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7   遭遇



 初めての勝利から一ヶ月。僕らは一応の連勝を重ねていた。出現するDOWNはほぼすべて駆逐に成功し、奴らに取られた領域を、各地に取り返しつつあった。

 しかし、まだアメリカ側は殆ど取り戻せていない。現在のところ、オーストラリアのほぼ全域を解放に成功し、アジアも中国、韓国、インドの三ヶ国を中心に抵抗が広がっていた。ロシアの寒冷地は侵攻が薄く、東ヨーロッパへの足掛かりになるだろう。

 次に目指すべきは、ヨーロッパ、アフリカとアメリカだ。何度かゼウスとトールがアメリカにも出撃しているが、戦線を押し返すのは難しそうだった。司令部も、未だにシアトルのままで動きは見られない。ユーラシア側を完全に抑えてから、アメリカを取り戻そうとしているのか。

 今のところ僕らは連勝且つ脱落者なしですんでいるが、延々と続くかもしれないという戦いに、まだたった一ヶ月のことであるが、立ちはだかる壁の巨大さを考えると不安に駆られていた。

 しかもまだUPとは遭遇していない。DOWNとは何度となく戦闘を繰り返しているため、問題なく戦えるようになった。

 だがUPとは戦ったことがない。地球に最初に出現した三角形UFOも、大西洋上空で動かない。

 こちらの出方を伺っているのか、それともカムイたちのデータを収集しているのか。どちらにしろ、速い対応が求められた。もうすぐ冬だ。冬の間に決着を付けるためにも、早く奴らの元に辿り着きたかった。

 現在敵は中東とヨーロッパに集中し、僕らはアメリカ側のサポートと、ヨーロッパ側への攻撃の二班に分かれることとなった。アジア周辺は多大な犠牲と引き換えに、そのほとんどを駆逐に成功した。

 ゼウス、トールに加えペルクナスがアメリカ側のサポートを行うこととなり、残り四機のインドラ、バアル、建御雷、ライガーはヨーロッパへ向かう予定だ。

 拠点防衛のために汎用性と機動力の高いゼウス、高い防御力を持つトール、一点突破による破壊力を持つペルクナスが、縦に長い戦線を維持するために選ばれたのだ。僕らは貴霧さんの指揮のもと動くために、後衛前衛と役割分担したチームとなっている。

 そして、戦場となるヨーロッパは戦争開始直後に攻撃を受け、イギリスは壊滅的ダメージを負っていた。あまり抵抗の動きは見られない。他のEU諸国もあまり積極的な動きは見られない。

 寒冷地のほとんど存在しない地中海周辺は特に攻撃が激しく、人口減少が激しい地域でもある。イタリアを故郷に持つジョバンニは、そのことについては、これといって話してはいなかった。ただ一言、

「うちのお袋見かけたら、俺は元気でやってるって言っといてくれっか?」

 と、だけ僕らに言って、アメリカに向かった。

 今のところアメリカの戦線を押し返すことはせず、ヨーロッパをまずは奪還することを目指すということだ。

「作戦目標は、トルコのイスタンブール。ロシア上空を経由して侵入する。ここに拠点を確保し、その後各国主要都市奪還作戦を行う」

 カムイは、その支援ということだ。ただ、ヨーロッパはUPが集まっている場所でもある。人間を搾取したUPがその後彼らをどうしているのか、いまだにわからない。ただ、UPが大気圏離脱能力を備えていることは判明しており、宇宙空間に輸送船の類があるものと思われる。

 ともかく、ヨーロッパは特にUPが多く出現し、数多くのパワードスーツが撃墜されている地域だった。その分、搾取された人間もアジアと並んで相当数に及ぶ。

 この場所に、カムイが四機出撃する。協力してくれるのはロシアとトルコの二国。ロシアとトルコは同じパワードスーツを使っており、スラヴ神話に伝わる戦士の守護神であり雷神《ペルーン》の名前を持つ。高い強度を持つ装甲と盾、寒冷地に適応した仕様が標準のロシア製の機体だ。少し機動力に欠けるが、それを補う武装がある。

 ロシアの空を飛ぶ僕らの隣を、十機以上のペルーンを乗せた飛行船団が飛んでいく。

 従来のパワードスーツの出力でも、個々の機体による飛行は十分可能だ。しかし、あまり飛び続けるとパイロットの発電量に問題が発生する可能性があるので、高出力の雷神以外はほぼ確実に何かしらの方法で運ばれる。

