C1-6 合成の誤謬
一章部分の解決パート?です。
「それでも…あなたにその途を行かせる訳には行かないわ…」しばしの沈黙の後に桔梗の絞り出すような声が聞こえた。
「桔梗様がそう望まれるなら地上の存在は従うか滅びを選ぶかのみです。…ただ、私は私がすべきと思ったことを止めるつもりは有りません。」磯上さんがばあちゃんの遺体に手を掛ける。
「…分かったわ、磯上。でも滅ぶ必要はないわ。死になさい。そして…」
「いや、待て!」俺は慌てて叫ぶ!それは駄目だろう。桔梗については生きていると昨日知ったばかりだった。妹と言う実感は…厭な方で、速攻で蘇ってたな。成人してさらに強面になっていたが…そう、それでも、妹なのだ。磯上さんと身内が殺しあう所は絶対に見たくない。
「お、俺が磯上さんを守り手にもらう!」
「は…」桔梗の馬鹿にしたような声が聞こえる。うるせえ。磯上さんも
「彦…申し訳ないが遺言を前に俺はもう心を決めたのだ。確かにその途もあるとは思っていたが…決意は…」こっちはまだ脈がある?
「居間にばあちゃんが居た時に俺ずっと顔眺めてたんです…」桔梗が何を言ってるんだ?と言う顔している。お前に話してない。
「…すごく幸せそうでした。生きている時よりも。もちろん俺が迷惑掛けてたって言うのは分かっています。でも、戦って殺された様な顔には見えませんでした…話は聞きましたけど、信じられません。死因は医者が言った通りだと僕は思ってます。」
「死体の表情なんて筋肉の弛緩で幾らでも変わるわ。それに心臓麻痺は魔術的攻撃の効果としてはごく一般的なのよ。」そんな話はしていない。邪魔をするな桔梗、俺は俺とばあちゃんの気持ちの話をしてるんだ。幸い、磯上さんは俺の話に耳を傾けているようだ。
「それが本当に攻撃の結果かどうかまで分かるんですか?」
「…偶然だとしたらすごい確率ね。」
「それにばあちゃんはそもそもそんな魔法で倒される様な人何ですか?攻撃をされたけど、それは跳ね返した。でも、その後、べつの理由で倒れたかも知れない」
「確かにさくら様の遺体から魔術の痕跡が見付かったが、それが死因かどうかは分からない。奴は殺したと思っていた様だが。」
「馬鹿馬鹿しい...」これは桔梗だ。無視。
「そうかも知れないし、そうで無いかも知れない…でも、どちらでもばあちゃんは無念だとは思わなかったと思います。それが例え敵の攻撃の結果だとしても。ばあちゃんは拘らない人だったでしょう?磯上さん。何かを一生懸命やって駄目でも相手を恨んだりはしなかった筈です。結局、全て駄目だった俺も昼飯作るくらいで許してくれる位ですから。それに本当に何が有ったかも結局のところ誰も知らないんです。ばあちゃんが何を思ったかも…だから、勝手にばあちゃんの心の内を思うのは止めにしましょう。分からないんです。」敵のなれの果てをばあちゃんに捧げていた磯上さんの姿が甦った。それはピュアな美しい光景だったけど、恐ろしく空虚だった。
「彦…」
「もちろん、吸血鬼として蘇って、それがばあちゃんにとって幸せなら、いやそれが磯上さんに取って幸福で、ばあちゃんが許してくれるなら俺は反対しません。世界がどうなっても」
桔梗が一瞬反応しかけ、止める。
代わりに凄い目で睨んでくる。邪気眼かよ。こっちの方がよほど吸血鬼らしい。それで良いのか桔梗?
