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4   戦場




 全てのカムイはカタパルトから射出する際、人工ダイヤモンドコーティングをさらに上掛けする。そうすることでカタパルト射出後に起こる大気摩擦を表面剥離によって排熱し、さらにプラズマ化を防いでいる。

 高速射出された七機は、一直線に大陸に向けて飛んでいく。すでに連合軍のパワードスーツ部隊が交戦しており、被害はあまり出ていないが長期戦になると彼らのエネルギーや武器に問題が出始める。

 弾切れになっても、補充している暇なんてないだろう。

『こちらインドラのアーサ、後方より支援に当たります』

 最初に地面に下りたのは参型(インドラ)に乗ったアーサだった。完全砲撃型である彼女の機体は、混戦状態になるのはあまりよくない。高い場所から砲撃支援したほうがよい。

『こちらトールのスティナ。インドラの護衛にあたる。状況によっては突撃する』

 防御能力が高い弐型(トール)は他の機体の護衛にあたることもある。砲撃能力に特化しすぎたため重厚な装甲は持つが、機動力もないインドラに防御支援は必要なのだ。

 ダイヤモンドコーティングはされていると言ってもそれは光学兵器に対してだ。DOWNは殆どが格闘攻撃を仕掛けてくるから、あまり意味がない。今のところ光学兵器、またはそれに準ずる攻撃をした報告はない。

 ならば、ダイヤモンドコーティングは残念だが意味をなさない。オリハルコン装甲の防御力か、それぞれの防御兵装を駆使するしかない。

『こちらバアルの一満。高速機動形態に変形後先行する!』

 肆型(バアル)には外見上ではわからない機能があった。スペック表や3Dデータでも見たことはあるが、実際に見ると驚きの機能だった。

 その細い腰を前後回転させることで、人間とは逆の曲がり方をする間接になり、前足をついて獣のような四足歩行状態になる。背部ブースターによる加速、四肢各部に備えられたキャタピラーと合わせることで、地上での行動能力が飛躍的に上昇する。

 高い加速能力を手に入れたバアルは、それこそジャガーやチーターのように高速で敵へ接近し、破壊することができる。

 出現したDOWNは上空に翼竜型、地上にティラノサウルス型が三体、トリケラトプス型が四体。アンキロサウルス型が二体とさらにブラキオサウルス型が一体いる。この後者二種類が確認されたのは初めてだ。

 やはり新たに戦力を増強しつつある。戦いが長引けば、それだけ奴らも新しい手を使ってくる。勝利するためにカムイがある。ならば、きっちりとその役目を果たさなくてはなるまい。

壱型(ゼウス)伍型(ペルクナス)陸型(建御雷)漆型(ライガー)は、バアル攻撃開始後から一気に攻めたてろ。健闘を祈る!!』

 船の方から指令が聞こえると、彼らは了解と答える。そしてすぐに、バアルが攻撃を仕掛けた。

 素早い動きで相手を翻弄するバアルは、両腕のプラズマクローで飛びかかる。ティラノサウルス型を一体横倒しにすると、頭部の口元を開き、内部に隠された牙――プラズマファングが出現。頭部の動きとともに爪と牙で切りつける。

 後ろから聞こえる獣の咆哮に反応してその場を飛び退くと、トリケラトプス型の角が先ほどまでいた場所を貫く。勢い余ってティラノサウルス型に突き刺さり、一体の生命反応が停止する。

「いまだ、砲撃を!!」

 ブースターを逆噴射してその場を離れると、インドラの砲撃が届く。レールガンの弾にはヒヒイロノカネが使われており、高い耐熱性を有しているためプラズマ化が少ない。つまり大気摩擦で燃え尽きにくい。