 とはいっても、雷神の乗るパワードスーツでも輸送されることはあるので、ごく当たり前のことだ。

 オーストラリアへの出撃では、戦死者を何人か出してしまった。今、隣を飛んでいる彼らの中で、一体どれだけが帰れるだろうか。それは僕らにも言えることだが、今のところ被撃墜率ではカムイ以外の機体が圧倒的に高い。十機出撃すれば、平均的に三機以上は墜ちる。

『おそらく敵の数は今までより多いだろう。各員、慎重に対応してくれ』

 発進前の司令官の言葉が、頭の中で繰り返される。ふと、操縦桿を握る手にいつもより力が入る。いくら注意しても、攻撃を受ける時がある。その当たり所如何では、行動不能に陥ることもある。

 そうなったら、奴らの牙に噛み砕かれるのを待つか、脱出して救助されるのを待つかの二択しかない。それはカムイだって同じだ。撃墜の恐怖は、等しくある。けど、それ以上に一ヶ月で戦場にも慣れ始めている状況が、一番怖い。

 それでも、行かなくてはならない。

『DOWNを光学カメラで捕捉、黒海の支援艦隊は攻撃を開始!』

 ロシア側のリーダーの音声が流れてくる。次の瞬間、ボスポラス海峡へ向けてミサイルが飛んでいく。イスタンブールの東側からもトルコ軍が攻撃をはじめ、海峡を陣取るDOWNを蹴散らしていく。

『サンセットさんは上空から援護を頼む。東さんはその護衛を。僕は北側、真西君は南側から接近する!!』

「了解!」

 直後に二人も了解と返すと、僕はフレアのスラスターを使って加速する。両腕とも砲撃形態へ変形し、DOWNへ向けてプラズマビームを連射する。連続して撃ち抜き、接近しきると機体周囲にプラズマを放出、辺りを焼いていく。

 北の都市部ではバアルが全速力で突撃していく。さすがは地上走行速度最速の機体だ。彼を包囲しようとしていたDOWNの塊を突進して切り崩す。赤い屋根を踏み越えながら、DOWNを踏みつぶす。

 僕は捕まえた一体を思いっきり持ち上げると、スレイマニエ・モスクの尖塔に投げつけて突き刺す。すでに折れている尖塔を持ち上げると、槍代わりにして投擲した。

 にしても、数の多さが尋常じゃない。確実にオーストラリアの時よりも多かった。まだ海上からの援護射撃は続いているが、焼け石に水ではないかと思えるほどの数がいる。戦力差は三〇対一ほど。

 トルコの西側は、東がより森林面積が多い。それは東西ヨーロッパ全域に広がっており、各地にシェルターが作られている。つまり、そこに集まっているDOWNはシェルターに隠れている人間狙いということだ。そのために数が集まったのか。

 これ以上、奴らの餌にさせるわけにはいかない。

『ペルーン全機、作戦領域到着(タッチダウン)、攻撃開始!!』

 隊長の言葉でペルーンのマシンガンが連射される。防御力に定評があるペルーンは、ロシア周辺国でよく使われる機体だ。名前の意味である「打つ、壊す」という通り、格闘兵装も充実だ。

 シールドの底部に小型だがパイルバンカーを装備することで、接近戦時に高い攻撃力を持つ。トールの物よりかは威力も低く、攻撃範囲も小さいが、DOWN相手なら十分活用できる。

『インドラ、建御雷、援護射撃行きます!』

『進行方向の敵を一掃!!』

 貴霧さんの指示が飛ぶと、空を複数の光が飛んでいく。インドラと建御雷の砲撃だ。元々崩れていた建物が、爆風で吹き飛んでいく。赤色の欠片を全身に受けながら、スラスターを全開にして飛んでいく。

