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待ちぼうけ




結局、さとりと別れた後に家に戻ったヤマメはもやもやとした気持ちを抱えたまま一日を過ごし、気付けばまた朝がやってきていた。

地上のように全てを明るく照らす太陽があるわけではない、変化はせいぜい明かりの有無ぐらいのもので、それしきでヤマメの胸に満ちる靄が消えるはずがない。

体を起こすと同時に大きくため息を吐くと、一度、二度と目をこすって立ち上がる。

視界の霞が晴れても、やはり気持ちはまだ晴れない。

こうしてもたもたしている間にも時間は刻一刻と迫ってくる、今日もまたパルスィはあの橋の上でヤマメを待っているのだろう。

行かないわけにはいかなかった。

行きたくない気持ちはあったが、それよりもパルスィとの繋がりが切れてしまう方がずっと怖かったから。

何もしないでいると嫌なことばかりを考えてしまう、いつもよりも少し早い時間になってしまうが、ヤマメは朝食と外出の準備を始めることにした。


夜はあれほど賑わっている大通りも、午前中となるとしんと静まり返っている。

酒飲みどもが好む店が軒を連ねているのだ、夜がピークになるのは当然だが、昼間から賑わっているのは昼から酒を飲む贅沢者がそれだけ多いということだろうか。

静かな大通りというのもそれはそれで貴重だし、乙なものだ。

ヤマメは騒がしいのが好きだ、だがたまには一人で落ち着いて散歩したくなることもある。今みたいな状態だと、特に。


「……なんだ、いないじゃん」


どうやら早すぎたらしい。

橋に辿り着いたヤマメだったが、そこにはパルスィの姿は無かった。

肩透かしを食らってしまった、ここで待ちぼうけするのは別にいいのだが、こうして止まって考え込んでいると――ほら、余計なことばかり考えてしまう。

昨日のこと、パルスィの隣に居たかわいい女の子、腕を組んだ二人、向かった先は連れ込み宿だろうか。

それから、嫉妬に狂った自分自身のこと。


「さっきまで私を抱きしめたくせに……か。

 私ってば、まるっきりめんどくさい女だ」


その可能性を全く考えたことが無かったかと言われれば嘘になる。

二人の関係は実に奇妙だった、趣味も性格も客観的に見て相性が良いとは言えなかったし、実際にお互いに嫌いなところだってはっきりしていたはずなのに、じゃあどこが好きなのか、なぜ友人なのかと問われてはっきりと答えられる事は一つだって無かった。

出会いもあやふやで、付き合いもあやふやで、思えばそれは自分の感情から無意識のうちに目をそらしていただけなのかもしれない。

パルスィがどう考えているかはヤマメの知る所ではないが、少なくともヤマメにとってパルスィは手を出してはいけない相手のように思えたから。

縛ってしまうと思った。

蜘蛛だけに、なんて洒落を言うつもりは無かったが、あるいは本当にヤマメが蜘蛛だからこそ相手を縛り付けてしまうのかもしれない。

実際にそうしたことがあるわけではないが、もし恋人ができた時にきっと自分は相手を束縛してしまうだろうという予感はあった、まさにめんどくさい女そのものだ。

一方でパルスィは自由人。好き勝手に生きて、抱いて、壊して、そうやって生きている。

ヤマメは考える。自由奔放な彼女を縛り付けるなど、あってはならないことだ、と。

好きになってはならないとはそういうことだ、きっと自分ではパルスィを幸せには出来ない、満足させることはできない、だからせめて友人として。

だってらしくあることこそが幸せなことなのだから、と。

今もその気持ちは変わっては居ない、だからこそ決意できない、どうしてもへたれてしまう。


考えれば考える程、自分がパルスィにふさわしいとは思えなくなってくる。

そもそも友達である必要があるのか、誰を抱こうが砕こうがパルスィの勝手なのにそれを邪魔して、機嫌を損ねてみて、傍に居るだけで彼女に負担をかけているだけなのではないだろうか、なんて。そんなことまで。

いつもならとっくに来ているはずなのに一向に姿を見せないことが、ヤマメの不安をさらに加速させていた。


一時間、二時間、三時間、やはりパルスィは姿を見せない。

昼を過ぎ、大通りは次第に賑わい始めている、じきに狩りのやりやすい時間にもなるだろうに。

それとも今日は例の少女と一緒にデートでもしているのだろうか。

昨日、あのまま二人で宿に泊まったとするのなら、そのまま二人で出かけた可能性だって無くはない。

パルスィいわく、あまり獲物に入れ込みすぎないのがコツらしいのだが、例外がいつやってくるかはわからない。

ひょっとしたら、今回こそ本命だったのかもしれない。

惚れて、入れ込んで、自分が居たはずの場所にはあの少女が居て、自分は要らない存在になっていく。

嫌な想像ばかりがヤマメの脳裏を掠めた。

ごっそりとテンションを削り取っていく、立ち上がるのも億劫になるほどに自分の心が落ち込んでいくのがわかった。

自分は相応しくないと自覚しながらも、せめて傍にいるぐらいは、などとワガママすぎる。

本当にパルスィのことを大切にしたいと思っているのなら、幸せを思って身を引くべきだろうに。

今までさんざんパルスィやさとりに対して性格が悪いと貶してきたが、自分も人のこと言えないな、と自嘲する。


待てども待てどもパルスィは来ない。

今日は来ないつもりなのだろうが、今まで一度だってヤマメが待っていて来なかったことなど無かったと言うのに。

そもそも彼女は橋姫、そのくせ一日のうち一瞬だって橋にこないとは何事か、妖怪としてのアイデンティティを自ら放棄するなんて。


「……心配だし、見に行こっかな」


このまま待ち続けるのもアホらしい、だったらパルスィの家に向かって、居ないのなら今日はそれで諦めればいいだけの話。

あの少女と鉢合わせる事態だけは避けたいが、パルスィの身に何かあったのなら放っておくわけにもいくまい。

家の場所は知っていたが、今まで一度も行ったことは無かった。逆にパルスィがヤマメの家に来たことならあったのだが。

二人で温泉に行く程度には仲が良いと言うのに、思えば妙な話だ、それとも意図的にパルスィが避けていたのだろうか。

別に何があろうと、ヤマメは今更気にしたりはしないのだが。

何せ、彼女の一番汚い部分を一番近くで見てきたのだから、何が起きようとも今更だ。




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