表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

1   世界



 西暦二〇一六年、軽さと耐熱性を兼ね備えた特殊金属、《ヒヒイロノカネ》が発見された。高い電導性をもつこの金属は火山地帯において発見されることが多く、隕石の墜落地点でも時折発見されるものであった。

 この鉱石の発見は、かねてより進められていたパワードスーツ開発に大きな進歩をもたらした。機体の反応速度、運動能力を向上させ、精密作業も可能とした。より高性能な機体を求め、ヒヒイロノカネは世界各地で発掘が進められた。

 日本で最初に発見されたため、伝承にあるヒヒイロノカネと呼ばれたのだ。伝承とはかなり金属の特性が違うが、表面に強い赤い光沢と、磁石に反応しないというところは共通していた。

 群を抜いた耐熱性、放射線の遮断性、ほぼ無抵抗に近い電導性を有しているため地上のエネルギー技術、宇宙開発では重要視されることとなった。

 同時期、月へのテラフォーミング計画も進んでおり、2G以内での重力制御装置の完成、新型パワードスーツによる行動範囲の拡大、緊急時の人工冬眠装置の完成といった様々な技術革新が、宇宙開発を推し進めるかと思われた。

 月面への基地開発は順調に進んだ。宇宙開発拠点として完成し、十数名の研究員が在中し、宇宙の新たな発見を期待していた。

 だが、ヒヒイロノカネの発見から四年後、二〇二〇年に完成から一年と経たなかった月基地が飛来した隕石によって壊滅、ただいな犠牲者を出したため、計画は白紙に戻されることとなった。

 その後も五年間にわたり地球への隕石の飛来が多発し、時には日本上空の高度約五〇〇キロメートル地点で爆発。日本全域に塵の雨を降らせることもあった。世界中でも多数の隕石が飛来し、大気圏を突破したものも多くあった。

 ある程度は観測で事前に避難することも可能だったが、いくつかの隕石はレーダーに引っ掛かることもなく地上に激突した。

 大概の隕石は高度数千キロメートルの地点で排除、爆発するのだが、日本上空に飛来した隕石は質量が大きく破壊に手間取った。そのためかなり低い高度で爆発したため、一時は国外脱出やらシェルター避難やらで、国中で大騒ぎとなった。

 アメリカでも穀倉地帯を中心として隕石の塵が舞うこともあった。一部では、迎撃が間に合わず甚大な被害を出すこともある。観測史上最大の隕石が爆発したのは大西洋上空であり、その塵は地球の反対側にまで届くほど広域に降り注いだと言われる。

 その間もヒヒイロノカネの研究は続けられており、同じ年にはヒヒイロノカネを通すことで人体での発電が可能であることが判明。

 《雷人(らいと)》と命名されたこの力は、全人類が等しく持つ能力である。

 ただし発生できる瞬間電力量は、せいぜい三から四ジュール。

 スタンガンほどの威力もなく、スマートフォンがぎりぎり充電できる程度であり、あまり実用性を期待されなかった。

 しかし、五千万から一億人に一人、数ギガジュールに達する電力量を発生できる者たちが発見された。とても低い割合であるため最初は重要視されなかったが、パワードスーツの発展に伴い重要な存在となっていった。

 瞬間的な発電量でしかないが、継続して放出すればそれは十分な武器となる。瞬間が大きければ、それだけ継続すれば大きくなる。

 パワードスーツの起動には通常の雷人の出力で十分なのだが、攻撃オプションに大きな影響を持つのだ。

 通常の武装のほとんどは実弾兵器なのだが、数ギガジュールの出力を引き出すことができれば光学兵器を装備することも可能だった。小型化の妨げとなっていたエネルギー機関の問題は雷人から供給されるため、パワードスーツへの搭載が可能となったのだ。

 雷人の発電は人間の感情によって左右されるため、搭乗者の気力が持つ限り、光学兵器の使用を可能としていた。

 だが、一つ問題もあった。

 数ギガジュールという膨大なエネルギーを生み出せるのは極数人。配備されたパワードスーツの大概は実弾兵器のままだった。

 光学兵器を搭載したパワードスーツは従来の戦闘用パワードスーツと対峙しても、火力だけで一方的に制圧できる力を持っていた。つまり、光学兵器搭載型のパワードスーツは、そのまま核兵器と並ぶ国家の防衛能力を象徴する戦力となる、だけで終わると思われていた。