「ばら撒きます!!」

 そのため高い威力と質量を保持したまま命中させられる。インドラはヒンドゥー教の雷神であり、インドラの発する矢は一撃で軍隊を壊滅させるという。その火力、圧倒的。

 本来ならメイン武器となるはずのガトリングガンが、他の武装が協力過ぎて霞んでしまうくらいだ。

 遅れて飛んできたガトリングガンの弾が辺りにばら撒かれ、DOWNたちは避けようとして互いに離れていく。

 そこを狙ってミサイル群がタコ殴りにする。避けることも、逃げることも許さず爆炎がDOWNを包む。

 あらかた動きが止まったところで、ようやくライガーたちが突撃する。

 一番突撃が早いのはゼウスであり、ウィングバインダーと搭載された大型ブースターをしっかりと活用している。プラズマランスを伸ばし、先端にブレードを発生させる。

 まだ距離があるため、まずは左手を向けて掌から放電する。数テラボルトに達する高圧電流だ。狙ったティラノサウルス型の動きが止まる。

 さらに全身を高熱が焼き、全身が黒く焦げていく。

「いくぜぇぇ! チェストッ!!」

 プラズマランスを向けられた大顎に突き刺し、下顎を斬り飛ばす。顎が斬られた程度ではDOWNは死なない。ティラノサウルスにしては太い前足を振るってくる。だがゼウスの右腕はもろともせず受け止める。

「効くかよ……このくそトカゲども!!」

 両目から発射した光線が尻尾の動きを牽制し、追撃を防ぐ。怯んだ隙を狙ってプラズマランスを構えると豪快に振り回す。腕を両方とも切り落とし、蹴りつけて横倒しにすると、全力を込めて腹に突き刺す。そして内部にランスを通して放電、中からこんがりどころか黒こげになった。

 一方ペルクナスは地面を滑るように移動しながら、巨大な右腕のプラズマジェネレーターを起動させる。三つのジェネレーターを使ったこの巨大な右腕、《装甲一体型超電(アーマードプラズマア)子突撃掌底剣(サルトハンドソード)》は巨大な手と言っているのに、名称の最後は剣なのだ。つまり、ペルクナスの腕そのものが武器なのだ。

 使用されるジェネレーターは内蔵されている三つと、ペルクナス本体の一つを使用するため、最大出力はカムイ七機でも上位に位置する。

「突貫する!!」

 綾太はそれだけ言って突撃。地面に指先を擦らせ炎を上げながら走り、そのまま巨大な腕を突き出す。

 指先から掌までがプラズマブレードを展開しており、手の甲側にあたる装甲表面には高速振動カッターを内蔵している。掌だけでなく、殴りつけても敵をえぐる。それがこの武器の目的だ。名前が長いため整備士やマニュアルでも《プラズマハンド》とされる。

 まさに鬼のような巨大さであり、ペルクナスの左腕に装備された荷電粒子砲は、機体のバランスを取るためだけに付けられたようなものだ。

「一気に潰させてもらう!!」

 荷電粒子砲で近づくトリケラトプス型の足を貫き、倒れたところを上から叩き潰す。実際にはプラズマで焼き尽くし斬り裂き抉っているのだが。

 まるで光の塊に殴りつけられたような感覚だったであろう。一瞬にして消滅するDOWNには、それを理解することは不可能だった。

「行くよ、建御雷!」

 建御雷の冷凍光線は高周波電磁波で負の温度化された分子運動を停止させるという電子粒の光線であり、命中したあらゆる物質を摂氏零度にまで瞬間冷却することができる。

 左腕のチェーンソードはヒヒイロノカネによる自由操作を可能とし、フィクションであった蛇腹剣の存在を確立した。そして斬り付けるたびに放出される冷気が凍結させて破壊しやすくしている。

「砕け散りなさい!!」

 冷凍光線で凍らされた敵は、建御雷のチェーンソードに容赦なく砕かれる。発射された冷凍弾が空中から冷気をまき散らし、広範囲のDOWNが凍りつく。最後には、DOWN自身の自重で崩壊していった。

