第二回 熱海大ネコ珍宝館
拝啓 イワノヴァ様
どうもこんにちは、メカネコのウズマキです。覚えてますでしょうか? 実はあれから政府と交渉して異世界調査の資格を得て、色々な世界を巡ってネコを探しました。いやぁ驚きました、イワノヴァさんのくれた記録は、ネコの中でもほんの一部に過ぎなかったのですね! おかげで我々ネコ学会もネコ新情報の解釈でまた大騒ぎです。
それはさておき、このたび調査の末に発見した様々なネコを展示する大博物館がオープンする運びとなりました。お忙しい中とは存じますが色々とお礼もしたいので、よろしければご足労ください。
かしこ
◇ ◇ ◇
うーむ、暇を見ては異世界観光してるけど、全然ネコ教団を見かけないなぁ。この間のニョロニョロ世界がYouTubeでそこそこPV出てるから警戒してるのかなぁ。まぁいいや、予約は入れちゃったし、そろそろ今回は何処に行くか決めなきゃ……ん? ターミナス公団から異世界転送メールだ。誰だろ。わぁ、懐かしいメカネコのウズマキさんだ! 覚えてくれてたんだ嬉しいなぁ。しかもネコ大博物館ですと? ネコ専門の博物館なんて凄すぎる! きっとこれは普通のイエネコからサーバルキャット、ジャコウネコからライオンまで勢揃いに違いない! よし、早速ウズマキさんのとこに行かなきゃ!
◇ ◇ ◇
ということでやってきました機械化世界、相変わらずSFで凄いなぁ。摩天楼がニョキニョキとそびえていて、行き交う人々は得体の知れない姿ばかりです。ていうか前回来た時よりも更に凄い事になってません? あんな雲に届く高さのピラミッドなんてなかったし、空に宮殿みたいな島が浮いてる……至る所に直径二メートルくらいある石の円盤――原始時代の石の通貨みたいなヤツ――がゴロゴロと転がりまくってるし、あと何だあれ、キャタピラ移動する虫みたいなのも……前はそれなりに人型が多かったのに、全然見かけなくなっちゃったなぁ。ウズマキさん迎えに来てくれるって言ってたけど、これじゃあ誰が誰なんだか……というかどれが中身があってどれがただのオブジェクトなんだか、さっぱりわかりません。
「やー、どうもどうも、わざわざ来てくれてありがと!」
むっ、話しかけてきたのはスーツを着た普通の男性っぽいですが、ひょっとしてウズマキさん?
「そうそう! いやぁ久々。とりあえずこっち。どうぞどうぞ」
あ、どうもどうもこちらこそ。ていうか人型だと何か戸惑うなぁ。ウズマキさん、メカネコ止めちゃったんです?
「いやぁ、異世界巡ってると肉の人を相手にすること多いだろ? そしたら人型じゃないと色々と面倒があって、ここんとこ肉タイプに戻そうとしててな。しかしやっぱり肉型は怪我するし疲れるし色々面倒……ぎゃぁ!」
うわっ! そんな当然のように塀の上に飛び乗ろうとしないでください! 無理に決まってるじゃないですか!
「うう、どうもネコ型の感覚が抜けなくて移動経路が読めない……と、とりあえずすぐにタクシーを……のわっ!」
ひえっ、今度はもろに看板に頭をつぶけた! だ、大丈夫ですか!?
「いててて……あ、そうだ、格好付けて二足歩行してるから駄目なんじゃん」
いや、さすがにその姿で四足歩行はどうかと思います。
◇ ◇ ◇
さぁ、やってきました機械化世界ネコ大博物館! おー、すごい! でっかい招き猫が門番をしていて、中はギリシャ神殿のように円柱が立ち並んでいます! じ、実はウズマキさん、大金持ち? ちょっとクラウドファンドに出資しません……?
「これくらいは3Dプリンタですぐ作れるから……悪いがウチの世界は通貨という概念がなくなっていてね……いやそんな残念そうな顔しないで。ほらほら、中はもっと凄いよ! 可愛いネコが沢山!」
ふむ。まぁお金はともかく、これは期待感が否応なく高まります。早速中に入ってみると、わぁ凄い! ロビーには十メートルくらいある巨大な……ん? なんだこの像?
