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異世界ネコ歩き  作者: 吉田エン
シーズン2
11/24

第二回 自由へのキャットウォーク

 はぁ、結局化け猫さんに詐欺られてしまった番組予算、あんまり戻ってこなかったなぁ……異世界に取材に行くのも結構お金かかるんだよなぁ。ターミナスの使用料でしょ、各種装備のレンタル代でしょ、あと保険代やら食料代……うーん、これではあんまり長期取材は無理だし、どうしたものか……ってなんで私、リポーターなのに会計みたいなことやってるんだろ。ディレクターさん何処行ったんだ?


「邪魔するぜ! ここが『異世界ネコ歩き』制作会社の事務所か?」


 え、えぇ。事務所っていうか、ILC施設の倉庫をディレクターさんが勝手に占拠してるだけみたいですけど……ってまさか、施設使用料を払ってないから立ち退けとか!? 勘弁してください今はお金がないんです!


「へぇ、金がねぇのか……なら好都合だ。いいネタがあるんだが、乗らないか?」


 い、いいネタ……それは一体……というか貴方はどちら様で……?


「おう、すまねぇな、俺はDWT社のウラジミールだ!」


 DWT社! 国際探検隊以外で唯一未探査世界への移動を許可されて、その人員は退役軍人や現役科学者などから編成されており、異世界のお宝や先端技術の発見が主任務であるという現代のトレジャー・ハント企業、ディファレント・ワールド・トレック社のお方ですか!


「どうしてそんな丁寧な解説を……あぁ、もうスマホで撮ってるのか。さすがだな。実は俺たちが行った異世界で、ネコが重要なファクターになってるちょっとした儲け話があるんだが……どうも上手い手が思いつかなくてな。経験豊かなあんたらなら、何か思いつくんじゃねぇかと思って来てみたわけだ」


 なるほど……そういうネタであれば我々はエキスパート、番組にしてもいいならどんな協力も惜しみませんが……それって合法なんですよね? それに今はなにぶんお金がなくて……


「大丈夫だ、任せろ! プロジェクトは全部ターミナス公団の許可を得てるし、ターミナス使用料から人件費、全部こっちで面倒見てやる!」


 お、おぉ、それは何て願ったり叶ったり……


「ただし!」


 た、ただし!?


「期間内に成果を上げる事ができなきゃ、実費の全てを請求せざるをえない。なにしろウチも営利目的の企業だからな……」


 えぇーっ! そんな殺生な……!


「大丈夫大丈夫、番組はいつも見てるが、いつもそれなりに解決してるだろ? 楽勝楽勝! じゃあ早速、行くぜ!」


 あぁっ! ちょっと待って! スタッフ呼んだり色々手続きがいるんですって!


◇ ◇ ◇


 というわけで、何が何だかわからない間に私たちはかき集められ、ターミナス・ゲートに放り込まれてしまいました。ディレクターさんなんかはアキバで遊んでる所を捕まえられてヘリで遠野まで連行されたとか……一体どういう事態なんでしょう。ていうか『異世界ネコ歩き』、海外でも放送してたんですね。知らなかった。


「いや? Netflixで観た。日本語も日本のアニメで覚えたし」


 あぁ、それで口調がアニメの勇者っぽいんですね……ところでウラジミールさん、そろそろ状況を教えて貰えませんか? なんか霧が凄くて全然周りが見えない世界ですけど……


「おう。俺たちは『霧の世界』と呼んでる。何か水温と気温の関係が凄い微妙らしくて、常に霧に包まれてる環境らしい」


 へぇ、なるほど。そういう世界があっても不思議じゃないか。


「当然日光が弱いんで植物はこの通り、灌木みたいなのがある程度だ。知的生命体はいるが文明は未発達で鉄器も利用されてねえ。古代南米文化に近い感じだな。まぁ別に攻撃的ではねぇし、危険は全然……あぁ、ほら、そこにいた」


 えっ、誰が? わっ! 霧に同化していてさっぱりわかりませんでした。人類に似た二足歩行の異世界人さんが荷車を引いています。陽がないからか身長は百二十センチの子供くらいですね。メラニンもないのか、本当に上から下まで真っ白で……服まで白いです。


「気温が低くて日光が弱いと、白い方が生存の関係で良いらしいからな。ほら、地球でも北の人の方が白いだろ?」


 確かに。しかしこんな五メートルも先が見えない世界で、良く生きていけるなぁ。ちょっと迷ったら終わりじゃないですか。


「それが連中は、赤外線が見えるっぽい。なので俺らより全然見えてるみたいだな」


 へーそれは凄い。ちなみに地球でも、蛇なんかは赤外線が見える基幹を備えてます。きっと似たような感じの進化を……むっ、この臭いは……ネコが近いですね!?