 また一つ、世界を揺るがす発見――いや、遭遇があった。二〇三四年に地球外生命体とのファーストコンタクトが行われた。

 つまり宇宙人襲来。

 飛んだ馬鹿話かと最初は思われたが、彼らの技術力によって紛れもない事実として異星人の存在は確認された。

 円盤型、ではなく三角形の紙飛行機のようなUFOに乗って突如大西洋上空に現れた彼らは、どういう意図があったのか、国連本部へ直接コンタクトを仕掛けて来た。

 画面に現れたのは、子どものような小さな生命体。グレイ型と呼ばれる頭のでかいエイリアンではなく、外見的には地球の子どもと変わらない。


 ――我々は、貴様らに力を与えた者。絶対者である。


 通信越しに伝わってくる彼らの声。力、とは何なんか。

 自らを絶対者と称した彼らは、唖然とする国連本部の大人たちを嘲笑っていた。流暢な発音の英語で話し、途中途中周囲の宇宙人たちが意味不明の言語で茶々をいれる。同時に要求を喋る。


 ――我らに抗うな。絶対なる者に従え。貴様らは家畜だ。


 我々は宇宙人だ、などとエコーのかかった声で言われるのかと思っていが、何の事はない。将来有望かつ面倒なハッカーが見つかった、その程度に大人たちは思っていた。

 彼らの目の前に、自由の女神が堕ちてくるまでは。

 国連本部の彼らに対する失笑へのお返しに堕ちて来たのは、女神の首だけではなかった。ブラジルにあるキリスト像の首まで堕ちて来た。独立の象徴、キリストの象徴を同時に破壊され、彼らは呆然とする。

 ただ、目の前の存在が明確な異星人であり、人類種にとって危険な存在であることは、否応なしに認識することとなった。

 数十分と経たず、各国家の守護者であったパワードスーツは、地球防衛のために出撃することとなった。

 アメリカが保有するパワードスーツ数は世界一であり、やはり最高峰の戦力を誇っていた。フットボーラーのようながっしりとした重装甲かつ機動力のある一五メートル級ロボットは、皆一様に保持した旋回式重機関銃(ガトリングガン)とミサイルランチャーを連射して大西洋上空に存在する三角UFOを攻撃した。

 彼らの機体はもちろん、世界各国の機体は内部の回路にはヒヒイロノカネが使われており、熱がこもる関節部分、排熱ダクト、エネルギー機関である小型核融合炉周辺にも使われている。熱に強いヒヒイロノカネがなくては、パワードスーツは動かなかっただろう。

 そして機体表面にはヒヒイロノカネとは違う新規金属、《オリハルコン》が利用されている。宇宙空間で生成されたオリハルコンは、高い強度に加え、雷人から発する電流を流すことで反重力効果を生み出し、重量軽減をすることが可能となっている。

 そのため小型化に成功した熱核スラスターによる飛行、ホバリングを可能としており、航空力学的にあり得ない人型ロボットが空中を滑るように進んでいくことができる。

 おかげで三角UFOに問題なく攻撃を加えられる。それもアメリカ軍を中心とした、世界最高峰の火力で、だ。塵ひとつ残さない攻撃となる。

 ――はずだった。三角UFOに、明確なダメージを与えられることはなかった。奴らは自らを絶対者と称した。

 絶対者、その通りだ。圧倒的な火力にも耐え抜く力、外宇宙からやってくる技術力。彼らに勝つには、人類は何ができるというのだろう。

 〝絶対〟それは覆すことの叶わぬ世界の法則。それは、〝神〟

 勝てるのか? その質問には普通に聞いたらこう答えるだろう。

 〝神には勝てない〟

 その通り、アメリカ軍が誇る最強の部隊は、奴らの攻撃で壊滅的な打撃を被ることとなった。アメリカ西海岸、南アメリカ大陸の北海岸、西ヨーロッパ、アフリカ東側、最初の戦場はこの四か所だった。

 文化、文明、それまで人類が培ってきたもの全てが、地球外生命体の蹂躙によって破壊された。

 四足歩行のUFO、《クラゲ》と呼ばれた機体は長い足と円盤状の体を持ち、自らの中へと人間を搾取する。捕獲行動を主とするが、十分戦闘も行える。むしろそちらが主ではないかと思わせるほどだ。

