表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

虹色

作者: れなた

「お前」と「オマエ」では違った魅力がありますよね

最近、私の町に女性が引っ越してきた。まるで人形のように整った顔立ちをしていて、気立てが良く、頭も冴えているアイツは町中の人に受け入れられている。ただ、彼女は、今は夏だというのに豊かな黒髪を伸ばしていて、その上長袖に長いスカートで手袋までしている。そういった暑苦しい格好が気に入らない。アイツの美しい顔も優しさや優秀さも気に入らない。町の人々がアイツを受け入れても、私だけはアイツ――ルナチーを受け入れないだろう。

 ある日、友人のカチアが私に「面白い話」を持ちかけてきた。どうやらルナチーについての話だそうだ。彼女を受け入れないと決めているので、前半部分は適当に聞き流していた。カチアはそれに気づいたのか、話題を変えた。

「前にあんたと私で町外れのすっごい高級なケーキ屋に行ったよね? あそこのケーキはどれも美味しいけど、ショートケーキの味は格別だよね!」

「いや、それに関しては同意だけれど。なんでいきなりケーキ屋の話になる」

「私、前にルナチーのおうちに挨拶に行ったんだよ」

 ……結局、ルナチーの話になる訳だ。それも無視しようとしたが、カチアは興味深いエピソードを続けた。

「その時にショートケーキを持ってったんだよ。ルナチーったら、ぎこちない感じでケーキを一口食べて噛んでたんだけどね、しばらく噛んでたら吐き出しちゃったんだよ」

「へぇ、これは私がアイツを嫌う口実になるね。あんな眉目秀麗な女性が、人から貰った食品を吐き出すだなんて。汚いし、何より性格が悪い」

 カチアは「セレは本当にルナチーが嫌いだよね」と言って、苦い顔をした。それから、しばらく雑談をしたり菓子を食べたりして、時間を潰していた。

 それから家に帰った。姉が私に、山のような洗い物を押しつけてきた。忘れていた、今日は私が洗濯をするのだった。家の裏に行き、タライに井戸水を汲み、石鹸を持ち出し、衣服を一つ一つ洗っていく。少しずつ綺麗になっていく服と、少しずつ汚れていく水を見て、私は悪い事を思いついた。

 三日後のアイツは、フリルやリボンが多く使われた、重みがありそうな服を纏っていた。今日の気温は人の体温とあまり変わらない。汗を拭いながら、ルナチーを呼ぶ。

「初めまして、私はセレという。実は前からキミと仲良くなりたいと思っていたんだ」

「実は私もそう思っていたの。私に話しかけてきたのは今が初めてだし、ちょっとあなたに興味があったの」

 この嫌味ったらしい口調が気に食わない。オマエは、本当は私に嫌われている事に気づいているんだろう? 顔は綺麗なのに性格は捻くれているんだな。汚い心を持っているんだな。そんな汚い心を少しでも綺麗にする為に、この石鹸水を飲め。

 暑い中来てくれて嬉しい、そう言って井戸の水を汲みに行くフリをして石鹸水をコップに入れて持ってきた。ルナチーは透き通ったコップを見て目を輝かせ、太陽の光に反射させた。水面は少しだけ虹色に輝き、虹色は不規則にうねっている。まずい、これでは水が純粋なものではないと見抜かれてしまう。それでもルナチーはこの水を少量飲んだ。

 彼女の上唇と下唇が開かれ、その隙間からやや大きめのシャボン玉が飛ぶ。虹色はうねりながら脆い玉の中を泳ぎ、玉は風に任せて飛んでいく。やがて屋根にぶつかって玉は砕け、僅かな量の液体が屋根を濡らす。ルナチーは、それを繰り返しつつ歩いていく。虹色達の旅が始まり、すぐに旅が終わる。儚い旅の繰り返しだ。私はそれをずっと眺めていた。

 途中でルナチーが動きを止め、こちらをじっと見て一言。

「私はね、二十年前に作られた人形なのよ」

「嘘だ、人形は歩かないし喋らない。そういうのは物語の中だけにしてくれないか」

 私がその話を信用していないと気づいたらしく、自称人形は片方だけ手袋を外した。中は粘土でできた手。関節は球体でできていて、動かすと微かに金属の音が聞こえる。自称ではなく、本当に人形だったようだ。更に彼女は、スカートを捲って中身を見せる。足にも球体関節があり、太腿には誰かのサインが書かれている。これは、ルナチーを人形以外だとは思えなくなる。人形だから、食べ物は食べられないし石鹸水を飲ませても意味はない。認めたくはないが完敗だ。

 ルナチーはシャボン玉をたくさん吹き出しながら、どこかへ去っていった。シャボン玉の一つが、私の頬に当たって弾けた。


個人的に後者が好きです。

あと自創作にセレとルナチーは出るかもしれない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