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UKS

作者: での

 ある人は言う『UKS』を桃源郷に連れていってくれる神だと。

 ある人は言う『UKS』を地獄の底に連れていく死神だと。

 全員が言う『UKS』の声を聞いたら神隠しに逢うと。

 

 

 久万枝中学校

 一年生二十八人

 二年生二十一人

 三年生二十九人

 全校生徒総勢七八人の小さい学校

 

「杉本、『UKS』って知ってるか?」

 学校からの帰り道、ざっくばらんなツンツン頭の雄平が楽しそうに話しかけてきた。

「『UKS』か知らないわけが無いだろう、今学校ではその噂が絶えないし。」

『UKS』今学校で流行っている怖い話、何の略称だか知らないが、知り合いの姿で出てきてその声を聞いたら神隠しにあうらしい。

「でも恐いよな、神隠しだぜ、神隠し、まさに平成のドッペルゲンガーだよ。」

「ドッペルゲンガーは神隠しでなくて、会ったら死ぬだろう。」

 ジャンルが全く違う気がするが。

「そんな細かいところはいいじゃないか、とにかく恐いよなって事が伝えたかったんだし。」

 雄平は不満げにそう言った。

「そりゃ、実在したら恐いよ、でも実際に見たとかそんな話を聞くけど、声を聞いたら神隠しに遇うんだろ、神隠しに遇った人が『UKS』を見たって伝えられるはずも無いし単なる都市伝説だよ。」

 こっくりさんといい、口さけ女といい、トイレの花子さんといい、昔からこの手の話題は学校で絶えない。

  まったく現実に会った事のある人がいないというのに、迷信を怖がる人たちの気が知れない。

「まったく、相変わらず夢が無いな、ホラー映画だったら真っ先に死ぬタイプだぞ。」

 映画の様な雰囲気な場所だと流石に警戒するが。

「それに、『UKS』の声を聞いたら神隠しに遇うわけで、ただ見ただけだったら神隠しに遇わないだろう、もしくは誰かが『UKS』に声をかけられている姿を見ただけかもしれないし。」

 雄平にしては妙に食い下がるな。

「だいたい、神隠しに遇うような事があればニュースで取り上げられるだろうし、それにこの町の人口を考えると一人いなくなっただけでも大事件で、すぐ町中に広まるだろう。」

 人口高々三千四百人、田舎特有の横の繋がりもあり、誰かが居なくなっただけで直ぐに全土に知れ渡るような町だから。

「あ〜確かに、杉本が家出をしたときは凄かったなぁ、次の日学校中で噂になったし、確か隣の県まで自転車で行ったんだったかな、それで帰り道が解らなくなり警察のお世話になったと言う。」

 雄平が笑っている、おそらくあの時の状況を思い出しているのであろう。

「あまり思い出したくないな、とにかく俺の家出でさえあれだけの事になったんだ、神隠しなんてレベルになると連日連夜大騒ぎになるだろう。」

 今となって+は家出をした理由は忘れたが、次の日学校に行った時の周りのはしゃぎ様は今でも忘れられない、まったく人の噂は七十五日と言うが嘘だと実感した一年だったな。

「そーなんだけどね、ふと思うこともあるわけさ。」

 いつも能天気な雄平が、珍しく少し暗い口調で、そう言った。

「ふと思うこと?」

「神隠しは実際にあって、僕等がそれに気付いて無いんじゃないかってね。」

 雄平はうつむき加減で簿そりと呟いた。

「流石にそれは無いだろう、クラスの誰かが欠いたらいくらなんでもわかるだろう、親だって職場の誰かが欠けていたらわかるだろう、それに親兄弟がいなくなって気付かないやつなんて尚更ね。」

 気づかない事なんて無いだろう、週に一回回ってくる回覧板には全町民の人口・転出・転入者が乗っているのだし。

「いや、杉本が言っていることはよくわかるんだよ、ありえるはずが無いって。」

 雄平は頭を掻き毟りながらそう答えた、何か迷っている様にも見える。

「ただ・・・」

 

「何かが足りない気がするんだよ、違和感って言うのかな、本来在るはずの者が無いって言うか、杉本はそんなの感じたりしないか?」

「全く感じない。」

 違和感、雄平が急にそんな話をしだす事に違和感を覚えたが、雄平の言っている違和感とは別物だろうから、そうとだけ答えた。

「そうか…」

 そのまま二人とも余り喋らずに、帰り道を歩いた、気がついたら、久万枝公園の前、雄平の家の前まで来ていた。

「じゃあ、また明日」

 雄平が力なさげに家の前で手を振った。

「どうした?なんか顔色が悪いように見えるが。」

 顔面蒼白とは良く言ったものだ、青白い所か目の焦点さえ合っていないような、本当に大丈夫なのか。

「なぁ杉本、『UKS』って確か親しい人物に見えるんだったよな。」

 雄平がポツリと呟いた、目はさっきから俺の肩を越してさらに向こう、公園の奥を見ているように見える。

「噂ではそうなってるな・・・」

 背筋がゾクリとして、急激に後ろを振り返った、公園全体を見渡し、次に左右の道路、公園にはいつも遊んでいる子供たちが、道路には買い物帰りの近所のおばちゃん達がいつもの様に、いつもと変らずに存在していた。

