物流の街 キブス 7
その日の夜、カイにドレン、俺とフラーフェは二人の向かいに座り明日の夜に行う作戦の確認をした。
俺はベッドに横になっていた。何となく昼間のことを思い出す。何かどうしてか釈然としない。そんなことを考えていると扉が開く。中に入って来たのはフラーフェとドラコだった。
フラーフェ「あ、起こしちゃった?」
咲「いや、まだ寝てないさ。それよりもドラコと一緒にどうしたんだ?」
苦笑いするフラーフェに対しドラコは元気に声を上げる。
フラーフェ「ドレンさんが今日はちょっとやることがあるからドラコをと一緒に寝てあげて下さいって頼まれて。私達となら安心だってさ。それよりも…あっ」
咲「うわっ!?」
フラーフェの手をすり抜け俺に突撃するようにドラコが飛び込んでくる。
ドラコ「ギャウ!ギャウ!!」
まるで自分の親の様に甘えてくるドラコに驚いてしまう。
ペロペロ舐められたり頬ずりされたり。くすぐったくてしょうがない。
フラーフェ「なーんか寂しいなぁー…えいっ!!」
咲「フラーフェ!?」
ドラコと同じようにフラーフェまで甘えてくる。
それにもみくちゃにされかなり息苦しい。
咲「お前ら!ちょ、息苦しいって!」
フラーフェ「ドラコなんかに私のサキを独り占めになんかさせないもんっ!!」
ドラコ「ギャーウ!!ギャウギャウッ!!」
まるでこっちこそと言わんばかりに対抗するドラコ。
そのあと気が済むまで俺はずっともみくちゃにされ、眠れたのは二人が騒ぎ疲れ眠った後だった。
作戦決行日の夕方。その日の朝ドレンは作戦の準備として朝早くに家を出ていた。カイ自身もある程度手伝っていたからか目のクマがより一層酷くなり髪はぼさぼさになっていた。
カイ「裏門のところでドレンが待機している。さて、そろそろ行ってもらおうか。僕はここで君たちのサポートをしよう」
カイから渡された無線機のようなもの。これから俺達をサポートしてくれるらしい。
ドラコ「ギャウ…」
ドレンと一日会ってないのもあってかドラコはいつもの元気が無い。
フラーフェ「…ねぇカイさん、ドラコも一緒に連れて行っても良いですか?」
カイの顔が曇る。
カイ「駄目だ。滅多に見ることも出来ない貴重なドラゴンだ。危険なところには連れて行けない」
きっぱりと断られてしまう。だがフラーフェは引かなかった。
フラーフェ「ドレンさんに会わせてあげたいんです。好きな人とは一日でも会わないのは辛い事だから…」
咲「…カイさん俺からも頼む。ドレンさんもサポートだろう?俺達みたいに危険な所に行くわけじゃないんだ。それにここに一緒にいるとドラコに作戦の邪魔をされるかもしれないぞ?」
ドラコ「ギャウ!!ギャウ!!」
縛られて大きくあかない口から小さな火が漏れ出る。
カイ「…ふぅ。僕の所より彼女の方がコイツも落ち着くか。分かった、そうしよう」
どうやらカイが折れてくれた。
フラーフェがドラコに向かって良かったねと言うとドラコ自身も羽を勢いよくパタパタさせ声を上げた。
カイの言う通り街は人通りが少なく中央付近は人混みや何やら楽器の様な音が聞こえる。
その祭りを横目に見つつ、俺たちは昨日の広場へと急ぐ。あの時とは違い誰一人いない中、ドレンが一人で作業しているだけだった。
ドラコ「ギャウォーン!ギャ!!」
ドレン「ドラコ?」
ドラコがドレンの元へと近寄っていく。まさかと思っていたのだろうドラコの鳴き声でこちらに気づいたようだ。
ドレン「カイの元で待つよう言ったでしょう?紐まで外して…」
叱っているようだが、顔には笑顔が浮かんでいる。
フラーフェ「ドレンさんごめんなさい。私がわがまま言ってカイさんの所から連れて来たの」
俺もフラーフェと一緒に頭を下げる。ここに来るまでの間勝手に口に付けられた紐も外していた。勝手なことをしたのは分かっているが何よりもそんな窮屈なのは可愛そうだというのが俺たちの意見だ。
ドレン「そうだったんですか。いえ、ありがとうございます。…ですが、この子はあなた方と一緒に行動させて下さい。この子は探し物が得意ですので」
フラーフェ「でも…」
ドレンは微笑むだけだった。本を開き何か唱えると紫色に光る模様が浮かび上がり扉が現れる。そこが裏口に当たる所で普段は隠されているそうだ。
ドレン「…ここを通れば図書室に続く廊下に出ます。一本道に一つの部屋があるのですぐに分かるでしょう。監視は減ってはいますが見つからないよう気を付けて下さい」
咲「…ああ、分かった。ドレンさんも気を付けて」
ドラコ「ギュ…」
悲し気な声を出す。ドレンは微笑む。目が潤んでいるようにも見えた。
俺達は光る模様へと入っていく。
――彼らが城へと姿を消していく。やれることはやった。私はつくづく天から見放されているようだ。死ぬことが決まってからこうも上手く事が運べるとは。
…後は死ぬだけだ。いや、本当に死ねるだろうか?
涙がこぼれ落ちる。体も震えてくる。
助けて、とも逃げて、とも言えなかった。だって私をあれらがずっと監視していたから。
恐怖からなのか冷たい視線からなのかは分からない。
ドレン「ドラコ…元気でね」
後ろから声がする。その声に憐れみを抱きつつも、私の意識はそこで途絶えた。




