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異世界ネコ歩き  作者: 吉田エン
シーズン3
23/24

第三回 暗黒ハロウィン

 ハッピー・ハロウィン!


 どうもこんにちはイワノヴァです。ハロウィンもすっかり日本に根付いたみたいで、あちこちで仮装をした人を見かけますね。この遠野の街でも子供会が仮装大会を企画していて私もお手伝いしているんですが、当然用意するのはネコ装備! ふふふ、ネコ耳にネコしっぽ。こうして童心の頃から徹底的にネコへの変身願望を埋め込んでやるのです……さすればハロウィンはいつしかネコ祭りになるという案配……ふふふ……


◇ ◇ ◇


 やー、子供たちを仮装させるの楽しかったなぁ。なによりこう周りが変装してしまえば、私なんかも年甲斐もなくネコ耳とか装備出来ちゃうのが楽しいですね。さて、あとは子供たちが帰ってくるのを待つだけ……ん? なんか一団が泣きながら帰ってくるぞ。一体何事?


「くろねこ! 怖い婆ちゃん! かぼちゃ!」


 んー、ギャンギャン泣くばかりでさっぱり要領を得ません。くろねこ? 婆ちゃん? どうもイベントに非協力的な方がいるみたいですね。一応近隣の人たちに予め挨拶しておいたんだけどなぁ。とりあえず他の被害者が出ても困ります。私、現場を確かめて他の子たちが近づかないようにしときますね。


 とはいえ一体どこの集落の人だろう。こっちの山あいの方みたいだけど、私、あんまり行ったことないんだよなぁ。そもそも何があるんだろう。雑木林と段々畑の合間に民家がある程度みたいですが、あまり不審な様子は……ん? あの廃材の上にちょこんと座っているのは、もしや?


「まおー」


 おお、いつぞや神社でご一緒した黒ネコさん(S2#6)では? ……うーん、そんな気がするけれども、さすがの私も黒ネコ判別スキルはそんなに高くないんだよなぁ。同じような気もするし違うような気もするし……


「みゃうまうまー」


 おや、すくっと立ち上がると踵を返し、か細い砂利道の方に歩いて行きます。ちらちらとこちらを振り返りながら待ってる感じは神社の時と同じですが、もしやあの子供たちも妙な博覧会みたいな所に連れて行かれてしまったんでしょうか。悪気はないみたいだけど困ったもんだなぁ。ちょっと黒ネコさん、あんまりこの辺で妙な事されたら困るんですけど。保健所に通報されちゃいますよ?


「まうー」


 うーん、あんまり通じてる感じもしない……とりあえずここはついていくしかなさそうですね。


 しかしやっぱり田舎の細道は怖いなぁ。ちょっと一分くらい雑木林の奥に入り込んだだけで、すっかり人の気配がなくなってしまいます。日差しも弱くなってきて、段々寒くなってきた……く、黒ネコさん、私、やっぱりこの辺で失礼してもいいですかね?


「みゃうまうー!」


 いたた! ちょっと足に爪を立てないで! わかりましたよ行きますって! とはいえ特に何かある様子もなし、一体全体この先に何が……ん? カボチャ?


 見紛いようがありません。何故か道ばたにぽつんとカボチャが置かれています。しかもハロウィン風に目と鼻がくり抜かれていて……おやここにも。あそこにも。だんだん増えてきたぞ。火のついた蝋燭もセットになりました。そしてその奥には……おお、これは凄い!


 見てください、まんま映画の魔女の家っぽいです! 大木の庇に隠れるようにして木造の平屋があって、周囲はカボチャにランタン、ツタやドリームキャッチャーのような得体の知れない呪物に囲まれています。すごーい。随分気合いの入ったハロウィンだなぁ。しかしイベントでここまでやるのに、子供たちを泣かすなんて一体どういう了見でしょう。みんなに楽しんで貰いたくてやってるんじゃないのかなぁ。


 黒ネコさんもするすると扉の隙間から中に入ってしまいましたし、とりあえず家主からお話を伺ってみましょう。どうもー。こんにちはー。どなたかいらっしゃいませんかー。


 ……うーん、反応がない。留守なのかな……ってうわっ! なんか扉の隙間から目が覗いてる! 無茶苦茶びっくりした! あの、すいません、怪しい者じゃありません、少しお話をうかがいたいだけで……


「……その前に何か言うことがあるんじゃないのかい?」


 うっ、何のことだろう。何か言うこと? どうやら子供たちが言っていたように、ここには妙なお婆さんが住んでいるようですが。


「わたしが妙なお婆さんなら、そっちは何だい。妙な髭に耳が四つもある化け物じゃないか」


 はっ! しまった調子に乗って髭とネコ耳を付けたままだった! いやいやでもハロウィンってそういう物じゃないですか何ですか化け物って!


「言うことも言わないで何が『そういう物』だってんだ」


 え? なんだろう??


「……5! 4! 3! 2!」


 えっ? えぇっ!? 急にカウントダウンされても何がなにやら!


「……まったく。ほら、ほにゃららしなきゃあれこれどうの、って……」


 ほ、ほにゃらら……?


「5! 4! 3! 2! 1!」


 あっ! わかったそういうことか! トリックオアトリート!