「…俺は吸血鬼だ。滅びぬ限り永劫の不死の生を送る存在だ。俺の口惜しさはそこなんだよ、彦。
さくら様との時がこの様な形で終わる事が許せないんだ。幸福…人外としての幸福なら分かり切っている。自らの生が永久なら忠誠を尽くす対象の生も永久であって欲しい。それが人外の幸福だ。…ファティマだって内心はそう思っている筈です、桔梗様。」
「ファティマは違うわ」桔梗がこともなげに言う。絶対内心とか読むの不得意な方だと思うが自信満々だ。
「それが結論なら話は変わらないわね。それに…そんな理由だとしたら磯上さん、あなたを見損なったわ。あなたの思いって結局、友梨彦と同じじゃない。それって自分の至らなさを全てさくらさんに押し付けると言う事になるのよ。違うかしら?」冷たく言い放つ桔梗。耳が痛い。しかし、そこで止めるな。
「でも、磯上さんは守り手?としてずっとやってきた。そうでしょう?それは磯上さんにとって意味の無い事だったんですか?」俺は必死で話を繋ぐ。
「違う…私にとってそれだけが意味のある事だった。五百年の無為をさくら様が…」
「だったら!それが他人の理想ってだけじゃ無いんなら!それをなぜ全て投げ捨てるんですか?!」おれは柄にもなく叫んだ。余裕が無い。
磯上さんは答えなかった。ただ、俯き、そして顔を上げた。
「…なぜさくら様は自由にせよと書かれたのだ?なぜだ?」俺にも分からない。でも、ここまで戻ってきた。恐らく山荘と呼ばれるばあちゃんと磯上さんの為の基地で、書箱の中から遺言を取り出して一読した、その瞬間に。
その文面はばあちゃんらしいと思う。世界の運命を天秤に賭けようとも、それが伝えるべき事なら伝えようとするだろう。その内容が捻くれて、謎を解くのに何年も苦労するような代物である場合がほとんどなのが恐ろしいが…まあ、それが最短である場合もあると分るのはばあちゃんの教育の賜物だ。
でも、ここではすぐに結論を出さなければならない。それが例え紛い物であっても。
「俺は、これはばあちゃんの苦渋の選択だと思う。俺の教育に失敗したから…恐らく望む解決法は磯上さんにとても負担を掛けるものだと言う気持ちがあったんじゃないかと思うんです。本当に耐えられるか分からないものであるとばあちゃんは思ったんだと思います。」最終結論は敢えて言わない。磯上さん突っ込みゲームの必勝法だ。
「…分かった。俺は彦の守り手となろう。」助かった。最悪の結末は逃れられる。
磯上さんも納得した訳では無いだろう。直前で俺は人の本当の気持ちなど分らないと啖呵を切ったばかりだ。でも、歩み寄ってくれた。此れが彼の責任感に訴える卑怯な作戦だとしても俺に他の選択肢は無かった。
それに、後は話し合いだ。別に一時的って事で桔梗に主人を振るよう説得しても良い訳だ。主人がほいほい移せるならだけど、今までの話から見ても不可能じゃないだろう。
「ありが…」
「はあ、それは不可能と言ったでしょう。」桔梗だ。いや、一時的な措置でしてね。俺が説明しようとすると、
「俺の責任で彦は絶対に守る。」磯上さんが答える。いや、そう思いつめないでも…
「無理ね。あなたは最高位の守り手の一体なのよ。守り手がどれほど吸血鬼の社会から恨まれているの分かっているのかしら。主人の鎮め手が全く無能で軟弱で怠惰で無価値で苛つかせる新人だと分ったら、これはチャンスだと集中砲火を浴びるわ。それは現在の均衡状態を崩しかねないの。いいかしら?私たちが隙を作る事は世界に対して罪を作る事に等しいのよ。」大げさ…過ぎるのか?だったら磯上さんを倒すのも不味い事じゃないか?ともかく桔梗も説得しよう。自信ないけど。
「なあ、桔梗。」
「うるさい、馬鹿兄さん。」兄さんって初めて呼ばれた?でも結局罵倒だった。一瞬絶句する。なんか心なしか不貞腐れている様に見える。
「それに友梨彦、磯上さんをそこまで信用していいのかしら?」…何を言ってるんだ?