『山林地帯にDOWNが集中しています。シェルターを守ってください』

 オペレーターの言う通り、確かに数が多い。インドラへの支援を頼むと、すぐにロックオンされたDOWNが吹き飛んでいく。

「さすがだよ、アーサさん!」

『援護は任せて、頼むわよ!!』

 彼女の言葉を背に受けながら、イスタンブールから西へどんどん移動していく。

『真西君、シェルターの防衛は僕とサンセットさんでやる。君は東さんとともに西側の敵を攻撃し続けてくれ!』

 貴霧さんの指示に従い、地上に降りて来た建御雷とともに西を目指す。数が多いが、戦闘能力に関しては従来通りなので、押し負けない限りは負けることはないと思う。

 いまだに、カムイの装甲を貫くことのできたDOWNは確認されていない。ダイヤモンドコーティングは実際にダイヤモンドを表面に付着させているわけではない。それに、このコーティングは対ビーム性のものであり、実体攻撃にはほぼ関係ない。純粋なカムイの装甲の硬さがあるのだろう。

 オリハルコンは雷人の電流を通すと硬質化し、反重力効果を生み出す。硬質化した時は、カーボンナノチューブの数倍の引張り強度を生み出しつつ、精密な分子配列となる。これが強度の秘密だ。

 その堅牢さがあり、ヒヒイロノカネによる電導性があって、高出力の機関があって、初めてカムイは十分な動きをすることができる。

 オーバースペックとコスト無視の塊が、希望とされる理由がだんだんとわかってきた気がする。

 それまで明確な勝利をもたらしてこなかった従来のパワードスーツと違い、僕らが操縦するカムイはどんどん戦果を挙げている。確実に人類の抵抗力を刺激している。

 これなら勝てる、異星人を駆逐できる。そう思わせるだけの力が、カムイにはあったのだ。今でも、僕よりもライガーには適任者がいるのではないかと思うときがある。

 未だに僕は元一般人のひよっ子でしかないのだ。それでも、今やれることは僕がやらなくてはならない。たとえ、目の前にどんな敵が現れても、逃げ出す暇なんかない。

『空くん、上に!!』

 愛水さんの言葉を聞いて上空を見上げると、初めて見る敵の姿があった。レーダーにはDOWNともパワードスーツとも違う反応があった。

『熱紋照合、UPです!!』

 アーサさんの言葉に、背中を寒気が走った。操縦桿を握りしめる手がわずかに振るえ、目視距離にその姿を捉える。カムイ以上にどうやって飛んでいるのかわからないフォルムが二体。

 間違いなく、UPレッグとUPマウス――クラゲとナマズだった。

『司令官、こちらでUPを二体確認。対処しますか?』

 貴霧さんからの通信に、憤った声が返ってきた。

『やってくれ。奴らに呑まれた、二〇億の怒りをぶつけてやれ!!』

 そうだ、それだけの数の人間が、奴らに呑まれた。

 初めての遭遇から、すでに一年と五ヶ月。もうすぐで半年になる。その間で、二〇億の命が消えていった。そして、その命を奪っていったUPと僕らは遭遇した。

『内部に生体反応感知できず。内部は空です』

 誰も乗っていないということは、救出することはできないだろう。

 それでも、逆に都合がいい。力をセーブする必要がない。全力で、あのUFOを破壊できる。

 少しずつ近づいてくるUPに、周りのパワードスーツが少し後退する。通常兵器をほぼ完全に防ぐバリアを奴らは使っている。そのために零型以外に奴らに明確なダメージを与えた前例がない。だから、カムイの光学兵器をもって破壊するしかない。そもそも、カムイはそのために造られた。

「行くぞ、ライガー……!!」

 プラズマジェネレーターが光を発し、漏れ出すエネルギーが空気を震わせ、唸り声のような音を立てる。まるでライガー自身が咆哮を上げているようだった。

『来るよ、エンカウントまで一二〇セコンド()!』

 あと二分、僕らにとって初めての試練が始まる。

『砲撃開始!!』

 司令官の言葉に従い、周辺のパワードスーツがライフルを連射する。UPのバリアの防御力は、数十機のパワードスーツの一斉掃射でも飽和することはなかった。それは今も変わらない。だが牽制程度にはなる。

 多数のマシンガンが大当たりしたジャックポットのようにジャラジャラと薬莢が落ちる。しかし発射された弾丸は全てバリアに阻まれ蒸発する。

『全弾蒸発、UPへのダメージ、なし!!』

 通信機に狼狽えたり、怒ったり、嘆いたりと、様々な声が響き渡る。目の前に現れたたった二体に、人類は何度も煮え湯を飲まされた。

「カムイが前に出ます。皆さん下がって!!」

『行くよ、空くん!!』

 バアルとインドラが来るまでにまだ時間が掛かる。それまでに被害を出さないように、できることならこいつらを倒す。それがカムイに与えられた使命なら、成さなくてはならない。