「……ふん、まぁいい、とりあえず入んな」


 ふぅ、どうやら当たりだったみたいです。どれどれ開かれた扉から中に入ってみると……すごーい、中もお洒落な西洋雑貨店みたいだ! ていうか西洋雑貨店なのかな? アンティークな小物や雑貨に紛れて、天井からは薬草だかハーブみたいなのがぶら下がっています。鳥かごの中には綺麗なオウムが一羽いて、机の上にある箱の中には虫でもいるんでしょうか。かさこそと音を立てています。


 そしてお婆さんも凝ってるなぁ。黒いローブにとんがり帽子と、すっかり魔女コスを通り越して魔女そのまんまです。黒ネコさんの住処もここなのかな。慣れた調子で小物類の隙間を縫って歩き、お婆さんの肩にぴょんと飛び乗ります。そしてお婆さんは黒ネコさんをひとしきり撫でた後、椅子に座って得体の知れない笑みを向けてきました。


「それで? あんたなんぞにやるお菓子なんてないんだが、一体どんな悪戯をしてくれるんだい?」


 ……ん?? な、何の話だかさっぱりわかりません。いや私も別にお菓子が欲しかったワケでもなく、単に子供たちの事を……


「あ? お菓子も欲しくなけりゃ悪戯するでもなく、何しに来たんだいこんな所に」


 あの、ですから、あんまり子供たちを驚かしたりとか、そういうことは……


「はー。あのねお嬢ちゃん、私が何でこんな手間暇かけてこんなことしてるんだと思う? ファンタジーだよ。幻想だよ。今日はハロウィンだよ? 嫌な現実を忘れて非現実を楽しむ日だろ。違う? それだってのにあんたときたらあーだこーだとつまんない事ばっか言って。大人がそんなんじゃ、子供たちも本気で楽しめるはずがないだろ。あぁ結局はお芝居なんだ。予定調和の教育番組なんだって。それくらい子供だって見抜いて白けちまうよ。ちがう? あんたもイベント企画してやるんなら、それくらい考えようよ。お遊びとはいえ、少しくらいは本気になってやる意気込みってもんが必要なんじゃないのかい?」


 うっ。確かに言われてみればその通り。どうやらこのお婆さんも悪い人ではなさそうです。そうですね、せっかくやるなら、ハロウィンも本気で挑まないと……!


「そう。それで? ここにはお菓子なんてないんだよ。そしたら悪戯してもらわなきゃ。そもそもハロウィンてのは悪霊ごっこなんだ。中途半端なことをされたら返り討ちに遭っちまうんだよ」


 返り討ち!? そんな物騒なお話なんて聞いたことがありません!


「なんだい冗談だと思ってるのかい? いいだろう、見せてあげようじゃない」


 うわっ! お婆さんが杖を一振りすると、鳥かごがぼわんと煙につつまれて……あぁっ! さっきまで元気に鳴いていたオウムが真っ黒に……カラスに代わってしまっています! 凄い技だ! ハイテクだ!


「……手品か何かだと思ってるね。じゃあこれならどうだい」


 う、うわーっ! 周りが真っ白に! げほっ! げほげほっ! い、一体なにをされたんだろう……って、何か音の聞こえ方が変だぞ? うわっ、頭の方から音が聞こえる! も、もしや……ひえーっ! ネコ耳が頭にくっついて取れないし、なんか本物っぽくなって感覚もある! やだやだ、ちょっと早く元に戻してください!


「ほらね、冗談だと思ってたら痛い目を見るよ。さぁ、あんたの全力の悪戯を見せてもらおうじゃないか。でないともっと悲惨なことになるよ?」


 な、なんてことでしょう。これは前回同様、私は知らぬ間に異世界に連れてこられてしまったようです。そしてこの人は本物の魔女……ど、どうしよう。お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、なんて決まり文句ですから、ホントに悪戯するなんて考えたことなかった。悪戯? そもそも悪戯って何なんだ? 悪い、戯れですよね分解すると。それで戯れというのは……


「5! 4! 3! 2! 1!」


 わ、わーっ! またカウントダウンされても!! ちょっとレギュレーションを決めましょうよ! でないとこの家に火をつけるとか、そういうことに……


「いいね!」


 えっ!? いいの!?


「やれるもんならやってみな、っていう意味でね」


 やだ怖い。どうやら本気で魔女さんの損ねる技は禁止ってことみたいです。と、となると……参った、何かブーブークッションとかびっくり箱とか持っていれば……


「5! 4! 3! 2! 1!」


 うわーっ! も、もう、こうなったら手は一つ、どりゃーっ!


「ひ、ひゃーっ! こんな婆さんに可愛いネコ耳を付けるだなんて、なんて事するんだい!」


 ついでに髭も付けてやる!


「ひえーっ! 凄いピンとした髭だ! 刺さる刺さる!」


 ……嫌がってるわりに凄い楽しそう……マゾの魔女……マゾ魔女……? わかった、これからお婆さんはマゾ魔女どれみと呼ぶことにしましょう。子供たちにも伝えておきますね。


「は、恥ずかしい! この年でそんなあだ名を付けられるなんて! もうわかった! 降参だよ! そこにお菓子が入ってるから、好きなだけ持っていきな!」


 か、勝った……とてつもない強敵でした……もう疲れたし色々考えるのも止して、子供たちにお菓子を持って帰りましょう……


◇ ◇ ◇


 なんだか良くわかりませんが、結局のところ寂しいご老人を喜ばしただけだったような? まぁそれもハロウィンの主旨の一つですから、別に構わないんですが……しかしあの黒ネコさんにも困ったものですね。あんまりあちこち異世界を繋げられたら、今度は本当に事故でも起こりかねません。次に会ったらきっちり言っておかないと。


 異世界ネコ歩きシーズン3! 今日はハロウィンのご報告でした!

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