 筒状の本体に六本の足を持つUFO、《ナマズ》と呼ばれた機体は、二本の長大なマニピュレーターを用いて戦車を、戦闘機を、時には海に潜って艦艇を破壊することもあった。むろん、人間を捕獲することもできる。

 彼らの目的は、生体電池だった。それも数億人から数十億人単位で必要とする量である。戦闘終結のために数億人を犠牲にするなど、誰もそれに「Yes.」と答えることはできなかった。

 彼らが『貴様らに力を与えた者』とも称した理由、それは雷人の由来だった。隕石の中に混じらせ、地上に振りまいたナノマシンが生体細胞に変化をもたらし、雷人という力を生み出したのだ。

 まさに人類を進化させるプロメテウスの火だったのだ。しかし、それは神の怒りに触れて地上にパンドラの箱をもたらしたというわけだ。

 ギリシャ神話のように、力を手に入れた人間に対して、神は何かしらの試練を与える。その試練が異星人とのコンタクトだった。そして、今まさに奴らとの戦争が始まろうとしていた。

 彼らに交渉の余地はない。彼らの目的は生体電池としての人間なのだ。別に友好的な目的で雷人を与えたわけではない。ただ自分たちの利益のために、人間がそれと知らずにプレゼントを受け取っていただけなのだ。

 彼らが言ったように、人類は家畜のように搾取される道しかないのか。絶望と悲観が世界を埋め尽くし、シェルターに逃げるものたちへも容赦ない攻撃が加えられる。

 国家の中には異星人に加担して人間狩りを始める者たちもいた。

「我々は彼らとの友好の証として、定期的な生体電池の提供を約束した。その生体電池確保のために、敵性国家への侵攻を開始する」

 地球人側国家による、同じ地球人への宣戦布告。

 異星人が来るまで、対立関係にあった国家の一方が、巨大な力を持つ異星人側に傾倒する。民族浄化でもしようかと言わんばかりの勢いで侵略を開始し、異星人の襲来から僅か三日。ワシントンD.C、ロンドン、ダカール、フォルタレザが陥落、アメリカ政府は仮司令部としてシアトルに移動、徹底抗戦の構えを見せた。

 その他のヨーロッパ諸国も異星人への抗戦を表明し、国民の多くはシェルターに避難することとなった。

 その後異星人はオーストラリア大陸、アジアへも出現し等しく蹂躙した。西回り、東回りの両方から、地球を侵攻する。

 誰も抗うことのできない状況、世界は人間の手から異星人の手へと移っていく。絶望だけが、世界を覆いつくそうとしていた。

 その中でも希望を捨てない者たちはいる。自らの生き様を貫かんとする意志ある者たちが、ヒヒイロノカネの巨人に搭乗して空に跳び立つ。


 オリハルコンを輝かせ、雷人という名の人間の光を生み出す戦士たちが戦場の空へと飛んでいく。

「生体認証、システムの起動を確認……。異常なし」

 人の体のラインがはっきりわかるスーツを着込んだ者たちが、揺れる船内で巨人の腹に乗り込む。正面のディスプレイに手をかざすと、周りのモニターに光が灯る。

 ふぅ、と一旦心身を落ち着けてから、今の自分には少し大きめのシートに背中を預ける。そして、アームレストのようになった部分のコンソールを軽く入力し、操縦桿を握り、所定の位置に足を固定する。


 ――雷人よりの発電を開始。核融合炉の機動を確認。

 『Light of humans.』

 ――精神リンク、開始。生体電流に異常なし、動作不良なし。

 『Indomitable brave.』

 ――ジェネレーター出力一〇パーセント、安定上昇継続。

 『Give the power.』

 ――カタパルト固定、発進シークエンス、スタンバイ。

 『Exceed the limit.』

 ――全安全装置解除。操縦権を、パイロットに移譲します。

 『Revolution of life.』

 ――固定アーム解除、進路クリア。戦果を期待します。発進、どうぞ!!

真西(まにし) (そら)。ライガー、行きます!!」


 〝LIGER(ライガー)〟、人類の希望を込めた、雷神。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