 両腕にプラズマエネルギーをチャージし、UPマウス――ナマズの方へ向けて飛び上がる。バリアに向けて連射し、今まで攻撃を防いでいた力を飽和させる。反撃の触手が伸びてくる。

「だぁぁぁぁぁぁ!!」

 右腕を元に戻すと、プラズマソードを展開する。

 ナマズは陸海空全ての状況で運用されているのは確認されているから、少しでも僕らの戦いやすい地上に落とす必要がある。空を飛ぶ感覚にはなれたが、やはり地に足を着けることが一番精神的に安心するし、肉体的に安定する。

 プラズマソードを振り下ろすと、ナマズの髭のような触手が攻撃を阻む。何かしらのコーティングがしてあるのか、切り落とすことができない。

「行け、フレア!」

 バシュッ、と音を立てて二機のフレアが飛び上がる。プラズマビームを連射して牽制するが、触手がビームを弾く。巨大な口が噛みついて来るが、スラスターを吹かして回避する。

 避けたところに冷凍光線が放たれた。凍り付くナマズを見ながら、上空からビームを連射してくるクラゲを見つける。腕で頭部を庇うと、距離があることもあり、ダイヤモンドコーティングが弾く。

 フレアの砲口をクラゲに向け直すと、足の先端を狙って攻撃する。巨体の割に素早い動きをするUPはフレアの砲撃を全て避けていく。

 クラゲのほうに顔を向けると、凍った体が地面に落ちる。

「愛水さん、そっち任せる!」

『オッケー任されて!!』

 ナマズを建御雷に任せると、上空を旋回するクラゲへ向かっていく。フレアを連射させながら接近する。プラズマソードを振り下ろし、表面を傷つける。だが、やはり硬い。

 バリアを飽和させるだけのパワーはある。装甲だけでも硬い。しかし、貫けないわけではない。

「さらに畳みかける!」

 クラゲは足の先端からガスバーナーのようなブレードを出現させる。四本の刃が振り下ろされる。それに対し、左手からプラズマビームを拡散させながら放出し防いだ。光の壁が刃を阻み、右手のチャージ時間を稼ぐ。

 墜ちろ、そう心で呟きながら砲口を向ける。プラズマビームの最大チャージが装甲を貫き、足の一本を破壊する。

 パワーの拮抗がずれたとき、一気に押し返す。クラゲの足を弾き、限界まで接近する。

「砕けろ!!」

 右手で底部を掴むと、接触状態で右手からビームを放出する。防御不可能な状態から、射程零の状態から撃ち抜いた。

 内部から膨れ上がり、クラゲの体が吹き飛んだ。三本の足が地面に突き刺さり、数秒後に爆発した。

「……よし、ナマズは……?」

 地上の方に目を向けると、すでに冷凍光線と冷凍ミサイルで凍らされたナマズが、冷気を発するチェーンソードに貫かれていた。凍結した装甲は脆く、半分以上は自重で崩れていた。

 ゆっくりと地上に降りると、愛水さんから通信がくる。

『お疲れさま、空中戦きつかったでしょ?』

「いや、大丈夫だよ。……勝ったね」

『うん、勝ったよ』

 周囲にDOWNの亡骸が転がり、勝鬨を上げるパワードスーツが銃を掲げる。戻ってきたバアルとトールも、その中にいた。

 ついにUPを倒したのだ。今まで強固なバリアによりダメージを与えることすらできなかった相手に、カムイは勝利した。

 これからもUPとの戦いは続くだろう。カムイ一機につき、一体のUPを倒すことができる。その逆もしかり、だろう。

 それに奴らはまだUPを増やすことはできるかもしれない。だけど、僕らカムイのパイロットは殆どいない。もし墜ちれば、機体を直せてもパイロットは直せない。

『東さん、真西君、よくやった』

『やれるよね、私たちなら!!』

 カムイにしか、僕たちにしかできないことがある。いつまで続くかはわからない戦いを続けること。

「これからも頼むよ、ライガー」

 雷神は、古くは光神(ひかりのかみ)と呼ばれている。ならば、希望という光を、この地球にもたらしてみせる。


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