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モノモライ

作者: 参式

初投稿です、短編を書いてみました。


文学フリマ短編小説賞 応募作品です、短いですが。


あまり怖くはないですが、一応ホラー

高校時代、クラスメイトからのいじめを苦にして引きこもり始めてから早 2 年。

しかし、もう 4,5 年位は経ったような気もする。


毎日母親が部屋の前に置く食事を1日2回口に入れ、ただぼーっとしながらネットでやり過ごす毎日。

そんな自分が原因か、喧嘩の絶えない両親はついぞ限界が来たらしく、父親は出て行ったようだ。

生活費は渡されているらしかった。


さらにしばらく経ったある日、母親が何も言わずいなくなった。

正確に言えば、最近家の中で物音がしないなと思って一週間ほど経過したあたりで家を出て行ったのだと気付いた。

当然か、自分のような穀潰しに 1 年も我慢をしてくれただけありがたいと思う。


食事を求め、家探しをしている最中に玄関で見つけたのは、一万円札とキャッシュカード。

そして一緒にメモが 1 枚。


「さようなら、限界です、お金は振り込むので勝手にどうぞ」


覚悟はしていたが、かなり動揺した。

だが、こうなった以上は何とか生きるしかない。

幸い、お金は用意してくれているようだ、いつまで続くかはわからないが。


一応、親の携帯電話に連絡しようとして、番号を知らない事に気付いた。

1 年前に使っていた携帯電話は既に契約が切れている様子で通じない。


「くそっ」


口には出したが、正直こうなって当然だな、と思う自分。

さらに思い返そうとして、親の顔の記憶すら曖昧な自分がいた。

同時に、金は振り込まれるとのことなのでそれほど大した変化は無い筈だ、と安堵している自分。


(吐き気がする)


それから、既に何度もあさり尽くした冷蔵庫をさらに隅々まで食料が無いかを調べるが、何も無い。

冷凍室には製氷機だけが鎮座している。


戸棚の奥にはカップめんも缶詰も何も無かった。

当然だ、自分が全て食べ尽くしたのだから。


まずは家を出なければ食料が無いと再度認識させられる。

現在の時間は午後3時。

さすがに道を歩いていて問答無用で補導されるような時間帯ではないはず。


「大丈夫、大丈夫…」


自分に言い聞かせながら、メモとキャッシュカード、一万円札を着ているスウェットのポケットに押し込んだ。

埃かぶった上着を羽織り、カビ臭い靴を履きまでしたが、やはりどうしても外に出る為の一歩がどうしても踏み出せない。

というかもう玄関の扉が異世界への扉の様に見える。

動悸が激しい、立ち眩みがする、息が苦しい。


深呼吸をしながら目をつぶり、ゆっくりと扉の取っ手に手をかけた。


「ふぅぁ…!」


ハンマー投げ選手の叫び声をイメージしながら、自分なりに活を入れ、一気に扉を開いた。


ゆっくりと目を開けると、ただの住宅街だった。

何のことはない、少しだけ目がすぼむ感じがするが、とりあえずは問題はなさそうだ。


一応周りを見渡すが、誰もいない、好都合である。


友人…果たして自分に知り合い程度でもいたかどうかはさておき、自分のことを知っている人には出来るだけ出会いたくは無い。


きょろきょろと周りを見渡しながら、2年前のおぼろげな記憶を頼りに、ゆっくりと歩きながらスーパーへ向かう。

歩きながら向かう途中、後ろから自転車をこぐ音がする。


自転車といえば、2 年程前に学校で自転車のサドルが盗まれ、ハンドルや車体にはおもちゃのスライムが塗りたくられていた。

そのまま放置して帰ったら次の日、生活指導の教師に何故か殴られた。


(ああ、いやなことを思い出してしまった)


隣を結構な速度で通り抜ける自転車に目をやる。


女の子だった。

背丈、また自分の通っていた高校とは別の制服だという所から推測すると、恐らく帰宅途中の中学生だろうか。

さらに、右目に白い眼帯をつけているのがわかる。


眼の病気だろうか、と思った矢先に目が合った。

女の子はかわいかったが、なんとなく怖くなりすぐに目をそらした。


「えっ」


女の子の物らしき声が聞こえたと思い再び目線をやると、目が合った。


瞬間、自転車が横から来た大きな車に吹き飛ばされた。

女の子は子供の振り回すぬいぐるみのように飛んだ。


液体を撒き散らしながら飛んでいく女の子。

1 秒にも満たない間、スローモーションの VTR を見ている感覚。

女の子は飛びながらもその視線は、信じられない物を見るかのように自分をじいっと見つめていた。


 ……気付けば自分はすぐ近くと思われる小さな公園で、胸を押さえひゅうひゅうと音を立てながら崩れそうになっていた。


膝がガクガクと痙攣する。

走って逃げてきたのだろう、よくこの運動不足で走れたものだ。


(怖い)