「あんたもネコを検知出来るような進化をしてるみたいだな……ほら、すぐそこだ」


 確かにネコの臭いが強くなってきています……そしてこの音、この香りは……海?


「あぁ、海だ。でもちょっと特殊な海でな……」


 うーん、音はすれども姿が見えず。なんかもやもやしていて全然わからないなぁ……おっ、ちょっと強い風が吹いてきて霧が多少流されていきます。そして何か幾何学的な模様が……どれ、もうちょっと近くに寄ってみましょう。


「気をつけろ? 足下凄い注意だ!」


 わっ! 確かにすぐ目の前が断崖絶壁になってます! けれども所々、何か妙な感じで奥に続いていて……うわ、なんだこれ?


「変だろ? 俺たちは『キャットウォーク海岸』と呼んでる」


 えっと、説明しづらいんですが……断崖から何本か、真っ直ぐに霧の中に足場が続いています。ただそれ、幅が五センチくらいしかない細い物で……ウラジミールさん、一体この先には何があるんです?


「そうそれだ! それが俺たちも知りたいところなんだ! あんた、是非この先に行ってみてくれ!」


 いやいや私、体操選手じゃないんですから! こんな平均台みたいなの、速攻で落ちちゃいますって!



◇ ◇ ◇



 しかしこれ、見れば見るほど奇妙です。少し霧が晴れてきて視界が広がりましたが、岸壁から十本ほどのキャットウォークが霧の中へと続いています。それぞれは所々で繋がっていて、あみだくじみたいにも見えます。岩で出来ていて自然物のようにしか見えませんが、とても自然に出来た物とは思えません……高さは二十メートルくらいありそう。落ちたら速攻で海の藻屑です……しかしこれ、先が見たいならドローンか何かでも送り込めば良いのでは?


「ところがここの霧は磁気を帯びていて、電子機械が全然使えないんだ」


 ふむぅ、それは厄介。私たちもキャットウォークの先が気になりますが、これの何処がお金儲けに……あれ? そういえばここでネコが何をやってるんだ? ネコは何処に?


「お、丁度始まるぜ。あれだ。『ネコ飼い漁』だ」


 ネ、ネコ飼い漁!?


 おっ、確かに霧に紛れて、現地人の方がやってきました。脇に抱えたカゴには……間違いない、イエネコ種の色々な柄のネコが入っています。彼らは断崖の手前に腰を下ろすと、ネコを取り出してキャットウォークに乗せます。確かにネコならば、このか細い道を果てまで行けるはず……でもそんなネコって、言われたとおりに動くもんじゃぁないですが……あぁ、やっぱり。三毛ネコさんは速攻で飽きてキャットウォークの上で寝てしまい、黒ネコさんはダッシュでカゴの中に戻ってしまいました。


「大丈夫、ネコは十匹いる。一匹くらいは気まぐれで奥まで行ってくれると。そういう漁なんだ」


 ふむ、鵜飼いのネコ版ということですか。つまりこれからネコは、何かを持って戻ってくるのですね? それは一体?


「まぁまぁ見ててみな」


 確かに。ここはネコが戻ってくるのを待つとしましょう。しかし既に二匹脱落してしまっています。果たして無事に渡りきるネコはいるのでしょうか。おっ、白ネコさんがあみだくじの横線を渡って隣の道に向かい、茶虎さんを威嚇しはじめました! 怯えた茶虎さんは逃げる! 逃げる! はい、更に二匹脱落です。靴下さんは順調にテクテクと奥に進んで霧の中に消えつつありますが……あぁ、気が変わったようです。何事もなかったかのように戻ってきますね。


 さぁ、次々と脱落ネコが続出していて、現地人さんたちも戻ってきたネコを再び向かわせようとしたりしていて、もう何匹がどうなってるのかさっぱりわかりません。不毛です。全くの不毛な戦いです。果たしてこの漁はいつまで続くのでしょう……


「そろそろだな」


 ん、何がですか?