それからごそごそと自分の寝間着やカーディガンのポケットを漁り始める。…何してるんだ?
言動が遂に理解出来なくなった。
「大丈夫か?」今日も言う羽目になったよ。
なんかジト目にして睨まれる。それから磯上さんの方を向いて
「あれ出しなさい。」
「…」
「”鱗粉”よ。部屋に取りに行っても良いけど時間の無駄だわ。どうせ仕掛けているんでしょう?」何故か横目で俺の方を一瞥する。いや、顔じゃない、右手の…磯上さんのナイフか?なんだ?
「…分かりました。」磯上さんがジャケットの内ポケットから金属製の試験管のような物を取り出す。
「部屋一面よ。さくらさんと友梨彦付近には特に念入りにお願いするわ。」信用するなと言いつつ、その相手を使い倒す。極悪だった。
磯上さんは試験管もどきのキャップを外すと振り始めた。中から煙のような黄金色に蛍光するものが拡がり始める。
夜目でしか見渡せ無かった部屋の闇が徐々に明るくなって行く。…って、今まで灯りこの部屋全くなかったんだな。俺の夜目ってこんなに利いたか?まあ、不思議には慣れたよ。
その光はやがて磯上さんを中心に放射状に延びる糸状に定着した。その糸は部屋中に展開していた。部屋のあらゆる道具や家具にもその先が伸びて巻き付いていた。ばあちゃんにも多くの糸が延ばさればあちゃんを包むようになっていた。不思議なことに布団で覆われているにも拘らず、糸はそれが空気であるかのように通り抜け彼女を守るように包んでいるのが布越しに見えた。
そして、俺の周りにも多くの糸が巻き付いていた。ただ、それらの糸だけは磯上さんからでは無く手に持ったナイフから溢れ出していた。
「その糸は磯上さんの得意技なの。糸は蜘蛛の糸のように細くて弱いけどどこにでも入り込める。そして彼は糸を通してあらゆる魔術を行使する事が出来るのよ。これは細くても一本一本がとても危険なのよ」桔梗は試すように自分の周囲の"糸"を引き千切って見せた。おいおい、危険なんだろ?
「友梨彦の周囲の糸にはどのような術を掛けているの?」
「硬化の術です」
「あら?どうして?」
「保険です。私が死ねば糸に掛けられた魔術も消え失せてしまいます。ただ、彼の持っているようなお互いにとっての感染物に仕掛けを施していれば別です。それをトリガーにして対象に対する独立の魔術として発動出来ます。特殊な術です。例え一日でも充分なのですが術者と対象双方に馴染んだ物体で無くてはならないからです。」感染呪術って誰かに接触したなじみ深い物を通してそいつに呪いを掛けるやり方だよな。それに近いってことか…丁寧にありがとう磯上さん。
「つまりあなたが死亡すると硬化の術が発動して…どうなるの?このレベルの呪具の呪賦は予め条件を組み込まなければならないわ」
「糸は輪形に展開されています。それは発動と同時に収縮してナイフに戻ってゆきます。友梨彦様はその場で寸断される事になります。」おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!危ないじゃないか!!