 この冷凍能力が建御雷の最大の武器である。低い出力でも十分に能力を生かすことできる、彼女にあった機体だった。

「さぁて、こっちもお客さんだよ」

 遠距離から援護するインドラを護衛するトールは、空中から襲撃してくる翼竜型のDOWNを相手にしていた。プラズマフィールドバリアで突撃を防ぎ、地面に落としたところから右腕のパイルバンカーを発射する。

 大質量の杭を右腕上部の筒からレールガン方式で打ち出すこのパイルバンカー、操縦者であるスティナによって《ミョルニル》と名付けられた。この武器は超接近時に最大の威力を発揮する。まさに雷神の槌。

「正規軍人、なめんじゃないよ!」

 唯一のパワードスーツ乗りである彼女の操縦技術は、超接近戦を求められるこの機体の特性にマッチしていた。プラズマフィールドによる防御力、ミョルニルによる破壊力、この両者を生かせるのは彼女だけだ。

 なにより、敵の接近に最も冷静に対処できる人間だから、彼女が選ばれた。どんなに強力な武器も、当たらなければどうということはない。最大まで接近し、全力の一撃を打ち込むことが、トールには求められる。

 突撃してくるアンキロサウルス型を真正面から受け止める。硬い背中の防御はインドラのレールガンでも貫けない。しかし、零距離から放たれるパイルバンカーは、甲羅を砕いて貫通した。

 度重なる仲間の敗北に憤ったのか、ブラキオサウルス型が咆える。

「行け、フレア!!」

 ライガーの背部兵装(バックパック)に装備された二つの円形の装備がスラスターを吹かして浮かび上がる。それはボタン電池のような機械であり、底面部分に砲口があり、側面部には三基の制御スラスター、砲口の裏側にはメインスラスターが内蔵されている。これがライガーの特殊攻撃オプション。

 FLARE(フレア)という特殊兵装は《Flight‐type・All・directions・Range・Extension・system》――『飛行型全方位射程拡張システム』のことであり、周辺に群がってくる敵全てに個別な攻撃を可能とする、分離飛行式砲台だ。ジェネレーターを一機内蔵するため、長時間の駆動を可能とする。

 ライガーに搭載されたAIコンピュータと、空の思考から判断した攻撃対象へ瞬時に砲撃、防御を行える。プラズマジェネレーターからの高出力砲撃と、発生するプラズマフィールドが、攻防一帯の戦いを可能とさせているのだ。

 二機のフレアが移動し、内蔵されたジェネレーターからもたらされるエネルギーを使って撃ちまくる。移動しながら、浮遊しながら、多数飛来する翼竜型の死角に回り込んでは、光線が打ち抜く。

 同時にライガー本体は、メインブースター、四肢に装備された姿勢制御用のスラスターを全開にして高速機動を開始する。

 飛行しながら敵陣を突っ切り、その過程でDOWNもできるだけ倒す。フレアに貯蓄したエネルギーが少なくなれば一度プラットフォームとなるバックパックに搭載し直し、チャージする。

 フレアにはジェネレーターを一基ずつ搭載することによって、大消費と高火力が実現している。本体にも存在するジェネレーターが生み出す機動力は、敵の中央へ突撃するのに十分な出力は持っていた。

 ライガーの全身には溝のようなものが張り巡らされており、プラズマジェネレーターの余剰エネルギーを此処から放出する。まるで全身から炎を発しているようで、突撃時に接触した対象を破壊できる。このシステムによって、DOWNを蹴散らして飛行していく。

 DOWNたちの中心に確認されたのはブラキオサウルス型。体長は三十メートル、いや、四十メートルに及ぶだろう。のっそりとした動きでありながら、油断はできない。先ほどの咆哮から、びりびりと威圧感のようなものが伝わってくる。

 一旦フレアをプラットフォームに戻すと、本体のスラスターと後方に向けたフレアのメインスラスターを使って加速する。右手を腕内部に引っ込め、右腕部全体を砲身へと変形させる。接近しながら突き付け、護衛のように立つティラノサウルス型を一撃で撃ち抜く。胸部と肩部に腕と、ジェネレーター数機分の高火力砲撃だ。