 腕時計を眺めていたウラジミールさん、ついと宙を指し示します。はて、一体何だろうと思っている間に、どんどん霧が濃くなってきました。うわわ、もう五メートルも先が見えません! これは怖い! さすがにこんな状況では漁は無理でしょう! はやくネコを呼び戻さなきゃ!


 その辺は現地人さんたちも心得ているようです。次々にネコじゃらしを取り出したり、餌を出したり口笛を吹いたり、なんとかしてネコ呼び戻してはカゴに入れます。ひーふーみー、九匹は無事に回収出来たようです。残りの一匹は……無念、海の藻屑となってしまったのでしょうか……


「いや、奴は戻ってくる……必ずな!」


 何の台詞でしょう。ウラジミールさんはNetflixの見過ぎのようです。いやしかし、霧の奥から何か黄金に輝くものが近づいてきます! あれは一体何でしょう! ネコです! キジトラさんが口に獲物を咥え、ついに帰ってきたのです!


 このネコ飼い漁は、よほど確率が低い漁のようです。現地人さんたちは大喜びでキジトラさんを抱え、万歳胴上げを始めました。しかしキジトラさんが持ち帰った物、アレは一体何なんでしょう……


 ウラジミールさんもすっかり別人のように興奮しています。さっそく現地人さんたちと交渉しはじめました。ちょっと待ってください? 何か凄いラチナムの量じゃないですか? 延べ棒が一本、二本……えぇい、持ってけ泥棒、五本でどうだ! なんてことでしょう、現在の市場価格ではラチナムの延べ棒は一本百万円くらいです。それを五本も出して確保したい物とは一体何なのか!?


「お宝だ。見てみな」


 ふむぅ、親指の先くらいの大きさがある、何かの宝石のようです。しかしこれは自身が発光していて、黄金色にキラキラと輝いていて綺麗ですね。ダイヤとかなら五百万くらいしても可笑しくないのかもですが……


「ダイヤ? ふっ、これはそんなちゃちな代物じゃねぇ。連中はただの宝石として珍重しているが、俺たちはこれの真の価値に気づいたんだ。こいつはな、ゼロ点エネルギーモジュールなんだよ!」


 ゼ、ゼロ点エネルギーモジュールだってぇぇ!



◇ ◇ ◇



~ゼロ点エネルギーモジュール~


 全ての物質はどんな状態であっても必ずエネルギー(ゼロ点エネルギー)を持っているので、それを活用できれば永久的に利用出来るエネルギー源となる。絶対に切れないバッテリーみたいな物が作れるかも。何か凄い。



◇ ◇ ◇



「こいつはエネルギーの抽出に触媒を必要とするようだから、無限に利用出来るエネルギー源とはならねえが……それでもこんな小さなモジュール一個で、小さな街一つ分くらいの電力を数十年にわたって供給可能っぽい。とてつもない価値がある代物なんだよ」


 な、なるほど、確かにこれはとてつもない儲け話のようです。ラチナムの延べ棒五本、いや、五十本くらい出しても全然元が取れます。


「そういうことだ。だがな、見ての通りのネコ飼い漁だ。年に一度、霧の晴れる一週間の間しかやれないし、それも確実ってわけじゃねぇ。だから俺たちがなんとかして大量にZPEを確保する方法を見つけ出せれば、途方もない大金持ちになれるって寸法よ!」


 ご、ごくり。確かにそれは凄いです。きっと私も夢のネコ御殿を建てて、ネコを百匹くらい飼っても平気でしょう。で、でもなー。ネコはあの通りの生き物だからなー。飼い慣らして一杯持ってこさせるようなことも出来ないだろうしなー。そういうお話なら、このキャットウォークに大きな橋を作っちゃうとか、そういう手は駄目なんです?


「一応、現地人の文化を尊重しないといけないからな……連中のしきたりでは、このキャットウォークに手を入れるのは御法度なんだそうだ。そりゃ下手なことして崩壊したら、連中にとっては全てが終わりだからな。何か上手い手を使ってネコに沢山ZPEを持ってこさせる方法があるなら大歓迎らしいが……」

 むぅ、そういう事ですか……わかりました! 私も番組制作費のため、夢のネコ御殿のため、知恵を絞ってみることにしましょう!



◇ ◇ ◇



★作戦その1 ネコに渡りを付けてもらおう!


 ふふふ、さすが私、すぐにいい手を思いついてしまいました。ウラジミールさん、綱はありますか?