磯上さん、信じていたのに…俺は何も判断できなくなってフリーズしてしまった。どこか得意げな桔梗の声が聞こえる。
「脅迫ね。友梨彦分かったでしょう?でも意味は無いわ。友梨彦はね。無価値なのよ。むしろ後の事を考えるとここで死体になった方が都合が良いと言えるわ。」こっちの方は納得できる。むしろ他の答えだったらそっちの方が吃驚だ。
「何故でしょう?」妙に平静に磯上さんが質問する。悲しい。
「…どっちにしろ近い内に死体となるからよ。何の背景もない落とし子、しかも血だけは忌血の一門のものなのよ。吸血鬼どもが寄ってたかって全てを奪い尽くすわ。或いは貴方がしようとしてたように死体にしてから高位吸血鬼の発生に使われるかも知れない。あるいは狂い主となるか?その時は私が狩ってあげるわね。…彼はもう詰んでいるの。だったら死体を奪われないように今ここで処理した方が得なのよ。」死に方の具体例がようやく明らかになった。あまり楽しそうでなかった。どうやら本当にバッドエンドのみらしい。
「一つ抜けて居ます。桔梗様の元で力の呼び覚まし方を学ぶ事です。」
「さくらさんに無理だった事が私に出来ると?」
「…」
「でも、分からない…脅迫にも成らない。それに実行も不可能なのよ。ナイフとて地上の物質だわ。寿命はあるのよ。二重の意味であなたの策は不可能なの。何を隠しているの?」
「わたしは質問したかっただけです。」…どうだろうか。感染物からなら自分が死んでも魔法を発動できる。感染物…
「どういうこと?」
「もう答えは得ました。私が桔梗様の守り手となる事はあり得ません。友梨彦様…利用して申し訳ありません。やはり…」桔梗死ねよ。台無しじゃないか?
「いや、磯上さん!まだ…」さっきの約束が残っている、と言おうとして
パチリと指が鳴る音がした。俺の右手のナイフが突然ボロボロに腐食し崩れ落ちた。
さらにもう一度。やめろ…
磯上さんの胸に白い棒のような物が突き立っていた。部屋中の輝く糸の群れが湧き上がるように散り散りとなり消えてゆく。
「冷静になりなさい…墓所で頭を冷やすの。答えは一つなのよ。」桔梗がどこか悲しげに呟く。
磯上さんの身体が崩れ落ち、そして崩れてゆく。砂の山がばあちゃんの隣にもう一つ…無い。ばあちゃんが居ない。そうか
「…さくらさん!」桔梗が叫ぶ。慌てて布団に駆け寄ると剥がすが、そこにばあちゃんの遺体は無かった。魔法って便利だな。
「なぜ?不可能よ!原質になってから魔法を使うのは不可能なはずなのに!」
どうしようか?
「…実は部屋にもう一つ磯上さんの感染物があった…」
「なんですって??」
「俺が磯上さんに渡した鍵、桔梗が来る前にばあちゃんの手に握りこましてたんだ。」
「なぜ言わなかったの!危険なのは途中で解った筈じゃない!あなた…」
「そんなの急に判断出来るか!そっちこそプロだろう、先に入られたら何か仕込まれるかも?って、警戒しろよ!」
「…」
おお、遂に俺も桔梗に一勝した?
まあ、実際のところは俺に罠の話をした所で、記憶が磯上さんの言葉と結び付いた。あの言い方では気づかざるを得なかった。
部屋に入った時、態々あれを俺に見せたのは何故なのか?細かい仕組みは分からないけど、"鍵の鍵"を使って仕掛けるのだなとは思った。でも、何故俺に分かるように、いや、分からせる様に磯上さんは誘導したのか?
「その、鱗粉?で感染物は確認出来るのか?」
「出来ないわ…磯上さんレベルの術師の呪具は隠蔽の魔術も強力だから検知の魔術も効くか分からないのよ。彼の術に関しては鱗粉が一番確実なの。それしか無いのよ。」
「その、それって途中で新しい糸が発生したらやっぱりまとわり付くのか?」
「しないわ…あ!」そういう事か。使わせる迄が仕掛けだった。つーか、地上最強が此れで良いのか?