 国連軍の装備では此処まで高威力は出せない。たとえDOWNが相手だとしても、実弾では貫通までできない。それをライガーの砲撃なら、此処にいる七機の攻撃なら、穿ち、破壊することができる。

「プラズマビーム、チャージ!!」

 右砲身の先端に荷電粒子が赤熱化して発光、エネルギーが溜まり続ける。空の咆哮とともに放たれ、ブラキオサウルス型を守るように現れたトリケラトプス型を貫き、さらに目標へも命中させる。貫通させるまでには至らなかったが、ダメージに悲痛な叫びをあげる。

 しかし簡単には終わらない。鞭のように振り抜かれた尻尾がライガーを叩く。地面に向けて落ちていくが、すぐに背部スラスターを全開にして体勢を立て直す。木と岩を吹き飛ばしながら着地し、右手を通常のマニピュレーターに戻す。

 今度は掌から放出したプラズマエネルギーを刀剣状に変化させ、両手で保持する。プラズマソードの刃は非実体であるため、シールドと同じく何度斬りつけても刃こぼれや劣化の心配はない。

 吼えたててくるDOWNの前足を斬り飛ばし、振るわれる尻尾は接近して根元を掴む。そのまま掌から放出したプラズマビームが焼き切った。多大なダメージに逃げ出そうと近くの河川に向かって行く。たとえ水中に逃げられても追撃できるが、もしものことを考えて此処でしとめておく、空はそう決断した。

「止め……これで!!」

 ライガーのブースターの出力をあげて上昇すると、プラズマソードの出力も上がる。刃が巨大化し、真っ直ぐに振り下ろす。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 ブラキオサウルス型の体を真っ二つに両断すると、河川の水ごと切り裂いたため発生した熱で蒸発、ブラキオサウルス型を巻き込んで巨大な爆発が生じた。すぐにスラスターを全開にしてその場を離れ、彼と機体は事なきを得た。

「ぁ、あぶない……。まさか水蒸気爆発が起こるなんて……」

 空にも予想外であったライガーの出力は、敵DOWNは完全に沈黙した。カムイ捌式の初陣は、見事白星を飾ることとなった。


 連合軍所属パワードスーツの出撃した二十機の内、大破は二機、中破は五機、小破は十一機、残りはほぼ損傷なしであった。

 そしてカムイ七機に関しては、全機損傷皆無、もしくは軽微であった。オリハルコンの強度もさることながら、彼らの放出する雷人のエネルギーによって強度が増しており、雷神ではないパイロットの駆るパワードスーツに比べると圧倒的に高い防御力を持つ。

 さらに、敵撃破率では連合軍と比べて、一機平均二体に対して、彼らは一機平均十一体を討伐している。実に五倍以上の戦力を誇るというわけだ。

 これはカムイ七機の出撃前から始まっていた戦闘で彼らが倒した敵の数も考慮に入れた場合の数であり、同じ戦闘開始時間で計算すれば差はもっと大きくなるだろう。

「これで、いいですよね……」

 彼ら七人が戦いを選んだのは、なし崩し的な面もあった。だが、その選択をしてくれたおかげで、助かった命が目の前にあった。犠牲は零ではない。それに嘆く者もいる。だが、それ以上に歓喜がその場に広がっていた。

「これからが、大変だな」

 ライガーの隣に、ゼウスが降り立つ。コックピットを開けて出て来たジョバンニが、暗い顔をする空にそう言った。短く、「はい」と答えた。

 この先、負けることは許されなくなる。勝ち続けなければならない。人類の切り札として、最強の戦士として、その重荷はどんどん重量を増していく。望んでもない、背負いたくないものだった。

 だが彼らは一騎当千の戦士、まさしく希望だった。世界は救世主を欲していた。ならば、それに答えなくてはなるまい。自分たちの出撃まで世界を守り続けた者たちに応えるためにも、人類最後の希望として。

 ただ、希望は絶望に変わりやすい。



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