遠くで救急車の音が聞こえる。

もう自分が戻る意味は無いだろう。


食事はもうしたくないが、ここまで来たらと一応食料を買い込みに再びスーパーへ向かう。

公園で遊んでいた小さな少年も、眼帯をしていたのが目に付いた。


スーパーのある大通りへ繋がる住宅地を歩いていると、犬の散歩をしているおばさんがいた。


(…おかしい)


考えるまでも無い、 そのおばさんも眼帯をしているのだ。

さらに犬までも。


新種のウィルスか、それともファッションでも流行っているのだろうか。

変だなぁと思いつつもう一度おばさんを見てみる。


するとどうだろう、明らかに驚いた表情でおばさんこちらを凝視している。

なんだろう、気持ちが悪い。

もしかして自分が引きこもっていたことが近所中で噂になっているのだろうか。

記憶が正しければこの人は知り合いではないが。 


おばさんは明らかに動揺した声をあげながらこちらに詰め寄ってきた。


「あ、あ、あ、あんた。なんでなんで」


「えっ」


「なんでつけてないのよ!」


おばさんが鬼気迫る表情で掴みかかってくる。

一体何が起きている。


「え、いや」


「なんでつけてないのよ! どういうことよ!」


おばさんがさらに肩を強く揺すってきて思わず


「ゃめぉろ!」


変な言葉と共につい突き飛ばしてしまった。


おばさんがしりもちをついた隙に逃げる、足が限界だがそれどころじゃない。

後ろから届く犬の鳴き声がすごく耳障りだった。


「はぁっ・・・はぁっ」 


腋が痛い、肺が痛い、全身が痛い。

もうここがどこかもわからない。

もう無理だ。帰りはタクシーを使おう。

膝に手をついて呼吸を整えた。


普通に歩けば 10 分ほどの距離のはずなのに、もう 20 分近くたっている。


だがやっとスーパーの入口が見える大通りまでたどり着いた。

早く食料だけ買って帰ろう。


と、顔を上げると。

そこで見たのは見知った街並みとはどこか違う有様。


見渡す限り町全体。

老若男女、子供もカップルも親子も兄妹も老夫婦もアクセサリーを路上販売しているオッサンもティッシュを配っているお姉さんもベンチで寝ているホームレスも。

全員が眼帯を着けている。


ここまで来ると恐怖でしかない。

意味がわからない。


しかも全員が [右目] につけている。


どういうことだ、と驚愕している横から 「ちょっと、君」 という声がした。


「えっ」


横を見ると眼帯をした警察官がこちらを訝しげに見ている。


「うわあああ!」


逃げる。 

足が動かない。

でも逃げる。

訳がわからない。

もしかして何かイベントなのか?

それとも新しい政策なのか? 

意味がわからない。


取り合えず確定していることは、眼帯をしている人間に、襲われるかもしれないということだけだ。


右目に何か秘密があるのか?

もう本当に訳がわからない。


思わず右目を抑えながらうずくまる。


怖い。


こんなにも外は恐ろしいところだったのだ。


このままでは家に帰ることすら出来ない。


(右目…眼帯…右目…眼帯…怖い…右目…)


と、一つ妙案が浮かんだ。


 



「ありがとうございましたー」


店員の言葉を背に、手早く右目に眼帯を装着する。


すぐ近くのコンビニにも眼帯が置いてあった。

右目を手で抑えながらだと特に何も言われなかった。


(良かった)


当初の予定通り食料を買ってタクシーで家に帰る。

無論、運転手も眼帯をつけていた。


それから数ヶ月が過ぎ、一人暮らしの生活も順調に過ごしていた。

相も変わらず近くのスーパーへ食料を買いに行く。


いや、一つだけ新たに習慣にしていることがある。

眼帯に対する調査だ。


テレビのタレントすら眼帯をつけていることも判明した。

だが、一切眼帯に関するニュースもそれらしい情報も無かった。

奇妙なことに、皆が [眼帯] をしていること以外に変な点が見当たらないのだ。

眼帯を取っている人は見たことが無い。

銭湯でも着けていたが、ただそれだけであった。


ここまでくると何者かの陰謀以外のなんでもないだろう。

それをどうにかして解明…はできなくとも、なんらかの理由を知りたい。


正直、不安なのだ、眼帯も、何もかも。


と、いつもどおり成果も無くレジ袋を手に歩いているとなにやら挙動不審な男を見つけた。


一見ジャージ姿の中年だが。

よくみると、目に眼帯をつけていない。

そして何かを警戒するような怪しい動き。


(間違いない)


奴は何か知っている。

他の眼帯共に襲われてしまう前に、 早く話を聞かねば。






読んでいただきありがとうございました。


感想や評価などいただけると非常にうれしく思います。

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