「…いつもはファティマがフォローしてくれるのよ。」俺の目線の意味に気付いたらしい。会ったことないけどファティマさん、大変ですね。
「大体、友梨彦が無理な方向に持ってくからいけないのよ。」
「いや、まずばあちゃんを連れ去る方向から離さなきゃダメだろ。俺か、お前かなんてその後の話だろう?」
「ニートの癖に…」うへ?子供かよ?其れなら言いたくは無いけどな
「と、思ってたけど、桔梗って…人望無いんだな。磯上さん呆れてたじゃないか?」
「問題無いわ」いや、それで思いっ切り破局迎えてるわけでしょ?俺も悪いけど・・・
「羽化には時間が掛かるのよ。かならず探し出してさくらさんを取り戻すの。それに忠誠も誓わせるわ。」はあ
「どの位掛かるんだ?」
「最低でも一年ね」ホッとした。モラトリアムは多少は有る様だった。
「…磯上さんは復活?するんだよな?」
「墓所が生きているなら当然そうなるわ。こう言った事するんだから多分、時間を早める為の魔力も投入しているでしょう。完全に元に戻るのは先だけど、動くだけなら一ヶ月、いえ、三週間もあれば充分でしょうね。」
準備を重ねてたらな。どうなんだろう?磯上さんは最後まで決め兼ねてるように見えた。最初からなら、そもそも俺と会う前に連れ去って仕舞えば良いのだ。
「…だから、大した事無いのよ?」桔梗がポツリと付け加える。
何がだ?そんな事じゃねえ。
俺は今日、一つの選択をした。一方に加担した。それが最終的にどう言う意味合いを持つのかは分からない。桔梗の思っている様に結局、すでに出ている結論をもう一度確認するだけの事かも知れない。
でも、此れだけで終わらせるのは嫌だった。それは磯上さんも同じだったのだろう。だから選択が為される事に賭けたのだろう。終わらせない為にはそれが必要だったのだ。少なくとも前に進んでいる証が。
桔梗には悪いが、ばあちゃんが吸血鬼になってもそれ程酷い事に成るとは思えなかった。じっくりと解決して行けば良いのでは無いだろうか?何れにせよ時間が必要なのだ、磯上さんには…多分俺にも。
翌朝、11時過ぎに起き出した俺は居間でぼおっと座り込んでいる桔梗を見付けた。自宅警備業デビューおめでとう。
「…ナイフは弁償するわ。」
「えーと、いい。」
「…磯上さん、さくらさんの通帳残して行ったわ。」棚の上に視線が向く。
俺が確かめて見ると俺名義とばあちゃん名義の銀行口座と判子が二本置いてあった。
「さくらさんの方は相続が確定するまで使ってはダメよ。まあ、相続人は一人だし問題は無いと思うけど」
「いや、おまえ…」
「私は死人なのよ。その意味ではちゃんとしたカバーを持ってる磯上さんよりも死者に近いとも言えるわね。」
「何で…」多単語発言機能は今朝方ショートしました。ニートの耐久性はごく低いのだ。
「…」
「朝飯、と言うか昼食べるか?」若干回復して来た。
「…食べる…わ」
俺は冷蔵庫を開いた。うわ、何にも無え。辛うじて玉ねぎか?スパムを開けてスパゲッティを茹でる。その間玉ねぎとスパムとケチャップその他をひたすら炒めた。昨日の残りの大葉も刻んでおく。
ナポリタンが出来た所で桔梗を台所に呼んだ。
黙ってパクつく桔梗を見ながら不思議な感覚に襲われた。ずうっと、こうして暮らして来たのでは無いのか?ばあちゃんや両親は出掛けていて、たまたま仕事休みの桔梗が用事の前にこうしてメシを食って居るのだ。俺は…やっぱりニートだな。いや、主夫機能は装備か?だったらニート卒業じゃ無いか?
「…何よ?」俺の視線に気付いた桔梗が眇めた眼で睨み付けて来る。その癖止めろよ。
俺が思い付いた話をすると特に馬鹿にした様子も無く、ふうん、とだけ答えた。
「ねえ、私に弁明の機会を与えてくれ無いかしら?」
メシを食べ終わった所で唐突に言い出した。
「べ、弁明?」
「そう、蘭太郎さんと時子さんの話よ。あなたは磯上さんに言われて間違った印象を私に抱いている筈だわ。それをね…解きたいのよ。」