「まさか誰か見たのか?」

 雄平の方へ視線を戻した。

「あ…いや、なんでもないよ、ちょっと確認したかっただけだから、じゃあまた明日。」

「僕の事、忘れるなよ。」

 雄平が最後にボソリとそう言った。

「また不吉な事を『UKS』は迷信なんだから気にするなよ、もし本当だとしても声を聞く前に逃げればいんだから、絶対声は聞くなよ。」

 迷信をなんで怖がってんだ、とも思ったが、雄平は昔から暗い夜道を一人で歩けないほど怖がりだったし、公園の柳を人にでも見間違えたりしたんだろう。

 

 ◇

 

 次の日

 

 いつもの時間割

 いつもの授業内容

 いつもとまったく変らないはずなのに

 何か違和感を覚える

 全校生徒七十六名全員揃っているのに

 クラス二十八人誰ひとり欠けていない筈なのに。

 

 つい、右方向を見てしまう。

 元から誰も居ない場所を。

 何故だか解らないが。

 

 つい、久万枝公園の前道路を挟んで向かい側にある空き地で足を止めてしまう。

 元から何も無い場所を。

 何故だか解らないが。

 

「うにゃ、杉やんどうしたの?誰も居ない場所をぼんやり見つめたりして。」

 昼休み、今日通算十五度目位になろうか、またふと右側を見てしまった、視線を正面に戻すと氷宮翔子が椅子に座ってこっちを見ていた。

「う〜ん、なんか誰かが居るような気がしてね、つい見ちゃうんだよ、でも結局誰も居ない。」

 どこと無く違和感を覚える。

「はにゃ〜、杉やんって霊感強かったかな?」

 氷宮さんが首をかしげた。

「全く、菱川さんがあの木の下に誰か居るって言って泣き出した時もなにも感じなかったし。」

 一昨年、クラス全員参加の肝試しを思い出す、戦時中に根元で兵隊さんが集団自決をしたと言われている、いわく憑きの木の前を通るコースを通った時に、クラスメイトの一人菱川さんが木の七〇メートル前の場所に蹲ってこれ以上近づきたくないって大暴れしたんだったかな、俺はスイスイ木の前を抜けて行ったけど、そういや後一人ぐらい暴れてた奴が居たような。

「ふみゃ、確かに幽霊の類いだったら、今頃菱っちが暴れ出して保健室に連れてかれてるだろうね。」

 氷宮さんがにやはははっと笑った。

「杉やん『UKS』って知ってる?」

 急に少し真面目な口調になってそういった。

「『UKS』か知らないわけが無いだろう、今学校ではその噂が絶えないし。」

 何処かでこのやり取りをやった事がある気がする、それもつい最近に。

「ふみゃ、じゃあ『UKS』に会いやすい人って知ってる?」

 氷宮さんがゆっくりと重い口調でそう言った。

「『UKS』に会いやすい人?」

 それは、今まで聴いたことが無かった。

「みゃぁ、やっぱりそれは知らないんだね。」

 氷宮さんが何かに納得したように、うんうんと頷いた。

「急にまるでそこに何かがあって当然のように振り向いたり、話しかけたりしだした人、まさに今の杉やんの用にね。」

 氷宮さんの目つきが鋭くなった。

「恐いことを言ってくれるね、でも今まで神隠しに遇った人なんて居ないんだし、その話だって怪しいものだよ。」

「そうにゃんだよね、私もさっき言った行動をとってる人なんて見たことが無ないしね、杉やんを除いて。」

 不安に追い討ちをかける様な事を平然と。

「そうか、過去にも居たような気がするよ。」

 誰だったか思い出せないけど。

「実は神隠しは実際にあって、俺達は気付いていないだけ…か。」

 ふと、何処かで聴いた言葉を思い出した。

「にゃにゃ、なんか意味深そうな言葉だね。」

 氷宮さんが興味深そうに体を乗り出してきた。

「誰が言ってたんだったかな。」

 ギィッ、椅子に寄りかかって思い出そうとしてみる。

  ・・・まったく思い出せない、何かの本で読んだんだったかな?

 ふと、教室の入り口を見るとざっくばらんなツンツン頭の男が立っていた。

「あー、そうだあいつだあいつ。」

 氷宮さんが急いで後ろを振り返った。

「んにゃ、何処を指差してるの、入り口には誰も居ないよ?」

 氷宮さんはの表情は困惑していた。

「え…あれ?さっき確かにあいつが居たんだけどな。」

 確かに、入り口の前に居た筈の人物は居なくなっていた。

「あいつって誰?」

 氷宮さんの口調が荒くなった。

「あいつはあいつだよ、ほら、あれ名前が思い出せ無い。」

 顔は思い出せるのに、どんな奴だったか思い出せるのに、名前だけが思い出せない。

「んにゃ〜、嫌な予感がするよ『UKS』がどんな姿をしているか知ってる?」

 氷宮さんの声は振るえ、目は涙ぐんでいる様に見える、まるで、死に逝く人を目の前にしたような悲しい表情。

「どんな姿って、『親しい人の姿』」

 声が重なった、いったい誰の声と?