「あぁ、そんなもんなら幾らでもあるが……」


 では、その綱を、こう、ぐるぐるっとネコちゃんに巻いて……はい出来ました! これでネコが霧の向こうに行って柱か何かをぐるっと回ってきてくれれば、手がかりが出来ます! あとはこの綱を使ってケーブルでも渡せば、ヒトでも無事に渡って行けるはず……!


「おお凄い! いい手だ! さすがネコ専門取材班!」


 いやウラジミールさん、これくらいなら誰でもすぐに思いつくと思うんですけど……


「無理無理。ネコに縄を巻くなんて畏れ多い作戦、普通の人間には思いつけないだろ普通。そんなことして大丈夫なのか? 噛まれない? ネコ怪我したりしない?」


 あぁ、ウラジミールさんは神聖ネコ教原理主義者でしたか……そりゃネコは可愛いですけど、結局は動物なんですから。その辺を履き違えちゃ駄目ですよ。


 さて、準備できました。十匹のネコたちが縄を抱いて、ネコ飼い漁に出かけ……ってうわぁ! みんな暴れないで! 落ち着いて! あぁ、縄がどんどん絡まって目も当てられない事態に……


「失敗だな」


 はい。



◇ ◇ ◇



★作戦その2 餌で釣ってみよう!


「餌で釣る? 馬にニンジンよろしく、ネコの鼻先にちゅるちゅーるでもぶら下げるつもりか?」


 いやいや、さすがにその手の原始的な装置じゃあネコを混乱させるだけだと私も学びました。そこで持ってきたのがこれ! 名付けて『キャットフードバズーカ』です!!


「キャ、キャットフードバズーカだと!?」


 子供向けの大きな水鉄砲を改造しただけですけどね。原価千円です。さてこいつの胴体にガラガラとキャットフードを流し込みます。そして空気を圧縮して、キャットウォークの良さげな所に狙いを付けて、トリガーを引くっ!


「おおっ! キャットフードがキャットウォークの上に、いい感じに散らばった!」


 ふふっ、思いのほか上手く行きました。これでネコたちは餌を求めて、どんどんキャットウォークの奥に進んでくれるというわけです! さぁ現地人さんたち! ネコを解き放つのです!


 見てください! ネコまっしぐら! あれだけてんでばらばらにしか動かなかったネコたちが、一目散に十本のキャットウォークに散らばります! そして上に落ちたカリカリを食べながら、どんどん奥に……奥に……


「……食うの、結構時間かかってるな……」


 え、えぇ……ま、まぁそのうちに食べ終えて奥に行ってくれるはず……


「……分速十センチくらいだな……」


 ……。


「……お腹いっぱいになっちゃったみたいだな……みんな寝ちゃったぞ……」


 ……。



◇ ◇ ◇



★作戦その3 どうしよう!


「どうするんだイワノヴァ、もう漁も明日で最終日だぞ。上手くいかなきゃ、また来年ってことになるんだが」


 えぇっ! もう今年の漁は終わりなんですか! 困った。あれから色々考えてみましたけど、どうにも上手い手が思いつきません。そもそもネコを思い通りに制御しようというのが無理難題すぎて……そうだ! いっそのことネコに頼るのは止めて、地球から曲芸師さんでも連れてきたらどうです? じゃなきゃ体操選手とか……


「馬鹿、もし霧の向こうにヤバい装置があったらどうする。その可能性は高いと思ってるがな。ヒトが行くなら十分に装備を調えた兵士三人以上じゃないと危険だ」


 そうですよね……うーん、しかし他の手となると……この手しかないけど、そもそもそれが出来るなら現地人さんたちがやってるはずなんだよなあ。


「まぁ明日までには何か考えてくれや。じゃあ今日は解散な」



◇ ◇ ◇



 どうにも疑問を拭いきれなかったので、そのまま現地人さんに事情を聞きに行きます。それで私は閃きました。ウラジミールさんの目を盗んで現地人さんに、こそこそっと耳打ちして地球に戻りました。


「おいイワノヴァ! 何やってたんだ、もう最後の漁が始まるぞ!」


 だ、大丈夫です! ちょっと準備に手間取ってしまって……


「準備だぁ? ちゃんと次の作戦は考えて来たんだろうな? 今日上手くいかなかったら、おまえらにかかった経費は全部……」


 わかってますって! これで万事解決です! さぁご覧なさい、百匹のネコちゃんたちです!