「何って……でっかいネコ。本物はここまで大きくないけど、でも二メートルくらいあるんだ!」
ん?? いや、この白黒で熊みたいな姿で二本足で立ち上がってガオーって感じで威嚇してるのは、紛れもなく……
「いやー、このネコは超頑張ってゲットしようとしたんだけど、なんかその異世界では経済を超えて政治的手段の動物になっちゃってるらしくて、凄い武器よこせとか他の異世界と縁を切れとか生まれた子供はこっちに権利があるものとするとか無茶ばっか言われて。諦めるしかなかったよ。イワノヴァちゃん知ってる? このネコ。むっちゃ変だよね! でも解剖学的に見て僕らの知ってるネコとは随分違ってて、今はどうにかDNAをゲットして分析したいなぁと思ってるとこなんだ」
これは真実を語るべきか否か……まぁウズマキさんも学者さんだし、言うべきですね。あのねウズマキさん、これってネコ科じゃなくパンダって熊の仲間です。
「パ、パン!? でもでも現地の人、大熊猫って言ってたよ!?」
え、えっと、詳しくは知らないんですけど、昔の人にはネコの仲間に見えたんじゃないですかね……
「じゃ、じゃぁまさか、大熊猫は無理だけどこっちなら、ってつがいでもらってきたこの小熊猫も……?」
あー。隣のエリアで、すっごいジャングルジムまで作って飼ってる。これはレッサーパンダといって、まぁネコに近くはありますが、どちらかというとイタチとかの仲間です。
「そ、そんな馬鹿な! 大熊猫は怪しいと思ってたけど、こっちはむっちゃシマシマで尻尾がモフモフでネコと通じる可愛さがあるからネコの仲間に違いないと確信してたのに!!」
これは先が思いやられる……いくらネコの知見が少ないとはいえ、まさかここ、大ネコ博物館じゃなく大ネコっぽい動物博物館なのでは……
「い、いやいやいや、ネコっぽいのじゃないのもいるよ! 次のエリアは作るのが大変だったんだ! 何しろネコが空を飛んだり海を泳いだりしてるとは思ってなかったし」
あぁ、これはもう入る前からわかりました。ミャアミャアという鳴き声からして……やっぱり。巨大なドームに池と砂浜まで作って飼ってるのは、ウズマキさん、これウミネコですよ。
「うん。ウミ、ネコ。知ってるよネコじゃないって! でもきっとこれはあれでしょ、どっかの進んだ異世界人が、ネコの声帯を鳥が持つよう遺伝子改良したんでしょ。他にもほら、ネコザメが泳いでるよ。こっちはネコの頭蓋骨が再現されてるね。他にもチャネルキャットフィッシュ。こっちはネコの髭だね。どうしてそんな遺伝子改良しようと思ったんだか謎だけど、きっと凄いネコが好きな人たちだったんだろうなぁ」
なんか嬉しそうだし、別にいいのかな……てかひょっとしてここ、普通のネコは一匹もいないのでは……あれ、次のエリアは何か里山のような環境が作られてますね。ひょっとしてここはネコが放し飼いにされてるのかな。
「いやぁ、ネコの遺伝子は留まることを知らないね! まさか植物にまで移植されてるだなんて。ほら、この植物にはネコの尻尾の遺伝子が……」
ネコヤナギですね……それにネコノメソウ、ネコアサガオ……わかった! これはわざとやってるに違いない! ウズマキさん、もう冗談はいいので、いい加減ネコを見せてください! もう山盛りの世界各地の色々なネコを!
「……ふむ。僕はイワノヴァさんを過大評価してしまっていたようだな。あなたは真のネコ好きで、ネコの事ならば何物も愛せる人だと思っていた」
え、いや、それはネコは好きですけど……
「ならば動物としてのネコだけではなく、ネコに纏わる様々な文化や逸話、風習といったトータルなネコ文化、いや、ネコ世界観を愛でるべきではないか!? ネコが存在したことによって人々は様々な想像を膨らませ、現にこうした世界が存在してる……人々は実際のネコ科動物だけではなく、鳥や魚、植物にまでネコを見いだしているんだ! それを無視しては本当のネコとヒトとの関わりを見落とすことになりかねないのではないかね!? ネコの本当の姿はネコだけではなく、ネコとヒトとの関わりという総合的な観点で見なければ……つまりネコとヒト、いや、ネコと世界との関わりを総体的に分析調査しなければ、ネコとは何かという真髄にたどり着く事は不可能ではないか!? どうだ、違うかイワノヴァ君!!」
うう、そういえばウズマキさん、学者さんだった……すいません、まことに本当、おっしゃる通りです。私は本当のネコの姿を、ネコの中だけに求めてしまっていたのかもしれません……ん? それって当たり前の事じゃない?
「よし! 一歩前進だな。さぁイワノヴァ君、次のステップだ。ここには実に様々なネコ道具が集められてる。ネコ車、ネコの手、ネクロノミコン、シロネコヤマトという企業すら存在していて……」
もう帰りたくなってきた。どんだけ広いんでしょう、この博物館。
◇ ◇ ◇
はぁ、結局最後の最後まで、一匹も本物のネコは現れませんでした。これはネコ博物館ではなく熱海ネコ珍宝館といった方が正しいのでは……いやいや、でも勉強になりました。本当に色々な所にヒトとネコの関わりがあるんですね。ジャコウネコがネコじゃないとか初めて知りました。でもウズマキさん、当然ネコ好きなんですから、ネコの一匹や二匹、持ち帰って飼ってるんですよね?
「うむ。実は色々な知見を重ねた結果、やはりネコは神聖不可侵でやたらと飼ったりしてはいけない存在なのではと思い始めてね……いや、ヒトとネコという組み合わせ自体がネコの存在の重要な要素の一つだとわかってはいるんだが、うーん」
おおう、さすが学者さん、考えが自然と神聖ネコ教のようになりつつあります。まぁそこは個々人で判断することですので、色々と考えてみてください……ってなんだこれ! 博物館の出口に見慣れた看板が!
「あぁそれ? 『ネコと和解せよ』とか訳わかんないよね? でもこの博物館を作るのに協力してくれた人が貼ってくれって言うからさ。まぁここに本物のネコを展示するべきではないっていうのは彼らの主張でもあったんだけど、未だに悩ましいよ。うーん」
なんてことでしょう、こんな所まで神聖ネコ教団の手が伸びているとは。この分では連中、相当な範囲で活動しているに違いありません。ウズマキさんはまだ半信半疑のようで良かったですが、引き続き用心しなければ……!
◇ ◇ ◇
ということでYouTubeで細々とお贈りしている異世界ネコ歩きシーズン3! 引き続き番組継続のためクラウドファンドで番組制作資金を募っています。一口千円、十口以上の方には成功報酬としてシーズン3のブルーレイボックスに加え、今なら先着百名様までウズマキさんの大ネコ珍宝館のチケットも付けちゃいます! ふるってご応募くださいね!




