!」


「陰謀だ! 陰謀だ!」


 ギャー! 誰ですか目からビームを出してるのは! うわあ、ネコは口から炎を吐いたりしませんって! ちょっとみんな、落ち着いて!


◇ ◇ ◇


 ……やれやれ、何とか渦巻きさんの手引きで会場を脱出できましたが、えらい目にあいました。こんな事はもうこりごりです!


「いや、オレも思慮が足りなかった。これほどまでに頑なになってる連中ばかりだったとはな」


 あ、いえいえ、私も不用意すぎました。すいません。そういえば渦巻さん、一つ疑問だったんですけど、この世界のネコは一体どうしてしまったんです? 昔は普通に生息していたようですけど……


「それがミステリーでな。私たちの電子化と機械化が急激に進み始めた頃……五百年ほど前の話だが……戦争やら混乱やらがありバタバタしていたんだが、それが収まってみると、ネコの姿がすっかり消え失せてしまっていた」


 消え失せた? どういうことです?


「わからない。だからミステリーなんだ。色々な説がある。総力戦の影響で食料が不足し、ネコまで刈り尽くされてしまったとか。ばらまかれた生物兵器が特にネコに致命傷になってしまったとか。とにかく戦争以前の記録はあまり残っていないから、未だに結論は出ていない」


 へぇー。それは不思議なお話ですねぇ。消えてしまったネコ……彼らは一体、どうしてしまったんでしょうか。そればかりは私にもわかりません。


「真実はターミナスの向こう側に幾らでもあるんだ。オレも近々政府に申請して、実際に生きたネコを調査に行くことにするよ。ま、このメカネコの姿で相手が歓迎してくれるかわからないが」


 どうでしょうね。それは私も興味があるので、その時は是非同行させてください! 


 住民全員が機械化され電子化され、高度に発達した異世界。そこにもネコへの溢れんばかりの愛を抱える人たちが沢山いました……自分自身をネコ化したりと、少し行き過ぎてる感もありますけどね! ミニッツテイル・イワノヴァの異世界ネコ歩き。第九回は〈機械惑星のロボットネコ〉をお送りしました!

お知らせ!


「第十回 フレイア様のネコ戦車」はスペシャル版として、パンタポルタ様で掲載されています!

http://www.phantaporta.com/2017/08/blog-post210.html


〈中世の世界〉と呼ばれる異世界では、どこからともなく巨大なネコに牽かれる戦車が現れるという。噂につられて赴いたイワノヴァが目にしたものは・・・?


全四回ですよろしくどーぞ!


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