ギルド『ハブドブレイブ』 25
男が繰り出す攻撃は殺意の塊に近いものだった。その上俺が使う無属性よりもはるかに性能が高い。
咲「このっ!!」
苦し紛れにロックハンドを出す。男に向けて三発、しかし男は片手を上げるだけで全て悉く壊し消し去っていく。
俺がジールの剣や、フラーフェを人間に変えるときに使った必殺技ともいうべきあの技だろう。何もかもを無くす、あの技。
今の俺にはあの技は使うことが一切出来ない。あの後何度も物で試すが発動の兆しすら見られなかった。どうやら極限の状態だったから使えたモノらしい。
今はまだ極限の状態じゃ無いってか!?
頭の中で叫ぶ。それよりも男は、フラーフェには一切攻撃しようとはしていない。
フラーフェ自身もマクスを使ってこの場を離脱しようとしているみたいだが、ここを中心に何か妨害されていて次元の力が使えないらしい。
一瞬男から視線を外したことで男が急接近したことに気づくのが一つ遅れる。
何の装飾の無い剣の一振り。ギリギリの所でガルクとの訓練の賜物の魔法を出す。
???「…魔法で剣を創ったか」
手の甲を沿うように一つの剣を創りだす。火と土の魔法を使った応用技だ。
ガルクの一言、合う武器が無いのなら自分で作れば良いじゃんなんていう身も蓋もない言葉から生まれたものだ。
咲「代用品だが、アンタのその剣に負けず劣らずの性能だろうよ」
男は何も言い返さない。お互いの剣が擦れ火花を散らす。
力も拮抗している。ガルクの馬鹿力と比べればこの男の力はそれほどでもなさそうだ。
フラーフェ「やあぁぁぁっ!!!」
男に向けフラーフェが一振りする。男は読んでいたように一歩身を引きそれを避ける。
フラーフェ「サキ!!大丈夫?」
咲「フラーフェ!!ありがとう、助かった!」
俺とフラーフェは男を見る。男は目を見開いたように見える。
???「………故だ」
何か独り言が聞こえる。しかしそれは独り言ではなく俺に対しての問いの投げかけだった。
???「何故…。貴様は何の為に彼女を人間にした?」
咲「…それが今、何の意味が」
???「答えろ」
男の見据える目。有無を言わせないようだ。
俺は素直にあの時の感情を伝える。
咲「…守りたいと思ったからだ」
???「守りたいだと?」
咲「そうだ。俺はフラーフェに助けられた。だから、その恩を返したい。それに…」
この先の言葉は少し恥ずかしい。恥ずかしいけど、俺はフラーフェの前に立ち、声を大にして言い放つ。
咲「コイツのことが愛しいと感じたんだ。だからこそ守ってやりたい。どんな奴からも」
???「…」
男は無言のままだ。何かを見据える瞳。
ふっと、男から殺気の塊だった重圧が消えた。
???「…良いだろう。ならば彼女を守って見せろ」
男が手を光らせる。光が消えるのとほぼ同じタイミングで遠くの方で聞こえていた音が止む。
咲「どういうつもりだ?」
???「…マライブを攻める理由が無くなったからだ」
咲「理由…?」
俺の言葉のどこかに止めるに値するものがあったのだろうか…?
男の目は俺を見つめている。
???「…嘘偽りは無いな?」
男の一言。俺は即答する。自分の気持ちを正直に言っただけなのだから。
???「…彼女を守り切って見せよ。それが彼女への唯一の救いだ」
男は踵を返し歩いていく。
咲「ちょっと待てよ!!お前フラーフェを知っているのか!?唯一の救いって何だ!?」
男は無言だった。その時フラーフェが小さな声で言葉を発する。
フラーフェ「エンダイト…」
男が一瞬動きを止める。しかし何事も無かったように歩き始め男の前に現れた、あの歪んだ空間に入り消えていった。
男が俺に向けて発した言葉、フラーフェのあの男の名前らしき言葉、エンダイト。
一体どういう事だ…?
フラーフェも何か考え込んでいる。とにかくこれで一件落着のはずだ。今は他のことを考えるのはあとにしよう。
咲「フラーフェ、ここは一回マライブに戻ろう?このままここにいるのは危ない」
フラーフェ「…うん」
フラーフェのどこか上の空な返事。空は段々と赤から黒へと染まろうとしていた。