 荷車に積んだネコ籠の山を見たウラジミールさん、さすがに驚いたようです。それは私も大変でした。保健所を巡って処分されそうだったネコをかき集めようとしても、なんでそんな一杯引き取るんだ、食うつもりか、って。こういう時は『異世界ネコ歩き』の番組名が随分役立ちますね。


「おお、最終手段、人海戦術ならぬネコ海戦術か!」


 はい、シンプルイズベスト、これで単純に、宝石を持ち帰ってくれる期待値が十倍になるはずです!


「しかし百匹のネコとは……これ、終わった後はどうするんだ? さすがにそんな沢山のネコ、ウチの会社でも面倒は見れんぞ」


 大丈夫、その辺は現地人さんたちと話を付けています! ちゃんと面倒見てくれるそうですよ! さぁネコちゃんたち、行きたければ行き、行きたくなければ行かなくていいのです! いつも通り好きに生きて頂戴!


 籠からネコを解き放つと、やっぱりネコです、行ったり行かなかったり、転がったり寝込んだり、喧嘩したりしなかったりします。いいんです。それがネコです。ネコは自由が一番です。それでもそうこうしている間に、暇で好奇心旺盛なネコがキャットウォークの上を奥に進みます。一匹、また一匹と。そして宝石を持って帰ったり持って帰らなかったりします。


「凄いぞイワノヴァ! さすが百匹もいると、どんどん持ち帰ってくる!」


 いいですねー。ネコ様々ですねー。


 最終的にネコたちが持ち帰ったZPEは十二個になりました。早速ウラジミールさんが現地人さんたちと買い取り交渉を始めましたが、どうにも様子が変です。幾らラチナムの延べ棒を積んでも、現地人さんたちは首を縦に振りません。


「どうなってんだイワノヴァ、急に連中、がめつくなりやがって……今までの五倍でも駄目だって言いやがる」


 そりゃぁこれだけ必死に確保しようとしたら、彼らも宝石がもっと価値あるものだと感づいちゃいますよ。


「ぐぅ……そりゃぁそうか……これ以上の予算は俺には出せないが……しかしZPEの価値を考えたら、あと倍くらいまでは……仕方がない、会社と相談しよう……」


 ふふっ、事は思い通りに進みました。実はこれ、こういう作戦だったのです。


 なんでもっとネコを連れてこないのかと現地人さんにお伺いしたら、酷く驚かれてしまいました。どうやらこの世界でネコはとても貴重な存在で、簡単に増やしたり出来ないそうなんですね。


「そりゃあ宝石は持ってきてくれるけどさ」と、現地人さんの若者。「年に一回、取れるか取れないかだろ? そんで他には何の役にも立たないし、餌は沢山食うし……一つの村で一匹飼うのが精一杯だよ。あとは漁の時に野良ネコを集めるくらいしか……」


 どうやらそれは、この霧にも原因があるようです。日光が弱いので高カロリーな作物も出来ず、霧の人たちも消費カロリーは随分少ないようなんですね。そして作物を荒らす害獣のようなものもほとんどいなくて、ネコの存在価値があまりない。確かにそんな世界では、ネコを飼うのは相当の負担でしょう。


 そこで私はこっそり、宝石はもっと価値のあるものだと彼らに教えちゃいました。そうなると当然、話は別です。


「とはいえこの辺にいるネコを全部かき集めて十匹だからなぁ……増やすにしてもすぐには……」


 良かったら地球から、捨てられてしまったネコを集めて来ますよ? 当然、ちゃんと面倒を見てくれたらが条件ですけど!


「本当にあんたが言うくらいのラチナムでお宝を引き取ってくれるなら、ちゃんと面倒を見るよ! 可愛いのは可愛いからね!」



◇ ◇ ◇



 ウラジミールさんの会社は思い通りの大儲けを出来ずにがっかりな様子ですが、それでも結構な利益が出るはずです。そして霧の人たちも沢山お金を儲けられて、処分されそうだったネコも沢山助かって、ついでに私たちもロケが無料で出来て、全部丸く収まりました。しかしお宝とかお金とか、執着してもいいことありませんね。普段通りの取材をしていれば、打開策をもっと早く思いついたはずなんですから。


 ミニッツテイル・イワノヴァの異世界ネコ歩きシーズン2! 「自由へのキャットウォーク」をお送りしました。そういえば霧の向こうには何があるんでしょうね。ウラジミールさんの会社で霧の影響を受けないドローンを開発中だそうなので、その完成を待ちましょう。

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