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念願の異世界召喚?  作者: アシタチ
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結末

奴の研究所跡に彼女が入っていく姿を見る。


私ならば彼女を今すぐ救うこともできる。

だが彼女は貴女を亡くした記憶を思い出してしまった。あのつらい記憶を思い出させてしまった彼女を救う資格は私にはない。



あの時奴は自分に従わない貴女を殺そうとしていたのは間違いない。彼女が暴れていなかったとしても遅かれ早かれあの男は貴女を殺そうとしただろう。

私は拳を握りしめる。あの時私が奴から貴女を守れたならこんなことにはなっていなかったはずだ。


奴は憎むべき存在。追い詰めようにもあと一歩といった所でかわし続けていた。キブスのように力を封じてくる方法を奴は持っていた。それゆえ下手に近づけば私が捕まり強大な力を持たせてしまう可能性があった。だが今が好機だ。あれほどの大きな規模の装置を使った後なら次の装置を用意するのには時間がかかるはず。しかし彼女が奴と行動を共にするのを見て私は動けずにいた。




次の日。彼らがここへ来た。…どうやら奴の居場所を探しているようだ。

研究所跡から入っていく。彼の姿を見た私は何故か安堵している自分の心に気付いた。

分からない。だが今が動く時だと私は別の入り口を探す。奴ならば必ず逃げ道を用意するはずだからだ。

…中々見つからず苦戦したがようやく隠された道を見つけた。

周りには誰もいない。好機と見て私はその道を進む。


暗く長い道を歩いていく。


すると奥から奴の怒号が聞こえてくる。


ガイツ「―――その転生者を殺せっ!!!この女を生き返らせたくないのか!?」


その時、私は物陰からそれをみる。

大きな水槽の中には貴女と思しきものが入っていた。


此処に貴女がいるわけはないと私には分かっていた。貴女はあの時光の粒子となって消えたのだから。

それよりも転生者。その言葉に耳を疑う。

そこには彼女と、貴女とよく似た彼がいた。


…そうか、貴女は彼に。


私は自分の中のしこりが取れた様だった。

彼と初めて対峙した時、奴が貴女の力を使い生き返らせた偽物だと思っていた。

そんな者を庇うマライブも奴の手に堕ちた街と睨み多くの魔物で消しかけた。

だがその時出くわした彼から貴女と同じものを感じた。私が勝手に貴女の面影を合わせてしまったものだと思っていた。特にキブスで彼があのフェンリルの者から変えたであろう姿で私にはより一層分からなくなってしまった。彼は一体何者だと。


だがここで確信した。彼女を救うために貴女はまたここに戻ってきたのだと。

生まれ変わっても、貴女は何処までも貴女だったのだと。



…彼女の事は彼が上手くやってくれるだろう。

ならば私は。



…遠くから足音が聞こえる。


ガイツ「クソッ!!希少種でもしょせん魔物は魔物か!使えると思った私がバカだった!」


奴の行く道に私は立ち塞がる。さすがの奴も私に気付いた。


ガイツ「な、お、お前は…っ!!?」


私は奴に静かに近づく。コツコツと靴音だけが響く。


エンダイト「ようやく貴様を追い詰めた、私を忘れたわけではあるまいな?」


奴はたじろぎ後ずさる。


ガイツ「ま、まま、待て。こ、交渉をしようじゃないか。興味ないか?お前の力があれば閉鎖空間と化したこの島も、果てはこの世界をも好きなように…」


私は奴の首に手をかける。


エンダイト「そんな戯言に興味はない。貴様、彼女をも利用したな?」


手に力がこもる。


エンダイト「私が貴様に従うと思ったのか」


ガイツ「ま、待て、早まるな。お前も見ただろう?私はあの女を造ることに成功したのだ!再び共に過ごすことも…」


エンダイト「黙れ」


彼の横腹に一差し入れる。鮮血が噴き出る。


私が手を離すと奴は痛みに呼吸が早くなる。死にたくないと私に声も出ない助けを求めてくる。

そんな奴を見下ろし私は語気を荒げた。


エンダイト「あの人が一体何をした?貴様の醜い欲望のせいで殺され尊厳をも踏みにじられた」


私は奴の頭を掴む。


エンダイト「貴様に転生などは無い。このまま消えろ」




奴はまるでここにはいなかったように、暗闇と静寂の中に消えていった。





―――時が経ち、私は思い出の場所へと立ち寄った。

昔寄った時よりも草木が生い茂り岩の裂け目はより一層分かりづらくなっていた。


私はそれらをかき分けて中へと入っていく。

中はあの時と変わらなかった。


私は奥にある誰かが寝ていただろう、風化してボロボロになった藁の塊を見つめた。


エンダイト「…懐かしいな」


まだ私が竜だった頃。ここに貴女は座り私に何気ない話をしてくれた。

あの頃の貴女の話は戯言のように思っていた。何故こんな私を気にかけるのか、時には鬱陶しくも思った。苛立ちを覚え脅したこともあった。

だがそれでもずっと話しかけてくれた貴女に私は不思議と惹かれていった。

貴女の話に時には笑い、悲しみの感情も沸いた。

こんな時間がいつまでも続けばいいのにといつの間にか思うようになっていた。

貴女のいない時間がこんなにも長く苦しいとはあの時の私ではそんな事を思うことは無かっただろうと少し笑みがこぼれた。



…私はもう疲れた。


振り返り洞窟の出口を見つめる。貴女が差しのべてくれた手、表情どれも私にはかけがえのないものだった。

自分の手を胸に当てる。

私の為すべき事は果たした。彼女も、彼へと転生した貴女にも会えた。

…貴女が私の行為を許すだろうか?


光に包まれ消えようとした時。

私の目の前に―――



―END―


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