「えっ」

 声のした方向を振り返った、其処には名前を思い出せない彼が立っていた。

「みゃー、杉やん何処を見てるの?そこには誰も居ないよ。」

 氷宮さんが周りを気にせずに大声で叫んだ、ただその声は届かなかった、周りの風景が暗転していき、まともに思考することさえできなくなっていく、苦痛は無いが、気持ちが悪い、これが死というものなのか、雄平が言っていたドッペルゲンガーって言うのもあながち外れじゃなかったのかもな。

 

 

 目を開けると真っ先に真っ白い天井が目の前に入ってた、背中に固い感触がする、どうやらベッドの上に寝かされているらしい。

 

 ベットから体を起こして辺りを見回してみる、白塗りの壁、簡易な窓、手で押して開ける入り口、ホワイトボード、パイプ椅子、パイプ椅子の上にはスーツを着た見知らぬ女性の人が座って本を読んでいた。

「あら、目が覚めたのね」

  本を読んでた女性はこちらに気付き、本に栞を挟んで近くの棚の上に本を置いた。

  「ここは、病院ですか?」

 今一、理解が出来ない確か学校に居て、雄平にあって、その後急に意識が飛んで、俺はあの場に倒れて救急車にでも運ばれたのか。

「そう、石飼病院よ。」

 スーツを着女性は無感情にそう答えた、やっぱりここは病院らしい。

「神隠しにあったと思ったんだが。」

「一応、あなたたちの言ってた『UKS』の神隠し先ってここよ。」

 またしても、無感情にあっさりとスーツの女性は答えた。

「まさか、『UKS』が実在していたなんてね、俺はこれからどうなるんだ、外国にでも売られるのかな。」

 『UKS』は実は人身売買機関だったておちか?

「あなたには一週間程入院して、現実世界に慣れてもらいます。」

「現実世界?」

「やはり、何も思い出せ無いですか、年少の時の記憶を思い出せって言うほうが無謀でしたね、徐々に説明していきますね。」

 スーツを着た女性はホワイトボードに『久万枝』と大きく書き、それにばってんを付けた。

「まず『久万枝』、そんな町は現実には存在しません。」

「それは変だぞ、現に俺はそこに住んでいたし、はっきり記憶だってある。」

 何を言っているのか理解できない、もしかして夢おちの方か?

「それが『久万枝』の恐ろしい所でね、全く開発した人は何を思ってやったんだか。」

「開発した人?」

「あれは、大規模人間環境シュミレーションソフト、生の人間を色々な環境って育った場合にどういった成長を遂げるのかを研究するための箱庭」

 スーツを着た女性はホワイトボードに簡単な解説をざっと書いてくれた、どうやら生後6ヶ月から6歳ぐらいまでの子供にナノマシンを注射し起動させるらしい。

「例えば、幼い頃から変わった言葉を当然の如く使わせたらどうなるか、幼い頃から幽霊は恐いものだと言い聞かせて育てたらどうなるかとかね。」

 『うにゃ』とか言っている人や、いわくつきの木の手前で暴れた人たちを思い出していた。

「私達はそんな非人道的な研究に反対していて、血液中に潜入し『久万枝』を停止させるソフトを造ったの。」

 スーツを着た女性はホワイトボードにUKSと書いた。

「それが『UKS』、(U)アンチ(K)クマエダ(S)ソフト」

「それはまた安直なネーミングですね。」

「こういった物の名称は単純であれば単純であるほど良いのですよ。」

 

 

 一週間後、この現実世界と言われている場所についてのレクチャーを受け、病院の外で実生活を送ることになった、現実世界は『久万枝』に居た時に子供たちが夢見ていた近未来の風景によく似ていた。

  高々と聳え立つビル郡、空を飛ぶ乗り物が飛行機以外にも幾つか出来ていた、宇宙に住んでいる人も居るらしい。

「でも、息苦しいな。」

  誰かが言っていた、『UKS』を桃源郷に連れていってくれる神だと、『UKS』を地獄の底に連れていく死神だと。

  あの団体は、『久万枝』から人々を救っているのだと言っていた、『久万枝』で日々楽しく生きていた人達にとっては余計なお世話なんじゃないかと、些細な物事でギスギスしてる人達を見てそう思った。

 

 

 一年経ち・二年経ち。

 この『現実世界』にも慣れてきて、すっかり『久万枝』の事を忘れていた。

 ある日から、高校で一種の怖い話が広まった、それは会った人が神隠しに遭うと言う内容の怖い話。

「ねぇ、『UGS』って知ってる?」

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